シアタークリエ開場10周年のオープニングを飾るのは…マイケル・メイヤー(演出)×トム・キット(音楽)が手がけるシェイクスピア『お気に召すまま』♪【マイケル・メイヤー】
1960 年アメリカ生まれ。ミュージカルの演出をはじめ、演劇や映画監督として幅広く活躍。
2007 年トニー賞で作品賞など8部門を受賞したミュージカル『Spring Awakening/春のめざめ』で最優秀演出賞を受賞。2010 年には『アメリカン・イディオット』で、ドラマデスク賞最優秀演出賞を受賞。
また2014 年には、ニール・パトリック・ハリス主演『ヘドウィグ・アンド・ザ・アングリーインチ』の演出を手掛け、トニー賞4 部門(ベストリバイバル賞・主演男優賞・助演女優賞・照明賞)を受賞!
またオペラの世界では、2012 年にメトロポリタンオペラで「リゴレット」の新演出を手掛け、その斬新で大胆不敵な演出は大喝采を浴びた。
さらにその才能は舞台にとどまらず、2012 年にはアメリカ3 大ネットーワークNBC で放送されたスティーブン・スピルバーグ総指揮のドラマ『SMASH/スマッシュ』第一シーズンで監督を務め大ヒットとなる。
『Spring Awakening/春のめざめ』(2007)、『アメリカン・イディオット』(2010)、そして『ヘドウィグ・アンド・ザ・アングリーインチ』(2014)などなど、数々の舞台作品で優れた手腕を発揮する演出家マイケル・メイヤー氏。
日本初演出の題材に選んだのは…ウィリアム・シェイクスピア原作の『お気に召すまま』。そして、音楽を担当するのは『next to normal』のトム・キット氏!
果たしてどんな魔法が飛び出すのか、魔法使いが胸の内をちょっぴり明かしたマイケル・メイヤー氏取材会の様子をレポートいたします。メイヤー版『お気に召すまま』の最大の仕掛けは… シェイクスピアが描いた『お気に召すまま』の世界を1967年のアメリカに置き換える。 宮廷から
アーデンの森へ舞台を移す物語の展開は
、NY上流社会から
サンフランシスコのSummer of Love (10 万人のヒッピーが集まったイベント)へ。
【1960年代のアメリカ】
私はワシントンDCの出身で、60年代のワシントンDCも経験しています。若く見えるから信じていただけないかもしれないけど(笑)。
当時の社会的不安定な状態も、身近な、僕よりちょっと年上の人たちの行動を通して記憶にとどめています。ヒッピーのようなピースムーブメントとか。ラジオからはPeace、Love、Happinessを謳う音楽が流れ、テレビからもヘイト・アシュベリーやウッドストック・フェスティバルで若者たちがそれぞれの個性や表現の自由を謳歌している映像が映し出されていたからね。
一方で、政治的な要素としてはニクソンが大統領に就任し、僕が住むワシントンDCでも非常に保守が強い時代。1950年代の残像にしばられ、回帰しようとする動きがワシントンDCではまだ起きていたんです。でも、アメリカのそれ以外のところでは、それに向かって抵抗し戦っていたんだ。
【『お気に召すまま』の物語とのリンク】
『お気に召すまま』にはオリバーやフレデリック公爵といった保守にがんじがらめになった価値観をもったキャラクターが登場します。それに対して、とても温かい心をもった老侯爵(フレデリックの兄)は彼らにより追放され、家臣とともに森へ出ていく。その対比が非常に60年代とリンクしたんだ。
その二極をアメリカの二大政党制という視点で見れば、その対比は、今、最高にホットなトピックだよね。この作品の稽古が始まるころ、僕はどんな思いとともにこの日本にいるのかな(笑)。
話を戻すと、そこで、
(父同様に追放されアーデンの森へ逃れるヒロイン)ロザリンド
(老侯爵の娘)やシーリア
(フレデリック公爵の娘)を政治家の娘という設定にし、グレイハウンドの長距離バスに乗って旅立たせたらどうだろうかと思ったんだよね。もちろんNYのセントラルパークなどでもムーブメントはあったけど、やっぱりそこは東から西へアメリカを渡るというほうがいいんじゃないかなって。
【東から西へアメリカを横断!】
舞台が東から西へ展開することで、服装も変わり、そして物語も展開していくんだよ。
