色鮮やかで瑞々しい!世田谷パブリックシアター『チック』観劇レポート

ドイツで生まれた少年たちのひと夏の冒険譚が帰ってきました。
シアタートラムで開幕した『チック』には劇場の、演劇の素敵が溢れています。



 ドイツ国内でミリオンセラーを誇るドイツ児童文学賞受賞小説「Tschick」(邦題「14歳、ぼくらの疾走:チックとマイク」 作:ヴォルフガング・ヘルンドルフ)を舞台化した『チック』。2011年の初演以来、ドイツ国内のいたるところで上演されている人気作の本邦初演は2017年8月。日本でも多くの観客の心に響いた『チック』が2年の年月を経てシアタートラムに帰ってきました。



左から:篠山輝信さん、柄本時生さん

 ベルリンに暮らす14歳の少年マイクは“めちゃくちゃ退屈な奴”と自嘲し、学校生活に閉塞感を感じていた。そんなマイクの生活はロシアからの移民で風変わりな転校生チックとの出会いをきっかけに一変する。「乗れよ」、2人はチックが無断で借りてきたオンボロ車ラダ・ニーヴァ(ロシアのSUV)で旅に出る!



【観劇レポート】

 


 『チック』はちょっと不思議な作品。形としてはユニークな仕掛けと観客の想像力で立ち上がる少年たちのロードムービー!みんなでラダ号(言い換えればシアター“トラム”号)に乗って、次は何が飛びだすのか、どんな景色が見えるのかとドキドキしながら旅をするような感覚。そして、よく劇場やホールを「箱」と言うことがありますが、それで言うならこの劇場はおもちゃ箱!そんな楽しさにあふれた作品ですが、それを楽しむ(大人である)自分は“童心にかえる”わけではないのです。14歳の少年たちを演じる柄本時生さん、篠山輝信さんも過剰に子供っぽく振る舞うことはなく、そこにあえて大人の俳優が演じる演劇の妙を感じます。

 ユニークな仕掛けについてはぜひ劇場で体感していただきたいのですが、一つだけ挙げるならスクリーン、天井(蓋)、水面……姿を変える一枚のパネルでしょうか。



左奥:大鷹明良さん  左から :那須佐代子さん、篠山輝信さん


 保護者的な目線で見始めたところから、気づけば同乗者となり、彼らと同じ景色を見ている。そんな引力のある舞台です。移民であるチック、アルコール依存症の母親と家族を顧みない父親が喧嘩ばかりしている家庭環境のマイク、彼らがおかれている状況は過酷なのですが、彼らの佇まいは悲劇の主人公、特別な誰かとは違う印象を受けます。彼らをとりまく問題は生活レベルというか、ずっとそれを抱えて暮らしてきたリアリティがあるのです。だからこそ14歳の彼らを、いわゆる中二病か……と冷めた目線で見つめる感覚は生まれません。時々、かわいいなと思うことはありますが(笑)。2人はドキッとするほど大人で、同時にドキッとするほど純粋なのです。そういう意味ではリアルに思春期。



左から:篠山輝信さん、那須佐代 子さん、大鷹明良さん、土井ケイトさん、柄本時生さん



 2人が旅で出会うのは児童文学ならではのなんともカラフルな人々。なにかドロッとした、でもメチャメチャ美味しい料理を振る舞ってくれた家族、ゴミ山で出会った素敵な少女イザ、戦争や移民の歴史を語るおじいさん、さらには豚や馬?! そんな人々との出会いと別れを繰り返して旅をするライブ感、フィクションの中の真実を感じながら進む物語。この物語の強さというのがこの作品の強さなのかもしれません。そんな物語を届けるのは5人の俳優(盆を回すのも俳優のみなさん!!)。初演も心を動かされた柄本さん、篠山さん、土井ケイトさん(『イザ』も楽しみ!)、大鷹明良さん(クイズ少年も最高!)のお芝居はより強度と自由度を増し、新たにマイクの母親を演じる那須佐代子さんの「それでも帰るべき場所」たる美しさと悲しさも印象的でした。




 初演もいいなと思った作品。やっぱりいいなと思うと同時に新鮮に感じるところもあります。こんなに鮮やかだったのか!こんなに瑞々しかったのか!それは当然お芝居が深められた、研ぎ澄まされたということが前提としてあるのでしょうが、それだけでなく自分が変わった、自分を取り巻く環境が変わったということもある。そんな今の自分自身とも化学反応を起こす作品です。2010年が舞台ということもありますが、セピア色でノスタルジックというより現在進行形で色鮮やかな2019年の『チック』の世界を体験してください。

 劇場からの帰り道、とてもありきたりでちょっと気恥ずかしいような言葉ですが「思いっきり生きてみよう!」そんな思い、エネルギーがむくむくと湧いてきました。忙しさの中で色彩と潤いを失いかけた日常……冒険の旅が必要だったのは自分だったことに気づいた、2019年7月17日の夕方5時。

 みなさんもひと夏の冒険の旅に出かけてみませんか!!




【手話通訳のご案内】



写真左は手話通訳者の米内山陽子さん

 以下の日程では基本舞台の下手端(舞台に向かって左)に、手話通訳者が立ち、進行に合わせて通訳を行います。

今後の対象公演:7/23(火)19時
手話通訳者:米内山陽子


 ほかにも聴覚障害をお持ちのお客様を対象とした、上演台本の貸出、聞こえにくい方のための音声サポート(要事前申込み・無料)も行っています。詳細は公演HPをご覧ください。


開幕ニュース~世田谷パブリックシアター『チック』開幕!プレビュー 初日コメント・舞台写真が届きました!関連公演『イザ ぼくの運命のひと/ PICTURES OF YOUR TRUE LOVE』演出家・出演者コメントも~はこちらから。

『チック』
【日程】2019年7月13日(土)~7月28日(日)
【会場】シアタートラム
【原作】ヴォルフガング・ヘルンドルフ【上演台本】ロベルト・コアル
【翻訳・演出】小山ゆうな
【出演】柄本時生 篠山輝信 土井ケイト 那須佐代子 大鷹明良

『イザ ぼくの運命のひと/ PICTURES OF YOUR TRUE LOVE』
【日程】2019年7月20日(土)18:00・21(日)18:00
【原作】ヴォルフガング・ヘルンドルフ【上演台本】ロベルト・コアル
【翻訳・演出】小山ゆうな
【音楽・演奏】国広和毅【出演】土井ケイト 亀田佳明

いずれも公演詳細はこちらをご覧ください

舞台写真提供:世田谷パブリックシアター
おけぴ取材班:chiaki 監修:おけぴ管理人

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