梅田芸術劇場が英国 チャリングクロス劇場と共同で演劇作品を企画・制作・上演する新規プロジェクトが始動! オフ・ウエストエンドで今最も注目を浴びているチャリングクロス劇場の芸術監督トム・サザーランド氏(『タイタニック』『グランドホテル』『パジャマゲーム』)総指揮のもと、日本とイギリスの共同で公演を企画・制作し、演出家と演出プランはそのままに、「英国キャスト版」と「日本キャスト版」を各国の劇場で上演する!そんな画期的なプロジェクトについて記者会見の場が設けられました。
ご登壇されたのは、トム・サザーランドさんと、このプロジェクトのキーパーソン!演出家の藤田俊太郎さんです。プロジェクトへの意気込みはもちろん、上演作品について、互いの仕事についてなど活気あふれる会見でした!
「将来にわたり、日本の演劇界にとって大きな一歩になるでしょう。
お二人の感性を信じて、公演の成功をサポートいたします」
村田プロデューサーの力強い言葉に期待が高まる会見場へ登場したお二人。
【ご挨拶】
トム・サザーランドさん
演劇は僕の人生のすべて。稽古場だけでなく、常に僕の人生にあるもの。ずっと演劇のことを考えています。一緒にお仕事をする人たちは家族。新しい人と新しい演劇を創るのが大好きです。
そして、このプロジェクトのスタートを嬉しく思います。『VIOLET』という作品で、藤田さんをロンドンにお招きできること、すでに待ちきれません!日本のみなさんが私にしてくれたように、あたたかくお迎えしたいと思います。
藤田俊太郎さん
梅田芸術劇場、チャリングクロス劇場の共同企画、『VIOLET』を演出できることを光栄に思います。(チャリングクロス劇場を訪れたとき)トムとマネージング・ディレクターのスティーブン・M・レヴィさんが作り出すクリエイティブな空間、歴史あるチャリングクロス劇場の空気に感銘を受けました。
この作品は、1960年代アメリカの公民権運動を背景としています。25歳の白人女性ヴァイオレットが生まれ故郷のノースカロライナからバスに乗って旅をする。道中、たくさんの人たちに出会う。人種を超えて格闘している人、これまで出会ってこなかった人々の価値観に触れ、彼女の心の中が少しずつ変化していくのです。
一方、現代に話を移すと、2017年以降に誕生したアメリカの政権が排他的な発言や人種差別的な発言を繰り返しています。つまり60年代以降の闘いをないがしろにしている。60年代を、一市民の目線で描いたこの作品は、今ならではの新しい価値を持ちます。また、素晴らしいアメリカにルーツを持つ音楽にあふれた作品でもあります。
ロンドンでの上演では、劇場そのものをヴァイオレットが乗るバスに仕立て、観客のみなさんには彼女とともに旅をしてもらおうと思っています。ロンドンでお会いしましょう。
【質疑】
──記念すべき1作目に本作を選んだ決め手は。サザーランド) まず、演劇として素晴らしい。世界共通で受ける作品は数少ないと思う。本作はその数少ない作品のひとつです。
また、チャリングクロス劇場はオフ・ウエストエンドの劇場、とても親密な空間なので、お客様が作品の一部になったような感覚が得られる劇場です。ぼくらはお客様がそう実感できる作品を求めており、『VIOLET』はまさにそう言う作品。作品の一部にならなくてはいけない作品なのです。音楽が(観客を)引き込むという効果も期待できるでしょう。
そして、現代にこそ必要な作品。しかも、アメリカのミュージカルをロンドンでプロデュース、日本人演出家がクリエイトする!今回の公演は、アメリカを舞台にしたストーリー(演劇)が、どんな文化も超越できることを証明することにもなるでしょう。
──藤田さんは本プロジェクトへの参加を即答されたとのこと。意気込みは。藤田) トムさん同様に、僕も演劇は人生の、生活のすべてです。チャレンジしたい、新しい場所、新しい人に出会いたいという“演劇的な体験”を一生続けていきたいと思っていますので、この野心的な企画に即答しました。
サザーランド) 私から一つ付け加えさせていただくと。
