紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて上演されている
『きらめく星座』にて、特別トークショーが開催されました。
この日は井上ひさしさんのお誕生日ということで、こまつ座唯一の所属俳優の
辻萬長さん、『きらめく星座』ご出演者で井上さんともお付き合いの長い
木場勝己さん、久保酎吉さん、後藤浩明さんがご登壇されました。井上さんとの思い出、戯曲の魅力など、ここでしか聞けない素敵なトークの様子をレポートいたします。
(※辻萬長さんの“つじ”は本来2点しんにょうではなく1点しんにょうです)『きらめく星座』おけぴ開幕レポート左より)井上麻矢さん(MC)、辻萬長さん、木場勝己さん、久保酎吉さん、後藤浩明さん
MC(井上麻矢さん):
井上ひさしとの思い出からお聞かせいただけますか。
辻さん: 井上さんは稽古場でいつもニコニコしていました。ただ、それが再演なり、既成の作品の時はうれしかったのですが、新作となるとね(笑)。脱稿した翌日、稽古場に髭ボーボーでいらっしゃって、稽古を観て笑っている。俺たちはこれから大変な思いをするのに、(井上さんは)書き上げてホッとしていらっしゃるのか…。そうしたらね、なんだか癪(しゃく)に触って(笑)。こちらは笑顔でも内心では、「台詞も覚えていなければ、まだなにもできていない。それを井上さんが観るのか…嫌だな」と思っていましたよ。
でも、初日の幕が上がると、稽古場での井上さんと客席のみなさんの反応が同じなんですよね。書き上げた作品への自信、それがうまく運んでいるなと考えながらご覧になっていたんです。あの笑顔が、僕にとってはうれしくて癪に触った思い出です(笑)。
木場さん: 25年前、『きらめく星座』で初めてこまつ座に出演しました。正一役でした(笑)。そのとき、演出の木村光一さんに歳を聞かれたので、正直に42歳と答えました。すると、「正一をやるには老け過ぎだな」と。
だったらキャスティングしなきゃいいのに…(笑)。そこは言わずに黙っていたたんですけど(笑)。すると、帰りがけに、井上さんが「あれは気にしないでください。木場さんの正一を作ればいいんですから」とおっしゃってくれたことをよく覚えています。
久保さん: 2003年の『紙屋町さくらホテル』(言語学者の大島先生役)が初めてのこまつ座でした。アングラの出身の僕が初めてのこまつ座、萬長さんも木場さんもいらして、怖そうな先輩たちにも(笑)緊張しましたね。そんな僕に、親睦を兼ねた食事会で井上さんのほうから「台詞の少ない役ですみませんね」と話しかけてくださったんです。全然、そんなことはなく素敵な役なんですけどね。
そこで「この芝居をやるにあたり、気を付けることは何かありますか」という、ものすごく漠然としたことを聞いたら、「学者がキレるとどうなるのかを舞台上で観てみたいですね」と。僕はその言葉を胸に、稽古、本番に臨みました。そして初日が開けたとき、ニコニコして手を叩いて「よかったです」と言って頂けて。それがものすごくうれしかったです。
後藤さん: 『日本人のへそ』の再演のときに演奏者として呼ばれたのが最初です。演奏だけだと思ったので、もう一人連れて行き、交代でやりたいと申し上げました。すると「うちは(芝居に)出なくてはならないので…それはちょっと」と言われ、そのときは連れて行ったもう一人の方に出てもらいました。それが、朴勝哲くんです。そこから僕も宇野(誠一郎)先生のお手伝いをしながらこまつ座さんに関わってきました。やがて、音楽的に深く携わるようになったのですが、思い出はスリリングな新作の現場です。大変なんですよ、真夜中まで作業し、仮眠してまた作業。でも、今となってはそれもすべていい思い出です。
MC: 井上戯曲の台詞について。そもそも井上ひさしの台詞というのは、俳優さんにとってどういうものなのでしょうか。
辻さん: 井上さんの台詞の素晴らしさは作品ごとにありますね。『黙阿彌オペラ』では、こんな台詞をお書きになるんだと感動しましたし、『雨』の方言も。そして方言といえば『國語元年』もね。言葉に関する執着、そして言葉を選ぶ力が卓越していると思います。
辻さん: あと、こまつ座旗揚げ以前の井上作品には、たくさん人が出てくるんですよ。でも、こまつ座の『頭痛肩こり樋口一葉』は登場人物が6人。やっぱり自分の劇団となると、お金をなるべく使わないように、出演者を減らしたんだなと思っていたんです。浅はかでしたね…(笑)。
あるとき井上さんに聞いたら、「芝居はまず3時間です。こまつ座に出てくれる俳優さんがひとつの役として存在するために30分は必要。ひとり30分で3時間となると…6人」と。それで6人なんです。だから、『ムサシ』のように6人を超えると4時間近くなるんです(笑)。それは俳優ひとりひとりにきちんと書こうとした井上さんの優しさなんですよね。それが忘れられない。井上ひさしは立派です!
