歌って、踊って、笑わせて──これぞミュージカル! 望海風斗さん、坂本昌行さんら出演の『ファニー・ガール』が華やかに幕を開けます。
ブロードウェイのレビュー「ジーグフェルド・フォリーズ」の大看板として活躍した、実在のスター、ファニー・ブライスの半生を描く本作。スターの「型」には収まらない個性を武器に、自らの道を切り拓いていくファニーのたくましくチャーミングな生き様を軸に、ニックとの恋、彼女を取り巻く人々との温かな交流が描かれます。
演出を手がけるのは、2022年のブロードウェイ・リバイバル版も手がけたマイケル・メイヤーさん。古き良きブロードウェイミュージカルの華やかさをたっぷりと味わわせながら、そこに息づくのは現代にもまっすぐ響く物語。名曲の数々、ダイナミックなダンス、色彩豊かな衣裳や照明とともに、歌、ダンス、芝居が三位一体となって弾ける舞台の模様を、ゲネプロ写真とともにお届けします!
額縁舞台に映し出される赤いカーテン、舞台前にはオーケストラピット。劇場に足を踏み入れた瞬間から、オーセンティックなミュージカルの世界へと誘われます。
そして響き始める、たっぷりとしたオーヴァーチュア。メリハリの効いたリズミカルな音楽で客席の期待をぐんぐん高めていくのは、指揮・塩田明弘さんの真骨頂です。オーヴァーチュアが終わると、舞台は一転、ニュー・アムステルダム劇場の舞台裏へ。楽屋で、ニックの出所を待つファニー・ブライス。そこから彼女が歩んできた日々を振り返るように、物語は時を遡ります。
まだスターになる前のファニーは、舞台に立つことを夢見る少女。ところが母やストラコシュ夫人ら近所の女性たちからは、容姿もスタイルもスター向きではないと散々な言われよう。それでも本人はどこ吹く風です。
人と違うなら、それを武器にしてしまえばいい。持ち前のユーモアと度胸、そして抜群の歌唱力で、ファニーは喜劇女優としての道を突き進んでいきます。色彩豊かな衣裳、コーラスガールたちのキュートな装い、場面ごとに物語を鮮やかに映し出す照明と、視覚的な楽しさもたっぷり。ファニーがショービジネスの世界へ飛び込むとともに、舞台もぐんぐん華やかさを増していきます。
望海風斗さんが演じるファニーは、とにかくチャーミング! 美しく見せることよりも笑わせることに全力を注ぎ、時には堂々と“三枚目”に徹する潔さ。その一方で、歌い始めれば一気に劇場を掌握します。ファニーの個性と望海さん自身の圧倒的な歌唱力が重なり、スターへの階段を駆け上がっていく姿には説得力たっぷりです。
そんなファニーの前に現れるのが、坂本昌行さん演じるニック・アーンスティン。三枚目に徹するファニーに対して、こちらは絵に描いたような二枚目! フリルのついたブラウスまでさらりと着こなす紳士ぶりに、思わずニヤニヤしてしまうほどの色男です。けれど、彼は賭博師、その完璧なスマートさの奥には、どこか危険な香りも漂います。
二人の距離が近づいていく「People/ピープル」では、それまで笑いと勢いで突っ走ってきたファニーから、ふっと一人の女性の素顔がのぞきます。望海さんの豊かな歌声と、坂本さんの包容力ある佇まい。対照的な二人だからこそのケミストリーが、恋の物語を鮮やかに立ち上げます。
そして一幕のクライマックス、ファニーはある決心をします。響き渡るのは名曲「Don't Rain on My Parade/パレードに雨を降らせないで」。ここはもう、「望海風斗、ここにあり!」。自分の人生は自分で決める──そんなファニーのエネルギーを、望海さんが圧倒的な歌声で解き放ちます。華やかで、力強く、どこまでも前へ。ビッグナンバーの醍醐味を存分に味わわせる、鮮烈な一幕ラストです。
ファニーを取り巻く人々にも注目
スターへと駆け上がるファニーですが、この物語が温かいのは、彼女の周りにちゃんと味方がいること。
無名時代からファニーを支えるエディ・ライアンを演じる水田航生さんは、軽やかな芝居と抜群のダンスで存在感を発揮。なかでも「EDDIE'S TAP/エディのタップ」は必見です。タップ振付を手がけるアヨデレ・カセルさんによる、豊かな歴史を感じさせるリズムと身体表現を、水田さんが鮮やかな足さばきと音、グルーヴで魅せます。
