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◆【『フリー・コミティッド』成河プチ一人会~ともに語ろう~レポート】
一人芝居『フリー・コミティッド』、全30公演を終えた成河さん。1か月の公演期間中、成河さんのメルマガ読者向けに4回のプチ一人会が開催されました。話題のチョイスも、その展開も4回4色!それぞれの盛り上がりでした。本レポートでは、みなさんとのやりとりのなかで印象的だった、成河さんの言葉をご紹介いたします。
【プチ一人会~ともに語ろう~について】
「プチ一人会」、これはファンクラブイベントではありません。現状はメルマガの読者のみなさん向けという半オープンな状態ですが、みんなで集まって演劇の話をする場として、いかにオープンでいられるか。それはこれからも模索していきたいと思っています。
目標はお客さん同士でディスカッションもできる場かな。今日も、質問、反論、カットイン大歓迎!僕はその種をまく存在です。
だから、作品について、役についての謎解きの場ではないんです。あのシーンのあれは……それには答えませんよ(笑)。
【演劇はどこにある~自分が飲んだスープが正解!~】
まず、演劇はどこにあるのか?について少し僕からお話します。演劇は少なくともこちら側(舞台上)にあるものではない。演劇をみなさんが観ているのではないんです。これは言い方の問題なんですけどね。
僕が思う演劇というのは、こんなイメージです。(劇場空間の)真ん中の上のほうにお鍋がある。そこにみんなで食材を入れていく。まずは劇作家さんが昆布を入れ、そこに演出家が塩を入れた、役者は、これだったらエビかな、肉かなと。プロデューサーさんは野菜を入れたり……。そして、お客様も客席から何かを入れています。自覚のある方もいれば、無自覚な方もいるでしょう。でも、みなさん、観るときに何かを入れているんですよ。そうやって演劇、観劇というのは、2時間(=上演時間)かけて、その鍋をみんなでつついているようなもの。
作品を観ると、やっぱりこちら側のこと、どういう意図で、何を思って……ということが気になりますよね。それはつまりこちらがいれた具材。それもよくわかります。きっとそれも日によって変わっていくでしょう。でも、一番大事なのは、お客様が味わったスープの味なんです。
僕は、演劇が好きで、それに救われてきた人間です。ずっと演劇の効能は何だろうと考えてきました。それはおそらく観る側もやる側も同じ、無意識で入れている何かは、その時の自分に必要なもの。それをわかって入れているんじゃないかな。つまり、自分で自分を感動させたり、癒したりしている。だから、その手助けをきちんとできる演劇がいい演劇。僕はそう考えています。演劇がうまく作用する。それは、人それぞれの味、効能があるということ。僕らは、できるだけその幅を広げたい。「あれはこういうことです」と話してしまって一意にしたくないんです。
そこで、こちら側が気をつけなくてはならないのが、作品をこうしたいからと唐辛子をどっさりと入れること。そうなるともはや、お客様がそこに何を入れても「辛い」しかない。それは唐辛子芝居ですよ。
だからこそ、ご自分が観て感じたことを尊重してください。それが正解!と思ってください。もしこちらの意図というものがあって、それを知っても、へぇそういうものを入れていたんだ!くらいに思っていただいて。みなさんが食べたもののほうがよっぽど尊いのです。こちらは間違うことが多いですから。こんな風に偉そうにしゃべる人たちのことを信じないでくださいね(笑)。自分に必要なものは、みなさん自身が一番わかっているんですから。
【演劇は自立していない芸術~俳優とは~】
芸術は何のためにあるのか。古来、画家や彫刻家、作曲家は鬼にならないために作品を作っていました。鬼になる寸前を作品に刻む。それが効能。お客様のためでも、お金のためでも、そもそも誰かに見せるためでもない。その意味で、自立した芸術と言えます。
では、俳優は?
