ミュージカル『SMOKE』稽古場レポート




【初日レポ】


 10月4日、5日の公演で、5人のキャスト全員が初日を迎えました。

 稽古場で、みなさんの芝居の熱を受けて、すごい作品になる予感がしました。そこから、劇場で、照明、音響、映像、装置、衣裳、ヘアメイク…などの効果、そして最後のピースである観客によって完成したミュージカル『SMOKE』日本版初演は、予想を超えた高みに達していました。
 各キャストの印象などは、開幕レポートにて改めてお伝えいたしますが、とても印象的だったのは、何かを体感する時間だったということ。

 四方から観客がのぞき込むような劇場空間(ある意味、360度(から観る)シアター!)。密な空気で物語は進みます。

 そして終演後、目の前にある小道具が開演前とは全く違うものに見えてくるのです。(お手は触れないでねとのこと) たとえばベッドサイドの小さなオルゴール、はじめはどこにでもある、「ただのオルゴール」だったものが、「あの時のあれ」になっているのです。<海>の絵筆、<超>のノート、<紅>のコーヒー……一つひとつのものに物語が見える。まるで思い出の一片たちのよう。
 物語の終わりとともに時を止めた部屋、でも、確かにこの部屋で何かがあった。そして我々はそれを目撃した。<超><海><紅>が、李箱が思い出のなかで生きているような。体感として、記憶に残る舞台です。

 公演はまだまだ続きますが、油断しているとあっという間です!お早目のご観劇をおススメします。



箱庭から立ちのぼる詩人・李箱(イサン)の言葉

 1910年にソウルで生まれ、1937年、夭逝した詩人・李箱(イサン)。彼が生み出した数々の作品、そして彼自身の人生を投影した韓国創作ミュージカル『SMOKE』の日本版初演の稽古に潜入。まず、お知らせいたします!李箱を知らなくて大丈夫!そこから伝わるのは、現代を生きる私たちへのメッセージ。見る人それぞれが解釈し、思いを受け取ることが出来る作品です。暗そう、難しそうという印象を受けがちですが、そこも……、帰り道は空を見上げて「よし!」と思えるようなエネルギーに溢れています。



稽古場にて


 ちなみに、おけぴスタッフは、この夏にソウルの演劇街大学路で、この作品を観劇。抑えた色調、ミステリアスな空気、グイグイ迫りくる音楽……そして迎えるラストシーン。よくわからない(言葉の壁……涙)ながらも、なんだかスゴイ!と強烈な印象を残した作品でした。

 そして発表された日本版初演!これはうれしい!あの世界を日本語で堪能できるのですから。はじめはそんな、誤解を恐れずに言うと“答え合わせ”がしたいという不純な喜びでしたが、稽古場でじっくりと読み解かれ、立ち上げられていく日本版に接していると、それ以上の、日本版『SMOKE』への期待、そして素晴らしい作品世界との出会いの喜びを感じます。

 さまざまな側面を持つこの作品、3人芝居、ミステリー、さらには文学的側面にも深く切り込んだ菅野こうめいさんの演出が冴えわたります。こうめいさんが、演出だけでなく、上演台本・作詞も手掛けられていることの“強み”がこれでもかと感じられるのです。

 セットも演出も日本版オリジナルで上演される『SMOKE』、小劇場で四方を囲む客席、まるで箱庭をのぞき込むような濃密な観劇になりそう!ここでは先ほど挙げた3つのキーワードで作品をご紹介。


【3人芝居】


 『SMOKE』は、男性2名、女性1名の俳優によって上演される3人芝居です。



超(ちょ)は詩を書く男、演じるのは木暮真一郎さんと日野真一郎さん(Wキャスト)
海(へ)は絵を描く者、大山真志さん
紅(ほん)は心を覗く者、こちらは高垣彩陽さんと池田有希子さん(Wキャスト)

 この3人のパワーバランスがめくるめく変化をしていく、3という数字の絶妙なバランスが味わえる劇構造であり、絵作りがなされています。さらにそのトライアングルを四方から囲むように配置された客席から観るのですから、そこにいる全ての人が逃げ場なし!というスリリングな時間になりそうですよ。ちなみに客席最前列の近さたるや……、「この距離感ですか?」と2度3度確認してしまったほどです(笑)。


【ミステリー】


 この作品は、韓国で数多くのマニアを生みだしたと言われています。その理由としてミステリアスな展開、そして、それを増幅させる音楽が挙げられます。先が読めない展開、解き明かされる真実、決断……、心ワシヅカミ状態が続くのです。オープニングからそれを煽る音楽の力もあって、小説なら一気に読んでしまうような、人をのめり込ませる危険な魅力が潜んでいます。



