新国立劇場 開場20周年記念公演『トロイ戦争は起こらない』制作発表レポート

 新国立劇場 開場20周年記念公演『トロイ戦争は起こらない』の制作発表会が行われました。



宮田慶子芸術監督、鈴木亮平さん、一路真輝さん、鈴木杏さん、谷田歩さん、三田和代さん

 本作は小説家、劇作家でありながら、フランス外務省の高官としても活躍し、情報局総裁まで務めたジャン・ジロドゥが1935年、ナチスドイツが台頭するパリで、戦争に突き進む人間の愚かしさをあぶり出し、平和への望みをかけて書いた作品。演出は栗山民也さん、新翻訳は岩切正一郎さん。

 宮田監督が「シーズンの幕開けとして、記念公演に相応しい作品を上演でき、非常に嬉しく思っています」と語ったとおり、この秋からスタートする2017/2018シーズンは新国立劇場開場20周年という節目のシーズンです。不朽の名作と謳われ、人間と戦争、戦争と平和といったテーマをもっている深い作品ですが、あまり身構える必要はなく、「作家としてうまいな」という三田和代さんの言葉に「乗った!」と思う制作発表でした。
 新国立劇場の新シーズン開幕を飾る意欲作に期待です!


【逆説的なタイトルにみる作家の鋭い視点】

 歴史はちょっと苦手という方も“トロイの木馬”という言葉は耳にしたことがあるかもしれません。そのトロイの木馬が登場する、トロイ戦争に足を踏み入れるまでのドラマ、戦争が起こる仕組みをジロドゥが戯曲にしたのがこの作品。つまり戦争は起こった、それを我々は知っている。そこで本作のタイトル『トロイ戦争は起こらない』です。宮田監督曰く、その逆説的なタイトルからもジロドゥの鋭い視点がうかがえるとのこと。作者は第一次世界大戦では出征し負傷、身をもって戦争の悲惨さを体験し、その後外交官となった人物。戦争を阻止しようとしながらも追い込まれていく、主人公エクトールにジロドゥ自身の姿が重なるのです。


【現代まで続く人間の愚かさをあぶりだす深く衝撃的な本】

 そんな、本作の主人公トロイの王子・エクトール役を演じるのは鈴木亮平さん



鈴木亮平さん

「エクトールは勇者ですが、なんとかギリシャとの戦争を止めようと必死に走り回る男です。
 僕は歴史や世界遺産がとても好きです。トロイも世界遺産なので、大好きな時代の大好物の話だと思って台本を開くと、どうやら少し違う。“どうやって戦争が起こるのか”という仕組みを古代ギリシャのトロイ戦争に舞台を借りて描くことで、現代まで続く人間の愚かさをあぶりだす深く衝撃的な本でした。
 なぜ人間は戦争を犯すのか。普通の感覚では誰もが“間違っている”と言える戦争が、どの角度で見た時に“正しいもの”になってしまうのかを演出の栗山さんのもと見つけていきたいと思います」


 ギリシャの王妃エレーヌ役を演じるのは一路真輝さん。



一路真輝さん

「エクトールの弟のパリス王子にさらわれるギリシャのお妃。このお芝居、その後の戦争のきっかけのひとつとも言える大役、しっかりと取り組みたいと思います。
 台本を読んだ印象は、台詞(の真意)が全てストレートではなくて、その裏にいろいろな意味がたくさんある。それを読み解かなくてはと思っています。男たちの話だけでなく、エレーヌとエクトールの妻・アンドロマック、女性同士のシーンもとても楽しみです」



「鈴木(亮平)さんがトロイに詳しいので、稽古場でも心強い(笑)」(一路さん)



「エクトールとその妻、ダブル鈴木で相性いいんじゃないかな(笑)」(鈴木亮平さん)

 そのエクトールの妻アンドロマック役を演じるのは鈴木杏さん。



鈴木杏さん

「夫とともに戦争が起こらないように奔走するエクトールの妻、子を身ごもっています。
 台本を最初に読んだ時は戦争とは何なのか、そこに向かっていく人間とは…、人間の本質を突かれて胸がキリキリと痛みました。でも、そこに至るまでに意外にクスッと笑えるシーンもあり、想像よりも笑える台本に驚きました。題材が重い作品だけに人間らしいやり取りで笑える部分も大切にしていきたいです」



「ダブル鈴木のもう一人です」(杏さん)


 ギリシャの英雄オデュッセウス役を演じるのは谷田歩さん。



谷田歩さん

「僕はこれまでシェイクスピア作品は多数やってきたのですが、ギリシャ悲劇をやるのは2度目です。シェイクスピアとギリシャ劇の違いというのは、とにかく女性が強い(笑)。強い女性に負けないように、強い男オデュッセウスを演じていきたい。オデュッセウスはギリシャの武将、トロイ戦争が終わってからの話のほうが有名ですが、これはその前の階段、今はオデュッセウスも戦争を望んではいないと思って(台本を)読んでいます