演劇は自立していません。鬼にならないために、鬼をやる。でも、悲しいことに、家で一人で鬼をやっても、それでは何の解決にもならないんです。俳優は、観てもらうことで初めて鬼になれる。これは極めて厄介な話。演劇は「観る、観られるの芸術」なのです。
本来、広場で交代に鬼をやって、互いに観る。それが何らかの治療になっていた。その中に、あまりにも上手な演じ手がいたことによって、いつしか人は観ることで満足できるようになってしまった。2500年前の、古代ギリシアでもそういうことがあったんです。
そんなあまりにも素敵な「俳優」の出現により、何も考えずに観るようになり、スペクタクルを求めることで、「観客」が受動的になったんです。生活の糧、話し合いの場だったものが、生活と切り離された夢の世界を観るものになる。そして、それは資本主義と相性が良かった。
やがて、もう一つの考えが生まれます。演劇は観客が何かを発する、そのきっかけとなるためのものである。鬼にならないために俳優が鬼になる。それを観てくれるあなたも鬼を免れます。僕はそんなつもりでやっています。
だから、演劇や俳優にとって観客の存在はとても大事。でもそれは、「私を支えてくれるファンが大事」というより、「観てくれる人全員が大事」なんです。一緒に演劇を作る人には多様性があったほうがいい。観客側に多様性がなくなると、俳優に多様性がなくなるから。
演劇というものは、(演じる)人の姿に自分の姿を映して、それを遠くから観る遊び。大きな意味では、「観る」と「やる」を分けて考えるべきでないと思っています。
【『フリー・コミティッド』について】
『フリー・コミティッド』、NYでの上演とは違う終わり方になっています。それは僕と(演出の)千葉哲也さんにとって必要な終わり方とも言えます。NYでは、悪いやつを打ちのめしていき、ビクトリー、ビクトリー、ビクトリー! というラスト。彼らにはそれが必要だったのでしょう。それに対して、僕らに必要な効用は、「選択をする」ということ。戯曲にとって何が正解かはわかりません。でも、千葉さんは、俳優に合ったことを大切にしてくれる演出家です。「俺たちに関係のあることをしよう」とこのラストになりました。
【演劇の値段がわからない】
今、演劇の値段がわからなくなっています。この公演のチケットは6,900円、みなさんはどう思いますか。実は最初は7,500円でした。だから公演数を増やしました。そうしたら600円下がった。公演数を増やしたことについては……(肉体的なハードさに)後悔している僕もいます(笑)。
こうして実際にやっていくなかで、見えてきた理想は、1,000円、2,000円とまではいかないけど、毎日当日券がある状態で、半年とかやること。ただし週に7回、やっても8回。週に10回やったらだめですね(笑)。
でも、やっぱり所詮ひとりの人間がどんなに頑張っても600円下げることしかできない。鍋を囲む人はみな平等だと言っても、6,900円では特別な娯楽になってしまいます。このままでは不誠実。こんな風に、僕は役者という職業を愛したり憎んだりしています。
【翻訳の可能性と限界】
「翻訳に正解はない」、優れた翻訳家ほど、そう言います。意味を同じにすることが翻訳ではなく、言葉と、それを読む人、しゃべる人の距離感の問題だから。この作品でも、稽古場では2週間くらいかけて、翻訳家、演出家、俳優、スタッフ、みんなで原語と日本語を見比べて検証していきました。商売としてはとても非効率なことですが、とても贅沢なことでもあります。
かつて、西洋の近代演劇を翻訳するのは学者の仕事でした。そこでは「I」をどう訳すか、「僕」「俺」「わたし」「わたくし」……それを選ぶ時点で学者(作家)の創作なのです。だからこそ、ほかの人には絶対に手を入れられたくない。翻訳したものが、その人の作品なのだから。そこからすると、だいぶ光が見えてきたとも言えます。
ミュージカルだったらなおのこと。翻訳家一人で完成させるのではなく、最初から最後までディスカッションが続きます。だって、I Can Flyの音に合わせると、わ・た・しで終わってしまうでしょう。情報量は1/3になってしまう。致命的どころじゃないですよ。それを俳優・歌い手の技量で補い、表現して、ようやく成立させているのが翻訳ミュージカルです。
僕らは可能性がある限り努力をしていきますが、最前線の専門家は70点がやっと、100点は不可能だと言います。
この先は……。訳詞は、みんなでやったらいいんじゃないかな?いくら優秀でも、ひとりの脳みそでやるには限界がある。さらにその先、20年後には、原語上演。教育によって、みんなが英語をわかるようになるなら、日本語でやる意味はなくなる。そこを目指すほうが、現実味があるように感じています。
【わからなくても自分を責めないでほしい】
つまらないと思ったものに無理して何度も行かないでください。面白くなかったら逃げる!わからなくても自分や自分の観方を責めないでください。自信もって!お金を払っているんですから。ふざけんなって。そうでないと、こちらも張り合いがないですから。
また来てくださいと言いますよ、それは商売だから。でも面白くないと思ったものは買わないでください。今は、即日完売という問題もありますよね。稽古もなにも始まっていないのに、チケットが完売している。俳優である前に、演劇が好きな観客の一人として、僕はそれを許したくない。これも難しい問題。主催者側の考え、僕も大人なのでわかりますよ。でも、それを建前にしながら、どこかで道を探っていきたい。資本主義の原理で、その問題をなかったことにしてはいけないと思うんです。こんな風に言うと、反資本主義者のようですが、資本主義は絶対正義でなはないけれど、最善であるとは思っていますからね。
観客のほうが選択権を持っているんです。なんなら手玉にとれるんですよ。そうもいかない気持ちもすごくわかりますが、これからも、みんなでよりよき道を探していきたいと思っています。
◆ プチ一人会は、このような話題について、シリアスあり、笑いあり、客席同士のやり取りありで楽しく進みます。文章にまとめるとカチッとした内容になってしまいますが、演劇を真面目に楽しく語る会!中には、噂のアイツ、ほかの2羽はいったいどこに?なんて質問や、どうしても気になる小道具の雑誌のカバーガールについてなども飛び出しました。
カバーガールも成河さんでした!
ここからは『フリー・コミティッド』公演の様子をご紹介!
