この春~夏にかけCOTTON CLUB LIVE 『Middle of the journey』、坂東玉三郎 越路吹雪を歌う『愛の讃歌』、DRAMATIC SUPER DANCE THEATER FLAMENCO 『マクベス~眠りを殺した男~』、そしてミュージカル・コメディ『キス・ミー・ケイト』にご出演。実に多彩、演劇、ダンス、歌…ボーダーレスに活躍する
水夏希さんにお話をうかがいました。
【まだまだ旅の途中です】
──まずはコットンクラブでのライブについてうかがいます!歌だけのステージが初めてということですが、開催のきっかけは。 毎夏にコンサートをしていたのですが、最近は1年に1回自分のやりたいことをやるようにしていて、“歌のみ”というスタイルは、いつかチャレンジしたいと思っていたものの、同時に敬遠していたジャンルでもあります。でも、いつまでもそれでは前に進めません、今年は25周年でもあるので思い切ってみました。そしてその会場がコットンクラブ!大人の上質な音楽空間ですのでハードルは高いですが、お越しいただいたみなさんに楽しんでいただける時間にしたいですね。
──気になるセットリストは当日のお楽しみ♪ですが、選曲のポイントは。 私には、ふだん音楽だけを聴くという習慣があまりないんです。今回、改めて「自分にとっての音楽とは」と考えたとき、やはり私の中にある音楽はミュージカル、そして、これから続けていきたいと思っているシャンソンやタンゴが思い浮かびました。ですので、それらの曲をコットンクラブらしいアレンジでお届けします。
──ということは、おなじみのミュージカルナンバーもひと味違うものになるのですね! 初披露する、とあるナンバーは音楽監督からの提案で歌います。思いがけないチョイスでしたが、素晴らしい曲なので歌ってみようと決めました。アレンジは“ザ・ミュージカル”だと、ややドラマティック過ぎるので(笑)、少し軽いタッチにというか舞台とは違うアレンジなります。しかも、今回は英語で歌います!
ほかにも、これまでに出演したことのある作品からも歌いますが、ボサノバやジャジーなアレンジになるので、新鮮にお聴きいただけると思います。
──ほかにも、この日のライブのために日本語詞をつけたナンバーもあるとのこと、水さんのキャラクターも反映されたものになりそうですね。 訳詞は保科由里子さんにお願いしました。保科さんには、ここ数年お芝居(演技)のコーチをしていただいていて、お芝居には自分の過去や現在が投影されるので、お稽古では必然的にたくさんのことを話すので、それが反映された歌詞になりました。今の自分を見つめて、先へ進む勇気のわく曲なのでね。
──どのような仕上がりになるのか、楽しみです!今回のライブのタイトルは『Middle of the journey』、つまり「旅の途中」、そこに込めた想いは。 コットンクラブでのライブは大きなチャレンジですので、“集大成”ととらえることもできますが、私の中ではそうではなくて、このチャレンジは次へ進むためのステップ、その意味で『Middle of the journey』にしました。この世界はゴールがない。大きなチャレンジをし、それが成功したとしてもそれがゴールではありません。私も、人生は半世紀に近づき(笑)、芸歴は四半世紀を迎えましたが、それでもまだまだ旅の途中なんです。
こうして私にとってはチャレンジですが、みなさんはリラックスして過ごしてくださいね。 お食事をして、軽くお酒でも飲みながら、素晴らしいミュージシャンのみなさんが奏でる演奏も含めた音楽を肩ひじ張らずに楽しんでいただければと思っています。お客様とも一緒にセッションをするような空間にしたいです。
【これを運命と言わずして…】
──先ほどの「旅の途中」のお話にも繋がりますが、歳を重ねても尚、輝き続ける先輩のおひとりと申し上げてもいいのが、次にご一緒する坂東玉三郎さんです。 まず、このような企画にお声をかけていただけたことを大変光栄に思います。玉三郎さんの印象は、純粋な情熱をお持ちの方。今回のコンサートに対しても、並々ならぬ想いをお持ちで、そんな玉三郎さんの想いに賛同し集まったメンバーに対して、「仲間だよね」というあたたかい雰囲気を作ってくださり、とても気さくに接してくださる方です。大変貴重な機会です。だって…人間国宝でいらっしゃるのに…、一人の人間として真摯に音楽と向き合っている姿に感銘を受けます。コンサートでは越路さんはシャンソンだけでなく、ミュージカルにも数多くご出演されていたので、ミュージカルメドレーなども予定されています。
──歌舞伎界が誇る当代一の女形と元宝塚歌劇団男役トップスターたちの競演というのも…。 面白いご縁というか、組み合わせですよね。でも、集まったメンバー、もちろん海宝さんも含めて、それぞれがパフォーマーであり、舞台人。舞台の素晴らしさも怖さも、喜びも苦労も知っている人たち。そういった共通項は口にせずとも、伝わってくるものなんですよね。
あと、私、宝塚を受ける前、高校生の頃に玉三郎さんが塾長をされていた演劇塾「東京コンセルヴァトリー」のオーディションを受けたことがあるんです。残念ながら途中で落ちてしまったのですが(笑)。そこから時を経て、まさかこうしてご一緒できる日が来るとは。これを運命と言わずしてなんと言うか…という気もしています。
──玉三郎さんにそのことをお話しされましたか。 実は、まだお話していないです。お稽古中など、チャンスがあったらしてみようかな。
──お話しされたら、その時の様子を後日談としてまた聞かせてください!続いては、DRAMATIC SUPER DANCE THEATER FLAMENCO 『マクベス~眠りを殺した男~』について。 こちらは歌も台詞もあるのですが、タイトルにあるようにメインはダンスになります。こちらの台本・演出・振付の上田遙さんも情熱的!バレエのレッスンや、ショーの一部の振付ではお世話になっておりますが、ショー全体の演出・振付を受けるのは初めてです。歌、歌ときて、次にダンスが来るので、これもまたチャレンジです。
──タイトルにはフラメンコの文字もあります。水さんとフラメンコと聞くと2016年の『FLAMENCO CAFE DEL GATO~フラメンコ・カフェ・デル・ガト~』が思い出されます。 フラメンコ界で名を轟かせる“世界の小島章司さん”がご出演です。フラメンコを経験しているからこそ、その偉大さがわかるのですが、よもや小島さんと同じ舞台に立とうとは…。私もお稽古で見ていたら、踊りたくなってしまいそう。だって、小島さんのフラメンコを間近で見て、感じることが出来るなんて!すでにワクワクが止まりません!
