ミュージカル『ラ・マンチャの男』2019 オケ付き通し稽古レポ~遍歴の旅が始まる~



「夢とは、夢を叶えようとする、その人の心意気だ」(松本白鸚)




 松本白鸚さんが追い求める“見果てぬ夢”、1969年の日本初演からついに50年!昭和、平成、そして令和を駆け抜ける遍歴の旅はいよいよクライマックスへ──。

 9月7日、大阪フェスティバルホールでの開幕を前に、ミュージカル『ラ・マンチャの男』オケ付き通し稽古の様子を取材して参りました。圧倒的な戯曲と音楽の力。芝居と音楽の融合というミュージカルの魅力がギュギュっと詰まった作品であることを再確認。その魅力は、日本初演から50年を経た今も色あせないどころかより輝きを増しています。





 稽古場には八百屋舞台(近くで見ると思っていたより傾斜が!)が組まれ、その前方にオーケストラのみなさん。本番では上手・下手の舞台袖へ配置されるオケのみなさんがこの日は一体となって音楽を奏でます。


【オーバーチュアが吹かせるスペインの風】


 各人が持ち場につき、いよいよスタート。
 幕開きはフラメンコギターのスペシャリスト、ギター弾き役のICCOUさんのギター、そして足を踏み鳴らすフラメンコのステップ。一気にスペインの風が吹きます。そこからメロディアスに♪ラ・マンチャの男のメロディが……やがて様々な楽器の音色が加わり勇壮になっていきます。続いてはコントラバスの豊かな音色がリズムを刻み牧歌的な印象を残す♪ドルシネア。そこからカスタネットの小気味よいリズムで始まる♪同じことさ、そして♪見果てぬ夢が奏でられます。このオーバーチュアですっかり魅了されたおけぴスタッフ。

 しかし、本編はこれから!ここから喜寿にしてこの大役に挑む松本白鸚さんの言葉、姿に漲る力に圧倒されるのです。


ちなみにちょっと変わったラ・マンチャのオケ編成については音楽監督・指揮の塩田明弘さんのブログに解説が!上手下手に分かれたオケ配置についても。


【投獄されたセルバンテスの申し開きの即興劇、主人公は「人呼んでラ・マンチャのドン・キホーテ!」】


 そこはセビリアの牢獄。教会を侮辱した罪で宗教裁判にかけられる詩人セルバンテス(松本白鸚さん)が従僕(駒田一さん)共々投獄されようとしている。牢内で彼らを待っていたのは囚人たちの手荒な歓迎。彼らを諫め、セルバンテスを詰問、裁判を開こうと言いだしたのは牢名主(上條恒彦さん)。

 そうして始まった牢獄の裁判で、セルバンテスは申し開きの即興劇を提案、役者は囚人たち!牢名主を筆頭に囚人たちもその提案に乗って……。劇中劇の始まり始まり~。



眉を付けて、髭を付けて、髪をくしゅくしゅと立ち上げて……板の上でセルバンテスがキハーナ老人に変化します。
見てください、この表情!セルバンテスの、キハーナの、キホーテの、そして白鸚さんのチャーミングな魅力が人々を感化させていくのです。そこにはもちろん観客も含まれます。


 ここまではガッツリ芝居。セルバンテスはまずは身を守るためのユーモアを交えながら必死の説得をし、牢名主や囚人たちはいぶかしげに見つめつつ次第にやる気に。この台詞のキャッチボールから、いよいよ芝居へと入るときに音楽が始まります。その音楽(リズム)をバックに「さて皆様、……」と、これから始まる劇の前口上のような語りが始まるのです。セルバンテスが扮するのは田舎の郷士アロンソ・キハーナ。キハーナ老人は騎士道物語の読み過ぎで妄想にとりつかれ、自らを遍歴の騎士と呼び悪を亡ぼす旅に出る(周囲の人はキハーナを狂人と呼ぶ)。次第に語りにも音楽にも調子が出てきて、「人呼んで、ラ・マンチャのドン・キホーテ!」というところで歌唱に突入するのです。(♪ラ・マンチャの男)



出発!


