1992年の日本初演から25年目を迎える
ミュージカル『ミス・サイゴン』 。ミスター・サイゴン市村正親さんの復活!前回からの続投キャスト、さらに国内外からの新たなキャストを迎え、2016年10月の帝国劇場を皮切りに全国ツアー公演のスタートです!
注目の新キャスト、韓国出身の
キム役のキム・スハさん 、
ジジ役の中野加奈子さん 、ともに日本のサイゴンカンパニーには初参加ながら、今年2月までロンドン・ウェストエンド公演でも同役を演じたお二人にお話を伺いました。
キム・スハさん、中野加奈子さん
“日本でキム役を演じたい”という思いは常に持っていました(キム・スハさん) アジアの文化、アジア人の気質が身体にしみ込んだキャストが作る『ミス・サイゴン』に期待しています(中野さん)──まずはこの作品との出会いからお聞かせください。 キムさん) 高校時代、ミュージカル学科に在籍しており、その授業で(キム役オリジナルキャストの)レア・サロンガのオーディション風景のドキュメンタリー映像を見たのが作品との出会いです。そこで大きな衝撃を受け、キム役をやりたいと思ったのです。ウェストエンドで、その映像の中に居たプロデューサーのキャメロン・マッキントッシュ氏や作曲のクロード=ミッシェル・シェーンベルク氏といった、錚々たるオリジナルクリエイティブメンバーに実際にお会いできたときは大変感激しました。中野さん) 私は、まだ日本にいたころにTVで本田美奈子.さんが『ミス・サイゴン』のナンバーを歌われているのを見たのが初めてですね。その後、渡英し、学校に通っていたころにオリジナル(演出版の)カンパニーのオーディションがありました。まだまだ未熟者でしたが、何事も経験だと、一度オーディションを受け…落ちました(笑)。そして、2001年にオーディションに合格、この作品で初めてプロとして舞台に立つことができました。
──特別な作品なんですね!ウェストエンドカンパニーで印象的だったことは。 中野さん) リバイバルの年は、さきほどスハの話にも出た“錚々たるオリジナルクリエイティブメンバー”がリハーサルに、毎日、全員集合でした。そこでは、シェーンベルク氏がその場でアレンジを変え、ステージングのボブ・エイヴィアン氏が振りを付けていく。日々、さまざまなことをトライしながら、一緒にリバイバル版を創り上げました。その過程では、彼らから多くのことを学びました。二度とできないような貴重な経験をさせていただきました。
──本当に錚々たるメンバーですね。緊張しそうです(笑)。 中野さん) でも、キャメロンをはじめ、みなさんとっても気さくで可愛らしい方々なんですよ。彼らが集まると、まさに古い友達に会ったというような雰囲気で、初演のときのあの映像の感じと一緒なんです。そんな様子を見られただけでも宝物のような経験です。
このように素晴らしい思い出がたくさんある大好きな作品に、今度は日本で出演できることをとてもうれしく思っています。
──今回の日本版ご出演の経緯についてお聞かせください。 キムさん) 実は、昨年(2015年)2月に日本で初めて『ミス・サイゴン』のオーディションを受けました。その後、韓国に戻ったときに、イギリス側から「ウェストエンドの『ミス・サイゴン』に挑戦してみないか」とのお誘いをいただきました。そこから映像オーディションを経てウェストエンドでの出演が決まりました。ですので、ウェストエンドデビューのきっかけが日本の『ミス・サイゴン』なのです。感謝の気持ちでいっぱいです。そして、ウェストエンド挑戦中は、まだ今回のキム役は決まっていませんでしたが、原点である“日本でキム役を演じたい”という思いは常に持っていました。幸運なことに日本でのキム役が決定し、こうして帰ってくることができてとても光栄です。──“日本の『ミス・サイゴン』”に惹かれた理由は。 キムさん) 私の師でもある韓国のミュージカル俳優ヤン・ジュンモ先生が、日本の『レ・ミゼラブル』でジャン・バルジャンを演じておられました。その大きな挑戦、さまざまなご苦労の末に日本の素晴らしい舞台に立っていらっしゃる先生を尊敬と羨望の思いで見ておりました。 『レ・ミゼラブル』がそうであるように、日本の『ミス・サイゴン』はイギリスと同じくらいの歴史の重み、伝統があると聞いています。事実、市村正親さんのような、初演から長年にわたり演じ続ける大先生(大ベテラン)がいらっしゃる日本は特別な国です。そんな先輩方と一緒に舞台に立てることは、私にとって信じられないくらい光栄なことです。──中野さんはいかがですか。 中野さん) ウェストエンド公演中に、日本版のオーディションに携わっていた演出補のJP(Jean-Pierre Van der Spuy氏)、彼は2004年のUKツアーにGI役で出演しその後、演出側に転向したのですが、そんな友人でもあるJPから「ジジ役を探している、オーディションを受けてみないか」というお話をいただきました。そこから映像オーディションを経て、今回の出演が決まりました。
──日本の舞台に立つのは…。 中野さん) 初めてです!
