『8月の家族たち August:Osage County』稽古場レポート

 母は薬物の過剰摂取で半狂乱、アルコール中毒の父は失踪。
 酷暑のオクラホマを舞台にした、そんな家族のものがたりを見た帰り道…なんでこんなに足取りが軽いのだろう。

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【稽古場レポート】



 父親の失踪をきっかけに集まった3人の娘とその家族たちのものがたり『8月の家族たち August:Osage County』。メリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツ競演で話題になった映画版をご記憶の方も多いのではないでしょうか。日本版初演にむけ、連日熱い稽古を重ねている稽古場へ潜入!ゾクゾクの通し稽古の様子をレポートいたします。


 日本初演となる本作の演出はケラリーノ・サンドロヴィッチさん(以下、KERAさん)。キャストは母に麻実れいさん、その娘たち、三姉妹に秋山菜津子さん常盤貴子さん音月桂さん。父は村井國夫さん、長女の夫が生瀬勝久さんで三女の婚約者が橋本さとしさん。さらに叔母さん一家が犬山イヌコさん木場勝己さん、息子が中村靖日さん…って。

 なんだかスゴイものが見られそうな予感!そんなワクワクを胸に向かった稽古場。



 麻実さん演じる母は周囲の人を罵倒し、傷口に塩を塗りまくる。かなりエキセントリックなのですが、その中に、どストライクな核心を突く言葉も。それには「うまいこと言うねぇ」と思わず笑ってしまうことも。不安定な母ですが、『海の夫人』エリーダとも『長い夜への旅路』メアリーとも違う、またまた新鮮な麻実さんなのです。

 長女、秋山さんも負けてはいません。母と娘のノーガードの罵りあいは、まさに“この親にしてこの子あり”。
 常盤さん演じる次女は控えめでおっとり、音月さんの三女は天真爛漫だけどちょっぴり残念な感じ(笑)。生瀬さん演じる長女の夫には「がんばれー!」と声援を送りたくなり、橋本さんのお役は登場からしてあきらかに胡散臭い。
 ほっとするのは叔母さん一家(いいんですよ、この一家も!)。
 そして、忘れてはならないのが村井さん演じる父。失踪してもなお、家にただよう父の苦悩と愛。その大きな存在感も物語のカギ。

 という印象なのですが、皆、それだけじゃないのです。家族にだから見せる面、見せない面があるんですよね。



 実力派、そうお呼びするにふさわしい俳優のみなさんの壮絶バトルは想像以上です。ただ、この驚きの適材適所な豪華キャストをしても、何が押し?と問われれば、それは“戯曲”と即答できます。

 それほどまでに、とにかくトレイシー・レッツの戯曲がすごい!そして、それを最高に面白い芝居にするのはKERAさん自らが手掛けた上演台本



 何組もの夫婦、恋人、親子(父と娘(息子)、母と娘(息子))、姉妹…という関係が複雑に入り組んだ“家族”というユニット。
 そんな家族の間で繰り広げられる辛辣かつ温かい会話が、リアルで滑稽で愛おしい!

 すべての登場人物のすべての言動には理由があり、意味がある。一度見た後で振り返ると…あの時のあの人のあの言葉…その心中を察するに…。

 翻訳劇で「このヒロインの言動、意味わからない!」という経験があるのですが、この作品では登場人物一人ひとりの“言”も“動”もなんだか自然に理解できてしまうんですよね。(すべて肯定できるかというと、それはまた…)


 そして、もしかしたら、3幕ものというボリュームにご観劇をためらっている方もいるかもしれません。でも、3幕、それぞれの幕開きの情景、幕尻に向かっての勢いと幕切れ、幕間の気分。1幕終わりと、2幕終わり、そして観劇後、こんなにもとらえ方の変わる作品も珍しいのではないでしょうか。

 最後になりましたが、舞台装置もタマラナイ。とあるシーンの見せ方が…特に…これはぜひ劇場でのお楽しみに!

 シリアス極まれば、もはや笑うしかない!酷暑のオクラホマで、現代アメリカの問題を抱えた家族をシニカルに描く『8月の家族たち』。一見、自分とは隔たったように思えるオクラホマのあの家族の中に、あなた自身を見出すかもしれませんよ。




 実力派キャストと最高の戯曲、上演台本で表層的でない会話劇として届けられる作品。大団円とは程遠い展開ながら、演劇って楽しいな、素敵だなと思える時間です!
 稽古場段階ながら、鳥肌モノの演技バトルに鳥肌モノの戯曲、鳥肌続きで、もしかしたら帰るころには羽根が生えていたのかも…そんなバカなことを考えてしまうほど軽やかな足取りでの帰り道だったのです。そして、手にはアップルパイ!無性に食べたくなりました(笑)。


【あらすじ】
8月、オクラホマ州のオーセージ郡。うだるような暑さの中、ウェストン家の三姉妹のうち、長女バーバラと次女アイビーが実家に戻ってきた。詩人でアルコール中毒の父ベバリーが失踪したというのだ。ベバリーは家政婦ジョナを雇った直後に、姿を消していた。家に残されていたのは、薬物の過剰摂取で半錯乱状態となり、口を開けば罵声を娘たちに浴びせる母バイオレットだ。長女バーバラは夫のビル、娘のジーンを伴っていたが、家族には明かせない問題を抱えている。両親想いの次女アイビーもまた、家族には秘密の恋愛を育んでいる。ぎくしゃくした母と娘たちの緩衝材は、陽気な叔母マティ・フェイと夫のチャーリーだ。そして一家に、衝撃的な現実が突きつけられた。やがて三女カレンが婚約者のスティーブを連れて姿を現す。叔母夫婦の息子リトル・チャールズも到着し、ようやく一族全員が揃ったディナーのテーブルで、それぞれが抱える鬱積が爆発し…。


【公演情報】
『8月の家族たち August:Osage County』
2016年5月7日(土)~29日(日)@Bunkamura シアターコクーン おけぴ劇場MAP
2016年6月2日(木)~5日(日)@森ノ宮ピロティホール おけぴ劇場MAP

<スタッフ>
作:トレイシー・レッツ
翻訳:目黒条
上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ

<キャスト>
麻実れい/秋山菜津子/常盤貴子/音月桂/
橋本さとし/犬山イヌコ/羽鳥名美子/中村靖日/藤田秀世/小野花梨/
村井國夫/木場勝己/生瀬勝久

公演HPはこちらから

稽古場写真提供:Bunkamura
おけぴ取材班:chiaki(文) 監修:おけぴ管理人

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