旅のお供はサンチョ!ことわざが詰まった(らしい)お腹はパンパン!旦那様が大好きな愛くるしいサンチョです。

 もう、この一連の白鸚さんの歌うように語りかけ、語りかけるように歌う滑らかな流れがたまらない!囚人たち同様に観客もまたこの時点ですっかりセルバンテスのペースに乗せられている。みなさんもこの旅の目撃者、いや同行者です!


本作には1995年よりご出演の駒田一さんインタビューはこちらから。荒くれ者のラバ追い、床屋、そしてサンチョ!


【旅の途中で出会う人々】


 こうして旅に出たキホーテとお供のサンチョ、途中立ち寄った宿屋でキホーテは一人の女性に出会います。彼女はあばずれ女のアルドンザ(瀬奈じゅんさん)、しかしキホーテは彼女こそ“麗しき姫ドルシネア”だと言う。憧れの姫への思いを伝えるキホーテの言葉が頑なだった彼女の心に変化をもたらすが……。




今年の公演で初めてアルドンザを演じるのは瀬奈じゅんさん。人生への虚無感を漂わせながらも、過酷な毎日を生き抜いてきた確かな強さも持ち合わせたアルドンザ。激しい芝居と同時に次第に変化していく心情の細やかな芝居も求められる大役、瀬奈さんの新しい顔、新しい声に出会える本作!



牢名主(上條恒彦さん)は劇中劇で宿屋の主人(キホーテにとっては城の城主)という役に扮し、キホーテに騎士の称号を授与する大役も担います。
牢名主の懐の深さ、セルバンテスの話に耳を傾け申し開きの機会を与える要となる役をベテラン上條さんが達観した佇まいと独特の軽妙さで魅せます。宿屋の主人と奥方の関係もクスッ。


床屋(祖父江進さん)の髭剃り用の洗面器を黄金の兜だと信じるキハーナ。兜をかぶせているのはキハーナを連れ戻そうと彼が住む町から追ってきた神父(石鍋多加史さん)。
ここでの大合唱は迫力満点!

 アルドンザをはじめ、周りの人々を感化させていくキホーテの言葉。白鸚さんの心に届く台詞にはその説得力があるのです。ゆえに劇中劇の登場人物だけでなく、その役に扮した囚人たちの心をも動かしていくことにも納得。ただし、ある男を除いて。


【キハーナ老人の周囲の人々】




セルバンテスを、キハーナを受け入れない牢獄で公爵と呼ばれる男が演じるのは精神科医カラスコ博士(宮川浩さん)。単なる敵役ではなく、キハーナが夢を追い求める男ならカラスコは現実を見つめる男。己の思想を持った男です。囚人のキャラクターと劇中劇での役のキャラクターがリンクしているのです。ラストのアイコンタクトまで、セルバンテスとの関係からは目が離せません。



キハーナの姪でカラスコの許嫁のアントニア(松原凜子さん)は彼が正気に戻ることを切に願う女性。♪あの方の事を考えてばかり では美しい歌声を聞かせてくれます。あまりに美しいメロディに、かえって「え?本当にそれだけ?」とも思わせますが、彼女の願いはいろんな意味で本物。世間体なども考える現実を生きる女性です。家政婦(荒井洸子さん)との掛け合い、ハーモニーもお楽しみに!


【想像力が物語を立ち上げる】



 宿屋には荒くれ者のラバ追いたちが。彼らとの格闘場面の表現にはリアルなアクションだけでなくダンス(振り)や音楽、観客の想像力でシーンを構築していく演劇の妙があります。物語を立ち上げる、最後のピースはみなさんの想像力なのです!


【最後にもう一つ!ここがタマラナイ!】


 騎士の称号を与えられることになったキホーテは夕食を辞してその時に備える。そんな妄想の世界でキホーテとして生きるキハーナを見て神父が歌う♪自分だけのドルシネア に合わせ、語ることも歌うこともなくその姿、佇まい、所作でキホーテの騎士としての誇りを表現する白鸚さん。ある種、様式美的なその表現は白鸚さんだからこそ。その後、ギターの調べに乗せて語られる「人生の息吹を深く吸い込んで いかに生きるべきかを考える……」に続く東宝演劇部Twitterの「ミュージカル『ラ・マンチャの男』より、時代を超越して今こそ胸に迫る名場面【6】」の言葉。取材中もメモを取る手が震えるほど心に響きました。やっぱりミュージカル『ラ・マンチャの男』は人生のカンフル剤!!