木場さん: 井上さんの台詞には生理的な省略がありません。俳優は、毎日、ある水準を保たなくてはならないのですが、ときに熱が上がりすぎたり下がったりします。そのときに、接続詞や助詞の省略のない文体の台詞は、(俳優の熱が)下がっているときは上げてくれ、興奮しすぎたときはその台詞が蓋となって抑えてくれるのです。これはすごいことです。そこからも、萬長さんがおっしゃった“言葉を選んで書いている”ことがよくわかります。
もうひとつ、井上さんの「僕は近代劇の手法で本を書いているんです」という言葉を思い出します。現代劇では、いろんなことがわからないまま進む戯曲もあるのですが、たとえば『きらめく星座』では、1幕1場で登場人物の職業、思考が分かり、さらにその場には登場していない人、脱走兵の正一や傷痍軍人の源次郎の名前まで出てくる。芝居の頭のところで、お客様に(情報を)しっかりと渡している。しかも笑いも交えて。そうなると…やっぱり本が遅れるんだなと(笑)。
久保さん: 『きらめく星座』の台詞は、旧仮名遣い、当時の言葉で書かれているんですよ。そしてト書きにはコント的な動きも書いてあり、それをその通りやることで俳優を導いてくれる戯曲です。演じていて、それを実感します。
後藤さん: 井上さんの台詞は音楽的です。登場人物それぞれに音色があり、楽器のよう。『きらめく星座』では、みさをはフルートで…というように、戯曲が交響曲になると思うくらいに!また、(劇中で)演奏者であり役者である人が音楽を奏でながらそこに存在します。さらに、そこに出てくるのは、実際にその家で流れていてもおかしくない音楽です。とくに中期の音楽劇にその特徴が表れていますが、それは世界的に見ても、希有な(音楽の)存在の仕方だと思います。
MC: 台詞から歌に…そこは生理的には?
木場さん: 『きらめく星座』で最初に登場するピアノ伴奏つきの曲は「月光値千金」です。(一家の長男、脱走した正一を追う憲兵の)権藤さんに、小笠原家のご夫婦のなれそめを話すところから歌が始まります。ふたりを結び付けた歌こそ…という流れですが、歌わずとも話は進むんです。でも、後藤さんがピアノを弾いちゃうんですよ(笑)。そして、(お母さんの)ふじさんは歌いだし、歌いだすと気持ちいいから、そのうちにお父さんまで参加しちゃって、ついには(下宿人の)僕らも歌いだす。そうしているうちに、歌を歌う楽しさで、憲兵さんが家探しをしていること(シリアスな状況)を忘れちゃう。僕はこれを井上マジックと呼んでいます。
MC: では最後に、萬長さん、こまつ座の芝居の魅力をひと言で。
「僕が出ていることです(笑)」 辻さん: 僕が出ていることです(笑)。と言いながら、今年は一本も出ていなくて。来年は、
『シャンハイムーン』もありますので、ぜひ、観に来て下さい。
(おけぴ心の声:『シャンハイムーン』も出演者6人だ!)MC: 後藤さん、久保さん、木場さんには『きらめく星座』の魅力を。
後藤さん: このチームで長くやっていますので、(今回の公演の)初日から戻ってきたような感覚でした。そこに日々の公演でさらに芝居を積み上げていますので、すごくいいエイジング(熟成)状態になっております。
久保さん: もし井上さんが生きていらしたら、今の日本をどう見るだろうかということをいつも思っています。この作品は(太平洋戦争)開戦前の話ですが、観てくれた友人の多くが、「今、これをやるのがスゴイ」、「今に似ている」ということを言ってくれます。今やる意味、それを感じるためにも是非ご覧ください。
木場さん: このお芝居の6場で、竹田慶介は満州に行くことになります。私の両親が満州に行ったのがちょうど同じ昭和16年でした。むこうで兄、姉が生まれ、終戦を迎え、引き揚げて帰ってきた後に僕が生まれました。当時、両親は30代前半。慶介の役の年齢が…よくわかりませんが(笑)。私も60の後半になりましたので、ずっと(この役を)やれるかどうかはわかりません。だいたい独身の居候なんて可笑しいですよね、68歳で(笑)。もしかすると最後になるかもしれませんので、お見逃しのないように(笑)。
こまつ座『きらめく星座』は23日(木・祝)まで紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて、11月30日(木)は宮城県 えずこホール(仙南芸術文化センター)大ホールにて上演されます。
また、
11月21日(火)13時公演後には~「音楽」は人に「笑い」を連れてくる!~と題し、いとうせいこうさん(作家・クリエーター)によるアフタートークショーも開催されます。作品を味わい、その後でさらにその日の観劇が豊かになるアフターイベント、おススメです!!
※アフタートークショーは、開催日以外の『きらめく星座』のチケットをお持ちの方でもご入場いただけます。ただし、満席になり次第、ご入場を締め切らせていただくことがございます。
※出演者は都合により変更の可能性がございます。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人