上質なオリジナルミュージカルを上演するTipTapの注目の新作は、激動の時代を鮮やかに生きたメキシコの女流画家の人生を描く『フリーダ・カーロ』。まさに創作真っ只中の稽古場の様子をレポートいたします。
彩吹真央さん
フリーダ・カーロ(1907-1954)は自らをキャンパスに描き込んだメキシコ現代絵画を代表する画家。通学時のバス事故で脊髄を損傷し、その大半を激痛と共に過ごしたフリーダの華々しくも痛々しい人生の証言者たちは彼女を取り巻く人々とフリーダ自身。そこから浮かび上がる“フリーダ・カーロ”とは──。
誰よりも生に執着しながら死を願った彼女がたどり着いた人生の終わり。死者の魂を迎える“死者の日”に彼女を迎え語り合う祝祭劇の幕が上がる。
この日はフリーダ曰く「自らの人生における2つの大きな事故の1つ目」、バス事故のシーンの振付が行われていました。音楽や歌詞を確認しながら動きを作り上げていくとてもエキサイティングな時間でした。
タイトルロールのフリーダ役は彩吹真央さん。生前に撮影されたフリーダのポートレートから放たれる彼女の強い意志、彩吹さんの真っ直ぐな視線にはすでにその片鱗が宿っています。
振付は美木マサオさん、まずはシーン全体でそこで表現したいイメージを共有、そして音楽や歌詞(台詞)との整合性をとりながら一人ひとりの動線を作っていきます。そこに「もうちょっと動きをつけたいな」「この人にはこの場所にいて欲しい」演出の上田一豪さんの意図も取入れながら細部を詰めて、俯瞰。修正し、細部を整えて俯瞰。その繰り返しでシーンが作られていきます。限られた人数、限られたスペースだからこその創意工夫で徐々にシーンが作りあげられ、そして原点ともいうべき“イメージ”に立ち戻る。ちなみにバス事故のシーンは“楽しい感じ”。
はじめはちょっとビックリしました。バスと列車の衝突事故ですから。ただそこからは悲劇を単に悲劇的なシーンとして描かないという作品を貫く意志を感じました。もちろん楽しさといっても、事故や怪我、命を軽んじているわけではありません。生と死の対比、楽しい日常からの転落、それでもなおエネルギー、パッションが漲るシーンに。これは死生観にも通じるところかもしれませんが、あくまでも祭りのようなワチャワチャした空気を作るということにハッとさせられました。死に向かう物語で生を描く。そんな本作を象徴するようなシーンになりそうです。
ここでメキシコの「死者の日」について少々。ラテンアメリカ諸国で祝われる行事で、日本のお盆のように死者の魂が戻る日であり、死者へ思い馳せ、思い出を語り合う日とされています。「死者の日」にはマリーゴールドの花が飾られるそうですが、死者とともに明るく笑う、死の捉え方がそこにも表れているようです。骸骨に対するイメージもちょっと違うようですよ!最近では映画『リメンバー・ミー』でも「死者の日」が描かれました。そうそう、あの映画にもフリーダ・カーロは登場しています。やはりメキシコを代表する人物なのですね。
田村良太さん
やや話が脱線しましたが、事故を起こすバスにフリーダとともに乗り込んだのは当時のボーイフレンド、アレハンドロ・ゴメス(田村良太さん)。この事故をきっかけに二人の関係も大きく変化していきます。
ほかにもフリーダと恋仲になったイサムノグチをはじめ、彼女の妹、医師、看護師といった人物が登場し、ときにバスの同乗者、ときに結婚式の参列者へと姿を変えてフリーダの人生を語ります。その中で気になるのは「歌手」という存在、演じるのはコリ伽路さん。彼女は一体何者なのか……、そこにミュージカル『フリーダ・カーロ』の面白さがあります。それは見てのお楽しみ!!
コリ伽路さん
魂の叫びのような力強さをもったドラマティックな歌声!
そして、みなさまお待たせいたしました!この日のお稽古の第一部(?)の締めくくりとしてオープニングからおさらいタイムです。舞台中央のベッドに横たわるフリーダ。それを囲むようにゆかりのある人々が彼女について語りだす。口火を切るのはソビエト連邦(現ロシア)からの亡命した革命家のレフ・トロツキー(石川禅さん)、そしてフリーダの傍らにいるのは…夫のディエゴ・リベラ(今井清隆さん)。
石川禅さん
今井清隆さん
お二人の佇まい、語り、歌声……その存在感、重厚感が凄まじい。そんな大黒柱が2本という贅沢感!しかも小劇場って、これは事件!事件!