ほかにも心を奮い立たせる言葉満載の本作、公式ホームページでも宝石のような素敵な台詞の数々が紹介されています。




見果てぬ夢とは、そして真実とは───。

 2019年10月19日(土)17時開演の部にて通算上演回数1,300回を達成する松本白鸚さんの『ラ・マンチャの男』、まもなく開幕です。


【『ラ・マンチャの男』稽古場ダイジェスト映像】



【プチ解説】


 難しいと言われる『ラ・マンチャの男』ですが、簡単に説明すると本作は小説「ドン・キホーテ」の作者セルバンテスの物語です(もちろんそこにはデール・ワッサーマンによる創作も含まれています)。宗教裁判にかけられるために投獄されたセルバンテスの荷物には芝居の小道具とともに書きかけの原稿があります。囚人たちを役者にして牢獄で即興劇を行うことになったセルバンテス。その劇となるのはその原稿。

 そんな囚人たちの即興劇のなかで、セルバンテスは田舎の郷士アロンソ・キハーナという老人を演じます。キハーナは自らを何世紀も前に姿を消した遍歴の騎士ドン・キホーテだと思いこんでいる。こうして大魔王を倒す!ドン・キホーテの旅が始まるのです。

 ドン・キホーテの旅、つまり劇中劇が終わるといよいよセルバンテスは宗教裁判所へ連行されます。(そこでの牢名主とのやり取りは非常にグッとくるのですが、それはぜひ劇場で) 牢獄を去るセルバンテスが傍らに携えているのは、あの書きかけの脚本。それこそがのちにスペインの国民的小説にして世界中で読まれることになる小説「ドン・キホーテ」───。



【公演情報】
ミュージカル『ラ・マンチャの男』
東京公演 2019年10月4日(金)~27日(日)@帝国劇場

大阪公演 2019年9月7日(土)~12日(木)@フェスティバルホール
宮城公演 2019年9月21日(土)~23日(月)@東京エレクトロンホール宮城
愛知公演 2019年9月27日(金)~29日(日)@愛知県芸術劇場大ホール

詳細は公演HPをご覧ください

<キャスト>
松本白鸚(セルバンテス/ドン・キホーテ)

瀬奈じゅん(アルドンザ)

駒田 一(サンチョ)/松原凜子(アントニア)/石鍋多加史(神父)/
荒井洸子(家政婦)/祖父江進(床屋)/大塚雅夫(ペドロ)/白木美貴子(マリア)宮川 浩(カラスコ)/上條恒彦(牢名主)

隊長: 鈴木良一/ギター弾き: ICCOU/ムーア人の娘: 真田慶子/フェルミナ:北川理恵
美濃良/山本真裕/小川善太郎/山本直輝/宮河愛一郎/照井裕隆/市川裕之/佐々木誠/
斉藤義洋/下道純一/楢原じゅんや/宮川智之/北村圭吾/飯田一徳/堀部佑介/齋藤信吾/
高木勇次朗/島田連矢/大塚紫文/髙田実那

<スタッフ>
演出:松本白鸚
脚本:デール・ワッサーマン 作詞:ジョオ・ダリオン 音楽:ミッチ・リー 
訳:森 岩雄、高田蓉子 訳詞:福井 崚 振付・演出:エディ・ロール(日本初演)
演出スーパーバイザー:宮崎紀夫 プロデューサー:齋藤安彦、塚田淳一

振付:森田守恒 装置:田中直樹 照明:吉井澄雄 音響設計:本間俊哉 衣裳協力:桜井久美
音楽監督・歌唱指導:山口琇也 音楽監督・指揮:塩田明弘 歌唱指導:櫻井直樹
振付助手:萩原季里、大塚雅夫 演出助手:坂本聖子 舞台監督:菅田幸夫 制作助手:村上奈実

おけぴ取材班:chiaki(文) 監修:おけぴ管理人

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