【後編・木下晴香さん編】ミュージカル『アナスタシア』アーニャ役インタビュー


 2020年3月・4月に、東京・東急シアターオーブと大阪・梅田芸術劇場メインホールにて上演されるミュージカル『アナスタシア』。ブロードウェイからクリエイティブチームが来日し日本キャストとともに舞台を作り上げる話題作にダブルキャストで主演するのは、映像作品そしてミュージカル作品でそれぞれに活躍する葵わかなさんと木下晴香さんです。

 記憶をなくした少女アーニャ役への思い。そして日本初演作品への思いは? 【前編・葵わかなさん編】に続き、木下晴香さんにお話を聞きました。








11月からミュージカル『ファントム』にクリスティーヌ役で出演。今年6月に公開されたディズニー実写映画『アラジン』ではジャスミン役の吹き替えにも挑戦。表現力豊かな歌声と落ち着いた佇まいで大作のヒロイン役が続く【木下晴香さん】。


──いまの時点で木下さんが考えているアーニャ像から教えてください。

 “逞しい”という言葉がぴったりの女性です。記憶をなくし、ひとりで生き延びるためにさまざまな経験をしてきた女の子。地に足をつけた強さがあります。アーニャの強さと逞しさ、これはわかなちゃん(葵わかなさん)との共通見解なのですが、もうひとつ私が挙げるとするなら、彼女はすごく明るい子だということ。オーディション用の台本のなかにも、私だったらこの場面でこのセリフは言えないなと思う箇所がありました。別に素の私が暗いというわけではないのですが(笑)、アーニャは私が考えるよりも明るい子なのかなと。オーディションでも演出家から何度も「もっと明るく! これは楽しいセリフなんだよ」と言われました。稽古でも“アーニャの明るさ”を軸に持って私が思うよりさらにテンションを高く上げて向き合おうと思っています。


──本国クリエイティブチームが来日してのオーディションはいかがでしたか?

 まるでワークショップのように細かいアドバイスがあり、演出をつけていただくかたちでのオーディションでした。私が演出家から言われたのはやはり「明るさ」の表現について。日本人の感性──というか私の個人的な解釈かもしれませんが、言葉の意味をしみじみと深く受け取って返しそうなセリフでも、アーニャはポンッと受け取ってそのまま素直にポンッと返すんです。深く考える回路がないというわけではないと思いますが(笑)、人生経験が豊富でしっかりとブレない自分を持っているからこそ、言われたことにすぐにレスポンスができる子なんだと捉えています。


──歌唱についてはいかがでしたか?

 クリエイティブチームから発声方法に関して細かいリクエストがありました。「アーニャのこれまでの生き方があるからこそ、歌声も力強くあってほしい」と、いつもなら裏声やミックスボイスを使うところも胸に響かせるチェストボイスでとオーダーされて。オーディションの時点でここまで細かく歌唱法についてリクエストされるのは初めての経験だったので、歌いながらハラハラしました(笑)。でも新しいことに挑戦できるという意味で、私いますごく燃えています!



──現時点で感じている『アナスタシア』の楽曲の魅力について教えてください。

 アーニャのソロナンバーは1曲のなかに深い物語性があるのが特徴です。歌うことでストーリーを運ぶ、それだけのパワーがある楽曲。歌い始めから徐々に盛り上がっていき最後はロングトーンで気持ちよく終わるので、初めて聴いたときは「ああ、これ歌えたらすごく気持ちがいいだろうな」と他人事のように思っていたのですが、いざ実際に歌うとなるとドラマを感じさせるためのパワーが必要になる大変な曲でした(笑)。でもこうしてアーニャ役を演じる機会をいただけたので、自分が初めて聴いたときの湧き上がってくるような感情を日本のお客さまにも届けたいと思っています。


──アーニャ役に決まったときの感想は?

