地下鉄構内の広告板にチョークで絵を描くサブウェイ・ドローイングで一躍有名になった、1980年代アメリカの代表的芸術家キース・ヘリング。彼の生涯を描いたミュージカル『ラディアント・ベイビー』の会見が行われました。
会場となったのは、小淵沢にあるキース・ヘリングのコレクションのみを展示する美術館
「中村キース・ヘリング美術館」。演出の岸谷五朗さん、キャストの柿澤勇人さん、平間壮一さん、知念里奈さんも参加された学芸員さんによる館内ツアーの様子とあわせてレポートいたします。
【演出:岸谷五朗さん】
「キースと僕のご縁は1993年から続けているAAA(Act Against AIDS)活動、かれこれ20数年となります。当時、エイズという病気は、それに対する偏見と差別により、人間が一番大切にしなくてはいけない絆を壊してしまう病気でした。それに対して立ち上がり戦ったアーティストのひとりがキース・ヘリング。我々の思いと通じることから活動のシンボルマークとしてキースの絵を掲げることをキース・ヘリング財団も快く受け入れてくださり、以来、キースの思いと絵に勇気づけられ活動を続けています。そのキースの生涯を、自分の本業である芝居で表現できることは、僕にとってこれ以上ない恩返しでもあります。
これから厳しく苦しく楽しい稽古を重ね、最高のエンターテイメントを作り上げたいと思います」
AAA(Act Against AIDS)は、「エイズを正しく知り、自分たちにできるアクションを起こそう」と、日本の音楽・エンターテインメントに関わる多くの方々が参加し、1993年よりHIV/エイズ知識の啓発・感染者支援等をおこなっている活動です。岸谷五朗さんの呼びかけで、キース・へリングのシンボルマークとともに1993年からスタートしたAAAコンサート「ザ・バラエティ」は、毎年12月1日「世界エイズデー」にミュージシャン・俳優・お笑いのジャンルを越えた豪華キャストが東京・日本武道館に集結し、この日限りのエンターテインメントショーを届けています。
(活動についてはこちらをご覧ください)
【キース・ヘリング役:柿澤勇人さん】
「今日、こうしてキースの作品を見て、改めて身の引き締まる思いです。僕がキースの人生から感じることはスピード感。とにかくピュアで自分の信念を貫いて、全力で悩み、生きた彼の31年の生涯を全力で駆け抜けたいと思っています。
資料やドキュメンタリー映像を見て印象的だったことは。エイズ発症を知ったキースは周囲にはさほど暗い面を出さなかったけれど、一人、「もう生きられないんだ、死んでしまうんだ…」と川沿いで泣きに泣いたエピソードです。
もっと生きたかっただろうとも思います。キースの代わりにとはいかないまでも、この作品を通して人生の大切さも伝えられたらと思います。敬意をもって取り組み、天国で見ているキースも楽しんでくれるような作品にしたいですね」
【キースの生涯の親友となる写真家ツェン・クワン・チー役:平間壮一さん】
「僕はもともとキースの作品が大好きで、自分でも絵を描くことが大好きなので、この作品に携わることをとてもうれしく思っています。五朗さんとキースが作り出す世界、柿澤くんの素晴らしい歌声と表現力、それを支える仲間としていられることが本当にうれしくて!役を演じる上ではもちろん、素の平間壮一自身も柿澤くんの魅力に惹かれていき、サポートしたいという気持ちをもちながら、舞台上でキースとチーになれたらなと思っています」
「頑張ります!」(平間さん)
「知っています、君が頑張ることは!」(岸谷さん)
そんなやりとりに、師匠と慕う岸谷さんとの関係が現れていました!
【キースのアシスタント アマンダ役:知念里奈さん】
「今日、キースの作品を見て、そのエネルギーとパワフルさに圧倒されています。さらに貴重な資料やお話をうかがってキースの志の高さ、人となりに感銘を受けています。また、岸谷さんがこの作品にかける思いもとても素敵で、カッコよくて!岸谷さんについて行こうと決めました」
【美術館 館内ツアー】
■エントランスでお客様を迎えるキースの写真を撮影したのは…みなさんの視線の先には平間さんが演じるツェン・クワン・チーが撮影したキースの写真が。カメラをのぞき込むようなショットに、キースとツェンの心の距離の近さが現れています。
■アンディ・ウォーホールへのオマージュポップアートの旗手、キースの創作活動にも影響を与えたアンディ・ウォーホールを題材にした“アンディ・マウス”のまえでパチリ。
■キースの社会活動家としての一面 反アパルトヘイトへのメッセージを込めた“フリー・サウス・アフリカ”。
キースは抗議活動のために、このポスターを自ら2万枚印刷し配布したというエピソードにキースの社会活動家としての側面を感じることができました。
「反アパルトヘイト、HIV…非常に深刻な問題を、キースはアートの力でひとつのシンボルとして表現する。その思想を文章にしたらすごい文字数が必要なものを、たった一枚のシンボルに落とし込み、みんながそこへ進んでいく…そしてすごく重い、深いテーマが込められている絵がキュートで可愛くて…そんな力を持っている人はなかなかいないだろうな」(──キースの魅力について、岸谷五朗さん)
■キース最後の大作 エイズ発症後、死が近いことを知ったキースが描いた“トライアングル”。
写真ではわかりづらいのですが、黒いラインとカラフルに塗りつぶされた部分の間には、白いラインがあります。大衆に愛されたキースですが、当時の美術界では評価はさまざま。キース最後の大作となったこの作品からは、これまでになかった美術的手法、確立されたスタイルが見てとれます。
「僕はこの真後ろにあるこの作品が一番印象的でした。解説を聞いてびっくりしたのは、この白い線が後から描かれたものではなく、もとのキャンバスの地の色だということ。それまでは下絵もなく、構想もなく、直感のまま描きなぐっていたのが、エイズで死期を悟ったときに描いたのは(白い部分を残して描くという)構成を考えた作品だということ。いつもと違うキースの作品に驚きました」──印象的だった作品(柿澤勇人さん)
最後に描いたこの絵から、新たなキースの一面を感じ取ったようすの柿澤さんがどんなキースとして役を生きるのか楽しみですね。
そんな柿澤さんの表情が…
続いては【お絵かき大会】の様子をレポートいたします。爆笑と衝撃の展開が待ち受けているのですが、その主人公は意外にもあの方…。
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おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人