そして、ファニーの原点である街の人々もいい。
「あんたには無理よ」と娘の夢を現実的に見ながら、いざとなればどっしりと支える母を演じる中尾ミエさん。高泉淳子さんら近所の仲間たちとポーカーを囲み、おしゃべりに興じる姿には、人生の酸いも甘いも知る女性たちならではのたくましさと可笑しみがあります。ファニーの成功には一緒になって大盛り上がり。華やかなショービジネスの世界とはまた違う、彼女が育った下町の生活と人の温度が舞台に息づきます。
大興行主フローレンツ・ジーグフェルドを演じる益岡徹さんも味わい深い。興行主としての貫禄を漂わせ、型破りなファニーに振り回されながらも、話せばちゃんと向き合う。時折見せる意外に砕けた表情も楽しく、単なる権威者には収まらない人物像を硬軟自在に描きます。
誰かを踏み台にしたり、悪意ある人々を打ち負かしたりして成功する物語ではありません。人と違うファニーを、呆れたり、心配したり、面白がったりしながら、それぞれの距離で見守る人々。その温かな眼差しも、『ファニー・ガール』の魅力です。
華やかなショーの先に広がる、それぞれの人生
二幕は、晴れて“奥様”となったことにご機嫌なファニーが歌う「Sadie, Sadie/セイディー、セイディ―」で華やかに幕開け。望海さんの弾むような喜びを、ゴージャスなコーラスがさらに盛り上げます。
スターとしてますます輝きを増していくファニー。一方、スマートな振る舞いの奥に強い自尊心を持つニックにとって、自分の力で成功することは譲れないものです。
坂本さんの見せ場となるのが「Temporary Arrangement/その場しのぎの勝負」。ビジネスで一か八かの勝負に出るニックの心情を映すような、スリリングなスウィングジャズテイストのナンバーです。リズムの切れ味のなかに流麗さも感じさせる楽曲を、坂本さんがダンスとともにスタイリッシュに魅せます。スマートな色男というだけではないニックの内側が、歌と身体から鮮やかに立ち上がる場面です。
夢を追うこと、誰かを愛すること、そして自分の人生を生きること。華やかなショーの世界を駆け抜けながら、物語はファニーとニック、それぞれの人生へと深く踏み込んでいきます。

ニックへの愛を歌う「THE MUSIC THAT MAKES ME DANCE/私を踊らせる音楽」
そして終盤、望海さんが情感豊かに歌い上げる「Funny Girl/ファニー・ガール」。底抜けの明るさと笑いで観客を魅了してきたファニーが聴かせる、また違った表情の歌声が胸に迫ります。
その先で「Don't Rain on My Parade」が再び響く瞬間にも、ぜひ注目を。一幕ラストを華やかに飾ったあの歌が、さらに深く、強く、そして最高にカッコよく響き渡ります。望海さんの歌声が放つ圧倒的なエネルギーと輝きに、ただただ圧倒されます。
強く、可笑しく、ときに不器用に、自分の人生を生きるファニー。最後まで、彼女を応援せずにはいられません。
1964年にブロードウェイで初演された『ファニー・ガール』。額縁舞台に赤いカーテン、色彩豊かな衣裳、華やかなショー。そして歌、ダンス、芝居が三位一体となって物語を運ぶ、古き良きブロードウェイミュージカルの醍醐味をたっぷりと味わわせながら、そこに古臭さはまったく感じさせません。
自分らしく生きるたくましさ、人と違うことを個性として輝かせることの大切さ、外見や既成の価値観では測れない本当の美しさ。エディの造形をはじめ、現代の視点から人物や物語が丁寧に見つめ直されています。音楽も、ジャズやスウィングなど時代を感じさせる多彩な音楽性を生かしながら、鮮やかに現代の劇場に響きます。
古き良きブロードウェイの魅力と、今を生きる私たちにも響く価値観。その両方を携えて生まれた日本版『ファニー・ガール』。歌、ダンス、芝居、そして舞台を彩るすべてが一体となった、「これぞミュージカル!」という喜びに満ちた舞台です。
ミュージカル『ファニー・ガール』開幕レポート~会見編~
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人