2014/06/07 現代演劇レトロスペクティヴ sunday play日本の名作#2『友達』ウォーリー木下さんインタビュー


関西のみならず、東京そして世界で、
ジャンルを越えて活躍する演出家・ウォーリー木下さん

1960年代から90年代にかけて発表された日本の現代戯曲を再発見する
AI・HALL(アイホール/伊丹市立演劇ホール)の “現代演劇レトロスペクティヴ” シリーズ。

2014年の7月は、戦後日本を代表する小説家のひとり、安部公房が残した戯曲『友達』に、
多彩なフィールドで活躍する演出家・ウォーリー木下さん率いる劇団・sunday が挑みます。

安部公房 × sunday = !?
『砂の女』『壁』など、シュールでシニカルな作風で知られる安部公房
1967年に劇団青年座のために書き下ろされた『友達』は、
主人公の「男」の家に見知らぬ家族がやってきて居座ってしまうという、
どこかブラックで不思議な物語。


sunday での活動にとどまらず、
映像や音楽を取り入れた言葉のないパフォーマンスグループ・オリジナルテンポや、
ガールズグループ・東京パフォーマンスドールのライブと演劇を融合させたPLAY×LIVE『1×0』シリーズなど、
従来の “演劇” の枠組みから飛び出した新しい挑戦を続けるウォーリー木下さんが、
この戯曲にどう向き合うのか。

キャスト、そしてミュージシャン、美術・音響スタッフなど、
さまざまな個性が集まった稽古場で、お話を聞いてまいりました!
<ウォーリー木下さんプロフィール>
1971年東京都出身。1993年、神戸大学在学中に劇団☆世界一団(現sunday)を結成。全作品の作・演出を務める。特に役者の身体性を生かした演出が特徴。台詞を使わず、プロジェクションマッピングや日常音の拡張、視覚的なトリックを取り入れて演劇・映像・ダンスを融合させた作品が国内外で注目を集める。10カ国以上の国際フェスティバルに招聘され、エジンバラ演劇祭では五つ星を獲得。演出家として韓国およびスロヴェニアでの国際共同制作も行う。近年の主な活動に、関西二期会オペラ『愛の妙薬』演出、観客体験型演劇『YOUPLAY』作・演出、東京パフォーマンスドールPLAY×LIVE『1×0』作・演出、『多摩1キロフェス』ディレクターなどがある。


<sunday(さんでい)とは?>
劇団☆世界一団(1993年旗揚げ)の第1期終了後、interludeを経て、sundayに改称し現在に至る。作・演出のウォーリー木下が手掛ける現代性とファンタジー性が融合した世界観は、ポップでありながら実験的。特に役者の身体性を重視した演出に特徴があり、物語と演劇・映像・音楽・ダンスを融合させたパフォーマンスとの絶妙なバランスや、実力派の役者たちによる見応えのある演技は、上質なエンターテインメントとして定評がある。



主人公の家に、ある日突然やってきた謎の家族。
はたして彼らは何者なのか?



──今回の現代演劇レトロスペクティヴのテーマは “日本の不条理劇” ということですが、
ウォーリーさんが安部公房の『友達』を選んだ理由のひとつは “とにかく笑えたから” だったとか?


木下)
「『友達』は安部公房の戯曲の中でも代表的な不条理劇ですが、
シチュエーション・コメディ的なところもあるんですよね。
ちょっとホラーっぽいような、怖いようなところも、実は笑える大きな要素だったりして。

最初に読んだのは1年半くらい前かな。
演劇ワークショップの参加者に好きな戯曲を持ち寄ってもらう企画で、
60代の男性参加者が “これがおもしろい” と言って、持ってきてくださったんです。

知らない人たちが勝手に家に入ってきて、
主人公と丁々発止の会話を繰り広げるという設定がすごく好みで、
これはおもしろい! いつかやりたいな、と。

荒木飛呂彦という漫画家、知っていますか? 『ジョジョの奇妙な冒険』の。
彼の初期の作品で『魔少年ビーティー』という漫画があるんですけれど、
その最終話が “主人公の家に見知らぬ家族が入り込んでくる” というお話だったんですよ。
だから最初にこの戯曲を読んだときに
“あ、これ魔少年ビーティーだ! この変な感じすごく好き!” と思って(笑)。
もちろん『友達』のほうが先ですし、荒木さんが意識したのかどうかはわかりませんが、
とにかくこの奇妙な設定に惹かれたんですよね」



