正直に言うと、自分の中に、あのトゥイのおどろおどろしさがあるのだろうか…そんな風に考えることもありました。そこは悩んだんですよ。でも、挑戦も大事だなと思いまして。
考えてみると、『ジャージー・ボーイズ』のトミー役も、これまでキャスティングしていただく役柄とは違うタイプでしたからね。いわゆる物語上の“嫌な奴”というのは、あまりやったことがなくて。
そんな風に、僕なりにトゥイという人がどんな人で、どんな思いを抱えていたのかというイメージは持っていて、いわゆる演技プランはあるんです。そのプランでトゥイのナンバーを歌った時に、UK側のスタッフから、それとは違う方向性を提案されたんです。ですので、現状はまだ隔たりがある状態。稽古が始まって、演出家とのディスカッションや俳優同士のやり取りの中でしか答えは出ないと思っているので、稽古場でのクリエイティブな作業が楽しみです。
台本・物語のなかで自分が何を求められているのか、その役が何を担っているのかということを常に意識していて、要は、みんながみんなシュートを決めるつもりで芝居をやっていると、いつまでたってもゴールは決まらないと思うんです。芝居は、基本的にはパス回しが大事で、ここだよねというシュートポイントは実はそんなに多くないと思うんです。そこでどう決めるか。僕の中では十分に整合性が取れているので、変なパスではないと思うんですよね。なので、それをもとに稽古場で意見を戦わせながら僕なりのトゥイを創り上げる、その自信はあります。
ただ、演出家が船のキャプテン、船長であり、僕らはさまざまな部署に分かれたクルーであるということは紛れもない事実。そこは認識しています。僕らは演出家を信じてその船に乗るということです。
【『M's Musical Museum Vol.3』】
──続いては、藤岡さんが選曲・構成などを手掛ける、その意味では船長さんの役割も果たされる、ミュージカルコンサート『M's Musical Museum Vol.3』についてうかがいます。3度目となる、今回はどのような位置づけになりますか。 藤岡さん) 実は、最初からこの3回目をイメージして始めたんです。まずは一度やってみる、2回目ではもう少し形にし、そして、3回目で一つの完成形を!と思っていたんですよね。
──そうだったのですね。そんな3回目の見どころは。藤岡さん) 僕が思うミュージカルの魅力は歌・芝居・踊りの三本柱、野球で言えば走・攻・守のようにね。もちろんコンサートなので、セリフがあるわけではないので芝居の部分は限られると思います。でも、僕らミュージカル俳優が歌うことで、その1曲ないし2曲で、みなさんを作品世界へお連れできる可能性を秘めています。また、ステージングで、たとえばデュエットの際の距離感や目線などを大切にすることで歌・芝居の魅力を最大限にお届けしようと思います。
そうなると残りは踊り。視覚的により楽しんでいただく意味でも、どうしても今回必要だったのがダンサーです。それはダンスアンサンブルではなく、素晴らしいダンサーが一人いてくれればよかった。ここぞというポイントでしっかりと魅せてくれる、僕がとても魅力を感じているダンサーに参加してもらおう、それが三井聡さんです。
これって、彼のダンスの魅力を僕がレンタルさせてもらうようなもので、それは他のゲストの方にも言えることなんです。最初に開催した時、ひとりでやるのは本当に大変だなと感じたんです。なので、ゲストとコラボすることで、みなさんの魅力もお借りしようと。
僕の踊りですか…、そこでお金がとれるとは(笑)。
──続いて、ほかのゲストのみなさんもご紹介いただけますか。どんな曲をご一緒するのかも気になるところです。藤岡さん) まずは、日替わりで出てくれるのが味方良介くん(8/6)と東山光明くん(8/7)です。
味方は前回に引き続いての出演になりますが、前回も候補に挙がった東宝ミュージカルの人気作Eのあのデュエットを歌います。彼自身がミュージカル俳優を志すきっかけになったこと、僕も歌ったことなかったので挑戦になるなと決めました。
──藤岡さんのあの役…あまり想像できませんが(笑)、それだけに楽しみです!藤岡さん)
カツラとかは被りませんよ(笑)。
──そして、もうお一人が…。藤岡さん) 東山みっちゃんとは、舞台の共演は一切ないんですよ。ただ、みっちゃんのHoney L Daysとはライブで何度か共演していて、プライベートでもお互いに家を行き来して一緒に飲んでいる仲です、家も近所なので(笑)。
