2016年8月1日にデビュー15周年を迎えた中川晃教さんにお話をうかがいました。15年目の集大成として挑んだ『ジャージー・ボーイズ』、フランキー・ヴァリ役を大成功で終え(祝・再演決定)、8月、9月は充実の音楽活動が予定されている、止まらない中川さん!!
──デビュー15周年、おめでとうございます。『ジャージー・ボーイズ』千穐楽から一夜明け、デビュー記念日を迎えた、今の心境は。中川さん)
さっきツイートもしたんだけど、ボブ・ゴーディオのOK※がでなければ(『ジャージー・ボーイズ』上演の)企画自体が進まないという状況の中で、まず6曲録音して、ゴーディオの審査をパスして…そこから昨日までのさまざまな出来事の全てが、まるで嘘のようなんだよね。そんなデビュー15周年目の朝でした。
こうやって歩んで来ることができたのは、仲間、関係者、そしてなによりも僕のことを愛し信じてくれるファンのみんながいたからです。今、感じていることは、今日、8月1日から始まる新たな一歩をこれからもみなさんと一緒に歩み続けていけることへの喜び、それが一番大きいですね。
──そして、『ジャージー・ボーイズ』千穐楽、再演決定とおめでとうがいっぱいの中川さん。ここからは『ジャージー・ボーイズ』のお話を。1か月、41公演、フランキー・ヴァリ役を務めあげる原動力となったのは。中川さん)
まずは、すごく良いカンパニーだったから。
毎日、毎公演、ひとりひとりのクオリティ、課題が変化していったんですよ。簡単に言うと進化なんだけど、ひとりが進化することで見えてくるものもあれば、全員が変化していくことで見えてくるものもある。その変化が新鮮で楽しくて、公演が終わるたびに、また次のステージに向かって気持ちを切り替えていけたんです。
もう1つは、音楽が主役のこの作品の中で、僕自身、“ザ・フォー・シーズンズ”や作品全体を、力技でなく、「この方向だよ」と一つの指針になることでけん引できたから。それは、天使の歌声と称されるスター、フランキー・ヴァリという人物がみんなの光だったからに他ならない。中川晃教がフランキー・ヴァリという大役の力を借りて引っ張っていけるという自信が持てたとき、みんなでひとつに、『ジャージー・ボーイズ』になれた。そして、それを「これが日本の『ジャージー・ボーイズ』です」とお客様にお届けしました。それに対して、お客様がどんどん勢いに拍車をかけてくれて!ありがと~!!
それが41公演をやり遂げられた原動力になりました。
──本当にスペシャルな劇場の空気でした。人間ドラマの深さとライブ会場のような高揚感、そのどちらもありましたね。中川さん)
たとえば、稽古も本番も僕と同じパート歌っていた小此木まりさんと大音智海くんには「一緒のパートを歌う瞬間、今日の俺の声を聞いてね。俺も君の声を聞くから」と伝えていました。そのひと言でお互いの声がブレンドするんです。
ザ・フォー・シーズンズでも同じ。♪Dawn(悲しき朝焼け)というナンバーは4人のアカペラで始まるんだけど、REDとWHITEの2つのチームでハーモニーが全然違うんです。一時、WHITEチームで何かが合わないという壁にぶつかった時期があったんだよね、それは誰が悪いとかじゃなくて。その時、なんでもない会話から「この人はこういう意識でこういう声を出していたんだ」って発見したんです。逆に言うと、それまではそれに気づいていなかった。それでね、じゃあ、お互い違うからどちらが正しいか、そちらに変えようというのは違うんです。その違いを知り、認め合うことでハーモニーになる。そうやって次第に阿吽の呼吸になっていくんです。
稽古中は、むしろそういった発見をする瞬間、そこで自分たちがなにを得られたかに感性のアンテナを張っていた気がします。そのコミュニケーション、相互理解の蓄積が最終的にはこのカンパニーじゃなければ生みだせないハーモニー、ザ・フォー・シーズンズになったんじゃないかな。
中川さん)
芝居に関しても、誰も本来そこに描かれていることを大きくねじ曲げることはしない。でも、それぞれに違うんですよ。なんなんだろうって考えたとき、それぞれがその役という人間を生きているからだなって思いました。人間だから千差万別、それが色あせない人間ドラマ、芝居のドキドキに繋がっている。
だからこそ、コンサートのシーンでは、物語上は辛い状況でも音楽によってふっと救われるような、ライブの楽しさを感じ、そこからドラマに戻ったときにはザ・フォー・シーズンズの人生に心がすっと入っていける。その緩急のバランスをとれたんだろうな。
そこではもちろん藤田俊太郎さんという演出家の力も大きいし、役者ひとりひとりの役作りも大きいけれど、一番大切なのは互いをちゃんと信じ合うこと。そうやって生まれた音楽やドラマをお客様が支持し、共鳴し合ってくれた。それってザ・フォー・シーズンズの音楽を大衆が支え、そんな彼ら彼女らによって愛され続け、今もその歩みは止まらない…まさにこのストーリーと一緒なんだよね。
──キャストのみなさん自身がザ・フォー・シーズンズそのものになっていたんですね。あの時代を追体験したような気持ちになったのはそのせいですね!