奇妙な家族に、婚約者やその兄まで取り込まれていく恐怖!
……けれど、お芝居から受ける印象はあくまでカラッとコメディチック♪
(写真中央は婚約者役の兵頭祐香さん)

──安部公房というと、やはり小説家というイメージが強いのですが、実は演劇活動にも力を入れていたことが知られています。この作品も細かにト書きなど書き込まれているそうですね。

木下)
「戯曲に書かれているとおり、素直にやればおもしろくなると思います。
でも、素直にやるって難しいんですよね。どうしてもひねりたくなっちゃう(笑)。
稽古場で “作っては、もとに戻す” という作業をしています。
“素直にやったほうがおもしろいのになあ……あ、またひねっちゃっているなあ” って。

でも、書いてあることをそのままやるだけだったら、
家で戯曲を読んでいればいい、そのほうが楽しめると思うんです。

僕らは、劇場に俳優がいて、音楽の演奏もあって……という、
“お客さんの目の前で起こること” をみせたい。
そう思ってこれまで演劇という手法を選んできましたし、
今回も、お客さんは劇場に戯曲を読みにきたわけではない、ということを
大事にしていきたいですね」



にしもとひろこ さん(たゆたう)の声と、
ヨース毛さん(ザッハトルテ)のチェロが奏でる不思議な音楽も『友達』の一部分です

こちら、安部公房の“ト書き”を素直に実行中の
中山義紘さん(劇団Patch)と平林之英さん(sunday)

主人公の「男」を演じるのは、
振付家としても知られる冨士山アネットの長谷川寧さんです

──パフォーマー、ダンサーというイメージも強い長谷川寧さんを主役に起用した理由は?

木下)
「いわゆる “演技がうまい俳優” は、お客さんのイメージを限定してしまうと思いました。
さっきもお話したとおり、本に書かれていることを素直にみせるだけなら、
戯曲を直接読んでもらったほうがいい。

だから今回の主人公は、
“言葉に頼らない部分をきちんと考えて表現できる人” にやってほしいと思ったんです。
お客さんが感情移入できるような、うまい演じ方をするよりも、新しい「男」像を作ってほしい。
長谷川くんは身体表現を中心にやってきた人ですし、お客さんも感情移入しにくいかなと(笑)」


──おひとりだけ東京からいらしていて、アウェイ(笑)な状況だとお聞きしましたが。


木下)
ほんと、かわいそうですよね!
振付するときは彼が中心になるんですけど、
芝居の稽古に入ると(内容的に)彼をみんなで “のけもの” にするんです。
精神のバランスを崩さないか心配になります(笑)。

でも今回はミュージシャンや、関西新劇界の重鎮でもある河東けいさんなど、
さまざまな出自の方が集まった座組なので、けっこうみんな孤独なんじゃないかな。

sunday メンバーも自分たちのホームというよりも、
“知らない人たちがたくさんいる!” というかんじで。

全員が “知らない外国に来ちゃった” “ここはどこだ!? ” と、なっていますね。
これ、ちょっと “安部公房” 的ですよね」



平林さんをはじめとしたsundayメンバーと客演メンバーの
“安部公房” 的コラボレーションが楽しみです!


木下)
「劇団としては1年半ぶりの公演ですし、
これまでとはちがうものを作りたいという気持ちがありました。
新しいスポーツのルールを、いちから作るような気持ちで、
とっかかりのないまま、始めてみようと。

前回の『グルリル』という作品で、
それまでのsunday のルールは一旦終わり、という感じが僕の中でしたんですね。
このルールは、sunday 以外の人たちや枠組みに置き換えてやってみよう、と。

劇団で芝居を作っていると、
4年に1回くらい、新しいルールに変えたくなることがあるんです。
作り方を変えないと、新しいものは生まれてこないと普段から思っているので。

sunday のメンバーが相手だと、“今回から新しいルールのスポーツでいきます” と言えば
すぐに “ああ、はいはい” とわかってもらえる。
それが劇団のいいところ。
遠い場所まで行くための方法として、劇団というスタイルは重要だと思っています」



稽古前に全員参加でゲーム……これも新しいスポーツ?
その場で思いついたルールで “枠鬼ごっこ” スタート!

