2015/05/19 新派名作劇場『十三夜』『残菊物語』 取材会レポート

観劇ニュース Vol.3

~美しい日本語を堪能~

おけぴ観劇レポコーナー、和モノ目白押し!
“和モノ”って風情や佇まい、所作も魅力ですが、なんと言っても日本語のリズムや響きが耳に、心に心地よいですよね。タイプの違う“和モノ”お楽しみください。
切なる恋の心は尊きこと神の如し~樋口一葉~
日本の美しさを表現し続ける--劇団新派。
今年6月の三越劇場『新派名作劇場』は、樋口一葉の『十三夜』、村松梢風の『残菊物語』という「恋」をテーマにした二作を上演。




日本人のこころ、情緒、風情、そして日本語のもつ優しさや美しさを大切にした舞台を通じて、明治、大正、昭和の古き良き日本を現代に伝える新派。

この日行われた取材会には、ご出演の新派劇団員水谷八重子さん、波乃久里子さん、そして新派おなじみの松村雄基さん、歌舞伎界から市川春猿さんが登場。
公演への意気込みやお稽古エピソードが次々に飛び出す、楽しいひとときでした。


『十三夜』

人妻と俥夫、幼なじみの恋路を照らす“十三夜”
久々の上演となる会場は昭和22年に初演公演を行ったゆかりのある三越劇場。前回上演は平成7年(新橋演舞場)ということですから、実に20年ぶりとなります。
美貌の娘せきと幼なじみの録之助の恋路が月光に照らされ…ああ、どうなってしまうの!!!今の時代でも胸キュンもののこの物語。


せき役は波乃久里子さん、録之助役は松村雄基さんです。

「私は八重子先生(初代)の『十三夜』を近くでずっと見ていて、指をつく位置、畳の目数まで覚えているくらい好きな作品です。どうしてもやりたくて全部筆記したくらい。
そして最初にやったときは、顔以外はそっくりそのまま先生のせきを写して演じました。今回は5回目となりますが、成瀬芳一先生に加え、尾上墨雪先生にも演出をつけていただき、見せ方にも工夫凝らした新たな作品にしたいと思います」(久里子さん)

舞台セットは構成舞台、極めてシンプルなセットで抽象的なイメージになるようです。


また、樋口一葉原作、久保田万太郎脚色については…

「樋口一葉、大好きです。久保田先生のセリフもフランス語のようにすっと流れる美しさがあります。でも気を付けないと美文に酔ってしまうんです。
およそ日常会話とは思えない言葉を日常会話としてお客様の心に届ける、そこは演出の両先生の核心をつくご指導を受け、松村さんと一緒にずたずたになりながら創り上げています。
好きな分だけ大変です」

勘三郎さんとのエピソードも。

「弟が亡くなるちょっと前に、新派に出るのというので何作かビデオを貸したんです。そうしたら涙で目をぐじゃぐじゃにした勘三郎が『十三夜』のビデオを抱えて、「こんなイイ芝居、なんでもっとやらないんだ」って。それですぐにプロデューサーにお電話したんですよ。ですので今回の上演は弟のアイデアなんです」


久里子さんと共に稽古に励む松村雄基さんは


「久しぶりに新派公演に参加させていただいおります。最近の舞台では年長の部類に入ることが多いのですが、ここに来ると諸先輩方がいらして(笑)。安心感と緊張感のある稽古が苦しいけれど楽しいです

お稽古エピソードもご披露くださいました。

「もう、あの、はい…、久里子さんが仰ったとおり、核心をついたご指導が。
昨日もほぼ居残りのような状態で10分のシーンについて1時間半ほどお話しいただきましたが、本当にそれはありがたいことなんです。
「録之助のセリフの根底にある気持ちはすべてせきへの愛情。愚痴っぽいせりふも全部ラブコールなんだよ」と。
僕自身もそうやっているつもりなのですが、先生からは「そうは見えない、それじゃやる意味がない」。僕が「難しいです」というと、先生は「いえ簡単です、やればいいんです。好きになればいいんです」って(笑)。
細かい指導で厳しいですが、でもエールでもあると思っています。俳優としてすごく勉強になりますし、まぁ、勉強している場合でもないのですが(笑)、先生、諸先輩方らいただく言葉を栄養にして、その成果、ご恩をお客様に還元したいと思います


『残菊物語』

梨園の御曹司と乳母の許されざる恋のゆくえ…
今年のカンヌ国際映画祭クラシック部門で1939年制作の映画(溝口健二監督)のデジタルリマスター版が上映されたことでも話題の『残菊物語』。新派では1937年に明治座で初演されました(お徳:初代水谷八重子、菊之助:花柳章太郎)。
五代目菊五郎の養子菊之助と弟の乳母お徳の道ならぬ恋、そっと身を引く去るお徳、追う菊之助…その恋のゆくえは。


お徳役は水谷八重子さん、菊之助役は市川春猿さん

「今は、(リマスター版)映画の出来があまりに素晴らしく、怖くて足がすくんでおります。春猿さんの力をお借りしましてなんとか人間的な温かみのある生活感あふれる残菊物語にしたいと思います。
『十三夜』はクリスタルな、エッセンスを大切に演じる抽象舞台になるので、こちらは細部までリアルに創った人間の肌のにおいを出していきたいです」(八重子さん)

菊之助を演じるのは、役柄同様に歌舞伎役者の市川春猿さん!