「最後のほうに出てきてたくさんしゃべる役です(笑)最近こういう役が多いです」(谷田さん)
そうなのですが、とーっても重要な役!!“最後のほうの”シーン、見ごたえあるだろうなー。


 エクトールの母エキューブ役を演じる三田和代さん。



三田和代さん

「トロイの王妃、母エキューブは非常にエスプリの効いた女性、フランス人だなって感じます。非常に機知に富んだジョークと皮肉ばかり言っているお母さんですが心の底は戦争反対です。
 ジロドゥがこの本を書いたとき、世界は第二次世界大戦へと突き進みました。世界戦争はこういうことなのかなという、ちょっとぎょっとすることが描かれていますが、非常にユーモアに包まれた楽しい作品に仕上がっているので、そこは作家としてうまいなというのが第一印象です」



「舞台生活50年になりますが、芝居をやるときいつも思うことは、経験がなんにも役に立たないってこと(笑)。スタート地点はいつも同じなんです。今までにやったことのない新しい役をやるということに、不安と興奮、喜びを感じています」(三田さん)


【おまけ】

 鈴木亮平さんといえば世界遺産(検定一級!)。ここで、トロイの世界遺産について。

「トロイを発掘したシュリーマンという人はトロイを発掘したことで有名ですが、ほかにもギリシャの遺跡の発掘にも成功しています。神話の時代のロマンを現実に掘り起こしてきた、とても素晴らしい学者さんです」(鈴木亮平さん)

 さすが!!


 おけぴスタッフも実際に戯曲を読みましたが、まずそのタッチ、かなり構えて臨んだのですが、するすると読める!言葉が自然なことに驚きました。ホームドラマは言いすぎかもしれませんが、ある家族(トロイの王家ではあるのですが)の丁々発止の会話劇が繰り広げられるのです(もちろんそこには緊張感も漂う)。そこからラストの怒涛の展開まで、少し目を離していたらあれよあれよという間に…という衝撃。
 この日ご登壇された、屈強な男性たち、彼らより一枚も二枚も上手そうな女性たち(笑)の肉体を通して舞台上に立ち上がる『トロイ戦争は起こらない』。開幕が楽しみです。

 新国立劇場開場20周年記念公演『トロイ戦争は起こらない』は同劇場にて10月5~22日まで。兵庫県立芸術文化センターで10月26、27日に上演されます。

ーあらすじー
永年にわたる戦争に終わりを告げ、ようやく平和が訪れたトロイの国。
夫である、トロイの王子・エクトールの帰りを待つアンドロマック。しかし、義妹のカッサンドルは再び戦争が始まるという不吉な予言をする。
一方、エクトールとカッサンドルの弟・パリスは、ギリシャ王妃・絶世の美女エレーヌの虜となり、戦争の混乱に紛れてギリシャから彼女を誘拐してしまう。妻を奪われ、名誉を汚されたギリシャ国王・メネラスは激怒し、「エレーヌを返すか、われわれ、ギリシャ連合軍と戦うか」とトロイに迫る。しかし、彼らの父であるトロイ王・プリアムやそのとりまきたちは、たとえ再び戦争を起こしてでもエレーヌを返すまいとする。
幾度にもわたる戦場での生活に、戦争の虚しさを感じていたエクトールは、平和を維持するためにエレーヌを返そう、と説得するが、誰も耳を貸そうとはしない。
とうとう、エレーヌ引渡し交渉の最後の使者・ギリシャの知将オデュッセウスがやってくる。果たして戦争の門を閉じることはできるのか。あるいは、トロイ戦争は起こってしまうのだろうか。宿命の罠は、愚かな人間たちが囚われ堕ちていくのを静かに狙っている―。

【公演情報】
新国立劇場 開場20周年記念公演『トロイ戦争は起こらない』
2017年10月5日(木)~22日(日)@新国立劇場・中劇場
2017年10月26日(木)、27日(金)@兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

<スタッフ>
作:ジャン・ジロドゥ
翻訳:岩切正一郎
演出:栗山民也

<キャスト>
鈴木亮平 一路真輝 鈴木 杏 谷田 歩 
江口のりこ 川久保拓司 粟野史浩 福山康平 野口俊丞 チョウ ヨンホ 金子由之
薄平広樹 西原康彰 原 一登 坂川慶成
岡崎さつき 西岡未央 山下カオリ 鈴木麻美 角田萌果
花王おさむ 大鷹明良 三田和代

公演HPはこちらから

おけぴ取材班:chiaki(取材・文)hase(撮影) 監修:おけぴ管理人

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