【森公美子さんインタビュー】ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』再々演!


 

歌って踊る、あのシスターたちが帰ってくる!


 映画「天使にラブ・ソングを…」を、アラン・メンケン(『リトル・マーメイド』『アラジン』『美女と野獣』)のオリジナル楽曲とともにミュージカル化。トニー賞5部門にノミネートされた傑作コメディ・ミュージカルが、2014年の日本初演、16年の再演を経て再々演されます。

 ひょんなことからギャングのボスに命を狙われ修道院に逃げ込むクラブ歌手・デロリス役をダブルキャストで演じるのは、初演時に同役の演技などで第40回菊田一夫演劇賞を受賞した【森公美子さん】と、元宝塚宙組トップスターの【朝夏まなとさん】。個性の異なるふたりのデロリス、これはどちらも見逃せません!

 パワフルな歌唱と、チャーミングなキャラクターが魅力の【森公美子さん】に、3度目のデロリス役への思いをお聞きしました。






─3度目の『シスター・アクト』。そして3度目のデロリス役。上演が決まったときの率直な思いから教えて下さい。

 こう見えて私も今年60歳。前回の千穐楽に「次回やるなら早めにして!」と思わず言ってしまいました(笑)。ブロードウェイなど海外公演のデロリス役は私よりずっと若い方が演じているんです。修道院長役の方まで年下だったりして「あれ、私がデロリス役でいいのかな?」と思うこともあります。それでも、たくさんの方から「シスター・アクトといえば、クミちゃん(森さん)だよね!」と言っていただけるのは本当にありがたいこと。3度目だからこそ、セリフや動き、楽曲の音のひとつひとつに改めて向き合い、より緻密に役を作り込めればと思っています。今は台本を何度も読み込むのはもちろん、車の運転中も『シスター〜』のナンバーを聴きながら歌っています。前回公演の録音を聴くと、歌もセリフも「もっとこうすればよかった、ああすればよかった」と細かいところが気になるんです。ですから今回はもっともっと緻密に、これが最後のデロリスになるかもしれないという気持ちで取り組みたいと思います。


──観客のひとりとしては、いつまでも不動のデロリス役を期待しています。個性の異なるダブルキャストのひとりに森さんがいらっしゃるからこその安心感がありますし、キャラクターも歌声もぴったりです。

 ありがとうございます。デロリスの音域は本当に私にぴったりなんです。上から下まですべて地声で出ますから。私はもともとメゾソプラノやアルトなのですが、デロリスのナンバーはソプラノまであるんです。難易度は高いですが、これを裏声で出すのと地声で出すのでは伝わり方が全然違う。やはり地声だと歌に魂が入る気がしますね。でもその地声の固め方がまた大変。できるだけ稽古場に早めに入り、ウォーミングアップをして、ストレッチをして、発声練習をして…と時間をかけて声を固めていきます。これまでも2時間前には稽古場に入って準備をしていましたが、今回はもっと時間をかけないと追いつけないかも(笑)。でもそれは幕が開いたときに最高のものをお見せするためのコントロールですから。「年を取ったから声が出ない」ではなくて、年齢を重ねたからこそますます良い歌とお芝居をお届けしたいと思っています。


──破天荒で自然体なキャラクターのデロリスですが、その役作りのためには緻密な準備が必要なのですね。

 たとえば『レ・ミゼラブル』でも、舞台に出る前には、3点ツェー(C/ド)の音まで発声練習をします。コゼットが歌う、あの高い音までクラシカルな発声で歌ってから、低音のマダム・テナルディエに変身するんです(笑)。舞台ではそんな高い声は出さないんですけどね。でも声帯って同じ音だけ出していると傷めやすくなるんですって。とにかく身体と同じでストレッチが大切。つねに伸ばしておかないとだめなんです。そのかわりちゃんとストレッチさえしておけば、声だけは若いままでいられる(笑)。声優さんは年齢に関わらず少年や少女の声を出せますよね。あれは独特の声帯ストレッチに秘密があるんです。私も声優のお友だちから、いろいろと教えてもらっています。


──秘密のストレッチで、3度目のデロリスはますます若返りそうです。

 歌いながら踊ったり足を上げたりする場面では息切れするかもしれません(笑)。でも声はそれなりのものをお届けできればと思います。デロリスは幕開けすぐに難しい曲が続くんです。三連符のタタタ、タタタ、タタタ、というリズムに日本語の歌詞を乗せるのですが、ここがちゃんとお客さまに聞こえないと、そもそものストーリー設定がわからなくなる。ですからとにかく歌詞を前へ、前へ、お客さまに伝えることを意識しています。オペラの場合、お客さまはあらかじめストーリーや歌詞をお勉強してからいらっしゃることがほとんどですから歌詞がわからなくても問題ないことが多い(笑)。でもミュージカルはそうはいきません。歌詞=セリフですから。少しでも明瞭にお客さまに伝わるように、やっぱりストレッチ、ストレレッチ…あれ、私って意外と努力家だったんだなあと思う今日この頃です(笑)。




