【舞台写真が届きました!10/4追記】新国立劇場『誤解』稽古場レポート~美しくシンプルな舞台で5人の登場人物が奏でるカミュの世界~




【舞台写真が届きました(10/4)】



左から)原田美枝子さん、小島聖さん


右から)原田美枝子さん、小島聖さん


【翻訳:岩切正一郎さんコメント】(リリース資料より)

 『誤解』の物語の出発点は、1935年に新聞の三面記事に載ったウクライナの町での殺人事件だ。翌年カミュは当時のチェコスロヴァキアに旅し、そのときの経験をもとに舞台をチェコの町に置いて戯曲を構想し、1943年に原稿をガリマール社に送った。初演は1944年6月、ナチ占領下のパリである。執筆当時カミュはアルジェリアの太陽、海、家族から隔絶されて、南仏の山間の町にいた。戯曲の舞台となる町はこの閉塞した、自由のない、息苦しい状況を反映している。そして太陽と海に憧れているヒロインのマルタにカミュは自分を投影している。

 『カリギュラ』を含む「不条理」三部作、に続く「反抗」をテーマとするサイクルに『誤解』は属する。カミュはこの作品で「現代の悲劇」を書こうとした。悲劇の世界にいる人間とその反抗。彼自身の説明によると、台詞の言葉は、悲劇的であるために書き言葉の性質を持つと同時に、芝居として成立するような自然さも持ち合わせていなくてはならない。自然な感じで始まり、幕を追うごとに「神話の高み」へ至る言語と劇的効果。これを日本語にするのはなかなか大変そうではある。閉塞、息苦しさ、本来いるべきではない所へ追放されている感覚。それを見つめ、反抗するために、今、日本でこの作品を上演する意義は大きい。稲葉さんと台本をしっかり作り上げていきたい。


【演出:稲葉賀恵さんコメント】(リリース資料より)

 「誤解」はカミュが1942年から43年にかけて執筆した2作品目の戯曲です。カミュは本作を「暗い芝居」ではあるが「絶望的な芝居」ではないと述べました。私はこの作品を一読した時、「絶望的な運命」に対して抗おうとする登場人物達の力強いエネルギーを感じました。所謂「悲劇」と分類されるこの作品にはその他の作品を凌駕するエネルギーのぶつかり合いがあります。

 「兄妹間の争い」「不条理な運命に対する抵抗」「殺人、自死に対する葛藤」「祖国からの逃亡と異国への憧憬」、一つ一つの素材がぶつかり合う力はなぜこんなにも激しいのか。それは、どちらか片方が善い、悪いという訳ではなく、互いに正しく筋道が通っているからです。そして互いの側から見ると善であり同時に悪でもある。今日、白か黒か二極化し線引きすることの安易さ、恐ろしさを感じざるを得ない社会の中で、善悪というものは言わずもがな表裏一体であること、そしてそれらが互いに衝突することで起こる混沌とした、しかし大きなエネルギーの塊を演劇という表現を介して想像してみることが、本作を上演することの大きな意味だと私は思っています。



【稽古場レポート】


美しくシンプルな舞台と5人の登場人物
新国立劇場 演劇 小川絵梨子新芸術監督シーズンオープニングを飾るのは
アルベール・カミュ『誤解』


 いよいよ始まる新国立劇場新シーズン!先陣を切って登場するのは20世紀フランスの劇作家アルベール・カミュの『誤解』、演出は文学座所属の新鋭・稲葉賀恵さんです。

 稽古場に入ると、そこに広がるのは、ウッドデッキのような床面に青銅色の汚しの施された傾斜舞台。舞台を前後に分ける継ぎ接ぎされたグレイッシュな布。全体から受けるイメージは「曇天」。でも、見方によっては、余計なものが排除されたシックでスタイリッシュな舞台。その微妙な違和感に心ザワザワ。




ものがたり(公演HPより)
ヨーロッパの田舎の小さなホテルを営むマルタ(小島聖さん)とその母親(原田美枝子さん)。今の生活に辟易としているマルタは太陽と海に囲まれた国での生活を夢見て、その資金を手に入れるため、母親と共犯してホテルにやってくる客を殺し、金品を奪っていた。そこに現れる絶好の的である男性客(水橋研二さん)。いつも通り殺人計画を推し進めるマルタと母親だが、しかし、彼には秘密があったのだった......。