ここからは、技術的なところになりますが、フランキーの歌声を1か月維持するということは並大抵ではなかったと思います。中川さん)
確かに41公演、最後までやりきるために、どうやってこの声を維持し続けようかということは大きな課題でした。そもそも自分の声があれば、その持ち味でこの役ができるなんてことはみじんも思っていなくて、とにかくフランキー役の声を自分のものにできたのも、それを維持できたのも、楊淑美先生がいたから成しえたことです。喉のどこを使ってどうすればあの声を出し続けることができるのか、どんな発声がいいのか、どんなケアをすればいいのかに始まり、曲ごとに地声とファルセットを使い分けたり…、そんなひとつひとつのロジックがあることを教えてくれた恩師の存在が大きいです。
あとは当たり前のことだけど、健康管理。食と睡眠、この2つを徹底しました。泳ぐことも。そして、みんなで楽しむこと!
──公演以外はなるべくしゃべらないようにしたり?中川さん)
いや、むしろ普通に生活していたし、昼夜公演の時はインターバルが2時間だったんだけど、公演後に楽屋を訪ねてくれた方と会うことを止めようとか、話すことをセーブしようとは思わなかった。お話している間、お腹空いたよ~ってことはあったけど(笑)。
そこまでセンシティブになることがこの作品のゴールではないと思っていたから。そこまでしないとできないのなら、それは俺の実力の問題、努力の問題。そうはっきりと割り切れるくらいのロジックを持ってフランキー・ヴァリ役をやることにかけていたので、そこまで神経質にはなることはなかったですね。
──むしろ周りのほうが心配していたような?中川さん)
でも、それがあったからできたんでしょうね。周りが最大限に気を使ってくれたので、それはありがたかったです。どのセクションのスタッフさんもそうですが、とくに現場で音響を担当してくれた毎原範俊さんがいなかったら、本番でマイクを通してあの声を届けることはできなかった。バンドの音圧やキャストのみんなの音圧の中での自分の声の位置を探していく、さらにそれをブレンドしていく。マイクを使っての声の模索というのは、本番に入ってからしかできないから。毎原さんなしでは到達できませんでした。
──いろいろとお話をうかがっていると…なんだかすごい世界ですね。中川さん)
それはね、この作品がすごいんです。
だってさぁ、僕はこの作品を音楽という観点から見る、別の人は演劇という観点から見る。そのどちらもできる。面白いよね。
──では、ここからはこの先のお話を。フランキー・ヴァリが歌い続けているように、中川さんも歌い続ける。8月、9月はガッツリ音楽活動です!中川さん)
『ジャージー・ボーイズ』を終えた直後に、こうして音楽と新たに向き合う時間を持てることを本当にありがたく思います。支えてくれるみなさんがいてくださったからこそです。
──8月8日はサントリーホールで東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団とのコンサートです。中川さん)
お客様にいろんな景色を見てもらい、その上で1つのショウとして楽しんでいただけるように、アレンジはこれまでにお仕事をしてきた6人のアレンジャーの方にお願いしました。
オーケストラが奏でる音と僕自身の声がホールの隅々まで届くような歌を歌う。そうやって届けられる光や影が聞く人の人生や想いと重なるように…それをイメージしただけでも構想は限りなく広がりましたね。
セットリストを見ると、僕の音楽ともはや切っても切れないミュージカル曲をこういったスタイルでお届けできることへの喜びを感じました。
<おけぴ>それぞれのアレンジャーさんから届いた音源を聞かせていただきましたが、壮大なスケールの楽曲もあれば、シンプルなミディアムバラードも、そしてパンチの効いたリズムものもあり、とても多彩! ──続いてはHAKUJU HALLでのピアノ弾き語りコンサートです。中川さん)
実は、弾き語りコンサートは初めてなので、プレッシャーがあるんです。その一方で、自分の無限の可能性を引き出してくれたピアノと向き合う時間と考えると、これまで歌ったことのない、ピアノ弾き語りだからこそ歌える曲もあると思えてきました。今、まさに選曲中です。
──中川さんにとってピアノは。中川さん)
振り返ってみると、兄貴の卒園式か入学式だったかな、家族で初めてホテルに食事に行ったんですよね。そのレストランでピアノを弾いている男性を見て、子どもながらにカッコイイ!って思ったんだよね。非日常のシチュエーションというのもあって、今のボキャブラリーで表現するなら“ラグジュアリー”って感じ。その時、母親が「男の子でピアノが弾けると、女の子にモテるよ」って冗談交じりで言ったことも覚えているし(笑)。ピアノに触れると、あの日の記憶が蘇ります。
中川さん)
