【過去ログ】2012/04/10 新国立劇場「負傷者16人-SIXTEEN WOUNDED-」稽古場レポ


2012年4月10日(火)15:30

新国立劇場「負傷者16人-SIXTEEN WOUNDED-」稽古場レポート

異なる立場にありながらも心を通わせる“人間同士”の絆。

時に断ち切れない鎖のように心をしめつける絆と、

その前に横たわる“歴史”の重さ・・。

私たちの生きる時代が抱える大きな問題を、

説得力のある戯曲と演技、演出でみせる舞台「負傷者16人-SIXTEEN WOUNDED-」。

“演劇”感満載の稽古場レポをお届けいたします!

まるで親子のように打ち解けたかと思うと、

ある瞬間にさっと心の間に壁が立ちはだかる。

そんな2人の関係を、ちょっとした仕草や台詞の“間”で表現する

井上芳雄さんと益岡徹さんの繊細かつエネルギーのぶつかり合いのような演技に引き込まれました!

新国立劇場に初登場の井上芳雄さんが演じるのは、

ある事情を抱え故郷パレスチナからオランダへやってきた青年マフムード。

アムステルダムで小さなパン屋を営むハンス(益岡さん)のもとへ、

ひょんなきっかけから転がりこみ、店で働き始めます。

ケーキをデコレーションする手つきも鮮やかな井上さん♪

(実は井上さん、学生時代に新国立劇場で案内係のアルバイトをされていたとか!見事な凱旋公演ですね♪)

赤の他人でありユダヤ人でもあるハンスが、

パレスチナ人である自分に親切にすることに疑念を抱き、

事あるごとに反発するマフムード。

こどものような笑顔を見せたかと思うと、

次の瞬間にはまるで鋭いナイフのような表情をみせる井上さんの演技に、

役として“人生”を生きている熱と痛みを感じます!

マフムードのまっすぐなエネルギーが益岡さん演じるハンスにぶつかるシーンは圧巻。

稽古段階で手加減なしのぶつかり合い!

彼は一体何のために祖国を捨ててオランダにやってきたのか。

まさに“今の時代を描いた”戯曲の台詞ひとつひとつが胸に重く響きます。

「中東パレスチナ問題」というと

難しくとっつきにくい題材のように思われるかもしれませんが、

描かれているのは普遍的な“人間同士の絆”と、

それをもっても超えられない“憎しみ”や “人間の愚かさ”・・。

声に人生の深みがにじみ出る益岡ハンス。

自分の人生、そして突然そこに飛び込んできたマフムードにいら立ちながらも

受け止める懐の深さ。益岡さんの確かな演技が光ります。

ハンスを包み込むような存在感のソーニャを演じるのは、あめくみちこさん。

娼婦と客でありながら「信頼できる話し相手」という特別な関係であるふたり。

彼女がハンスにとってどれだけ大切な存在であるのか、

短い時間の中で痛いほど伝わってくる、とっても素敵なシーンです。

お腹に新しい命を宿したノラを演じるのは東風万智子さん。

彼女もまた彼女なりの葛藤を抱えて生きています。

穏やかな時間を切り裂く強烈な違和感を舞台へ持ち込むアシュラフを演じるのは粟野史浩さん。

不気味な存在感でマフムードの運命を一気に変えて行きます。

台詞の言い回しや動きを細かく確認する演出の宮田慶子さん(写真右)。

話し言葉として不自然ではないか、

感情の流れに乗っているかどうかなど、俳優の意見も取り入れつつ、

ちょうどこの日稽古場へいらしていた翻訳の常田景子さんにも確認しながら細かく修正していきます。

9.11後の世界を生きる我々すべてに重く問いを投げかけて来る「負傷者16人-SIXTEEN WOUNDED-」。

逃れることのできない運命に翻弄される青年役を熱演する井上芳雄さんと、

深く静かな苦悩をさすがの演技で表現する益岡徹さん。

俳優同士の真剣勝負から目が離せません!

重い運命の中にも息づく人間同士の幸せな関係、

手が届きそうで届かない幸福を追い求める姿が切なく胸に迫ります。

観劇した後にきっと心に何かが残る、そんな確かな予感を感じた稽古場でした。

父と息子のような2人の奇妙な友情。

ぜひ劇場でその演技を堪能してきて下さい!

【公演情報】

「負傷者16人-SIXTEEN WOUNDED-」

4/23-5/20 新国立劇場にて

5/26、27 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホールにて上演

<ものがたり>

オランダ、アムステルダムの街で小さなパン屋を営む老人ハンスの元に突然、フーリガンに暴行を受け血だらけになったパレスチナ人の青年マフムードが飛び込んで来る。ハンスは気絶したマフムードを病院に入院させ面倒を見るが、赤の他人である自分への親切を本心から信じる事が出来ないマフムードはそんなハンスに強く反発する。だが代償を求めないハンスの優しさに対し次第に心を開き、退院後ハンスのパン屋で働く事となる。

二人は、お互いのアイデンティティ、過去そして現在の生き様を知り反発しあいながらも、いつしか父子にも似た愛情が芽生え始める…。

数か月後のある日、穏やかな生活に傷も心も癒え、恋人とともにハンスの元で「新しい人生」を歩もうと心に決めたマフムードの元に予期せぬ来客が現れ、事態は衝撃の結末へと向かっていく…


<公演HP>

http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000441_play.html



おけぴ取材班&撮影:mamiko 監修:おけぴ管理人

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