──アラン・メンケンによる楽曲についてはいかがでしょうか

 とにかく彼は天才! すべての楽曲がドラマになっている。ほんとうに素晴らしい才能だと思います。歌い手として初めて彼の音楽に向き合ったのは映画『リトル・マーメイド』の日本語吹き替えをさせていただいたとき。海の魔女アースラ役がなかなか見つからなかったときに、スタッフがたまたまテレビに出演している私を見て「この人を連れてきて」と。歌ってみせると「ビンゴ!」と言われました(笑)。その頃からずっと変わらず彼の音楽のレンジの広さ、振り幅の大きさ、豊かさに感銘を受け続けています。『シスター〜』でもソウルミュージックやラテン、ポップスからクラシカルな楽曲まで、とにかく幅が広い。彼の音楽の多様性、その全てに対応できる喉を作る覚悟をして初演に挑みました。デロリスは黒人歌手の役なので、ソウルだけが歌えればいいかというとそうではないんです。グレゴリオ聖歌のようなナンバーは完全にクラシックの発声法ですし、ほかにもさまざまなテクニックが必要です。デロリスのナンバー以外でも、シスター・メアリー・ロバートが歌う「♪私が生きてこなかった人生/The life I never led」などは本当に切なく胸に響きますし、パンチのある楽しい楽曲もたくさんあります。ひとつの作品にこれだけ多様なリズム、テイストが盛り込まれているのはすごいこと。この作品を通して彼の音楽テクニックをいくつも楽しめるはずです。ぜひアラン・メンケンの才能の深さ、凄みを感じてください。


──歌う側だからこそわかるアラン・メンケン楽曲の魅力もありますか?

 歌うのは、ただただ大変(笑)。「こんなに高い音がここに来るの?」とか、そんなことの連続ですから。たとえば「♪愛を広めよ/Spread The Love Around」というナンバーは本当だったらチェンジボイスして裏声にするような音域なんです。でもシスターたちみんなで「裏声にする? どうする?」と相談して「地声でがんばってみよう」と決めました。誰でも歌える音ではないです。そういう意味では、選ばれし者しか出演できないミュージカルなのかもしれませんね。


──デロリスに感化されて変わっていくシスターたち。シスター・メアリー・ラザールス役の春風ひとみさん以外、プリンシパルを含めほとんどが新たなキャストになりました。チームワークはいかがでしょうか。

 先日、シスター役のみんなで実際の修道院に見学に行かせていただいたんです。本物のシスターの方々にいろいろな質問をして、みんなすごく納得したり、発見することがあったりしたようで、役作りに活かしていると思います。チームワークはばっちりです。実はそのあとにお礼としてシスターたちの前で歌ったのですが、最初の賛美歌の部分でみなさんすごく感動してくださって、涙を流す方までいて…。でも私はデロリスなので「本当に申し訳ありません…」と心の中で手を合わせながら、厳粛な雰囲気をぶっちぎって「いかせて! 天国へ♪」と歌わせていただきました(笑)。「そんな声じゃ神様に聞こえなーい!」というデロリスのセリフも恐れ多くて、「そんなことございません。神様にはきっと聞こえています…」と心の中で弁解しました!


──改めてデロリスはどんな人物だと捉えていますか?

 デロリスって考えていることが言葉や態度にすぐ出るんですよね。人に愛されたことのない天涯孤独の女。だからこそ「私は私」という強さがある。自分の言葉を大切にしている。人におもねらない、迎合しないっていうのかな。そういう単純だけど愛すべきデロリスの人間性がお芝居で見えるといいなと思います。修道院長に『サウンド・オブ・ミュージック』の話をする場面もすごくデロリスらしくてお気に入りです。「トラップ一家が逃げるときに協力してくれてありがとねー」と映画と現実をごっちゃにしているデロリスがかわいいじゃないですか。修道院長に冷たく「いいえ」とか言われて(笑)。そんな“デロリスらしさ”を出すために、再演からは風船ガムをかみながらセリフを言っているんです。ときどきぷーっとガムを膨らませたりもして(笑)。これは初演ではやっていなくて、再演の稽古をしながら、デロリスらしさってなんだろうと考えて見つけていった感じですね。歌う前にガムを出して、タバコに火をつけるタイミングにもこだわっていますので、劇場ではそういう細かい部分にもご注目ください。ほかにも楽しみにしてほしいのは、デロリスらしさを踏まえた上でのアドリブ。この前、シスター・メアリー・ロバートにブーツをあげる場面の稽古で「ブーツに体ごと入ってジャンプして!」とアドリブで言ったら、(メアリー・ロバート役の)屋比久(知奈)ちゃんが笑ってしまって歌えなくなっていました。だって屋比久ちゃんを見ていたら、どう考えても私のブーツ一足に両足が入りそうだなと思って…(笑)。演出の山田(和也)さんからもNGは出ていないので、常に新鮮味のあるアドリブで行きたいと思います!