客演のみなさんも一緒に、新しいルールを作り上げていきます。
写真左から 森澤匡晴さん(スクエア)、河東けいさん(関西芸術座)、田中良子さん(ブルーシャトル)
──安部公房作品は、色で言うと灰色とか黒というイメージがあるのですが、sunday版『友達』のチラシビジュアルはとってもカラフルですね!


木下)
「これ、すごく気に入っているんです。
デザイナーもカメラマンも、ずっとsunday と組んでいる旧知の仲の方々で。
実際の舞台もこんな感じになると思います。

実はこのビジュアル、最初にちょっと打ち合わせをして、
その後は僕、現場にいなかったんですよね。
できあがったものをみて、“いいね! 舞台もこれでいきましょう!” って(笑)」


──ウォーリーさんは、いろいろなジャンルの魅力を演劇に取り込んでいて、演出家としてとても自由で軽やかなイメージがあります。


木下)
「演出家になろうと思った時から、自分のエゴとの戦いがはじまるんです。
たとえば、自分が書いたものを自分で演出するときって、
作家として本を書きながら、すでに演出家としてのイメージが浮かんでいるんですよね。
こうやりたいから、こう書こうとか(笑)。
でもそれって、“演出” ではなくて、
作家が自分の頭のなかを舞台で表現している、ということだと思うんです。

もちろんそれはそれで、ひとつの表現方法だと思いますが、
僕はもう少し “演出” というものをやってみたいと、ある日思ったんですよね。
“もっと演出家になりたい!” と。

オリジナルテンポのような台詞のない作品を海外で上演したことや、
演劇フェスティバルのディレクターをしたことで、
いろいろなジャンルの人に出会ったことも大きいかもしれません。

作品に関わってる人たちのイメージを吸い上げて、
すごくおもしろい形で舞台の上でみせたり、
あるものを壊して、また作って、という作業だったり、
そういう作り方のほうが僕には向いていたし、それが演出という仕事かなと思っています」


──AI・HALLという劇場や、友井隆之さんの鉄を使った舞台美術、音楽、そして多彩な出演者など、さまざまな要素と“安部公房”の世界が、ウォーリーさんの手でどう演出されるのか楽しみにしています! ありがとうございました。




AI・HALLだからできること、演出をみせたいと意気込むウォーリーさん。
はたしてどんなマジックがみられるのでしょうか!?

思わぬ要素てんこもりのsunday 的・安部公房ワールド!
お楽しみに!



【公演情報】
現代演劇レトロスペクティヴ
sunday play日本の名作#2『友達』

2014年7月11日-14日  AI・HALL(伊丹市立演劇ホール)

作:安部公房
演出:ウォーリー木下
振付/主演:長谷川寧(冨士山アネット)
音楽:ヨース毛(ザッハトルテ)、にしもとひろこ(たゆたう)
出演:平林之英、安元美帆子、赤星マサノリ、椎原小百合、井田武志(以上、sunday)、
稲森明日香(夕暮れ社 弱男ユニット)、田中良子(ブルーシャトル)、中山義紘(劇団Patch)、野村侑志(オパンポン創造社)、兵頭祐香(オリジナルテンポ)、
森澤匡晴(スクエア)、末永直美(VOCE企画)、
河東けい(関西芸術座)

<イントロダクション>
平凡な男の部屋にふいに9人の家族が侵入してくる。善意に満ちた笑顔で隣人愛を唱えながら居座り続ける彼らに、男の婚約者や警察さえも説き伏され、男の存在が次第に危うくなっていく…。戯曲として初めて谷崎潤一郎賞を受賞し、現代社会の特殊な人間関係を照射した傑作戯曲。

<現代演劇レトロスペクティヴとは>
2009年度からアイホールが取り組んでいる「現代演劇レトロスペクティヴ」は、1960年代以降の、時代を画した現代演劇作品を、関西を中心に活躍する演劇人によって上演し、再検証する企画です。現代演劇の歴史を俯瞰し、時代に左右されない普遍性を見出すとともに、これからの新たな演劇表現の可能性を探ります。


現代演劇レトロスペクティヴ公式サイト
sunday play日本の名作#2『友達』特設サイト
sunday公式サイト


  
おけぴ取材班:mamiko    監修:おけぴ管理人

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