演劇のリアリティがそこにある。
マンガの神様と言われる手塚治虫の代表作「アドルフに告ぐ」を演出家・栗山民也さんが演劇作品に!
舞台『アドルフに告ぐ』観劇レポートをお届けします。
【みなさまから寄せられた感想をご紹介!6/9追記】
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手塚作品は、骨太でずっしりした暗さがある作品だなと感じているのですが、栗山演出が炸裂した今作は、役者と照明の連動が見事、その骨太感・暗さを表現するのにマッチしていました。
これだけ歌えて踊れる人が集合しているのにストレートプレイという贅沢!
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とにかく、ピーンと張り詰めた緊張感が良かった。夢中で見入ってしまった。
高橋洋さんのヒトラーは誰も受け入れていない誰も見えていない独裁者の悲しさが見事だったし、成河さんのアドルフは誰よりも人種に翻弄され、居場所を欲していたように感じ、受けいれて欲しかったんじゃないかなぁ何てことを感じた。
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「アドルフに告ぐ」=戦争ものと思いがちですが、そうとばかりは言えません!
舞台装置の無駄のない転換・照明・音楽を含めて、ちょっと早回しの回転木馬に乗って時間と場所(神戸・ドイツ・モスクワなど)を行ったり来たりするのが快感。
戦闘シーンが多いのかな?と思っていたのですが、最小限だし。
いろんな手法でみせてくれるので飽きません。あの警報にピアノとビオラで曲にしてしまうのが一番の驚きだったかもしれません!
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それぞれの人物がそれぞれの人物として生きているのが手に取るようにわかる。
なので、発せられる言葉が胸に響く。漫画を読んだだけでは気が付かなかったメッセージがたくさん!
ストレートプレイだと思っていたけれど、最初と最後、と~っても素敵な歌声が聞けます!
役者さんたちの歌声だからもっと野太い感じかと思ったら 教会で聞くようなイメージの美しいハーモニー&歌声でした!
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『三つの正義』この作品では3人のアドルフということでこう書かれていますが、
全ての登場人物がそれぞれに持つ正義を掲げて生きている事を強く感じました。
ぶつかり傷付けて守られる正義の終わりのなさを、力強いキャストのみなさんの迫力に圧倒されながら観てきました。
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時代に翻弄されたカウフマンとカミル。時代が違えばきっと心からの親友だったでしょう。
成河さんは『十二夜』で初めて知った役者さんですが、また違った一面が見れました。【観劇レポート】

とてつもないエネルギーの演劇作品が誕生しました
ベルリンオリンピック開催の裏で、ある秘密文書が消えた。
アドルフ・ヒットラーの出生の秘密が記されたその文書に、
二人の青年アドルフ・カウフマンとアドルフ・カミル、
そして、多くの男女の運命が翻弄されていく。
ベルリンと神戸、二つの都市を舞台に進むものがたりが行きつく先は…
衝撃のラストシーンを言葉で表現するのは不可能、舞台上で生き、死んでいった登場人物たちが観客の心に残すつめ跡は観劇後もヒリヒリ痛みます。
アドルフというファーストネームを持つ3人の男。ナチス党党員のドイツ人外交官を父に、日本人の由季江を母に持つ
ハーフの少年アドルフ・カウフマンに成河さん。
ドイツから神戸へと亡命した
ユダヤ人アドルフ・カミルに松下洸平さん。

写真右より)アドルフ・カウフマン役:成河さん、アドルフ・カミル役:松下洸平さん(少年時代)
父親の意向でナチスの幹部養成所へ入学させられそうになるカウフマンとパン屋の息子カミルは親友。ユダヤ人であるとかないとか、そんなこと関係ない!二人の無邪気なシーンは決して長くないのですが、あの日一緒に見た夕焼け、強烈に胸に焼き付いています。
成河さんの、人格の変化を見せつける声、動き、目線の演技、直視できない瞬間があるほど迫りくるものがあります。
朗らかなカミルを松下さんが軽やかに魅せる序盤、自らがユダヤ人であることから逃れられないカミルがたどる運命。終盤はこれまでの作品では見たことのない松下さんの新たな境地です。
アドルフ・ヒトラー役は髙橋洋さん。実在の独裁者、ドイツ総帥ヒトラーは悪魔とも言われている人物ですが、舞台上にいるのは自らの秘密に苦悩し、徐々に精神の均衡を失う人間ヒトラー。寄り添う
妻、彩吹真央さんの美しさが、悲しく映ります。

アドルフ・ヒトラー役:髙橋洋さん、後ろ姿は妻エヴァ役:彩吹真央さん
物語の語り部となる記者・峠草平には鶴見辰吾さん。
鶴見さんの落ち着いた語り口が観客を物語の世界へ誘います。
その言葉で冷静さを取り戻したり、逆にことの大きさ、重さを突きつけられたり、歴史を追体験するかのような舞台の要となる役です。左手が不自由になっても、右手で…。この歴史を風化させてはならないという作者の強い意志をも感じました。

写真左より)峠草平役:鶴見辰吾さん、カウフマンの母・由季江に朝海ひかるさん
そして、
朝海ひかるさん演じる由季江の翻弄されながらもたくましく生きる、生へのむき出しのエネルギー。これまではコケティッシュな魅力が印象的だった朝海さんの迫力に圧倒されました。
ほかにも
大貫勇輔さんと
谷田歩さんが演じる親子の正義、
市川しんペーさんの狂気、
斉藤直樹さん、石井愃一さんら最強キャストがシンプルな舞台セットでドラマを見せつけ、
朴勝哲さんのピアノと有働皆美さんのヴィオラの生演奏♪が心情を増幅させます。
登場人物ひとりひとりの存在が強く心に突き刺さる脚本は木内宏昌さん、膨大な原作ストーリーの再構築、おみごとです。
そして、おけぴスタッフ的に
キタ!ポイントは、
小此木まりさん演じる少女の存在です。
小柄な小此木さんの身体から発せられる、魂の叫び、今も響いています。
これはぜひぜひ生で感じていただきたい!
これまでにも『ブッダ』『火の鳥』など手塚作品の舞台化を手がけてきた栗山さん、マンガでも映像でもなく、
舞台でしかできない表現で挑む『アドルフに告ぐ』。
第二次大戦に翻弄される人々を描きながら、物語を終戦、ヒトラーの死、そこで終わらせることなくその先を見せる。こどものころに原作を読んではいたものの、そのラストシーンの意味は、今、恐ろしいほどの実感をともなう衝撃でした。
この夏、必見の舞台です。

純朴だったアドルフ・カウフマン少年、ドイツへ渡りナチズムへ傾倒していくのです。
「こどもを兵士に育てること」を目の前で、役者さんの生身の肉体、声を通して見せられる。
その残響は、観劇後、薄れるどころかどんどん大きくなっています。
写真提供:KAAT神奈川芸術劇場
おけぴ取材班:chiaki(文) 監修:おけぴ管理人