──中野さんは日本版の魅力をどのあたりに感じていらっしゃいますか。 中野さん) 海外、とりわけ欧米でアジアの物語を語る際に、どうしても生じてしまうあいまいな点がクリアになることを期待しています。ロンドンで演じていた時、キャストのふとした仕草に違和感を覚えることがあったんです。お祈りする場面などで、“それはしないよね”というような…。みなさん、役を理解し演じているのですが、どうしてもどこかに西洋の文化で育ったゆえの仕草が出てしまうのです。アジアの文化、アジア人の気質が身体にしみ込んだ私たちが作る、日本の『ミス・サイゴン』では、そこをしっかりと表現できると思いますし、また、その上でどのような演出がつけられるのかも楽しみです。
キムさん) 私もそう思います!ロンドンではカバー、代役でしたので舞台に立つ回数も限られていました。今回はトリプルキャストの一人としてキムを演じられるので、アジア人特有の細やかさ、そのディテールまでしっかりと追求したいと思います。 逆に言うと、アジア人である日本のみなさんの前で演じることにはプレッシャーも感じます。その緊張感をいつも胸に抱きながら演じたいと思います。日本語詞が持つ深さを理解し、正確に表現して観客の方に伝えていかなくてはならないと思っています(キム・スハさん) とても才能豊かなスハなので、日本語もすぐに覚えると思いますよ(中野さん)──今日、製作発表で日本語で『ミス・サイゴン』ナンバーを歌ってみていかがでしたか。 中野さん) やはり母国語ですね、歌っていても意味がそのまますっと入ってきます(笑)。イギリスに長年住んでおりますので、英語でも意味は分かりますが、そこは違います。これまでは発音にも気を使いながら歌っていましたが、今回は日本語でこの素晴らしいミュージカルを歌えることが楽しみです。それによって、新たな発見もたくさんありそうですし!
キムさん) 英語の歌詞と日本語の歌詞、ちょっとニュアンスが違うところがあるんです。ほんのわずかな違いかもしれませんが、その日本語詞が持つ深さを理解し、正確に表現して観客の方に伝えていかなくてはならないと思っています。私にとって母国語ではない言葉で演じるのは英語に続き2回目となります、先の経験を活かし、より一層深く表現できるように頑張ります。発音は言うまでもなく!中野さん) スハは覚えが早いんです!ロンドンに来たときも、それまで海外に住んだこともなく英語も話したことなかったのにね。キムのカバーキャストとして来て、すごく頑張り、すぐにオン(登板)になったんです。最初にオンになったとき、大丈夫かなと心配していたのですが、パーフェクトで!本当に素晴らしい、とても才能豊かなスハなので、日本語もすぐに覚えると思いますよ。
キムさん) それは、私自身の力ではないです。ロンドンでも本当にたくさんの人が私を助けてくれて、もちろん加奈子さんもそうです。それが一番の力になりました。日本でもすでにたくさんの方のサポートを受けていますが、みなさんの力をお借りしながら、観客の方にしっかりと伝えられるように努力してまいります。──そこには期待しかございません!何を語るより、製作発表での歌唱を聞けば納得です! ♪命をあげよう歌唱中、スハさんを見つめる中野さんにもご注目ください! VIDEO
精神的にもとても頼っていた加奈子お姉さんが一緒で、本当にうれしいです(キム・スハさん) 製作発表で歌うスハの姿を見ていたら、母親のような気持ちになって、私のほうが感極まってしまいました(中野さん)──ロンドンのお話が出ましたが、こうして日本公演へ新キャストとして加わるうえで、気心の知れたお互いの存在は大きいですよね。 中野さん) 先ほどの製作発表でスハが…こうして、今、お話していてもこみ上げてきちゃいますが(笑)。まだ出演が正式に発表されていないころから、ウェストエンドの楽屋で「楽しみだね」と、こそこそ話していたんです。そんな、いつも楽屋で隣に座っていた妹のようなスハが、日本語で、素晴らしい歌唱力で歌っているのを後ろから見ていたら、母親のような気持ちになって、私のほうが感極まってしまいました。
