ミュージカル『SMOKE』取材会レポ~石井一孝さん・藤岡正明さん・彩吹真央さん~



 夭逝の詩人、李箱(イ・サン)の作品にインスパイアされて生まれた韓国創作ミュージ カル『SMOKE』。本国のみならず、昨年10月の日本版初演も、謎めいた展開と雄弁な音楽が観客を魅了し、ハマる人(=愛煙家)続出!

 本年6月に、劇場を浅草九劇から東京芸術劇場シアターウエストに移し、新たなバージョンでの上演が決定しました。さらに、7月からはオリジナルキャストを中心に九劇での再演も控える『SMOKE』、注目の作品です。


 先ごろ、6月のニューキャスト版『SMOKE』ご出演の、石井一孝さん藤岡正明さん彩吹真央さんの取材会が行われました。


ちなみに、気になる配役は……

詩を書く男<超(チョ)>石井一孝さん
海を描く者<海(ヘ)>藤岡正明さん
心を覗く者<紅(ホン)>彩吹真央さん


 楽曲の素晴らしさも印象的な本作、このキャストで!と思うとゾクゾクします。


【『SMOKE』の印象】

──まずは、現時点で抱いている『SMOKE』の印象から。


彩吹)
 私は昨年の九劇での公演を拝見しました。まず、『SMOKE』というタイトルがインパクトありますよね。どんなお話で何を感じるのだろうとワクワクして劇場に入ると、四方を客席が囲む舞台がそこに。とても密な空間でした。はじめは、何かインスピレーションを得ようという心持ちで観ていたのですが、次第にそれすら忘れてしまうほど『SMOKE』の世界観に没入していました。詩人・李箱(イ・サン)のことは知らなかったのですが、それでも作品の世界に深く入り込むことができたんです。物語を彩る音楽、照明やそれこそ“スモーク”を使った演出効果も素晴らしく、エンターテイメントとして堪能しました。とても贅沢な舞台作品だという印象を持ちました。




藤岡)
 台本を読んで感じたのは、いい意味でぶっ飛んでいる(笑)。1+1が2、3×4が12ではない世界っていうのかな。3×4が“1”だったり、なんなら“-5”になったりする、理屈じゃないことが起こりうる作品だと思いました。芸術ってそういうものなんだろうな。ただ「芸術」という言葉で括るのは危険性もあって、単に奇をてらっているだけなモノはシラケるんですよね、僕(笑)。でも、『SMOKE』には妙な説得力というのかな、これは本物だと思えたんです。




石井)
 この作品について調べるとだいたい「難解」というワードが出てきます。そして、資料や台本を読んでいると、なるほど難しい。でも、最初は監禁劇、ミステリー要素が色濃く、 その後明かされる真実……。これは素晴らしい着眼点ですよね。李箱という人物の哀しみや、彼が背負ってきた十字架、それがどうなるのだろうと惹きつけられました。そしてそれを解き明かすのが、この3人。トーマス(藤岡さん)だったらこう来るかな、ゆみちゃん(彩吹さん)の芝居だと、ここでグッとくるだろうなと想像しながら台本を読みました。さらに、僕の中では“いつでもガチンコ対決”という印象の菅野こうめいさんの熱い演出でどうなるのか。楽しみです!


【お互いの印象】



──これまでにもご共演経験があるみなさん、それぞれの印象は。

彩吹)
 マサ(藤岡さん)と初めて共演したのは、『Underground Parade』(アンパレ、2011年)。宝塚を卒業して、まだ一年にも満たない時期でしたね。「歌」を、こんなにも自在に歌うことができる人がいるんだ!その歌唱力に度肝を抜かれたというのが第一印象です。それは技術的なことだけでなく、心から発せられる歌声な んです。その後の、マサの出演舞台を観ていても、そのことを強く感じます。マサが温かい心を持っているからこそ、お芝居にもそれが表れるのだと思います。

 カズさんは熱い方。『ロコへ のバラード』(ロコ、初演2011年、再演2013年)でご一緒しましたが、どっしりとした木のような存在感、いつも頼らせていただいています。大黒柱ですね!今回も胸をお借りして、自由にお芝居ができることを嬉しく思いますし、そうありたいと思っています。 『SMOKE』ファンとして、お二人の<超>と<海>は「観たい!」と思います。だからこそ、私もしっかりと<紅>を務めたいと思います。