「この間、久里子さんの舞台(『明治一代女』)でやらせていただいて以来2度目の本格的な立役になります。歌舞伎の俳優さんのお役なので、歌舞伎役者が歌舞伎役者役ができなきゃ困るなと言われないように頑張らせていただきます
また、舞台では松村さんと初めてご一緒させていただきます。
お説教させる場面がありますが、実年齢も松村さんが少し上ということも手伝って、本当にお兄ちゃんに怒られているような気がします。それも楽しんで日々稽古に励んでおります」


また、今年デビュー60周年、水谷八重子襲名20周年となる八重子さんは現在CDのレコーディング中とのこと!


「ジャズ歌手から新派へ、新派からジャズ歌手へ、どちらも言われますが、私にとっては卵が先か鶏が先かのようにどっちともつかず同時です。
そして母がやった最後の残菊より私のほうが年上なんですよね。
もう一度春猿さんと新しく創り上げていく覚悟でおります」

明治、大正、昭和の日本の美しさを大切にしながらも、新しい舞台創作に尽力するみなさん。新派って?というみなさんも一度足を運んでいただき、その魅力に触れていただきたいと思う取材会でした。


<こぼれ話>

『残菊物語』で久里子さんが演じるのは菊五郎の妻・お里さん。

お里は私の曾祖母なんですよね。そして久里子の里は、そのお里さんからいただいたものなんです。
もとの台本では敵役になっていますし、実際にも非常に厳しい人だったようですが、曾祖母を敬って、厳しさはちょっとオブラートに包ませてもらって、優しくやらせていただきます(笑)。
そして、以前祖母は「残菊は菊五郎家にとっては恥の作品よ」と申しておりましたが、菊五郎さんが実際に菊之助役をやられたときにはご本人が「別に昔は恥だったかもしれないけど、今は恥じゃねーよ」と仰っていました(笑)」(久里子さん)

【公演情報】
松竹創業百二十周年 新派名作劇場 一、十三夜 二、残菊物語
2015年6月4日(木)~26日(金)@三越劇場

<スタッフ・キャスト>

一、『十三夜』
原作:樋口一葉 
脚色:久保田万太郎 
演出:成瀬芳一 

原田せき:波乃久里子
斉藤主計:立松昭二
もよ:伊藤みどり
高坂録之助:松村雄基  

◆あらすじ◆
明治中頃の浅草・上野のあたり。美貌の娘せきは、高級史官に見初められ、西も東も分からぬまま嫁いでいった。請われてした結婚だったが、子供が生まれると手のひらを返したように夫が邪険になり、六年もの冷えきった結婚生活を送ることになる。一方、せきの幼なじみの録之助は、彼女の嫁入が決まると放蕩に溺れ出した。心配した母親は嫁 を取らせるが、子供が生まれてもその放蕩はおさ まらず、ついに家は没落。しがない人力俥夫として 駄菓子屋の二階に下宿し、無気力な生活を送っている。十月のある宵の口、ついに夫と別れる決意をし、せきは上野新坂下の実家に里帰りをしてきた。 しかし、事を打ち明けた父の言葉に諭され、寂しい諦めを抱きながら帰路につく。静けさが上野公園 を包み、月夜が明るく照らす十三夜の夜道に、突然せきの乗る人力俥が停まった…。

二、『残菊物語』
原作:村松梢風 
脚色:巌谷槇一 
演出:成瀬芳一 

お徳:水谷八重子
お里:波乃久里子
清元栄寿太夫:松村雄基
栄竜:瀬戸摩純   
元俊:田口守
おこま:伊藤みどり
尾上菊五郎:柳田豊      
尾上菊之助:市川春猿

◆あらすじ◆
明治十八年秋、五代目菊五郎の養子菊之助は、弟の乳母お徳の純粋な愛情に心を打たれ、愛を告白した。お徳は道ならぬ恋に怯えながらも、菊之助の手を取った。折柄、部屋に入ってきた母親にその様子を目撃されてしまう。暇を出されたお徳は、心の中で菊之助に別れを告げ、裏口から寂しく去 っていくのであった。数ヶ月後、やっとの思いでお徳の行方を突き止めた菊之助は、鬼子母神境内へ彼女を呼び出す。互いを見詰め合い、むせび泣くお徳と菊之助……。と、偶然にも、参詣に来合せた菊五郎とその一門に二人の密会を見られてしまう。面目なさに逃げ出すお徳。菊之助は二人を一緒にさせてくれと必死に請い願うが、菊五郎は頑として聞き入れない。菊之助は決然として場を離れ、お徳の後を追い告げるのだった。「もうこの上は大阪へ行こう」と…。

公演HPはこちらから


おけぴ取材班:chiaki(文・撮影) 監修:おけぴ管理人

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