熱狂の東京公演を終え、新演出版『エリザベート』がいよいよ全国各地へ飛び出します!ツアー最初の上演地は福岡・博多座さん!今期の『エリザベート』にルキーニ役として旋風を巻き起こしている成河さんの取材会の様子をレポートいたします。
【帝劇での一ケ月公演を経て…】──帝国劇場での1か月の公演の中での一番の発見は。 成河さん)
それは1800人というお客様の重みです。ルキーニは狂言回し、お客様に語りかけます。僕の中では、狂言回し・ストーリーテラーの基本はバスガイドなんです。10人、50人、100人のツアー、それによって声って変わりますよね。それが1800人のお客様をツアーに連れていくって。ひと言発するだけで汗だくになるという新しい経験をしました。ものすごく疲弊するんです。これを高嶋(政宏)さんはお一人で回していたなんて…。本当に尊敬しましたし、自分にはその覚悟がなかったことも感じました。
特にそのことを痛感したのは、初日からの一週間です。これでは持たないかもしれないと思ったくらいです。そこから少しずつ、変わっていきました。公演=経験を重ねることによって腹が据わっていくということだと思うんです。まだまだまだまだ足りないですが(笑)、そういう意味では最初の一週間と終盤の一週間は違いましたね。
そんな時に思い浮かんだのは、一度共演して以来とても良くしてくださっている香川照之さんが初めて歌舞伎の舞台に立たれたときの「出来るか出来ないじゃない、やるかやらないかなんだよ」という言葉。まさしくそれです。
帝国劇場の1800人に言葉を届ける、小手先ではなく腹を据えてやる!そのことが何よりも大切だと思いました。 ──ダブルキャストは意識しましたか。 成河さん)
意識というか、稽古場ではいい面も悪い面もいろいろと感じるところはありました。いい面はルキーニのシーンを客観的に見られる、そして、役のことを話したり、戦友になれるということ。反面、稽古時間が半分になるというのは、僕にとってとても深刻なことだと改めて感じました。
これは、相手がどうとかではなく、稽古でトライ&エラーを繰り返しながら芝居を創るのが理想なので、その回数が完全に半分になってしまう。そのことが今の僕には疑問に感じられるのです。
あとはダブルキャストのもう一人の人と違うことをしてやろうというのは、気を付けなくてはいけない落とし穴ですね。それによってどんどん作品、役の本質から離れていくから。あくまでも自分の役の役割や劇の中での構造を理解していけばいい。同じことをしていても違う人間がやれば違って見えるというだけ。小手先のアイデアで違うことを盛り込もうとは極力考えないようにしましたし、おそらくそれが正解だろうなと。 【僕の強みは好奇心!】──ルキーニ役を演じるにあたり大切にしたことは。成河さんの強みは。 成河さん)
ルキーニに関わらず、僕が演じるうえで常に一番大事にしたいのは演出家の意図です。自分の強みはこうだから、こうしたいと考えることはありません。そのために、僕にとって演出家と討論し、試す、その中でどんな自分を発見できたかが、常に、どの役でも、どの公演でもそれが一番大切です。今回はルキーニに対して、小池先生とたくさんの話ができたので、すごくよかったですね。
聞いて聞いて、うんざりするほど聞きましたから(笑)。それを小池先生も喜んでくださって!小池先生とお仕事をするのも初めてでしたし、僕はそのやり取りがなければ物を創れない人間なので、劇構造の中でのルキーニの役割、こうあってほしいということも含め、小池先生の言葉はとても参考になり、納得もできました。僕はそれに忠実にやっている状態です。僕の強みはそういう好奇心だと思います。 ──小池先生とすごくよい関係が築けているようですが、先生の魅力は。 成河さん)
僕がたくさん議論を吹っかけて、その中での発見は、先生は唐十郎が好きで芝居をはじめたアングラ好き青年だったということ。僕はその世代のことはリアルタイムでは知りませんが、アングラの第3、4世代と呼ばれていたものを見て芝居を始めたので、なんか話が合ったんです。しかも、膨大な知識量、見識の高さから出てくる話が本当に面白くて!芸術としての本質を突き詰める一方で、あくまでもそれがショウビジネスの上に成り立たなくてはいけない、そこで常に葛藤されている方なんだなという印象を受けました。その水と油を抱えながら、その二面性が色濃く稽古にも作品にも表れているんですよね。
こうして素直に先生とお呼びできますし、それほどまでに心から尊敬することができました。それが稽古中の何よりの収穫です。
ただ、これは最初からわかっていたことですが、正直に申しますと先生と2週間しか稽古出来なかった、それについては心残りです。演出家さんと一緒に稽古をする時間としては僕にとっては…なんていうか…空前絶後の稽古不足です(笑)。 ──『エリザベート』という作品の魅力は。 成河さん)
本(「ミュージカル『エリザベート』はこうして生まれた」)の受け売りですが(笑)。見る人ごとの楽しみ方を許容する多面的なところです。世界各地で上演されるたびに演出をその国(カンパニー)に委ね、そのために追加曲も書き、そのいいところをまたウィーンで取り入れる。そうやっていろいろな文化を取り入れて成長、増殖を繰り返し、決して作品がひとところにとどまらない。それによってものすごいハイブリッドをみせて進化し続けるところです。そして、それを小池先生は日本人のもつ情緒に合わせて、ある意味では少女漫画的ファンタジー要素を際立たせることで日本の観客を魅了した。
