同じ時代を生きた二人の女王、男で身を滅ぼしたといわれるスコットランド女王メアリー・ステュアートと「処女王(Virgin Queen)」と呼ばれたイングランド女王エリザベス一世。
イタリア人作家ダーチャ・マライーニが女性の視点からこの二人の女王を主人公に描いた戯曲『メアリー・ステュアート』でエリザベス役に挑む神野三鈴さんにお話をうかがいました。
神野三鈴さんというと、おけぴスタッフ的にはやはり『組曲虐殺』や『太鼓たたいて笛ふいて』など井上ひさし作品には欠かせない女優さんですが…今回は!「よき女王エリザベス」を演じられます。
--まずは「女王」を演じることについてどのようにとらえていらっしゃいますか。三鈴さん)みなさまご存じのように、こまつ座さんなどでは貧しい一庶民、市井の人間を演じることが多いですからね(笑)。最初は大丈夫かしらとも思いましたが、台本を読んだときに、「この物語は女王のお話でありながら、同時に私たち女の話だ」と感じましたので、勇気を出してお引き受けしました。
--また、この作品ではメアリーの乳母も演じられますが(メアリー役の中谷美紀さんはエリザベスの侍女も演じる、つまり、4役を2人の女優で演じるのです!)、お互いに主従関係にある人物も演じるのはとても興味深いです。しかも主従といっても…三鈴さん)そう、単なる主従関係にとどまっていないんですよね。
一番近くにいる、一番の理解者であり、話し相手なんですよね。そんな相手を互いに演じるということの意味、それがこの戯曲にかくされた仕掛けのひとつなのかなと思っています。
実は、最初に戯曲を読んだ時、4人の女性の物語というより、1人の女性が語りかけてくるような印象を受けました。
戯曲の中でのメアリーとエリザベスは、写し鏡。どちらかが現実(実像)で、もう一人は鏡に映った姿(虚像)になってしまう存在のようなのです。その中で絶対に現実世界に居ようとする女の話なのでは…と思っているんです。二人が対話している姿は、まるでひとりの女性の中で、「いろんな女の部分」が戦っているかのようなんです。
史実ですのでみなさまご存知かと思いますが、結果的にエリザベスは長きにわたり女王として君臨します。そのためにエリザベスが葬った女性性のひとつがメアリーだったのかもしれません。
この戯曲の幕切れにはとても印象的なシーンが用意されています。そこでは"エリザベスを演じていた女優"が乳母として語ります。その意味を考えると、エリザベスとメアリーが一人の女性に内包されていた人格だったのかな。どちらかを葬らないと生きることができなかったのかな。そんなことを感じるのです。
--「遠い時代、遠い国の特別な人の話」というだけではない戯曲なのですね。三鈴さん)ここでは「女王」という特別な階級の二人で見せていますが、それはどんな立場の人にとっても起こりうることですよね。
社会で生きるには、家庭で生きるには、自分の中の何かを葬らないとその役を演じ切れないような感覚ってありますよね。その意味では、女性は誰しも自分という世界の女王で、その中でさまざまな役を演じながら常に選択をし続けているんですよね。
--それは現代を生きる私たちにもドキッとする視点です。--ここからは演出のマックス・ウェブスター氏、共演の中谷美紀さんの印象をお聞かせいただけますか。ワークショップも行われたということですが。三鈴さん)ウェブスターは30代のイギリス人。私にとってイギリス人演出家というと、サイモン・マクバーニーやデヴィッド・ルヴォーが思い出されます。サイモンはまるで一時もじっとしていない子供のようにエネルギッシュ、デヴィッドは色気と影、屈折したものを持っていて、共に才気あふれる演出家です。ウェブスターはというとまたちょっと違って、テディベアのような方です(笑)。30代なのにギラギラと尖がったところがなく、知的で安らぎと大らかさを感じさせるところがとても素敵なんです。
ワークショップでは、初めての日本で、年上のなんだか面倒くさそうな女優二人を相手に(笑)、ちょっと遠慮しながらも、精神的に非常に成熟し、なおかつ芝居作りに対して非常にタフな一面も見せてくれました。ルコック(※フランスのジャック・ルコック演劇学校)で学んだことやサイモンとの舞台創作を通して培った、知識や経験も持ち合わせた演出家との稽古はハードになるだろうなと覚悟もしています。
--この戯曲、作品を手掛けようと思われる時点でタフじゃないと…ですよね。三鈴さん)そうですよね。でも、女というものをどのくらい知っているのかは、これから稽古場でじっくりと(笑)。
--続いて、共演の中谷美紀さんの印象はいかがですか。三鈴さん)もう、あまりに美しくて見惚れてしまうほどです。
素顔のまま、陽の光の中でワークショップをしていると、あまりの美しさに吸い込まれそうになってしまうんです。そして「いけない、いけない!」と思うんです。
ただ、私はそれが今回の芝居にとってもプラスになると考えています。
私が美紀ちゃんに対して抱くコンプレックス、彼女が持つ美しさや感性へのあこがれや称賛も含め、全ての感情をすべてエリザベスのコンプレックスに繋げることができるのではないかと。
でもね、そうかと思うと、ちょっとヤンチャだったりもするんですよね、面白い方です(笑)。
二人で愛し合い憎み合うという濃密な関係を築くためには、途中、意見の衝突、ケンカをするかもしれません。でも、これから二ヶ月間、自分の持っていないものを持っている方とご一緒し、目の前で彼女が発するものを吸収し続けることができることにワクワクします。精いっぱい彼女を愛し抜きたいと思います。
--愛憎という側面も持つ作品、劇中の二人のやりとりはときに辛辣でもありますね。三鈴さん)そこはもう思いっきり、中谷美紀ファンにモノ投げられるくらいの勢いでやりたいです(笑)。劇中とはいえ、本当に美醜、人格、性について、ここまで言い合う関係ってなかなかないですよね。そこを創り上げるにはお互いを「互いの分身」と思えるぐらいにならないと難しいと思います。
--二人芝居ですので、舞台上ではお二人はまさに運命共同体となります。三鈴さん)そうなんです、芝居が始まればお互いが命綱です。
でも、その点ではこんなに信頼できる人はいないと確信しているんですよ。私たち二人とも自分たち自身より芝居が好きな「役者バカ」なので(笑)。
相手が美紀ちゃんで本当によかったと思います。
--では、最後にこの作品に臨む今のお気持ちを改めてお聞かせください。三鈴さん)作品との出会いは一期一会、特に今回は私にとって初めての二人芝居です。
とにかくこのカンパニー、中谷美紀さんを相手役に、そしてその後ろにいる演出、美術、衣裳、舞台部といったたくさんのスタッフさん、リュート演奏者さん、このメンバーでなければ絶対に作り出せない、生の、それもその日その時にしかない唯一無二のものを創り上げたいと思います。そのためには何の努力も惜しみません。
ちなみに、私、音フェチなのでリュートの生演奏が入ることもとっても楽しみなんです!
--客席に座る私たちもとても楽しみになるような素敵なお話をありがとうございました!【ちょっと脱線?!】この作品の中では夢の中の出逢いという場面が用意されています。
三鈴さんが夢で逢いたい人はどなたでしょうか。
三鈴さん)そうですね。亡くなった両親、動物たち、そして井上ひさし先生かな…。あ、ちょっと湿っぽくなっちゃいましたね。
あと、ドリトル先生!夢で逢えたら動物と話をする方法をレクチャーしてもらいたいです。
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文)おけぴ管理人(撮影)
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文) おけぴ管理人(撮影)