たとえば、きちんとしたドレスを着ていた女性たちが、パンツスタイルに、それもジーンズ、ベルボトムを履いたりして!男性キャラクターも宮廷おかかえの道化タッチストーンはヴィクトリアン系のフリルの多い衣装やペイズリーとかだと面白いかな。
森(西)にいるキャラクターでも、老侯爵の廷臣ジェイクイーズなんかはすごくシニカルで昔を引きずっているので、50年代を引きずるようなちょっと古めかしい感じだったり。
とはいえ、どんな衣裳になるかは、まだわからないよ!というのが本当のところ。今、日本のデザイナーさんとお会いしている最中なんです。でも、きっとメインはカラフルでサイケデリックになものになると思います。
【音楽はトム・キット】
音楽を手掛けるのはトム・キット、みなさんも彼の代表作『next to normal』はご存知ですよね。『アメリカン・イディオット』の音楽監督・編曲者でもありますが、彼との仕事はとても楽しいんだ。トムはアイデアを尊重しながら、それでいて自分自身の個性を出すことに長けているからね。
音楽的なコンセプトは、『お気に召すまま』にはシェイクスピアのどの作品よりもたくさんの詩が出てきます。それをママス&パパスやクロスビー、ナッシュ&ヤングのような音楽、やわらかい感じのフォークソングで表現したらどうかというのがアイデアのひとつです。
トムともそういった話をし、楽器はどのくらいいるのかとか、役者にその楽器を持たせるのかという打ち合わせをしましたが、「ああ、このアイデアがわかってきた」と言ってくれています。
【古典『お気に召すまま』が、今も愛されるわけ】
それは、ロザリンドだと思います。
シェイクスピアが描いた女性キャラクターの中で一番、もしかしたら彼が生んだキャラクターのベストキャラクターかもしれない。その知性、清く寛容な心、愛、人間関係を築く上でのポジティブな姿勢、そして彼女はたくさんしゃべるんだ(笑)。でも、決してポイントを外さない。ハムレットと比べて(笑)、彼女には自己中心的なところはないんだ。
そして、ロザリンドも物語の中で男としてふるまう場面が出てきます。彼女は男のふりをして自分が好きな男性に、どうやって自分を愛してほしいかを教えるんだよ、みんなそうできればいいよね(笑)。それによって男性も女性もその人物に共感できるんだよね。
男装するキャラクターは他にもいるけど、ヴァイオラとかポーシャのような身勝手さがないんだよね、ハハハ(笑)。
その意味で、普遍的にすべての人にポジティブなメッセージが伝えられるようなキャラクターがいる、それがこの作品の魅力だと思います。
【日本での初演での挑戦】
大変なこともあるともいますが、物語を伝えることに壁はなく、そして役者はどこでも役者ですからそこは問題ないでしょう。
おそらく最大の問題は、日本語としてどのように伝わるのか。でも、黒澤明の『乱』などを見ている限り、シェイクスピアの世界というのは日本人、日本の観客に受け入れられると思いますし、創り上げられたものは世界に開かれたものになると思います。
今はまだ、シェイクスピアをアメリカに持って行って、日本語にするという、様々なものを変換していくプロセスの途中です。実験的な側面もありますが、どうなるか楽しみです。
【シアタークリエ10周年のオープニングを飾る作品】
劇場開場10周年のオープニングを飾る作品を手掛けることができ、大変光栄に思っています。シアタークリエにはニュートラルな劇場だという印象を抱いています。 ある一定のスタイルを強く主張する劇場ではない、その意味でモダンだといえます。ブロードウェイの劇場のようにプロセニアムアーチがないからね(いわゆる額縁舞台でない)。最初から一定の印象を与えない、創り上げた作品世界にお客さまは自然に入っていけるんじゃないかな。大きすぎないところも魅力です。お客さまと近い関係になれるからね。
痩せて見えると思って黒い服にしたんだ…笑(マイケル)
今回の来日でキャスティングや日本のスタッフとの打ち合わせ(衣裳や装置などは日本人スタッフが手がけるとのこと!)など、いよいよ動き出したとのこと、人柄もチャーミングなマイケルのPOP な世界と『お気に召すまま』のROMANTIC な世界が融合が楽しみです!
おけぴ取材班:chiaki(取材・文・撮影) 監修:おけぴ管理人
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