大人気マンガ『ONE PIECE』と歌舞伎の融合は予想をはるかに超える極上エンタメになった!!2015年10月に新橋演舞場にて開幕し、大旋風を巻き起こしたスーパー歌舞伎Ⅱ 『ワンピース』が、シネマ歌舞伎となって全国95館の映画館で公開中!
主人公ルフィの兄・エース役でご出演された
福士誠治さんにお話を伺いました。
【稽古場では、まるで何もわからない子供のようでした】
──スーパー歌舞伎Ⅱ 『ワンピース』上演から1年、あの頃を振り返っていかがですか。 疲れましたね。あれ、そういうことじゃなくて(笑)? でも、楽しい幸せな時間でしたよ。
──お疲れ、ごもっともだと思います(笑)。
では、そんな楽しく幸せな公演、その稽古段階で一番苦心されたことは。 やはり歌舞伎ならではの“見得”ですね。これまでにもスーパー歌舞伎Ⅱなどに参加させていただきましたが
※、その時は見得はなくて。今回、初めて見得を切る役をいただき、勉強になったというか、かなり苦労しました。
歌舞伎役者のみなさんは当たり前のように見得を切るじゃないですか、でも、はじめは本当にできなくて。
※福士さんは、亀治郎の会『上州土産百両首』(2010年8月国立劇場)、スーパー歌舞伎Ⅱ『空ヲ刻ム者』(2014年3月新橋演舞場、同4月大阪松竹座)に続く歌舞伎公演ご出演となります
おけぴ開幕速報レポより
──最初はどのような指導があるのですか。手とり足とり? ないですね!全くないです、(待っているだけでしてもらえる)指導は(笑)。
それどころか、最初はまず、みなさんがおっしゃっている言葉がわからない!「はい、ここでアクションね。かんかんかん、そこで“ばーったり”、また動いて“ばーったり”」そうやって稽古が進むのですが、僕は「ばーったり」って何ですか?そこから始まって(笑)。見得であることを教えてもらったら、今度は、「福ちゃんもここで見得切って、“ばーったり”でしょ。こっちは“ばったり”ね」「え、また違うのが出た!」終始そんな調子でした(笑)。
豆知識(歌舞伎美人より)
“ばたばた”“ばーったり”は「ツケ」
見得をするとき(決め姿の瞬間)、重要人物が登場する足音、物が落ちたときなどのアクセントとなる音が「ツケ」。上手(かみて)の端でこの音を出す人を「ツケ打ち」といい、俳優と呼吸を合わせてタイミングよく打ちます。
──そうなると、習得するには「見て盗む」ということになるのですか。 そういうことになるのですが、稽古場ではみなさん本意気(全力)では見得を切らないんですよ(笑)。
でも、エースという二枚目の役をいただいたわけですし、僕もやるからにはしっかりと勉強したかったので、いろんな方に聞きまくりました。そこは恥も外聞も捨てて!門之助さんにも右近さんにも、春猿さん、みっくん(巳之助さん)、隼人くんにも聞きましたね。
あとは、稽古が進むとツケ打ちさんもいらしたので、ほかの人の見得のツケに合わせて稽古場の隅っこで練習したりしましたが、なかなか合わないんですよ。そうしていると、みなさんが声をかけてくれてアドバイスをくださったんです。たぶん、“一生懸命頑張っている子供”のように見えたんでしょうね(笑)。
もちろん、ツケ打ちさんともたくさん話をしました。基本的にタイミングはツケ打ちさんが合わせてくれるのですが、こちらが素人なので合わせづらかったり、合わなかったり。そこを埋めるべく基本となる形というか、呼吸の合わせ方を聞きながら徐々にわかっていった感じです。
──その努力が見事に実を結び、クライマックスの花道で猿之助さんとお二人で見得を切る場面はとても印象的なものになっています。(シネマ歌舞伎でもバッチリご堪能いただけますよ!)
あの場面は一番大変でした。猿之助さんの呼吸を感じながらやるのですが、猿之助さんも本意気で見得を切り始めるのは本番なので(笑)。それまでは…。
──そんなに違うんですか(笑)、明らかに何かのスイッチが入るような? そうですね。明らかに違いますね(笑)!
歌舞伎のみなさんは明らかにエンジンが変わります、不思議なくらい。
──でも、それだけに見得が本番でバチッと決まったときは気持ちいいものですか。 気持ちがいいものですね!
そして、自分の中で苦しんだ分、本番途中からすごく楽しみになりました。そんな本番中も、ふすまで隔たれた隣の部屋が隼人くんだったのですが、そのふすまをいつも開けっぱなして「隼人、教えて!ここはどう?」なんていろいろとこと細かく聞いていました。
見得は一番苦労しましたが、思い出もいっぱいありますね。
──もうひとつ、シネマ歌舞伎でも余すところなくご覧いただけるところとしてはエースのアクションもございます!“反り”もすごかったです。
マグマを操るサカズキとメラメラの実の能力者にして炎となるエース(福士誠治さん)の闘い!(おけぴ観劇レポより)
反りも歌舞伎的で見ていて楽しいですよね。メチャメチャ動いた後にあれ…大変なんですよ(笑)。歌舞伎役者のみなさんに、あのまま倒れたりしないんですかと聞きましたが、ひと言、「倒れないね」と言われました(笑)。
やってみると、なるほどなと思いました。やはり注目されているところなので、意地でも倒れない。そこはもう、気合とか、目に見えない力です(笑)。だって、エースは一幕、二幕は鎖につながれていますからね。三幕は大運動会です、あそこで力出さないと!!