ここまでのお写真にも、舞台後方で佇むトロツキーやディエゴの姿が写っています。本番でも登場人物たちはそれぞれの立場、目線で常に舞台上で繰り広げられるフリーダのドラマを見守るとのこと(平たく言えば出ずっぱり!)。皆で彼女の人生を形作っていく作品になりそうです!
上田さん書き下ろしの戯曲の持つ力強さ、そこで描かれる内なる/表出するパッションといったラテンの気質はどうしても我々のそれとは隔たりがあるように感じられます。そこに挑む上で大きな力となるのが音楽。とにかく小澤時史さんによる音楽がカッコイイ!実力派キャストによる歌唱も、芝居の中で演奏されるBGMも多彩でキャッチーです。
数多くの男たちと浮名を流したフリーダ、その奔放とも言える“性”の裏にある苦しみ、葛藤。フリーダの激しい生涯を舞台上で生き抜くことは彩吹さんにとっても大きな挑戦となるでしょう。でも、お稽古場からすでにすごくイイ予感!大地からの力を漲らせ、高らかにその人生を謳いあげる彩吹さんのフリーダを想像するとワクワクします。彼女の人生の出来事だけを取り出すとかなりヘビーなものになりそうですが、それを祝祭劇として届ける上田さんの演出手腕にも大いに期待!
上田一豪さん(作・演出)
この日は振付がメインでしたので、まだ芝居で、役としてという表情ではございませんがキャストのみなさんをご紹介。みなさん、歌にダンスに八面六臂の活躍です!!
遠山裕介さん
麻尋えりかさん
上野聖太さん
田宮華苗さん
八尋由貴さん
ディエゴとの出会いのシーンはフリーダのオチャメな一面も!!
【お稽古第二部?!】
カッコイイ!
この日は通常のお稽古の後にエクストラレッスンが!ラテンのステップを学びます。先生はミュージカル『オン・ユア・フィート』(2018年東宝 演出:上田一豪さん)にもご出演されていた高橋莉瑚さん。競技ダンス(現役・日本学生チャンピオン、台北オープン・学生の部 優勝(アジアNo1.)ほか)で現役バリバリで活躍中の高橋さんのラテンの基本講座で稽古場はラテンの風と熱気に包まれる!
ちなみにラテンのステップ。ラテン風となると、ついつい手振りになってしまいがちですがそれは違うとのこと。むしろ足から、大地のエナジーを吸い上げるような形が理想。手の位置も高すぎると幼い印象を与えるので、低めにすることで大人っぽくなる。実演を交えての解説に、キャストのみなさんも「なるほど~」!
「しっかりと見つめ合ってくださいね!」(高橋さん)
「え!目を見るの!!」(今井さん)
いい感じ!
基本的にロシア人トロツキーを演じる石川さんですが、あるシーンではメキシコ人を演じるとか。ぜひそこでラテンな石川禅さんをご堪能できるかと!
「もうちょっと試したい!」「ここをもっと効果的に」という粘り強いお稽古の後、ちょっと申し訳なさそうに「じゃあこれから最初からここまでを通して……」と言う上田さんに、石川さんは「よし!もう一回やっておこう!やっておいたほうがいいよ!」と率先してカンパニーを奮い立たせます。バスのシーンではあまり多くの出番はなく待ちが長かった今井さんもあの美声で「僕のことは気にしないで!みんなのシーンをずっとやっていてもいいよ(笑)。(ディエゴ同様に)ここで見守っているから」と。ユーモアを交えて稽古場を明るくするベテランお二人の献身。それが若い劇団TipTapへもたらすものは非常に大きい!
もちろんこの方の存在も!ステップレッスンも真剣そのもの。しかも飲みこみ早過ぎ~な彩吹さん。稽古も本番もほぼ出ずっぱりで台詞も歌もボリュームたっぷりの彩吹さんは稽古へ臨む姿勢、そのパフォーマンスで引っ張ります。本作のお稽古に入る前、メキシコへ足を運びフリーダの生家であり終の棲家となった通称「青い家」(現在はフリーダ・カーロ記念館として公開)を訪れた彩吹さん。コミュニケーションの距離感など、実際に現地で、肌で感じたメキシコの風土、人々の気質についてカンパニーで共有することも。
先生の動きに歓声が上がります!
みなさん次第にノリノリに!!この大地のエネルギー、そこから生まれる生命力というのはダンスやステップのみならず、芝居面でも大きなヒントになりそうですね。
ミュージカル『フリーダ・カーロ』は8月1日より六本木トリコロールシアターにて上演。チケット完売となっておりましたが、8月6日19時の追加公演はチケット受付中(7/25現在)です♪チャンス!
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人