 率直にとにかく嬉しかったです! デビューしてさまざまな経験をさせていただき、節目ごとに新しい目標ができるのですが、そのなかでも「日本初演作品に関わる」「主演をつとめる」このふたつは特に強く願っていました。その願いが叶って「これって運命かな」と『アナスタシア』という作品とアーニャ役に強い縁を感じています。



──デビュー以来さまざまな作品でヒロインをつとめていらっしゃいますが、今回はなんといってもタイトルロール、広い劇場の真ん中にひとりで立つことになります。

 『モーツァルト!』でもひとりでステージに立つソロナンバーがあったのですが、舞台稽古で袖から出た途端に恐ろしくなってしまって…。楽曲の難しさもありましたが、なによりあの大きな空間を自分ひとりで埋めなくてはならないこと、すべての視線が私だけに集まることに圧倒されて、縮こまってしまったんです。でも演じていくうちにそれが気持ちいいと思える瞬間があって──、演じる自分が自信を持って舞台に立たないと空間が広がらないし、声も思いも遠くまで届かないんですよね。それに気がついてからはポジティブに考えられるようになり、舞台の上でやりたいことができるようになりました。今回もひとりで舞台上に立って歌ったり、空間を広げたりすることにはワクワクしています。もちろん『アナスタシア』には『アナスタシア』の壁、課題が出てくると思いますが、なんとか乗り越えて、ひとりでも迫力のある舞台での姿をお客さまにお見せしたいです。


──『ロミオ&ジュリエット』のジュリエット役トリプルキャストに引き続き、葵わかなさんとのダブルキャストです。同じ役を演じてきた木下さんだからこそ知る葵さんの意外な一面があれば教えてください。

 みなさんが持っているわかなちゃんのイメージってどんな感じでしょうか。私は最初は「物怖じしない、自分をしっかりと持っている人」という、それこそアーニャに近いイメージを持っていたのですが、実際の彼女はけっこう“気にしい”なところもある繊細な人。周りのことをよく見ている人でもあります。稽古場でも自分の役だけではなく、作品全体のことを見て、考えている。そういう意味では日本初演作で彼女がダブルキャストでいてくれるのはとても心強いです。あと…これは言っていいのかな? 意外と寂しがりやなんですよ(笑)。私も寂しがりなので、お互いにすぐに連絡を取り合って、プライベートで会う頻度がすごく高いんです。『アナスタシア』の話もしています。オーディションで感じたこととか、役について考えたこととか。彼女は自分の意見をしっかりと持っている人なので、本国クリエイティブチームからの要求に対して感じたことも率直に話してくれました。私は一度全てを受け入れてしまって、実際にやってみて違和感があったら直していくタイプ。彼女は違和感の原因を解決してから演じるタイプなんです。今回もクリエイティブチームのアドバイスをリスペクトしつつ、日本キャストだからこそ表現できるセンシティブな部分を大切にしたいと話していて、なるほどなあと。役者として確固たる信念を持っている彼女と、柔軟…すぎるかもしれない私と(笑)、真逆のタイプだからこそ、お互いに意見を交わし合って切磋琢磨していけそうだなと思っています。



──その他の共演者のみなさんも新鮮な顔ぶれですね。

 わかなちゃんと遠山(裕介)さん以外ほとんど「はじめまして」の方ばかりです。実はデビュー前、まだ佐賀の高校に通っていた頃に博多座で『レディ・ベス』を観たのですが、その公演と一緒に開催されたミュージカル講座の講師が石川禅さんだったんです。お話を聞きながら「いつか一緒に同じ舞台に立ちたいな」と夢を思い描いていました。今回ご一緒できたので「あのときの講義を聞いていました!」とお伝えするのが今から楽しみです。その他のみなさんも個性的な方ばかり。アーニャはどの役とも濃密に関わるんですよね…ディミトリ(海宝直人さん、相葉裕樹さん、内海啓貴さん)とのデュエットもあるし、おばあさま(マリア皇太后/麻実れいさん)との濃い芝居の絡みもあるし、グレブ(山本耕史さん、堂珍嘉邦さん、遠山裕介さん)とも対峙するし…ワーオ!(笑) どの場面も楽しみです!


──早く演じてみたい場面や、着るのが楽しみな衣裳は?