あとはこの公演、和太鼓と尺八といった和楽器も入るんです。和の音楽とフラメンコ、そして上田さんのダンスの融合、それはもはやノージャンルですが、そこをあえて言うならば「ジャンルは上田遙」って感じです(笑)。
──誰も見たことのない『マクベス』になりそうですね。 たとえば「マクベスは眠りを殺した」というシェイクスピアの書いた有名な台詞があります。それを台詞として発すると、そのままワンセンテンス。でも、身体表現では1分でも、3分でも踊ることができる。ダンスにすることで表現の幅や深さが変わってくると遥さんがおっしゃっていて、そこを追求していきたいと思います。
──本当にチャレンジ続きですね!そう思うと、王道ミュージカルといえるのがハローミュージカルプロジェクト、ミュージカル・コメディ『キス・ミー・ケイト』全国ツアー。こちらは昨年に引き続いてのご出演です。 『キス・ミー・ケイト』はまさにハッピーミュージカル。昨年の公演では、やればやるほどコールポーターの音楽の素晴らしさを感じました。この作品では再演ならではのチャレンジをしたいと思っています。もともと私が演じるロイスはちょっと抜けているというか天然な女の子。前回は、頭脳明晰で恋人のビルを引っ張っていくようなキャラクターにしていたのですが、今年はもとの本に寄せて感性のままに生きているところを出していこうと思っています。それによって一路真輝さん演じるリリーという女性との対比が鮮やかになるといいなと思って。あまりやったことのないタイプのキャラクターなので楽しみです!
また、相手役のビルを演じる俳優さんも平方元基さんから大山真志さんに変わります。ヴィジュアル撮影でお目にかかりましたが、元基くんよりお若いのに、なかなか貫禄のある雰囲気をお持ちなので、また違うカップル像になりそうです!
【「水夏希」のイメージをいい意味で裏切る、そのためのチャレンジはいとわない】
──こうしてお話をうかがっていると、改めて多ジャンルに挑戦されていることを感じます。 なんでしょうね。でも、別に自分であれしたいこれしたいというより、結果こうなったという感じなんですよ(笑)。とにかくチャレンジすることをいとわない。
──勇気があって、迷いがない! いやいや、実際、怖いものばっかりですよ。コットンクラブにしても「こんな恐ろしいこと、いったい誰がやろうと言いだしたんだろう……あ、私だ」、そんな感じですよ(笑)。でも、そうやってチャレンジしたい、乗り越えたいと思う壁があるからこそ先に進めるし、ちょっと大げさに言えば、そこに生きている意味がある。そういう性分なんです。要するに、安全なところに居続けることができない性分(笑)。
迷いにしても、悩みまくりですよ!退団後は、女性って何だろうから始まり、私はどこへ向かうのだろう…ずっと模索中。その中で、出会う作品の一つひとつ、そこで受ける仲間からの刺激、そこで得るもの、それらを自分の糧にしていくだけです。
──先ほど、お芝居のレッスンを受けているというお話もありました。来るべきときのための準備を怠らない姿勢がチャレンジを可能にしているとも言えます。 やはりダンスや歌の公演が続くと、お芝居に触れなくなってしまいます。お芝居って感性でできる方もいらっしゃいますが、私は割とそこが不器用なんです。常にお芝居、戯曲に触れるということを自分に課しているんです。そこでお世話になっている保科さんはもちろん、ほかにも宝塚の頃から歌を教わっている先生、コットンクラブのライブで音楽監督をしてくださる岩崎廉さん、ずっといろんな私を見てくださっている方たちがいて、そして、いつも私のチャレンジをあたたかく見守ってくれるファンのみなさんの存在も本当に心強いです。
──これからの水さんの旅からも目が離せません。では、最後に、今後の活動を楽しみにされているみなさんへひと言。 演技、ダンス、歌…そのすべてをやっているというのが宝塚の良さだと思っています。どうしても広く浅くになってしまうので、その道のスペシャリストと並ぶと大変ですが、私はそれをプラスにとらえています。「水夏希とはこうである」という枠を、毎回いい意味で裏切っていきたいと思うので、これからも期待していて下さい(笑)。
──ありがとうございました!◆ 多くのジャンルに挑戦し続ける水さん。実際に舞台を拝見すると、そのどれもが「水さんらしい」のです。そして挑戦し続ける力の裏には、常に技術や感性を磨く姿があり、それこそが「水さんらしさ」を作っているのかしらなんてことも感じました。
ご本人の言葉を借りると…すべてをひっくるめて「ジャンルは水夏希」になる日も近いっ!
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人