1984年、パルコ劇場初演の
『タンゴ・冬の終わりに』が、約30年の時を経て同劇場で上演されます。
主人公・清村盛(せい)に平幹二朗さん、演出は蜷川幸雄さんという初演を観て、いつか演じたいと思い続けた三上博史さんが盛役に挑みます!
映画館を舞台にした作品を映画監督でもある行定勲さんが演出、その世界で生きる役者を役者が演じる。それ自体がなにか深い業を感じさせる2015年の『タンゴ・冬の終わりに』。
開幕に先だち、会見&公開ゲネプロが行われました。
衣裳をご覧いただくとお分かりの通り、一見、交わるように見えないタイプの違う人々のように思われます。しかしながら、そんな登場人物たちが、“清村盛”というひとりの人物を中心にきらめきと闇、愛像のドラマを繰り広げるのです。
【初日前会見レポ】
引退した舞台俳優、清村盛役の三上博史さん
「30年前、まだがきんちょでしたが、この劇場で、この芝居を見たときの平さんがあまりに素晴らしくて、いつかこの役をやりたいと思い30年が経ちました」──役柄について、稽古でご苦労した点など。
「何から何まで大変ですね。とにかくしゃべりまくっている、そのひと言ひと言がすべて俳優としての言葉なので、それが妙に自分に重なってしまい、客観的に演じることができない、言葉を発することができないんです。
自分自身を(横に)置いてやろうと思うのですが、どうしても乗っかっちゃうんですよね、この盛という役に。
それは、本当に苦しいんですけど、喜びでもあります。ひと言ひと言を大事に語らせていただいています」新進女優、名和水尾役の倉科カナさん
「この愛憎の物語の中で水尾を激しくしっかり演じたいと思います」──役柄について、稽古でご苦労した点など。
「女優さんの役です。若くて、プライドも高く、女性としても芯がある役ですが、それが全然できなくて、えらそうにしたりとか…。なよなよしてしまい、真っ直ぐ舞台に立つ、歩く、それだけでも自分は劣るなと。舞台に立つということが、まず、難しかったです」「地でやればいいのに(笑)」(三上さん)「今じゃ、仁王立ちですよ!」(ユースケさん) シリアスな作品、取材陣もどこか方に力が入っていたその雰囲気を吹き飛ばす冗談もいっぱい飛び出す会見から、カンパニーの結束が感じられます!
盛の妻、ぎん役の神野三鈴さん
「天才俳優だった男の妻を演じます」「だった…ね(笑)」(三上さん) 「ひとりの才能ある男を愛し抜いたひとり女の役です。
役者が主人公の作品でもありますが、誰かの才能、人生を最後まで見届ける、そういう立場の方にも響く、宝石のようなセリフもいっぱいあります。素晴らしいセリフを、時を経て、こうしてまた役者という生身の肉体通じて届けられることをうれしく思っています」前作の『メアリー・ステュアート』で演じたエリザベス女王からの華麗なる転身、役者さんってすごい!!
水尾の夫、俳優の連 役のユースケ・サンタマリアさん
「売れない役者の連を演じます。
僕の役は非常にみじめったらしい役なんですけど、ただのみじめでなく凛としたみじめさで迫りたいと思っております(笑)」──役柄について、稽古でご苦労した点など。
「連は水尾の夫でありながら、結局、彼女の心の中に自分がいないことを半分わかりながらでも好きでしょうがない。まさに僕が男として歩んできた人生そのもの。
そういった意味で辛いです(笑)。
いままでもみじめったらしい役をやってきましたが、今回はその集大成ですね。
みじめを極めてやる!それが、今回、行定さんが僕を呼んでくれた意味だと理解していますし、今、僕のところにこの役がきたことは運命だったのかなと思います」 演出:行定勲さん
「僕は映画人なので映画館が舞台という設定に惚れこんでおります。とにかく清水さんの脚本が素晴らしく、ひと言ひと言が、表現者としての今の僕らにもすごく刺さるんですよね。観客がいて僕らがいる、それが味方になったりそうでなかったり。
脚本がかかれた80年代から30年経っても、根底はつながっていると思います。
広く、これから先の時代の人にもスタンダードとして繋がっていける力強さのある作品です」続いては、舞台の様子をご紹介する【公開ゲネプロレポート】です。
舞台写真掲載につき、まっさらな気持ちでのご観劇をというみなさまはご注意ください!
【公開ゲネプロレポート】
美しく狂おしく悲しい…
三上博史さんの渾身の表現、観客の目の前で壊れていく舞台俳優・清村盛に役者の業を見た!舞台となるのは日本海に面した町にある古びた映画館。
突然の引退後、妻と故郷に引きこもっている舞台俳優、清村盛。捨てたはずの華やかな俳優人生を忘れられない盛の精神状態は日々悪化していく。
壊れていく盛を、愛おしそうに、心配そうに、悲しそうに見つめ続ける妻、ぎん。
キラメキを放つ夫の影のような妻、常に輝いていてほしいと切に願うぎんもまたすごい女性です。三鈴さんのもつ温かさや強さ、どこか湿度のある女性が強烈な印象を残す舞台でもあります。
もう一組の夫婦。かつて盛と恋愛関係にあったらしい新進女優の水尾(みずお)と夫の連
新進女優と売れない俳優の夫婦。
倉科さんの凛とした美しさと水尾の真っ直ぐにぶつかっていく若さが相まって、現在進行形で輝く女優像に!
彼女を追ってきた夫の連、彼を会見でみじめったらしい男と表現したユースケ・サンタマリアさん。その根底には、確かに水尾への愛が見えます。
と、ここまでは、愛に導かれ、盛を追ってきた人々。
これからご紹介するのは、盛の故郷にいた人々。
盛たちの叔母のはな役:梅沢昌代さん、盛の弟の重雄:岡田義徳さん
梅沢さんが登場すると、舞台上の温度がポンと上がります。テンポや奇想天外な(?!)動き、半ばアナザーワールドで生きる盛たちとは違う、現実世界に生きるはなや重雄のもつリアリティ。確かな存在感です。
そして、最後になりましたが、やはりこの方のあっての『タンゴ・冬の終わりに』です。
三上博史さん演じる、清村盛を見ていると、生きることと演じることって…。
一瞬のキラメキのあとの虚しさに悲しい気持ちになりながらも、それ以上に心を捉えるのは「美しい」のひと言。
特にラストシーンの…嗚呼…ぜひ劇場でご覧ください。
幻想の中を生きる盛が語る言葉の中で、引退公演での口上や名作戯曲の台詞がもつリアリティというのも観劇不思議体験です。清水邦夫さんの紡いだ戯曲に唸ることしばしば。
壊れていく舞台俳優を演じる三上博史さん、
上演が決まったときに高まった期待を超える、レジェンド舞台が開幕です!
おけぴ取材班:chiaki 監修:おけぴ管理人