2019年1月31日、2月1日に横浜にて日本での初めての公演が行われた『ディズニー・ブロードウェイ・ヒッツ』。スターが奏でるディズニーミュージカルのナンバーに彩られたコンサートは至福のひとときでした。そして1994年4月に『美女と野獣』がディズニー初となるミュージカル作品としてブロードウェイに登場してから25周年、2020年1月30日、31日、さらにパワーアップして東京国際フォーラム ホールAに登場です。
今年の公演に続いてゲストシンガーとして出演されるのは海宝直人さん。これまでにも『美女と野獣』のチップ役でデビュー、以後、『ライオンキング』のヤングシンバ、シンバ役、『アラジン』アラジン役、『ノートルダムの鐘』カジモド役などを務めるディズニーミュージカルの申し子!コンサートの魅力、ディズニーの魅力についてお話を伺いました。
──今年の公演はいかがでしたか。 贅沢な時間でした。まるでCDを聴いているのではないかと思うほどの高いクオリティで届けられるみなさんの歌声を聴いているだけで幸せになりました。それもソロパフォーマンスだけでなく、一流のアーティストがバックコーラスを務めるという!そこに出演できていることを光栄に思いました。
数々のディズニー作品のブロードウェイでの公演で実際にその役を演じていた方々と一緒に歌うというのはなかなか得難い経験。コンサートであってもその役を演じた俳優が歌うのは特別なものがあります。役の掘り下げ方や曲の解釈など演出家、歌唱指導、共演者らと作品を創っていく過程で身体に染み込んだ、その役を追求してきた人にしか表現できないものがあります。そんなみなさんと一緒に歌っていると、歌声だけでなく、ふとした表情一つにも大きく心を動かされることが何度もありました。
──それは海宝さんご自身にとっても。 やはり自分が演じた役の歌を歌うときには特別なものがあるという自負はあります。もちろんコンサートだからこそ歌える歌の良さも、あの人がこの歌を!という面白さもありますが。
──作品の中で歌うこととコンサートで歌うことの違いは。 劇中の歌というのは役として歌っているので物語の中で交流しながら歌う演劇表現。それに対してコンサートではお客様を巻き込んで歌うことができます。たとえば『ライオンキング』の♪お前の中に生きている(They Live in You)では客席に向かって手拍子を煽ったり、『メリー・ポピンズ』の♪Supercalifragilisticexpialidociousなどではお客様一人ひとりの目を見ながら歌ったり。それは舞台ではありえないこと。お客様と一緒に楽しめるのはコンサートならではです。
──コンサートならではと言えば、前回、海宝さんのキャリアを活かした『ライオンキング』のヤングシンバ~シンバのメドレーというスペシャルな企画もありましたね。 このコンサートの演出を手掛けるJeff Lee(ジェフ・リー)氏は、僕が子役時代にヤングシンバ役で出演していた『ライオンキング』日本初演時に演出補として来日しており、直接指導を受けた方です。そのご縁もあってあのコーナーをやることになりました。当時から変わらない明るくて優しいジェフ・リーさんとの再会は嬉しかったです。
──改めてディズニーが愛される理由は。 僕はこれまで4つのディズニー作品に関わらせていただきましたが、そのどれもが個性豊かな表現方法を用いています。『美女と野獣』はアニメーション映画をミュージカル化したものですが、ディズニーマジックを舞台で忠実に再現しました。『アラジン』ではショーアップされたきらびやかな世界を創り上げ、『ライオンキング』は前衛劇をやっていた演出家を起用し様々な国のカルチャーを取り入れた、とてもチャレンジングな作品です。一方で『ノートルダムの鐘』は人間(キャスト)が自分たちの手でセットを動かし、舞台上で衣裳を羽織ることで人物が変わっていくこを見せるという非常にクラシックな演劇の手法で表現されています。様々な手法に挑戦し続ける姿勢が素晴らしいと思います。
また、表現手法はこのように多種多様な一方で、どの作品もその根底に流れるメッセージ、スピリットは人間愛、生きることの素晴らしさです。僕自身、演じていると自然に「この世界は生きるに値する」という思いが芽生えてきます。それが文化や言語、世代も超えて愛される理由ではないかと思います。