【開幕レポート】
“We're FULLY COMMITTED”、そこに待ち受けるのは……。 人気レストランの予約係として働く、売れない俳優サムの奮闘を描く『フリー・コミティッド』がDDD 青山クロスシアターにて上演中!人気店ゆえに、お客さんからの予約の電話は鳴りっぱなし、加えて、レストラン支配人やウェイトレスといったお店のスタッフからの内線もあれば、店のカリスマ・シェフからのホットラインも……“We're FULLY COMMITTED”上を下への大騒ぎ!と、ここまでならばよくあるドタバタコメディなのですが、この作品はちょっと違うのです。サムはもちろん、すべての登場人物を成河さんひとりが演じるのです。しかも、早替えの連続でもなく!!
これは一体?!と思ったみなさま。劇場へGO!(ちなみに当日券は劇場にて各回開演の60分前より、先着順にて販売)
開幕を前に行われた成河さんの囲み取材の様子を舞台写真とともにご紹介いたします。
おけぴ稽古場レポートはこちらから成河さん
──いよいよ明日が初日です! まだ(始まることに)現実味がないのですが、この作品は、お客さんが共演者なんだろうな。僕自身は、実はもう身体ボロボロ(笑)。お客さんから活力をいただいて、一緒に創っていけたらうれしいですね。
── はじめての一人芝居。 一人芝居に対して、みなさんのそれぞれのイメージをお持ちだと思いますし、僕自身にもありました。でも、この作品……ちょっと変なんですよ。一人芝居における一番便利な武器、その力をいかんなく発揮できるモノローグがない!!会話だけで紡いでいく一人芝居、非常に無茶なことをするわけですよ。そんな“風変わりな芝居”と取っ組み合って、決めたことを何度も何度もひっくり返して。まだひっくり返すかもしれない(笑)。そうやって楽しく鍛えられています。ちなみに(身体的には)肺活量も日々鍛えられています。
──見どころは? 人それぞれ、どんな見方をしてもいいと思うんです。くっだらないコメディだと思う人もいるだろうし、38役に圧倒されたーという人も、プライベートな記憶と繋がる人がいても素敵。いろんな角度からいろんな見方をしてください。
あとは美術を見てほしいですね!客席から見ていると、いくら見ていても飽きない。共演者がいない分、美術も含めた空間や電話のベルなどの音、そういった(舞台を構成する)ものといかに共存できるかも大切。その中で、あくまでも僕は主人公の「サム」を演じます。これは演出の千葉哲也さんと考えてたどり着いたこと。一人芝居ですが、それを忘れて見てもらえたらうれしいです。この空間で38役を使ってサムを表現します。
実はノッてくると、自分でも一人芝居をやっている感覚がなくなり、“自分と自分で会話”ができる瞬間がときどき訪れるんです。まぁ、それが今後どんな役に立つのかは…一人上手になるのかな(笑)。
──劇中もポスターも電話に出まくっています。 電話は都会の暮らしの象徴。“電話に出続けること”で観ている人と繋がれたらいいなと思います。電話に出たことない人はいないでしょう。そして、鳴り続ける恐怖があって、サムがそれをどう乗り越えるか。僕も乗り越えたい!
──これから長い一か月が始まります。 この規模の空間で一か月演劇をする。それは僕の夢でした。それはさまざまな意味で簡単なことではない。こうして実現したのはひとえにプロデューサーのお陰。僕も、作品ありきというより、この企画がもつ、そういった思想(の実現)に飛びついたんです。チケット価格も下げたかったから、そのために公演数を増やしました。それについてはちょっと後悔も(笑)。もちろん、演劇好きで楽しみにしてくれていたみなさんにも来ていただきたいです。でも、もうひとつ。ふらっと観に来る人を、どれだけ捕まえられるか。そのためには長期間やるということ以外に選択肢はない。僕はその可能性にすべてを捧げたいと思います。この一か月、1人でも2人でも、そういう人が来てくれれば。僕も頑張るので、みんなで頑張りましょう。
──明日からの公演に向けて! この“空間”と仲良く一か月を過ごす。お客さんとも一緒にそこを探っていこうと思います。本当に何が起こるかわからない!ただそんな状況で、千葉さんはよーく見てくれた上で、「なんでもいいから」という姿勢でいてくれる。それって役者にとっては宝物のようなこと。とてもとても寛容な演出家さんに助けられています。
僕もやったことのないことをします。たぶんお客さんもあまり観たことのないものになると思います。だから本番を前にした心境はいつもとはちょっと違いますね。一人でやること、それはどう隠そうとしてもバレますし(笑)。あとはどうにでもなれという覚悟で、頑張りすぎずやります。ショー・マスト・ゴー・オン!
最初はただただ目まぐるしく繰り広げられる「同時多発会話」に圧倒されました。でも、次第にサムが自分に見えたり、ワガママなお客様が自分に見えたり……。この日の観劇では、楽しかったーという思いとともに、ちょっぴりほろ苦な後味がいたしました。なぜだろう。これからじっくりと味わっていこうと思います。いやぁ、それにしても、終わった瞬間は喉がカラカラでした(笑)。
目の間にいる人間が額に、全身に汗し、走り回りのたうち回る。そんな空間に満ちる空気を全身で感じる!演劇の醍醐味がそこにあります。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人