2016年12月の初演から約2年、オーストラリア大陸をバス(その名もプリシラ号!)で旅するドラァグクイーンたちが帰ってきました!ドラマの陰影がより一層はっきりくっきり。最高にパワーアップした
『プリシラ』再演、上演中です。
古屋敬多さん、陣内孝則さん、山崎育三郎さん、ユナクさん、宮本亜門さん(演出)
「衣裳を着ると『プリシラ』の世界に入って行ける。衣裳がひとつのスイッチです!僕一人でも、22着の衣裳があるんですよ!」(山崎育三郎さん) 悩み多きドラァグクイーンのティックに、別居中の妻マリオンから一本の電話が。自らが支配人を務めるカジノでドラァグクイーンのショーをしないかという提案。そして、まだ会ったことのない一人息子ベンジーにも対面してほしいと。父親として、ドラァグクイーンとして悩みながらも、砂漠の真ん中にあるカジノへ向かうティック。旅の仲間は、年上の誇り高きトランスジェンダーのバーナデットと若くヤンチャなゲイのアダム。まさに山あり谷あり!彼らがカラフルでパワフルな旅の果てに観る景色はいかに……。公開ゲネプロの様子をレポートいたします(Wキャストは古屋さん、SHUNさん、池田有希子さん、瀧澤拓未さん)
ティック(山崎育三郎さん)
冒頭のド派手なパペットショーからの、楽屋での素顔のティック。息子ベンジーの写真を見つめる父親としての顔と振り切れたパフォーマンスのギャップ、その狭間で揺れる思いが短いシーンに集約されていて、一気に物語の世界に引き込まれます。
アダム(古屋敬多さん/Wキャスト)を怪訝な面持ちで見つめるバーナデット(陣内孝則さん)
愛するパートナーを亡くし傷心のバーナデット(陣内孝則さん)を旅に誘ったティック。次に2人が向かった先では、イケイケの若手?!アダムが挑発的なショーの真っ最中。「なんなの、あれっ!!」早速、バーナデットとアダムのジェネレーションギャップ炸裂!「ドラァグクイーンたち」とまとめてしまいがちですが、ティック、バーナデット、アダムとそれぞれ価値観も美学も芸風も異なるのです。まさに多様性。もちろん、それぞれが抱える問題や葛藤もさまざま。
プリシラ号と名付けられたバスでの旅のスタート!
ふと気がつくと、ゴージャスなDIVAをはじめとするいろんな人が出てきて歌い踊る『プリシラ』。途中、オーストラリアのシンボルたちを次々に……なんてことも?!つまり何でもありなのですが、そこに違和感はこれっぽっちもない!ぐいぐい突き進む展開、そこでは音楽のパワーも実感!
笑って笑って、音楽やダンスにノリノリ~と思っていると、突如、ドラマは急展開。道中待ち受けるものは、楽しいことばかりではなく、差別や偏見によって傷つけられることも。
「名曲ばかりで、思い入れのある一曲を選ぶのは難しいですが。華やかで笑いもある作品のなかで、唯一3人が落ち込むシーン。そこで励まし合いながら歌う♪TRUE COLOURSは、何度歌ってもグッとこみ上げてくるものがあります。期待してください」(山崎育三郎さん)傷つきながらも、前を向き、励まし合って旅は進むのです。
転んでもただでは起きない!反発し合いながらも、心を寄り添わせていく3人。
ボブ(石坂勇さん)、シンシア(池田有希子さん/Wキャスト)
バスが故障して、立ち寄ることになった街でバーナデットに運命の出会いが!
歌唱もダンスもパワーアップしている中でも、ひときわ感じたのは芝居の深度!バーナデットの包み込むような愛、心の奥で愛を乞うアダムの孤独。違いを認め合い、互いを受け入れる過程は切なく美しい。
「コルセットを着けると、まるでボンレスハム状態。毎公演、死ぬ思いでやっています(笑)。その必死感を見にいらしてください」(陣内孝則さん)
「僕に無いものを古屋くんが持っていて、古屋くんに無いものを僕が持っているような(タイプの違う)2人のアダムですが、はっきりと言えることは、どちらのノリも半端ないです!!」(ユナクさん)
「登場人物たちが関わる、交わることでどんどん命が輝いていく。その姿、その過程を見るだけで、力が湧いてきます。それがこの作品の魅力です。“最近ちょっと元気がないな”、“朝、辛いな”という方も、ぜひ!待ってるわよ~」(古屋敬多さん)ティックは、ついに真の目的である息子との対面を果たす……
強烈な個性をもつ2人の仲間との対比で言うと、一見地味なキャラクターのように思えるティックですが、作品を貫く彼の物語をしっかりと見せる山崎さんの表現力と存在感!作品が、メッセージが、より骨太になっています。さらに、山崎ティックの弾けっぷりも半端ない。横っ飛びも!!
オーストラリアの大自然、それも砂漠のど真ん中にドラァグクイーンが3人。相容れないように思えますが、一緒に旅をしてきた観客の目には、とてもとても調和して見えるのです。完璧な自然と不完全な人間という存在。彼らの物語は、私たちの物語でもある。虚構の世界が、私たちの生活と地続きだと感じる。観劇の醍醐味がそこにあります!
「(初演からの)2年ちょっとで、社会の意識が変わりました。僕らの見る目、感覚も変わりました。それによって、この作品の台詞、言葉がこんなにも深い意味を持つんだということを稽古の中で実感しました。人間愛が満ちているこの作品を、時代の大きな変わり目に再び上演することができることを、本当にうれしく思います」(宮本亜門さん) “LGBTQ”、この言葉が認知される前の時代を舞台にした『プリシラ』。
社会の中の自分、自分の中の自分。
最後に3人の目に映る景色、彼らを通して客席でもそれを共有できた!自信を持ってそう言えます。登場人物たちはもちろん、ともに素敵な時間を過ごした客席の一人ひとりの人生に幸あらんことを願う、観劇後。それは宮本亜門さんがおっしゃっていた、この作品が持つ「メガ愛」の作用なのかもしれませんね。そのパワーで、より寛容な世界へ!
2019年の『プリシラ』は3月30日まで、日生劇場にて上演中です。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人