藤岡)
 ゆみさんは、従姉弟のお姉ちゃんみたい。普通に考えると宝塚のスターですよ。でもそういうのをたやすく越える優しさがある。稽古場でもそう。アンパレのときも色々思うところがあったと思うんですよ。中川晃教を筆頭に、自由な面々がいて、僕もすぐに(感情が)表に出てしまうタイプなので(笑)。そんな中にあっても、穏やかで、人のいいところ を見つけて関係を築いていかれる人でしたね。

 カズさんとは、お会いする前から周りの人に「石井一孝さんは、絶対、お前と(気が)合うから」 と言われていたんです。実際に会ったら、まさにその通り。


石井)
 音楽好きなところも似てるしね。

藤岡)
 そうなんですよ。それと、僕は自称ミュージカル界で3本の指に入るダンス下手。カズさんはそこでも仲間だと思っています(笑)。で、ダンスくらいは、カズさんより上手くありたいと思っています。


彩吹)
 ……カズさんのほうが上手いかも(笑)。


藤岡)
 え……(笑)。




一同)笑!!

藤岡)
 ダンスはさておき(笑)、カズさんはすごいバイタリティとオーラの持ち主、The Only One な存在。裏表もないし、派閥もないし、分け隔てなく明るい空気にしてくれる最高の大先輩です。


石井)
 嬉しいことを言ってくれるね。トーマスは、それこそミュージカル界はおろか、日本3位に入るくらいのボイスコントロール、歌唱力の持ち主。歌、音楽を愛する者として尊敬しています。

 トーマスと出会ったのは2005年の『レ・ミゼラブル』(レミゼ)、あれが初舞台だったんだよね。マリウス役で、「僕、上手く歩けないんですよ」と初舞台感満載だったね。でも、実は僕も初舞台の時そうだった。どうして普通に歩けないんだって(笑)。そこも似ているなと思っていたよ。そんな歩くのもままならなかったトーマスが、その後、舞台出演を重ねるにつれ、役者としてすごく成長していることを目の当たりにしてきて、「この人、本物だな」って。心で役を演じるんだよね。年下だけど、役者としてもシンガーとしても尊敬しています。

藤岡)
 ありがとうございます。


石井)
 ゆみちゃんとはロコだよね。本屋のダサイ店主が僕で、そこでの朗読会で朗読をする書 店員マリアがゆみちゃんという役どころでご一緒しました。俺が一方的に好きで好きでしょうがないんだけど、まったくかすりもしない。その名残があって、今でも目が合うと若干ドキドキする(笑)。それにしても変わらないよね。素のほわっとした感じと芝居に対する真摯な姿勢、出会ったころからブレナイ。信じられる人です。


【<超><海><紅>について】


──それぞれの役をどう捉えていますか。



彩吹)
  <紅>は多面性のある謎めいた役。今の段階で感じていることは、この役にはお客様をも包み込むような包容力が必要だということ。舞台では、俳優、“その人”が露わになります。彩吹真央の、もっと言えば本名の部分でも、一つステップアップして<紅>を表現できればと思っています。そのくらい、今の自分を越えていかなくては向き合えない役に挑戦できることは、私自身も楽しみです。




石井)
 <超>の印象は、“まるで砂漠のように潤いのない心”。そして、<超>は波乱含みな場面が多いんだよね。ずっと怒っているし。ただ、「怒り」にもいろいろとある。不遇な境遇、自らの作品を認めない世の中への嘆きや憤り、そこには不安もあっただろうと思う。それらが引き金となって表出する「怒り」を一本調子にならないように表現したい。あとは、僕一人がああしよう、こうしようと思ってもできないと思うんですよ。二人と話し合いながら、この3人のバランス、この3人でしか作れない<超>になるんじゃないかな。それは<紅>も<海>も同じ。



藤岡)
 <海>についてはまだはっきりとわからないのですが。僕、ときどきおかしなことを考 えるんです。宇宙のことや未来のこと。アンドロメダ銀河がどうだとか、いずれ宇宙が飲みこまれてブラックアウト……そこからまた始まるとか(笑)。そういう時間・空間のスケールでいうと、今ここに居るということや、目の前にあるペットボトルという物体は何なんだろうって。すべて現代、地球上でしか通用しない概念なんですよね。

