若きバレリーナはスターへの階段を上り、老芸人は人生の舞台からそっと退く。
名曲エターナリーに乗せて紡がれる美しく切なく温かい物語。
進化した音楽劇『ライムライト』、連日お客様を魅了しています。
チャップリン晩年の傑作『ライムライト』を原作とするオリジナル音楽劇『ライムライト』が誕生したのは2015年。大盛況の初演から4年の年月を経て、チャップリン生誕130周年の年に、新キャストを迎えて待望の再演です。
1914年、戦争の影が忍び寄るロンドン。
かつて一世を風靡した道化師カルヴェロ、現在は落ちぶれて酒浸りの日々を送っていた。
カルヴェロ(石丸幹二さん)とフラットの大家オルソップ夫人(保坂知寿さん)
元舞台女優で衣裳係でもあったオルソップさんとの丁々発止のやり取りが笑いを誘います。
歯に衣着せぬもの言いのオルソップさんですが、そこに情も感じさせる保坂さんのコメディエンヌっぷりはさすがのひと言。なんだかんだ言って家賃を待ってあげちゃうんだろうなと思わせるのです。ただし待つだけで、いずれしっかり取りそうな、しっかり者(笑)。
ある日、カルヴェロは自殺を図ったバレリーナを助ける。彼女の名前はテリー。精神的な理由から足が動かなくなってしまったバレリーナ。その日からカルヴェロはテリーが再び舞台で踊れるように励まし、支える。
【カルヴェロの全盛期】
テリーを励ますために自らのことを語るカルヴェロ。かつて彼が人気者だったころの場面へ……。
劇場支配人のポスタント(吉野圭吾さん)
ポスタントさんもカルヴェロとは長い付き合い。プロの目で落ち目になったこともわかりつつも、カルヴェロは特別な存在。「カルヴェロだったら」「カルヴェロでも」彼の口からことある毎にその名前が出ることからも、それがうかがえます。ポスタントさんのキャリアの中でも、カルヴェロほどの道化師はいなかったのでしょうね。若き日に、わがまま放題のカルヴェロに相当面倒をかけられたことも含めて。
植本純米さん、矢崎広さん/カルヴェロの芸に観客も大喜び!!
矢崎さんが観客を演じる場面はほかにもあるのですが、対照的なその様子がとても残酷に映ります。人気の移ろい、芸人の宿命とでも言いましょうか。
【テリーの初恋】
カルヴェロがテリーを励ます日々を送る中、テリーの淡い初恋の話が語られます。思い出の世界が現実世界と交わって、幻想的で美しい世界が目の前に。
淡い恋心を抱いた相手はピアニストのネヴィル(矢崎広さん)
【舞台復帰】
カルヴェロの支えで舞台復帰したテリーはスターダンサーへの階段を駆け上がる。
テリーの復帰舞台はエンパイア劇場!
エンパイア劇場のバレエダンサー 舞城のどかさん、佐藤洋介さん
テリーを見つめるのは、劇場で楽団を率いる初恋の人ネヴィル。彼もまた音楽家として成功への道を歩み始めていたのです。
劇場で運命の再会を果たすテリーとネヴィル。ああ、なんて皮肉な展開……。カルヴェロに強力な恋敵が出現だわ!と思うのも束の間。
♪エターナリー/将来ある若きテリーのことを思い、カルヴェロは身を引くのです。
カルヴェロに背中を押され、舞台に羽ばたいていくテリー
ネヴィルに思いを打ち明けられるも、カルヴェロへの愛ゆえ拒むテリー
「カルヴェロを愛している」と言うテリー、その言葉に嘘はない、けれど……。ネヴィルを見つめるその瞳には。この複雑な心模様。繊細で誠実で、ちょっと頑固なテリーを実咲凜音さんが演じます。支え、支えられる関係の変化、同志愛にも似た関係を実直に表現されています。ネヴィルを演じるのは矢崎広さん。主人公の「恋敵」というと、イヤな奴と捉えられがちですが、このネヴィルという人がなんとも奥ゆかしいのです。カルヴェロやテリーもそうなのですが、見事なまでに相手のことを慮る青年なのです。
二人のキラメキ、若さは美しくもあり、ときに残酷でもあります。それでもやはり若さは希望。再演から登場のお二人が『ライムライト』に新しい風を吹き込んでいます!
【溢れる敬意】
吉野さん演じるポスタントさんにしても植本さん演じるボダリンクさんにしても、登場人物たちが、皆、相手への敬意を持っているのです。もちろんショービジネスの世界ですので冷徹なジャッジが下されることもある、辛辣な言葉を浴びせられることも。でも、人としての尊厳は守られているような。
それは同時に、上演台本の大野裕之さん、音楽・編曲の荻野清子さん、演出の荻田浩一さんをはじめとする、この作品に関わるみなさんの作品やチャップリンへの敬意にも繋がっているような気がします。物語の舞台となる時代、戦争へと突き進む世の中においての舞台人たちの生き様。そこでの葛藤が生み出す結束というようなところまで想像させる作品です。
【物語はクライマックスへ】
若い二人のために姿を消すカルヴェロ。テリーはそんなカルヴェロを探し回り、ようやく見つけ出す。「カルヴェロのための舞台をポスタント氏が企画しているから戻ってきてほしい」、テリーの説得に突き動かされ、再起をかけた舞台に挑むカルヴェロ……。
初演よりカルヴェロ役を務めるのは石丸幹二さん。「この『ライムライト』が日本で根付いていけるように頑張りたいと思っています」と語るように、舞台人としての悲哀、誇りがより色濃く表現され、再演での作品の深まりを強く感じます。酒に溺れ悪態をついていたカルヴェロが、テリーとの出会いによって再生し、やがて温かな眼差しで若者たちを見つめるようになる。その変遷がとても素敵。
1幕の演出も大きく変えられたというという再演、こうして作品が成長していくのもオリジナル作品ならではです。
公演は4月24日まで日比谷・シアタークリエにて。その後、大阪、福岡、愛知へと続きます。
若者は輝き、年老いた影は消える―
ライムライトは魔法の光。愛する君のため輝く光。【ライムライト】19世紀後半、舞台照明に使われた発光装置。転じて、名声・花形。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人