 (チラシを見ながら)この青いドレス、早く着てみたいです。お姫様のようなドレスはやっぱり憧れです。でもこのタイトなシルエット、着こなせるかな…? 稽古が待ち遠しい場面はたくさんありますが、特におばあさまとの最後のやりとりはとてもいいシーンなので楽しみです。それからディミトリとのデュエットも早く歌ってみたい。歌声を重ねて感じることもありますし、なにより声の響きが重なったときの気持ちよさってすごいものがあるんです。(ディミトリ役の)お三方と声を合わせるのが今から楽しみです。


──最後に改めて、日本初演作に主演することについての思いを。

 作品の真ん中に立つ覚悟、これは初めての経験になると思います。今までヒロインを演じさせていただく機会はありましたが、どんな作品でも座長の背中はすごく広くて頼りがいがあって…「ついていきます!」と思っていました。この『アナスタシア』では素晴らしい先輩方に助けていただきながら、最後には「私がアーニャです!」と舞台に出ていくことになりますので、演じ終えた後に誇りを持ってカーテンコールに出ていけるよう努力をしていきたいと思います。プレッシャーはもちろんありますが、それを乗り越えた姿をぜひ劇場に見にいらしてください。






 オリジナル版演出は『紳士のための愛と殺人の手引き』でトニー賞最優秀演出家賞を受賞したダルコ・トレスニャク。『蜘蛛女のキス』などで知られる大御所テレンス・マクナリーが脚本を手がけ、アニメ映画版『アナスタシア』でアカデミー賞にノミネートされたコンビによる新曲も多数追加されるミュージカル『アナスタシア』。

 まさにいまのブロードウェイがつまったクリエイティブチームがそのまま来日する日本版公演で、若き主演ダブルキャストのおふたりがどんな姿を見せてくれるのか。来年春の開幕を楽しみに待ちましょう!

 
公演メイキング動画が公演公式サイトにて公開されています


♪取材こぼれ話
作品の役作りのために手に入る資料などを「参照するほう」だという木下さん。「ロミジュリだったらシェイクスピアの原典、M!だったら実在の人物なので家族構成や歴史を調べたりします。アナスタシアも実在の人物ですし、一家のなかでひとりだけ生き延びていたというアナスタシア伝説も本当にあった噂でロマンがありますよね。アニメ版も稽古に入るまでにあと何回か観ると思います!」とのこと。資料などを几帳面に取っておきそうなイメージのある木下さんですが、なんと! 過去ご出演作のおけぴ観劇会でお配りした特製幕間マップも「大事に取ってあります♪」とのこと(ありがとうございます!)。「出演キャストのコメントがあったりして楽しいですよね」と言っていただきおけぴ管理人&スタッフ一同感激でした♪



【木下晴香さんプロフィール】
1999年2月5日生まれ。佐賀県出身。2017年ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』ジュリエット役に抜擢。以後『モーツァルト!』コンスタンツェ役、ディズニー実写映画『アラジン』ジャスミン役吹き替えなどをつとめる。今秋ミュージカル『ファントム』クリスティーヌ役で出演予定。




【公演情報】
ミュージカル『アナスタシア』
2020年3月1日(日)-28日(土)東急シアターオーブ
2020年4月6日(月)-18日(土)梅田芸術劇場メインホール

<オリジナルクリエイティブスタッフ>
脚本:テレンス・マクナリー
音楽:ステファン・フラハティ
作詞:リン・アレンス
振付:ペギー・ヒッキー
演出:ダルコ・トレスニャク

<出演>
アーニャ:葵わかな/木下晴香
ディミトリ:海宝直人(東京公演のみ)/相葉裕樹/内海啓貴
グレブ:山本耕史/堂珍嘉邦(CHEMISTRY)/遠山裕介
ヴラド:大澄賢也/石川禅
リリー:朝海ひかる/マルシア/堀内敬子
マリア皇太后:麻実れい
リトルアナスタシア(子役):大村響叶/西光里咲/山田樺音

アンサンブル:
遠山裕介(※)/大柴拓磨/篠田裕介/竹内將人(※)/西岡憲吾/三井聡/村井成仁/山科諒馬/井上花菜/工藤彩/小島亜莉沙/後藤いずみ/高橋莉瑚/渡久地真理子/山中美奈

※遠山裕介さんはアンサンブル(イポリトフ伯爵)として、グレブ役出演回以外の公演にも出演。遠山さんグレブ回は竹内將人さんがアンサンブル(イポリトフ伯爵)として出演。

キャストスケジュールはこちら

公演公式サイト

おけぴ取材班:mamiko(文) hase(撮影)  監修:おけぴ管理人

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