先日、リハーサルの様子をご紹介した新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』で主役のオデット(白鳥)とオディール(黒鳥)の2役を踊る同バレエ団プリンシパルの米沢唯さんにお話を伺いました。
(リハーサルレポートは
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【米沢唯さんプロフィール】
愛知県出身。塚本洋子バレエスタジオで学ぶ。国内外の数多くのコンクールに入賞し、2006年に渡米、サンノゼバレエ団に入団した。主な受賞歴は、2004年こうべ全国洋舞コンクールクラシックバレエ部門ジュニアの部第1位、全国舞踊コンクールジュニアの部第1位、ヴァルナ国際バレエコンクールジュニアの部第1位、05年世界バレエ&モダンダンスコンクール第3位、06年USAジャクソン国際バレエコンクールシニアの部第3位など。サンノゼバレエ団では『くるみ割り人形』主役、クララ、スペインほか、バランシン『セレナーデ』『テーマとヴァリエーション』『The Four Temperaments』、サープ『ナイン・シナトラソングズ』などを踊る。2010年に契約ソリストとして新国立劇場バレエ団に入団した。2013年よりプリンシパルに昇格。
-バレエはまだまだ初心者のおけぴ取材班ですが、さすがに『白鳥の湖』と聞くとパッとその舞台の様子が目に浮かびます。これほどまでに愛されるこの作品の魅力について伺います。
この作品がクラシックバレエの名作と呼ばれるのはなぜなんでしょう。
米沢さん)
白鳥は美しさと同時に強い生命力を持つ鳥でもあります。
“美しさ”については首の曲線などもそうですし、水面を漂っている時の静かな美しさというのもありますよね。そして強い生命力というのはある種の激しさにもつながります。
この激しさ、静けさ、そして美しさという要素は特にクラシックバレエと通じると思うんです。なので、バレエが白鳥の湖を生んだと思います。-勝手なイメージですが“バレエ=『白鳥の湖』”というのもあながち間違いでない?
米沢さん)
はい。
みんなが真っ白いチュチュを着てずらりと並んで踊る。その精神性というか美しさはバレエダンサーでしか表現できない、だからバレエ=白鳥といわれるのではないでしょうか。オペラでもミュージカルでも表せない世界だと思います。-そんなバレエの代名詞ともいえるこの作品、“踊る立場”から見ていかがですか。
米沢さん)
やはりまず感じるのはダンサーの限界を求められる作品だということです。
確実にレベルの高いものを求められるので、踊ることによってレベルアップできるということでもあるんですけど(笑)。-具体的な難しさはどのあたりに。
米沢)
いろいろとありますが2幕の白鳥、3幕の黒鳥の両方を踊らなければならないのが難関その1です(笑)。
黒鳥は激しさやキレの良さ、妖艶さという表現力が求められ、一方で白鳥は精密さと深い存在感を求められると思うんです。とても静かで繊細な踊りなので、ちょっとふらついただけで目立ってしまいますから。
リハーサルでは「そういえばそこが自分の悪い癖だったな」というところを先生に指摘されることが多いのですが、その中でも特に白鳥はごまかしがきかない。。。それが大変なところでもあり楽しくもあります。-先ほど米沢さんの白鳥を見学させていただきましたが、美しさとともに感情表現も豊かで“白鳥に姿を変えられた女性”なんだと素直に感じました。
米沢さん)
ありがとうございます(笑)。
心は一人の女性でありながら、出てきたときの立ち方や手、顔の使い方などで“白鳥だ!”と感じていただけるように表現するように心掛けています。ジークフリード王子:菅野英男さん
-そんな美しい白鳥(オデット)と王子の愛の物語ですが、全体に漂うもの悲しさというのも美しさを際立たせているように感じました。
米沢さん)
ここが自分の居場所ではないのではないかと思っている王子の孤独と、たくさんの白鳥が仕えていても自分は白鳥でないというオデットの淋しさ、そこが引き合ったのかなととらえています。
私は美しいことは哀しい。生きていくのは哀しいからこそ人って美しいと感じているので、
バレエの舞台もそう見えたらうれしいです。-哲学的な美しさもある作品なんですね!