 物語は、超(ちょ)と海(へ)が紅(ほん)を身代金目的に誘拐するところから始まります。でも、どうやらこの誘拐には裏がある?! リーダー格の超の不在を狙って、紅が海をそそのかす。全編を通じて心の奥底へ語りかけるような対話劇ゆえに、そのアプローチ方法は俳優が変われば自然と変わる。そこはWキャストの面白さ。紅についていうと、高垣さんはドラマティック、池田さんはリアリスティックな声の印象。それぞれの魅力で説得されてしまうような紅です。そして、とにかく歌も芝居も、おふたりの表現力が素晴らしい!


【文学的側面】


 李箱の詩は、発表当時、難解だ、異常だと、なかなか社会に受け入れられませんでした。確かに、一読しただけでは「何を意味しているのだろうか」と首をひねってしまいます。ただ、そこに李箱の人生というフィルターをかけると、その意味が浮かび上がってくるのです。本読み稽古では、その点についてじっくりとディスカッションをし、共通理解を深めていました。また、台本に書かれた言葉を実際に俳優の肉体を通して「音」にすることで見えてきたことも多々あるというのは、本読みを終えたこうめいさんの言葉。

 でも、李箱を知らなくても問題なし!李箱の言葉にインスピレーション受けて作られた作品ですが、あくまでも現代の日本で上演する価値のある作品に仕上がっています。もちろん李箱へのリスペクトも感じられるので、これを機に詩人・李箱を調べてみるのもアリ!

 ここから動きをつける立ち稽古、通し稽古と進むなかでの、発見、ひらめきが作品をさらに豊かにしていくことでしょう。


 と、作品の紹介をしてまいりましたが、気になる歌や芝居についてざっくばらんにレポートしますと(笑)。3人芝居、みなさんのお芝居や歌をこれでもかと堪能できます。なんて言うか、芝居は熱く、歌は歌いまくりです。緩やかに始まった曲でも、いきなりトップスピードへ展開していくような、「歌体力」をものすごく要するパワフルナンバーいっぱいです。2人、3人で声を重ねるナンバーでは、ソロ、ユニゾン、ハモりの波状攻撃(攻撃?!笑)……これは事件!というレベルのゾクゾク感。とにかく、歌声の圧がすごい!

 ちなみに男性キャストの配役ですが、「へぇ、そっちなんだ」と思ったのが正直なところ(笑)でしたが、これがまたイイんです。多面的なキャラクターですが端的にいうと、「圧」を感じさせる「超」に木暮さんと日野さんのW真一郎さん、「無垢」を感じさせる「海」が大山さんですので……。それぞれに新境地です。

 詩人・李箱が遺した詩も数多く登場する本作。彼の感性に触れる素敵な機会でもあります。 たとえばそのペンネーム「イサン(이상)」韓国語では“異常”も“理想”も「이상」なのです。このように彼が遺した作品・言葉には、掘れば掘るほどにたくさんの運命・真意が潜んでいるように感じられます(たとえそれが後の世を生きる私たちの後付けであったとしても、考えさせられる、そんな心をとらえる引力のある言葉たちです。作家にインスピレーションを与えるのにも納得!)。死後、韓国ではモダニズム文学の旗手として評価され、その功績をたたえた文学賞があるほどの詩人・李箱。アイデンティティ、祖国、言葉……、今の時代だからこそ響く李箱の言葉に、ミュージカル『SMOKE』で触れてみませんか。


ミュージカル『SMOKE』日本版初演、上演決定速報はこちら



【公演情報】
ミュージカル『SMOKE』
2018年10月4日(木)〜28日(日)@浅草九劇
※本公演は客席が舞台を四方囲みにするスタイルです。

全席指定:前売6800円(税込)/当日7300円(税込) 
一般発売:9月1日(土)
チケットぴあ

チケットぴあ店舗、セブン・イレブン、サークルK・サンクスでも直接販売
0570-02-9999 (Pコード:489-043)

<スタッフ>
上演台本・作詞・演出:菅野こうめい
音楽・演奏:伊藤靖浩

<キャスト>
日野真一郎・木暮真一郎(Wキャスト)/大山真志/高垣彩陽・池田有希子(Wキャスト)
※星取りはHPをご参照ください

公式HPはこちらから
公式ツイッター

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人

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