今回、ルキーニに託された役割などを改めて話している中で感じたことは、小池先生がオリジナルが持つとてもシニカルで退廃的な歴史劇、そこに少しずつ寄せようとされているのかなということです。
もちろん歴史劇と感じられなくてもいいんです。かわいそうなお姫様のところに素敵なトート(死)がやってきて…そういうお話でもいいんです。でも、見方を変えると「でもこれって私たちのお話?」ともいえる。見る人ごとに楽しめる作品であるということが魅力です。 【ミュージカル、歌唱表現について】──今年は『グランドホテル』、『エリザベート』とミュージカルへの出演が続いています。すっかりミュージカル俳優というイメージが…。 成河さん)
え!誰にですか?(笑)
自分がミュージカル俳優、それは意識していないですよ。そこは技術的にはっきりしたことであるので。僕が翻訳劇・台詞劇をやってきた年数と同じくらい、譜面と向き合ってきた方々と一緒に並ぶと、そこで自分が肩を並べられている気にはそう簡単にはなれないですよね。
何をもってミュージカル俳優というのか、僕にはちょっとわかりませんが、今、言えることとしては、自分が歌唱表現のできる俳優だという風には、今はまだとらえていません。今までやってきた延長線上でやらせていただいているだけで、歌唱表現というのはもっともっと奥深いものだと感じています。
ミュージカル俳優は歌唱表現を突き詰めていった先にあるべきものかな。
そもそも、ルキーニ役だから僕にお話が来たんじゃないかな。フランツとか?!似合わないこと、この上ないですよね(笑)。 ──さらに世界が広がるかもしれませんよ! 成河さん)
本当に?!そう言っていただけるのはありがたいですが、フランツ役の(田代)万里生くんとかシュガー(佐藤隆紀)くんのあの歌唱、音楽大学出身のあの歌唱方法というのは1年、2年訓練してできる歌唱ではない。さらに彼らはそれをそぎ落として、(歌の側から)芝居を突き詰めています。全く逆の方向から向かっているんですよね。 ──台詞をメロディに乗せて届ける、歌唱表現の魅力、力はどう感じていますか。 成河さん)
実感はあります、すごく。ずっとうらやましいなと思っていたのでね。台詞劇で、2時間芝居を積み上げて、積み上げて、最後の5分でグッと感情を揺さぶる。それがワンフレーズ5秒くらいの歌で、ドバーッって泣けちゃうんですよ。僕だって袖でいっぱい泣いていますよ。音楽には理屈じゃないなにか超越したものがあるんですよね。僕はこれまで戯曲と向き合ってきたので、ついつい言葉に寄ってしまうのですが、どうもメロディには言葉や理屈ではないものがあるらしいぞ…というのが、今の僕の中でのブームです(笑)。
メロディというのはとても陽なもの。これは井上芳雄先生から教えてもらいましたが、どんなに深刻で辛い物語であろうとも、歌にはどこか陽の部分があり、歌で伝えることによる浄化作用とでもいうか、そういったものがあることがわかってきました。
そんな中、歌唱表現について今でも日々考えていることは、小池先生がよくおっしゃっている、「お芝居をしながら音楽(歌)になるのもいいけれど、最終的には音楽にどんどん乗っかっていくことで、もっともっと楽に表現できるようになっていくよ」ということです。頭でっかちにならず音楽に身を委ねる、それは普段はできない、新鮮で貴重な経験です。
そして、最初の話に戻りますが、帝国劇場でのミュージカル上演が定着していったのも納得だなと。帝劇はやっぱり歌で伝える場所、朗々とした音楽に乗せて初めて伝わる空間、劇場ですね。 【これからの『エリザベート』、成河ルキーニについて…】──そして、次は博多座さんです!! 成河さん)
俳優さんもお客様も、誰に聞いてもみんな博多座さんが大好きとおっしゃる!僕は初めてなので、今、すごい期待値です!
一番は楽しみなのは、舞台と客席の距離感。どこまで客席と舞台が一体化できるか、(物語を)共有できるかです。 ──井上芳雄さんの故郷でもありますよね。 成河さん)
はい、実家に泊りに行きますよ!まだ、何の約束もしていないけど(笑)。勝手に決まっています、僕の中では! ──最後になりましたが、第24回読売演劇大賞男優賞部門の上半期ベスト5に選出、おめでとうございます。 成河さん)
本当にありがたいと思います。ただ、あまりそれにとらわれないようにという気持ちもあります。外からの評価はそれとして真摯に受け止めますが、評価を受けたからそのままではなく、僕も『エリザベート』もまだまだ変わっていかなくてはならないと思っています! ──これからも目が離せませんね! 新ルキーニとして『エリザベート』に新風を吹き込んだ成河さん。福岡、大阪、名古屋とますます進化していく作品と成河ルキーニにさらなる期待が膨らむ取材会でした!!
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人