米沢さん)
もちろんそういう風に観ていただくこともできますし、最初から最後までドラマがずっと動いているので、その中で白黒どうやって踊るのかということや、たくさん出てくるいろんな国の踊りをシンプルにエンターテインメントとしてもお楽しみいただける作品です。-では、ここからは米沢さんご自身についてお話を聞かせてください。
バレエ団の最高位であるプリンシパルになって、なにかご自身の中で変わったところはありますか。
米沢さん)
舞台に出ていくときの強さみたいなものが自分の中に芽吹いてきたかなとは感じています。
でも、それはプリンシパルになったからというより、何回も主役を踊らせていただき、その経験から出てきたものだと思っています。
もちろん出ないこともありますが・・・笑。
これはきっとバレエに限らずですが、舞台に立ったとき、その時何を考えていてどういう生活をしてという自分の状態が全て見えてしまう怖さは常にあります。実際に最初のアラベスクをしてみないとその日の本当の調子はわかりませんし。
-そんな怖さを克服するには、やはり。
米沢さん)
練習です。
それ以外に逃げ道はなく、支えてくれるのは練習だけです。
そしてバレエ団の何でも言い合える仲間の存在も大きいです。コールドで踊っている同期が私の踊りも観ていてくれて、「あそこはああしたほうがいいよ」と言ってくれるのでありがたいです。
-今の話を伺っていても、リハーサルの様子を見ていても、米沢さんは本当にバレエが、踊ることがお好きなんですね!!
米沢さん)
はい!
もし体もケアしなくてずっと踊っていられるなら、一日中練習していたいし一日中踊っていたいです。ここ(稽古場)に泊まりたいくらい(笑)。
もちろんそういうわけにはいかないですし、10代とは違うのでケアもしないといけないですし、ご飯も食べないといけないですが(笑)。
でも、何のために踊っているかと考えると、一番には自分のため、自分が楽しいから踊っていますというのが私です。
悲しいことがあっても、辛いことがあっても、どこかで“もしかしたらこれは自分のバレエが変わるきっかけかもしれない”と思うことで救われることがあります。
すべてが舞台に繋がっている気がするんです。
たぶんバレエを踊っていなかったら私はもっと生きていくのが辛かっただろうなと思います。
バレエがあってよかった!-では、最後に、これから思い描く“こんな表現者になりたい”を聞かせてください。
米沢さん)
深い舞台を作りたいというのが目標です。
ピナ・バウシュの舞台を観たときに、彼女がただ一人で立ってすっと手を挙げただけで限りなく美しく哀しかったんです。
存在で踊れる深さを感じました。その時、確か彼女は60代。
そのくらいかかるかもしれないし、もしかしたら一生ダメかもしれないのですが、そこを目指したいです。
-“深さ”、ひとつのキーワードですね。
米沢さん)
大変難しいことですし、クラシックバレエでそれができるかはわかりませんが、美しさを目指して踊るということをしたくない。集中して舞台に立ったことで美しく見えたならそれでいいんですけど、ともすると今の私は勘違いして“私綺麗でしょ”って踊りかねない。
もちろん美しくないといけないんですが、“綺麗でしょ”というダンサーにはなりたくなくて。
そういう意味での“深さ”ですが、説明するのも難しいですね(笑)。
でも、どれくらいかかるかわかりませんが、いつかそんな舞台が1回でもできればうれしいです。-イメージは伝わってきます!その瞬間に立ち会えるように、これからも期待しています!!
米沢さん)
頑張ります。少なくとも、あと10年は踊りたいと思っていますので!!☆こぼれ話☆
ここまでのお話ではバレエ一直線!な米沢さんですが、大の舞台好きという一面もお持ちです。
米沢さん)
舞台を観るのも大好きです。
最近ではバレエより演劇のほうが多くなっちゃって(笑)。
観ている間の集中している時間が好きなんです。
そして役者さんが体当たりで演じている姿に“いいもの観たな”と感じるとき、すごい幸せじゃないですか。
病みつきになっちゃう!って感じで!-親近感MAXです!!
次回はバレエ以外にも感激観劇トークも繰り広げたいな!そんな妄想膨らむおけぴ取材班でした。
おけぴ新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』リハーサルレポートは
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おけぴ取材班:chiaki(文) mamiko(撮影) 監修:おけぴ管理人