──同じ海外キャストのみなさんが再来日を果たすというのも嬉しい報せです。前回も共演した4人のアーティストの印象は。 アシュリー・ブラウンさんは透き通った鈴の音のような歌声が魅力です。『リトルマーメイド』のアリエルのようなチャーミングな少女の歌声から『メリー・ポピンズ』の少し大人びた歌声まで幅の広さも素晴らしい方です。『メリー・ポピンズ』の♪2ペンスを鳩に(Feed the birds)の、あのすっと心に届く感覚はずっと聴いていたいと思わせるものがありました。
ジョシュ・ストリックランドさんの歌声を初めて聴いたときは衝撃を受けました。『ターザン』では力強い歌声を、『アイーダ』のアムネリス王女の曲♪My Strongest Suitを歌う時はセクシーで妖艶というように変幻自在。ムチのようなしなやかな音使いはグルーブ感を生み、みるみる聴衆を巻き込んでいく様子に感動し、どんなボイストレーニングをしているのか訊ねたのですが、「特別なことは……」という感じで(笑)。なかなか出会うことのない唯一無二の声と表現のアーティストです。
僕にとって『ライオンキング』は特別な思いのある作品です。その作品で4000回以上、父親・ムファサ役を演じているのがアルトン・フィッツジェラルド・ホワイトさんです。身体に染み込んだリズム感、腹の底から響く歌声……、あの感覚は出そうと思ってもなかなか出せるものではありません!それを間近で体感できたことは大きな喜びでした。
キシー・シモンズさんはとてもチャーミングな方です。彼女の代表的な役はやはり『ライオンキング』のナラ。♪Shadowlandを歌われましたが、力強い響きと同時に繊細な憂いや悲しみが歌声に乗せられている。彼女の表現に心を揺さぶられ、改めて♪Shadowlandという楽曲の魅力を実感しました。
──そんなみなさんとの再共演にむけての意気込みは。 前回のコンサート出演後も、様々なコンサートで海外キャストの方々と共演する機会に恵まれました。そこで発見した英語でパフォーマンスをすること、英語で交流することへの“気づき”を活かし、自分の中で一段階グレードアップしたものをお見せしたいと思います。
──気づきとは。 ある作品では、短い準備時間の中で、お互いの思いを共有する濃密な時間をとりました。稽古の前に一時間、輪になってその日の気分や演出家からのお題に答えていくんです。たとえば「もし魔法のステッキを手に入れたら、この世界の何を変えたい?」というような。そこで得た、言語というのは確かにひとつの壁になるけれど、それを越えた人間の繋がりがあり、思いはその壁を超えていけるという気づきです。それによって母語ではないからといって躊躇することなく交流していこうという気持ちになりました。
それは表現する上でも一緒。音楽や演劇で言語の壁を越えていこう、そこにチャレンジしたい思いがより一層強くなりました。
また、気持ちの面だけでなく海外キャストとの共演からはテクニカルな面でも得るものがたくさんあります。そのひとつが歌声をマイクに乗せていく技術です。そういった細かなことの積み重ねで、お客様へ届くものは大きく変わっていきます。音楽を解釈して表現する力、そしてそれを届ける技術、どちらもレベルアップし続けたいと思っています。
──海宝さんにとってのディズニーのパワーソングは。 『アラジン』の♪Friend Like Meからは小学生の頃からパワーをもらっていました。『ノートルダムの鐘』の♪Someday(いつか)は迷ったり辛かったりしたときに、初心に立ち返って演劇や表現を続ける意味を思い出させてくれる曲です。
──最後に改めてコンサートの見どころを! キャストのパフォーマンスはもちろんジェフ・リー氏による演出、構成やステージングも完成度が非常に高いショーです。それは作品への理解、愛情が深いからに他なりません!さらに前回の僕のシンバの企画もそうですが、とにかくお客様に楽しんでいただこうというディズニーのショーマンシップが詰まった素敵なコンサート、どうぞご期待ください!
おけぴ取材班:chiaki(インタビューカット撮影・文)監修:おけぴ管理人