 さらりと書いてありますが、衝撃的なものがたり。“彼の秘密”は、ものの15分で明かされ、以降、観客はその秘密を知ったうえで物語を目撃していくのですが、心がザワザワを止めることはありません。



写真右より)母(原田美枝子さん)、マルタ(小島聖さん)

 幕開き、淡々と語られる母娘の日常。どうやらここは彼女たちが経営するホテルのロビー。彼女たちが、生きるため、停滞した日常を抜け出すために始めた殺人。ふたりの会話を聞いていると、なんだか殺人が日常に同化しているよう。



人生への疲れを隠さない母。虚無感を漂わせながらも殺人に加担する母。
安らぎとはなんなのでしょうね。


やっていることはおどろおどろしいのですが、太陽と海を夢見るマルタの瞳は輝いている。
小島さんのすっと伸びた背筋が憧れの土地への期待を表します。それは裏返してみると、現在の生活の閉塞感を強く印象付けるのです。


 殺人を重ねながらも「ここではないどこかへ……」、マルタの瞳には希望があるのです。舞台上には、ものの善悪だけでは語れない、『誤解』の世界が広がっているのです。


 誰もいなくなったホテルのロビーへやって来た男女。



男性客ジャン(水橋研二さん)とその妻のマリア(深谷美歩さん)


 陰鬱な空気を纏いつつも浮遊感を漂わせた母娘に対して、地に足の着いた「生」を感じさせる二人。その会話も快活!夫を説得する妻、妻を説得する夫、その攻防が繰り広げられるのですが、登場から一気に舞台の空気が変わります。



水橋さんの茶目っ気のあるジャンは、ちょっとした思いつきを試してみようとする。妻との言葉のやり取りには、拗ねたり怒ったりなだめたり……愛し合う夫婦の軽妙さが感じられます。


深谷さんの溌剌としたマリア。ああ言えばこう言う!なかなか引かない女性ですが、傍から見ていると、一番真っ当なことを言っているのはマリア……かな。


 そして、この人物の存在自体が不条理(失礼)、まるですべてを見透かした神のよう?!観ているものの心を、一番ザワザワさせる登場人物が、小林勝也さん演じる年老いた使用人の男。



すっと現れ、言葉もなく去っていく……でも、たしかにそこに居る男
もう、説明不要、説明不能、そのどちらなのかは、ぜひ本番で!


【新国立劇場初登場!稲葉賀恵さん】



写真右)演出:稲葉賀恵さん


舞台上、ホテルの空間に身を置いて芝居を説いていく稲葉さん


キャストからも疑問やアイデアが飛び出す。そのやりとりは静かながらも熱い!


チェック中にはなごやかなムードも…


 シンプルな舞台で、人物や言葉を浮かび上がらせる演出。キャストのみなさんも、自分のなかで、言葉の裏打ちができてきたとおっしゃる時期、さらに緻密に言葉のニュアンスや動きをつけていきます。




「この裏にある感情は何だと思いますか」
一つひとつの台詞を丁寧に確認していく。

 カミュの言葉の力を感じる本作。稽古場でも、常に立ち返るのは「戯曲」です。とはいっても、かなり余白のある戯曲なので、解釈や見せ方によって、上演される時に応じた「今」の芝居になることでしょう。稲葉さんの演出により、エッジの効いた芝居になっていく予感です。そして、この日の稽古では揺らめくことはあっても、常に吊るされていた「布」。それによって隠された舞台奥の空間が現れるとき、そこで何が起こるのか!楽しみです。




「母」「娘」「生」「死」「家」「家族」……そして「愛」。この母娘が営む、“きちんと整理された”ホテルにやってきた男女の運命は。観劇後、『誤解』という言葉を反芻する自分が思い浮かびます。

 いわゆる不条理劇と呼ばれる『誤解』ですが、不条理ってなんでしょうね。条理にかなわないことのほうが多い世の中で、この作品が21世紀を生きる観客にどう映るのだろうか。小川絵梨子新芸術監督のもと、届けられる第一作目は、少なからず「今の世」に、「あなたの心」に響く作品になりそうです。





 稽古場動画も公開されました。

2018/2019シーズン
演劇「誤解」 The Misunderstanding
2018年10月4日(木)~21日(日)@新国立劇場 小劇場

<スタッフ>
作:アルベール・カミュ
翻訳:岩切正一郎
演出:稲葉賀恵

<キャスト>
原田美枝子 小島 聖 水橋研二 深谷美歩 小林勝也

公演HPはこちらから

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人

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