【それぞれが、いち役者として挑戦する舞台がスーパー歌舞伎Ⅱ】
──今回のご出演の経緯は。歌舞伎公演に飛び込むのは勇気がいることでもありますよね。 まず、猿之助さんはスケールが大きな方です。固執しないというか、出来上がったものを壊す、そして、また生み出す力を持った方。プライベートでもお話する機会もあったので、逆オファーですよ!
「なにか役があったら、ぜひ経験させてほしいです。出してください!」って。猿之助さんは、それを面白がってくださるんですよね。
それは僕が歌舞伎に挑戦するという一方向だけでなく、今回なら歌舞伎役者のみなさんはダンスに苦労されていましたよね。日舞をやっているみなさんが洋物のダンスですから。途中からみなさん弾けて楽しんでいましたが、そうやって歌舞伎の方にも「こんなことやったことないよ!」ということが待ち受けている。それぞれが、いち役者として挑戦する舞台がスーパー歌舞伎Ⅱなんだと思います。
ですので、歌舞伎的要素については勉強し、あとは僕がこれまでに培ってきた引き出しを活かすほうが面白くなると思って、自分の中の表現をさせてもらいました。
──ちなみに、エース役に決まったときの心境は。 ちょっと声出しましたね(笑)。はじめは「福ちゃんは3役、4役、着替えもたくさんあって本当に大変なことをやってもらうからね」と言われていたのですが、結果的にエースになり、「しかたがない…1つの役だよ」って。でも、エース役をやらせていただけることは素直にうれしかったですね。
──エースが物語上、そしてファンのみなさんにとっていかに大きな役かは…。 もちろん知っていました。でもね、『ONE PIECE』をやるという時点で、賛否両論のある作品だということはわかっていたので、エースをやると決まったときは怖いなと思いながらも、やってやろう!という思いでした。
──そうやって挑んだスーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』、歌舞伎ファンから原作ファン、ご年輩の方からお子様までたくさんのお客様が楽しまれましたね。 やっぱりエンターテインメント作品として老若男女、幅広く楽しんでいただけたことはうれしいですね。歌舞伎ファンの方はもちろん、僕のファンの方の中でも、歌舞伎をあまり観たことがない方にとって歌舞伎を観るきっかけにもなる作品。いいこと尽くしの舞台だったと思います。
僕自身も博多公演を見ましたが、展開、内容も全部知っているのに、面白かった!さらにお客さんはこういう風に観ているんだなという、新たな発見もありましたね。
──観に行かれたんですね! 猿之助さんからは「来るんなら、囚人服を用意しておくから出なよ」と言われましたが、「すみません、僕観たいんです!」って観させていただきました(笑)。
──では、スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』ご出演の経験が福士さんにもたらしたものは。 いろいろな思いはありますが、見せ方、楽しませ方というエンターテインメントとしての表現の素晴らしさを肌身で感じられたこと、そして、古典歌舞伎ではないですが、歌舞伎という演劇の原点に触れられたことは血肉となりました。演出家としてもプレイヤーとしても、もっともっとと先を見据えて常により面白いものを求める猿之助さんのバイタリティを目の当たりにできたことは財産です。
──それは12月の初演出※にも何か影響がありますか。 何かしら繋がっていると思います。もちろん作品としては全然違いますし、水も使いませんし、カツラもなし(笑)。でも、人が観るものである。それは大きな共通点ですので、この経験は活きてくると思います。
まだまだ駆け出しですが、いらしてくれたお客様に喜んでもらえるようにはしたいと思っています。
※『幽霊でもよかけん、会いたかとよ』2016年12月21日(水)~28日(水)@下北沢・駅前劇場にて演出家デビューされます!──そして、映像、ミュージカル、現代劇、歌舞伎出演…そして演出に挑戦と福士さんの活動も多岐にわたりますよね。 いろいろやりたいんですよね。やはりミュージカルや歌舞伎、そこならではの表現の魅力ってあると思っていて。そこに自分が入っていって挑戦したいんです。あとは恥をかくなら若いうちみたいな、知らないことがあるより一回挑戦して自分の身体を使って体験、体感したいというのはあります。それによって、たとえば12月の舞台の演出をするときに「ミュージカルをやっていてよかった」「あの感じ出せないかな」と思う瞬間があるかもしれない。それは感覚として引き出しに入っていることなので、そう思うと色々なことをやって引き出しを増やすのはいいかなと。
決めたほうがいいですかね(笑)。
──いえいえ。それこそバイタリティに富んだ方だなと。だって『RENT』にもスーパー歌舞伎II『ワンピース』にもご出演って、スゴイです! ただ、それを言ったら、そのうち“ブロードウェイ歌舞伎”とか、この方(猿之助さん)やっちゃいそうですよね。思いもかけないことを成し遂げていきますからね(笑)。
僕もいろいろ挑戦していきたいです!!
──最後にシネマ歌舞伎『スーパー歌舞伎II ワンピース』のPRをお願いします! 公演をご覧になった方には、あの時の感覚がよみがえるでしょうし、映像ならではの見え方、表情や舞台メイクがアップで見られる楽しさも見どころのひとつです。そして、物語も2時間に凝縮されているので、観たことがない方にとっても敷居の高さはないと思います。ただ、映画のために作ったものではないので、それを機に劇場に足を運んでいただいて生で舞台を観たいなと思っていただけるとさらにうれしいです。
<おけぴ関連レポ>
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おけぴ製作発表レポ・
2015年のおけぴ開幕速報レポ・
2015年のおけぴ観劇レポート・
2016年3月の猿之助さん大阪公演PRイベントレポ
衣装協力:TOMORROW LAND
スタイリスト:吉田ナオキ
ヘアメイク:最知明日香
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文・撮影) 監修:おけぴ管理人