そんな母の言葉に導かれ(?!笑)、ピアノを弾いてみたら、自分のイマジネーションが無限に広がっていく感覚をはじめて味わったんです。自分にリミッターをかけずに自由になっていいんだ、正解っていうのは自分の中にあるんだよということを教えてくれたのがピアノです。それ以来、僕にとっては、水のように、空気のように、友達のように、家族のように…かけがえのない、一心同体でいてくれる存在です。
──そして、9月は「中川晃教15th Anniversary Live I Sing~Crystal~」です。中川さん)
「I Sing」は、僕を原点に立ち返らせてくれるコンサートシリーズです。15年目の「I Sing」は、これが中川晃教の声、音楽だとわかるAll time bestと銘打ったものになります。フランキー・ヴァリ役で知ってくれた方も、これまで応援し続けてくれた方にも、15年を一気に振り返り、そして新しい一歩を踏み出した、今の僕ならではの歌が届けられるコンサートになればいいな。
──どんな雰囲気になりそうですか。中川さん)
これまでの活動で、僕の生真面目なところや不器用さは十分伝わっていると思うので(笑)、それを経た、15年目を迎えた中川のこれからの10年を予感させるようなコンサートにしたいな。羽目をはずすというか(笑)、自分自身を解き放って、自由に音楽を表現し、客席も一体になって楽しんでいただけるところまで行けるといいなと思っています。
──そして、秋からのミュージカル出演も続々と発表されていますね。『マーダーバラッド』『フランケンシュタイン』『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』
と続きます…
中川さん)
すごいことになっているよね(笑)。
なんかね、うまく言えないけれど、求められるって幸せですよね。なんとか求められるようになれたんだなって思います。ずっとそうあり続けることは不可能かもしれないけど…。
──そんなこと!中川さん)
いいんです、八方美人じゃなくて(笑)。でも、自分が持って生まれたものを活かしていく場、チャンスをいただけるというのは本当にありがたいことです。
たとえば『フランケンシュタイン』に関していえば、大劇場ミュージカルの日本初演で一筋縄ではいかなそうな作品ですよね。そこで、ビクター役を中川にと言っていただいた以上、ダブルキャストの柿澤勇人くんや、はじめてご一緒する加藤和樹くん、そしてコニタン(小西遼生さん)をはじめとするこのカンパニーのメンバーと、日本のお客様に作品がしっかりと届くように創っていこうと思います。
──そして、フランケンシュタイン役の後がスヌーピーというのもすごいですよね。中川さん)
そうなの!すごいよね(笑)。
でも、この間『ジャージー・ボーイズ』をチャーリー・ブラウン役の村井(良大)くんが見に来てくれたんです。会った瞬間、「彼と一緒にできるの、すげー楽しみ!」って思ったんだよね。彼の姿を見た瞬間「You're a good man!」って言っちゃった、チャーリー・ブラウンそのものだから!
でね、2人で写真を撮ったんだけど、思わず村井くんの肩に寄りかかっちゃった。
──スヌーピー役と聞いたときは。中川さん)
僕は最初からやりたいって思った!「何の役?」「スヌーピー」「やる!」そんなやりとり(笑)。だって、あのスヌーピーですよ、最高でしょ!
──中川スヌーピー、「我が家にもお迎えしたい」という声が殺到しそうですね。中川さん)
そう?でも、中川スヌーピーは噛みつきますよ!!(笑)
──(笑)!!
それにしても『マーダーバラッド』、『フランケンシュタイン』、『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』…並べてみると、本当に振り幅広いですね。中川さん)
僕は、とにかく来てくれるお客様に楽しんでもらいたいんです!そのために、これからもハングリー精神とサービス精神で突き進みます。それを僕自身も楽しみながらね。
◆ 舞台出演については、自分の直感半分と周りの直感半分で決める。自分で方向性をガチガチに決めることはまだしないんだとおっしゃる中川さん。それを持ち帰る場所でもあるのが音楽。デビュー15周年の今年は、そんな中川さんのキャリアを象徴するような歩みですね。そして、その歩みはこれからもまだまだ続きます!
音楽シーンやミュージカル界で、さらにさらに新しい世界を見せてくれそうな中川さん、デビュー15周年おめでとうございます!
サントリーホールでのコンサートのアレンジデモ音源を再生する中川さん
音楽大好き少年のようなワクワクの笑顔です♪
8月1日公開、デビュー記念日の速報メッセージは
こちらから
※『ジャージー・ボーイズ』においてフランキー・ヴァリ役を演じる俳優は、ザ・フォー・シーズンズオリジナルメンバーのボブ・ゴーディオ氏によるオーディションにパスしなくてはならない。中川さんは、デモ音源を送り、見事日本のヴァリ役に認められました。
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文) おけぴ管理人(撮影) JB2016