だからこそ、藤田さんに手掛けてほしいと思いました。僕も演出家、ほかの演出家に作品を渡すことは奇妙に見えるかもしれません。でも、本作に関しては、僕は藤田さん程良さを引き出せないと思う。藤田さんと、僕が普段ご一緒しているクリエイターとのコラボレーションは、より大きなインパクトを作りだすと信じています。僕がチケットを買う最初に人になるでしょう。
藤田) 私からも一つ付け加えさせていただくと(笑)。
僕自身、演劇に対して「演出家として自分がなにかをやってやろう」という野心より、良い作品を観たいし、作りたいという思いのほうが勝っています。そして、演劇・ミュージカル作品が、きちんと現代を映し出す鏡であるべきだと。そこでは国は関係なく、才能のある方に出会うことで演劇という鏡は、まだ僕が見たことのない新たな光を発してくれるかもしれないと、期待しています。
──トム・サザーランド演出の魅力は。藤田) 『タイタニック』は日本公演とロンドンでのツアー公演を観ました。演出は部分的には違いましたが、テーマは一貫していました。シンプルに言うと、観客がタイタニックと一緒に旅をしている。冒頭の場面、タイタニックの出航では、耳の感覚として観客があたかもその船を見送ったという視点を作っています。そこから、いつの間にか観客は一等席から三等席のタイタニックの乗客になっている。そして、ラストシーンでは沈没するタイタニックと生き残った乗客、両方の視点がお客様に委ねられる。
このようにタイタニックを通した様々な視点を体感できる。これは演出の力です。そこに感銘を受けました。ミュージカルを体験するということを導き出せる数少ない演出家でしょう。尊敬しています。
──藤田俊太郎演出の魅力。先日『ジャージー・ボーイズ』をご観劇されたとのことですが。サザーランド) 『ジャージー・ボーイズ』は、ブロードウェイ版もウェストエンド版も観ていたので、よく知っている作品。少なくとも知っていると思いこんでいました、藤田さんの日本版を観るまでは。不思議なことに、僕の母国語ではない言語で観たときに初めてきちんとストーリーが理解できたと感じました。それは藤田さんの手腕によるところが大きいです。
ロンドンのプロダクションは、フランキー・ヴァリとザ・フォー・シーズンズへのトリビュートという色が濃かった。日本版はアーティストが成長する過程を丁寧に描き、一見普通の、なんなら嫌なところもある普通の人たちの話でもあるのだと。そんな彼らが世界的にアイコニックなバンドになっていく姿、そこでの人間ドラマが印象的でした。
ぜひ藤田さんが演出したバージョンの『ジャージー・ボーイズ』が世界のたくさんの人の目に触れる機会があればと思っています。世界の演劇人たちが、日本の優れた演出家からたくさんのことを学べるでしょう。
──藤田さん抜擢の決め手は。サザーランド) 『VIOLET』の演出は時代や場所にとらわれず、人間に視点を置いてくれる演出家を必要としました。藤田さんは打ち合わせにおいて、物語の世界と私たちが暮らす現代世界のパラレルをたくさん指摘していました。同時に、本作が持つエンターテイメント性については、それは観客がメッセージ性を吸収するためにあるとおっしゃいました。それはとても難しいバランス。でも、『ジャージー・ボーイズ』もまた、時代・場所は具体的ですが、そこから人間ドラマを丁寧にくみ取っていたので、本作の演出家にピッタリだと思います。
また、『VIOLET』は旅をする人間の話。たどり着いた先にはきっと良いことが待っていると信じて旅をする物語です。藤田さんが知らない土地、ロンドンに来る、そのパラレルが生み出すものにも期待しています。
──日本公演について。藤田) 日本公演では、(ロンドン公演から)演出は変えます。でも、テーマや、ヴァイオレットとともに旅をするというアプローチは変わりません。それはあたかも僕がノースカロライナからオクラホマを旅したように。そこでアメリカという土地をルーツに持つ音楽が美しく抒情的に響いていくということも変わらないでしょう。