 例えば「後世に残す」ということについても、僕も曲を作る人間、10代の頃は残したいと思っていましたが、今はむしろ逆、10年、20年残ったら嬉しいけど、数千年、数万年と いうスケールでは残っているほうがおかしいでしょ。結局、どこかで煙のように立ちのぼって消えていくんですよ。

 だから劇中にある「私が書いてきた多くの文章 燃やしてしまえば実体のないただの煙になって消えてしまう 見ることも、掴むこともできない……」と いう言葉に、作り手として共感しています。


石井)
 アーティスティックな発想だよね。

藤岡)
 そうなんですかね。



【ハマる作品】



──『SMOKE』は、韓国でも日本でも“ハマる”作品とも言われています。その辺りはどのようにとらえていますか。

石井)
 そうらしいんだよね。実際、知り合いにも韓国まで何度もこの作品を観に行っている人 がいて。その人が言うには「1回の『SMOKE』観劇で、1年分の涙が出る。そんな作品」。 いやぁ、そんなことを聞いちゃうと、ハードル高くなってね。でも、そこには何かがあるんだろうな。『SMOKE』ファンを“愛煙家”って言うらしいしね。

彩吹)
 最初に観たときに受ける印象も強烈ですが、おそらく観れば観るほど、その世界に入り込む感覚もあるんじゃないかと。あれはどういうことだったのだろう、そういうことだったのか……と、回を重ねるごとに新たな楽しさがある作品だと思うんです。そして、「一人じゃない」、「みんな一緒だよ」、そこに「共感」するのではないかと考えています。


藤岡)
 本当の文学作品。簡単には読み解けない、いやいやこれはまだ相当隠れているぞと思わされている段階でハマっているんでしょうね。そして、そこを解き明かしたくなる「情報」 が詰まっているんです。だからこそ舞台で、生のお芝居としてやることにとても意義があると思うんです。その日、そのときに思いがけず生まれたものが、大発見に繋がることもある。その可能性が高い作品。要するに底なし沼、だから多くの“愛煙家”を生み出すんでしょうね。



【音楽もより重厚に】



──『SMOKE』の魅力の一つである音楽について。感情に寄り添うピアノ一本から、今回 はピアノ、チェロ、ヴァイオリン、パーカッションという編成にバージョンアップ。これ は韓国でもやったことのないバージョンです。

彩吹)
 なんて贅沢なんでしょう。私が観たバージョン、ピアノ一本でも十分にこの作品の世界 観、3人の壮大なハーモニーが伝わってきました。密な空間で音楽のシャワーを浴びたような感覚。そこに重厚感が加われば……お二人の声に負けないものになりますよね。私も負けないように(笑)。ミュージカルの魅力は、台詞のように奏でる歌、音楽。『SMOKE』の音楽の世界に身を委ねて、身体や心からわき上がってくるものを自然に発することが役としての歌になると思っています。早く歌ってみたいですね!


石井)
 生々しい感情を生々しい音で表現している作曲家だという印象を持ちました。同時にピュアな感性も持ち合わせる。新しいバージョンに生まれ変わると聞き、楽しみが増しまし た。

藤岡)
 この3人でハーモニーも含めて奏でていくことになります。それが10人、20人にも負けないような厚みを持たせられるように、いいチームワークでやっていきたいと思います。



【おまけ:藤岡トーマス正明さんの由来】





藤岡)
 昔、レコード会社のスタッフに外国人の名前を付けるとしたら「トーマス」っぽいと言われていたんです。カズさんとレミゼでご一緒したとき、「なんて呼べばいい?あだ名とかないの?」と聞かれ、「マサ」は却下され(笑)、「トーマス」が採用されました。今では、カズさんしかそう呼ばないですが……。


石井)
 業界オンリーだよね!

彩吹)
 私も呼びましょうか。


石井)
 呼んであげて!

藤岡)
 いいっすよ、呼ばなくて(笑)。


 正直、最後までトーマス=藤岡さんに馴染めなかった取材班です(笑)。本当に初耳でした!

 それはさておき(笑)、石井さん、藤岡さん、彩吹さんの奏でる『SMOKE』がますます楽しみになる取材会でした。


【公演情報】
ミュージカル『SMOKE』
2019年6月6日(木)~16日(日)@東京芸術劇場シアターウエスト

<スタッフ>
上演台本・訳詞・演出:菅野こうめい

<キャスト>
石井一孝 藤岡正明 彩吹真央

おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・撮影・文) 監修:おけぴ管理人

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