今回、みっちゃんが出演を快諾してくれ、二人で何を歌おうかとなったとき、日本未上陸のブロードウェイミュージカルから1曲選びました。これは僕の原点ともいえる、あるアーティストの曲が全編に渡って使われている作品です。初めてピアノで弾き語りをした曲、19歳ぐらいだったかな。なので、もしかしたら僕が弾き語りでみっちゃんとデュエット…なんてことも。
──おお!楽しみですね。そして、両日ご出演になるのが、大山真志さんですね。藤岡さん) 彼は子役からやっているので、歌もダンスも実力がある頼もしい俳優です。
それだけにたくさんの候補があって迷いましたが、二人ならではの質感が出せるかなと思い、昨年TV番組で井上芳雄さんと歌った『ウィキッド』のあの歌にしました。クラシカルなアプローチもできるし、ロックの要素もあるような、どうなるか僕らも楽しみです。
そして、彼らのソロも面白いですよ!味方は「その選曲きたか!」って感じ。すごく難しい曲ですが、いい曲です。次があったら僕が歌おうかなって思うくらい。みっちゃんもこれまた名曲を持ってきてね、楽しみです。真志は、僕のほうからこれが合うんじゃないと提案した曲を歌ってくれるんです。
──その藤岡さんセレクトというのも、このコンサートならではですね。そんな男性陣に混ざって紅一点となるのが菊地美香さんです。藤岡さん) 菊地美香さんは僕自身が一緒に歌いたいと思う女性なので、出演してくれてうれしいですね。彼女はゲストでもあり、僕のデュエットパートナーも務めてもらうので、曲数は多くなります。やっぱりラブデュエットはミュージカルの醍醐味ですから。
是非ともお聴きいただきたいのは、『グランドホテル』でとても印象的だったあの曲です。公演中、僕はずっとその曲を歌いたかったんですよ!絶対、これ得意だ!その曲の最後のロングトーンは負けない!と思っていて(笑)。まぁ、単純にキーが僕に合っているというのもあるのですが…。それを提案したら、美香も『グランドホテル』を観てくれていたので「あの曲!!メチャクチャ好きだったからうれしい」と言ってくれたんです。
二人で、みなさんを『グランドホテル』の世界にお連れしたいなと思います。
──曲数はどのくらいになりそうですか。藤岡さん) まだ、はっきりとしたことは言えませんが、15~16曲くらいかな。そこにメドレーが入るので、それを入れると20曲くらいになります。
──おお!なかなか聴きごたえがありそうですね。藤岡さん) 最近、そんなに歌っていないなという印象もあって。ミュージカル作品の中で歌ってはいるんですよ、確かに。でも、みんなで歌っていることが多いのもあってそんな気がするのかな。ですので、もし、僕の歌をもっと聴きたいなと思っていただけるなら、このコンサートでは、まぁお腹いっぱいお聴きいただけると思います。
──そう言われてみると…そんな気もしますね。それは裏を返すと、ミュージカル作品で藤岡さんが求められるもの、そして観客に与える印象が変化したのではないでしょうか。変な言い方になりますが、「藤岡さんの歌がよかった!」から「藤岡さんのお芝居よかった!」になっています。もちろん歌もいいんですけどね。藤岡さん) 僕の原点は音楽、歌です。そこから自分は切っても切り離せません。ただ、もしお芝居を少しずつでも評価していただけるのならうれしいです。僕自身、ミュージカルでどこに重点を置いているかというとお芝居ですから。それは、ちょっとばかり歌をうまく歌えるからといって、そこにおんぶにだっこでいたら、とても薄っぺらい役、芝居をすることになると思うんです。そこを役の感情、役として存在することで埋めていく、それによって歌もしっかりと密度のある、とても硬度の高いものになると思っています。
──そうなんですね。それは、どんな歌でも歌いこなせてしまう藤岡さんならではのお話ですね。藤岡さん) どんな歌でも歌え…、いやいやフランキー・ヴァリだけは無理です(笑)!!
目次へ 『ジャージー・ボーイズ』から『ミス・サイゴン』と、全くタイプの違うミュージカル作品で藤岡さんの芝居・歌を楽しめ、さらにその合間にガッツリたっぷりミュージカルコンサートで歌を堪能できる!なんて素敵な夏~秋…でしょう♪
ミュージカル界でも屈指の歌唱力にさらに芝居力が加わって、ますます充実の活動に期待が高まるお話をありがとうございました!!
saigon2016
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文) 撮影:おけぴ管理人