ただ、日本のお客様がスムーズに入り込めるための入口、「アメリカの60年代を演じる」という構造は冒頭とラストに作ろうと決めています。同時代を追体験できる、その仕掛けは作ります。
──いつかイギリスでと思っていらした? 藤田) はい。ロンドンだけでなく、どの場所でも演劇はできると思っているので、チャレンジしたいとは思っていました。やはり蜷川幸雄さんが、同じ精神、同じ作品で世界を周り、世界中で熱狂をもって迎え入れられている姿を目の当たりにしているので、自分が作った演劇もそのような形でたくさんのお客様に届くといいなという思いはずっと持っています。
ロンドンでのクリエイトは、これまで体験したことのないものが生まれるのではないかとワクワクしています。
──芸術監督として大切にしていること。本プロジェクトでの仕事について。サザーランド) 芸術監督としての責任は、「劇場の歴史を背負う」ということ。僕はウォルソールというイギリス中部の工業地帯で生まれました。演劇一家出身でもない僕の最初の演劇体験は、地元の劇場でのお芝居です。そこの芸術監督は、地元のお客さんをたくさん呼ぶための作品を作っていました。もちろん新しいお客さんを劇場にというだけでなく、新しい物語を提供していこうという方でした。その方が僕を迎え入れてくれたことに感謝しています。
それはつまり一人の演出家の力でなく、そこに芸術監督が居たから起こったこと。チャリングクロス劇場でも芸術監督として、僕がそのような作品をお客様に提供できればと思っています。年間7演目の中で、僕が演出するのは3、4本。ほかは、役者に演出をしてみたらとか、自身で作品を作ってみたらと提案しています。もしくは新しい戯曲、新しい楽曲を提供するように声をかけています。より良い作品を作りだすために、より良いコラボレーションを作りだすようにしています。そして今回に関しては、そこに僕の責任はある。この素晴らしいアーティストがロンドンに来たときに、必要なものがすべて揃っていて、すぐに仕事に取り掛かれる環境を作ることが仕事だと思っています。
互いの才能、仕事への信頼関係はすでにバッチリといった雰囲気のお二人。若き演劇人たちのコラボレーションが生み出す演劇作品への期待は高まるばかり。
そして、そんなお二人の代表作ともいえる2つのミュージカル『タイタニック』(トム・サザーランドさん演出)と『ジャージー・ボーイズ』(藤田俊太郎さん演出)が上演されている日本列島!!これ、すごくラッキーなことですね!作り出す世界、体感する演劇、深い深い演劇への愛情、もしかしたら求める俳優像も似ているようなお二人のこれからから、これからも目が離せません。
日本での公演はまだ先になりそうですが、ミュージカル『VIOLET』の登場人物は……
Violet(ヴァイオレット):25歳。幼い頃の事故により顔に大ケガを負う。強気な性格。治癒力を持つと噂のテレビ宣教師に会いに旅に出る。
ヤング ヴァイオレット:13歳の幼き日のヴァイオレット。
父親:ヴァイオレットの父親。ポーカーが得意。
Flick(フリック):黒人兵士。差別を受けている所をヴァイオレットに助けられる。
Monty(モンティ):白人兵士。途中休憩のキングスポートで偶然フリックと再会する。
【英国ロンドン公演】ミュージカル『VIOLET』
プレビュー:2019年1月14日(月)~20日(日) (しっかり長い!)
公演期間:2019年1月21日(月)~4月6日(土)@チャリングクロス劇場
劇場HP <スタッフ>
演出:藤田俊太郎
音楽:ジニーン・テソーリ
脚本・歌詞:ブライアン・クロウリー
原作:ドリス・ベッツ 『The Ugliest Pilgrim』
チャリングクロス劇場芸術監督:トム・サザーランド
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おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人