──『シスター〜』といえば、フィナーレの「一緒に踊ろうカーテンコール」も楽しみです。参加した者勝ちのあの盛り上がり。より楽しむための秘訣があれば教えていただけますか?

 「はじけろ!」という歌詞のとおり、とにかくはじけて楽しんでください! 振付を覚えていなくても大丈夫。前に立っている人の真似をすればいいんです。とにかく最後の最後まで楽しめる、それが『シスター〜』です。「みんなで一緒に歌って、盛り上がって楽しもう!」ただただ、それだけです。劇場で声を上げてキャストと一緒に歌える経験ってなかなかないじゃないですか。『レ・ミゼラブル』○○周年記念公演などで、たまに「民衆の歌」を歌ったりもしますが(笑)、『シスター〜』は毎回、必ず歌えるんです。みんなで声を合わせて一緒に歌う、その時間を共有する。そのことでなにかキラッとしたものが生まれる瞬間があると思います。それが『シスター〜』のフィナーレです。今回もみなさんと一緒に盛り上がれたら幸せです。


──みんなで歌う幸せ。作品のテーマとも共通していますね。

 そう、結局は人間愛なんです。デロリスも、シスターたちも、エディも、修道院長たちも、みんな誰かのために何かをするんですよね。育った環境や人種なんか関係ない。多様性のある音楽と、人間愛。それを思いっきり感じて、楽しんでもらえたら嬉しいです。私もみなさんと一緒に歌って踊って盛り上がるのを楽しみにしています。…実は最近ちょっと右肩が上がりにくかったんですけれど、稽古をしているうちにだんだん上がるようになってきて、年齢のせいじゃなくて怠慢だったんだな、と(笑)。肩も心もストレッチすればまた動きますから、みなさんもぜひ劇場で一緒に心のストレッチをしましょう。ミュージカル大好きなみなさんはもちろん、ミュージカルが苦手という方も楽しめる作品ですので、周りにそういう方がいらしたらぜひ劇場に連れてきてください!






 出演はこのほか、デロリスをそっと見守るナイスキャラ・警察官の“汗っかき”エディ役の石井一孝さん、ギャングのボスでデロリスの元恋人・カーティス役の大澄賢也さんと今拓哉さん(ダブルキャスト)。カーティスのお間抜けな部下3人組に、安定の続投組・泉見洋平さん&KENTAROさん、そして新キャストの林翔太さん(ジャニーズJr.)。

 そしてもちろん! 踊る、歌う、戦う(!)個性豊かなシスターたち♪ この方の演技を見れば笑わずにはいられない、シスター・メアリー・ラザールス役の春風ひとみさんに加え、心優しきシスター・パトリックに未来優希さん、繊細なシスター・メアリー・ロバート役に屋比久知奈さんが新たにキャスティング。おふたりの強力な歌声が加わって、シスターたちのパフォーマンスの音圧もすごいことになりそうです! このほか厳格な修道院長役はこちらも初演から不動の鳳蘭さん、シスターたちを見守るオハラ神父役には新たに小野武彦さん。演出は『ウェディング・シンガー』『ラ・カージュ・オ・フォール』『ダンス オブ ヴァンパイア』など、観客から愛され続けるミュージカルを多数手がけてきた山田和也さんです。

  森公美子さん&朝夏まなとさん、ふたりのデロリスと、シスターたちが繰り広げるパフォーマンスに、笑いと感動の涙が止まらないミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』。いよいよ11月15日に開幕です!


ゴスペルクワイヤーによる開演前ステージライブも一部日程で開催決定♪


【公演情報】
ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』
2019年11月15日(金)-12月8(日) 東急シアターオーブ
ほか全国ツアー公演あり 


音楽:アラン・メンケン/歌詞:グレン・スレイター
脚本:チェリ・シュタインケルナー&ビル・シュタインケルナー
演出:山田和也
翻訳・訳詞:飯島早苗
指揮:塩田明弘 

出演:
デロリス・ヴァン・カルティエ:森公美子/朝夏まなと(Wキャスト)
エディ:石井一孝
カーティス:大澄賢也/今拓哉(Wキャスト)
シスター・メアリー・ラザールス:春風ひとみ
シスター・メアリー・パトリック:未来優希
シスター・メアリー・ロバート:屋比久知奈

TJ:泉見洋平
ジョーイ:KENTARO
パブロ:林翔太(ジャニーズJr.)
オハラ神父:小野武彦
修道院長:鳳蘭

荒田至法/石川剛/坂元宏旬/常住富大/
池谷祐子/伊藤典子/伊宮理恵/大竹萌絵/神谷玲花/
河合篤子/坂口杏奈/柴崎咲子/鈴木裕香/須藤香菜/田中利花/千葉由香莉/堤梨菜/元榮菜摘/吉田彩美

公演公式サイト

おけぴ取材班:mamiko(文)、hase(撮影)、おけぴ管理人  監修:おけぴ管理人

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