1910年の日本初演以来、愛され続けるゴーリキーの名作
新国立劇場の2019/2020シーズンがついに開幕左から)高橋紀恵さん、瀧内公美さん
<演出・五戸真理枝さん開幕コメント>
人が生きていくのに必要なものは、経済的安定ではなくて、精神的独立だと思う。個人が全体に塗りつぶされそうな今、それがとても難しい。だから苦しい。生きていく魅力を確かめたくて、この『どん底』を作りました。 本作は日本の演劇界において、1910年(明治43年)に「夜の宿」と題して初演されて以来、百年を経た現在でもたびたび上演され、数々の名舞台を産み出してきた名作です。
ロシアでの初演が1902年だったことを鑑みると、そのわずか八年後の日本初演も当時画期的なうえ、さらにその後も上演され続けてきたという、驚異的な魅力のつまった作品です。
小川絵梨子芸術監督の企画した「ことぜん」シリーズの第一弾でもあるこの「どん底」の演出に挑む文学座の新鋭、五戸真理枝は新たな視点で「個と全体」や「社会と人間」というテーマを本作の中からあぶり出しました。手練れぞろいの俳優陣も含めて見どころ満載の作品です。(リリースより)
【おけぴ会員のみなさんからお寄せいただいた感想】
左から)立川三貴さん、廣田高志さん
◆この作品は想像どおり難しい所もありますが、素直な気持ちで台詞を聞いていると納得できて「なるほど」と思うような言葉が沢山あって芝居の中に入って行けます。特に、巡礼者ルカの台詞は分かり易く、考えさせられることがいっぱいあります。舞台セットはちょっと不思議な感じで驚かされます。はじめは「ロシア?」と思います。暗くて重たい感じの中に、ちょっぴり笑えるところもあって、是非ご覧になる事をお勧めします。
◆「何だ、いつもの文学座の翻訳劇じゃん」、てな感じで芝居が始まりました。全体にコメディータッチの演出です。ところが幕が進むにしたがって、遷移現象が始まったのです。第三幕ではセリフはそのままに、役の意識も観ている側の意識もほぼ同期させられていました。役を生きている彼らは、全く我々そのものになっていたのです。作者の提案した状況がそのままに、今を生きる我々の状況としてよみがえり、再現、否再生されていたのです。役者も観客も、ゴーリキーの描いた人間賛歌の中に居ました。右から)高橋紀恵さん、釆澤靖起さん
◆セットが現代的にアレンジされていて驚きました。人間とはより良きものの為に生まれ、生きるものというメッセージが心に響きます。一人ひとりを大切にする気持ちが生まれます。今の生活や環境に息苦しさや不安を感じている多くの人に観てほしいです。
◆舞台は、高架線下の工事現場。あれ、これはロシア文学では?どん底?と思っているうちに、舞台は始まる。軽快な語り口や力強い歌。時折観客からの笑いが漏れる。ここにはロシア文学の暗さはない。3時間というなかなか長い舞台なのだが、それを感じさせないほど引き込まれていく。ロシア文学は暗い、難しいと思っている方、私のようにあまり知らない方、この舞台は必見です。『どん底』公演は10月20日(日)まで、新国立劇場・小劇場にて。
『どん底』稽古場レポートはこちらから
感想寄稿:おけぴ会員の皆様 舞台写真提供:新国立劇場
おけぴ取材班:chiaki(編集)監修:おけぴ管理人