(スハさんの目にあふれる涙)
中野さん) ごめんごめん、泣かないで!!そんな彼女の姿を見て、私も改めて日本で演じられることをうれしく思いました。なんだかすごく感傷的になってしまう、私たち疲れているのかしらね(笑)。
キムさん) アンサンブルをしている時から、精神的にもとても頼っていた加奈子お姉さんが一緒で、本当にうれしいです。加奈子さんが一緒だからこそ、ここまで大きな喜びを感じている気がします。(そこに居る全員、感極まる)
──(気を取り直し!)日本滞在中に楽しみにされていることは。 中野さん) それは、私たちに聞いてはいけないことだと思います(笑)。
キムさん) (笑!)中野さん) ロンドンに居るころから、日本に行ったら何を食べようかと楽しみにしていたんです。私たち二人とも食べることが大好きなで、向こうでもショウの合間にいつも一緒に食べに行っていたんです。でも、食べ過ぎには気をつけないといけません。楽しみだけど怖い(笑)。
キムさん) お互いに「このくらいにしておきましょう、ストップ!」とブレーキをかけ合うんです(笑)。──日本での公演、仕事をする上での楽しみについてはいかがですか。 中野さん) 私の友人で、こちらの『レ・ミゼラブル』に携わった方から「日本人は素晴らしい、とりわけ日本の女優さんたちの繊細さが素晴らしい」と聞きました。そういう、西洋人とは違う感情表現を目の当たりにできるのが楽しみです。
また、仕事への真摯な取り組み方についての評判も聞いています!イギリスではみんなすごくマイペースなんでね(笑)。
キムさん) 今日の製作発表やそのリハーサルの中でもそれを強く感じました。プリンシパルキャストもアンサンブルキャストも、すべての俳優さんたちの『ミス・サイゴン』への想いが一緒。作品を通してお客様に伝えたいこと、すでにその想いがひとつになっていて、大きなパワーを感じました。初日の幕が上がるころには本当に素晴らしい作品になると確信しました。──では最後に、公演を楽しみにしているファンのみなさんへのメッセージを! 中野さん) 私にとって初めての日本での公演、まだどうなるのか予想がつかないのですが、全力投球するというのが私の長所です。ベテランの方々との共演もとても楽しみ!緊張はほどほどに、思い切ってやりたいと思います。一生懸命頑張りますので、応援してください。
キムさん) 私は今回のカンパニーの中でおそらく末っ子です。先輩方から学んで、しっかりと準備をしてまいります。観客のみなさんがこの作品に出会い、この作品が持つ力強さを胸に抱いて劇場を後にしていただけるように、ある一人の俳優を見せるのではなく、『ミス・サイゴン』という作品をみなさんにお届けしたいと思います。劇場でお待ちしています。──素敵なお話をありがとうございました。 インタビュー冒頭で製作発表の感想をうかがったところ…お二人とも「思っていたこと、準備したことの半分も言えなかったー!」と、とても緊張された様子。ウェストエンドの大舞台を経験してもやはりそこは勝手が違う様子。「役として数千人の前で演じるより、素でお話しするのは緊張します」、「今は終わってホッとしています」と語る表情もとてもチャーミングなお二人でした。
<TohoChannel キャストコメント動画ご紹介> VIDEO
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11月12日はおけぴ観劇会!
お二人のご出演は、今年の『ミス・サイゴン』の話題のひとつです。25年目を迎える日本カンパニーにお二人が新しい風をもたらし、さらに、ダイアモンド☆ユカイさん、小野田龍之介さんの新加入、藤岡正明さんと知念里奈さんの役がわりでのご出演…楽しみは尽きません。新しい『ミス・サイゴン』誕生の予感です!2017年にはブロードウェイでの上演も発表されています。日本からのサイゴン旋風にも期待!
saigon2016
写真提供:東宝演劇部
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文) 監修:おけぴ管理人