2018年にFUKAIPRODUCE羽衣第23回公演として初演された二人芝居が
CBGKシブゲキ!! presents『春母夏母秋母冬母』として2020年2月に上演!一組の男女が、母と子、恋人同士……時や性別を超えて紡ぐ物語。オリジナルキャストの
深井順子さん(FUKAIPRODUCE羽衣)、
森下亮さん(クロムモリブデン)に加え、今回から新たに
土屋神葉さん(劇団ひまわり)と
上西星来さん(東京パフォーマンスドール)の出演も決定。オリジナルキャスト、新キャスト、各カップルでの上演のほか、新バージョンとして組み合わせをシャッフルした上演回も設定されています。
お稽古開始から間もないある日、作・演出・音楽の糸井幸之介さんと新キャストの土屋神葉さんにお話をうかがいました。
前回公演の舞台写真やキャストコメントなどはこちらの公演NEWSを──いよいよ始まったお稽古の様子からお聞かせください。糸井さん) まだ始まって数日ですが、やはり一度作っているので「とにかく一度やってみよう」と結構な勢いで進んでいます。はじめての神葉くんたちは一気にやらなくてはならず大変だと思いますが、臨機応変に対応し、それを楽しんでくれているのがありがたいです。
土屋さん) まさにガンガン行く(稽古)、ほかの形容の仕方がわからないです(笑)。でも、稽古ではかなりリラックスしています。とにかく楽曲が楽しいですし、オリジナルキャストの先輩方が優しいから。歌稽古の段階から「こう来るんだ!だったら僕はこうやってみよう」と感覚的に交流ができていました。それは芝居についても同じで、こうやっていろいろ試せる環境はある意味で先輩方に甘えさせてもらっているのかもしれません(笑)。
──糸井さんの作品は「妙ージカル(みょーじかる)」、音楽の存在も大きいですよね。実際にお稽古をしていていかがですか。土屋さん) 音楽を聴いていると自然と身体が動きだすように、劇中音楽が物語を運んでくれる作品です。それは歌だけでなく芝居の後ろで流れる音楽についても言えること、音楽が空気感を作ってくれるんです。だから芝居をつくる段階で音楽が教えてくれるものが確かにあります。
──糸井さんに伺います。初演時は「40歳」というのがキーワードにありましたが、そこに20代の新キャストが入りました。糸井さん) 「40歳」……前回は劇団主宰の深井さんも僕も森下さんも40歳だったので、なんというか興行的に打ち出したようなところがあり、半分はたまたまなんです(笑)。ただ、人生を俯瞰するような雰囲気もある作品なので大人だからこそ作れるという側面はありました。ですので、もともとパフォーマンスする人が40歳である必要はないと思っていました。実際、いわき総合高校の学生でこの演目を上演しています。その際は二人芝居を分解し15人くらいでの上演でしたが。今回、深井さんと森下さんのオリジナルキャストとのコントラストという点で若いお二人になりました。
※福島県立いわき総合高等学校 芸術・表現系列(演劇)第15期生 卒業公演「春母夏母秋母冬母 いわき総合高校 ver.」──中学生の「こなこ」と「ユキユキ」に始まり、物語の要所要所で中学生に戻る。「中学生」というのは。糸井さん) まず、魂がきれいというか。人のこと、特に異性のことはよくわからないからこそ大切なものだと思ったりするだろうし。まぁ、異性といっても夜中に公園でお互いにちょっと意識し合うくらいなんですけど。そして雪が降りだすとエスキモーのファンタジーに変わっていく。そんなきれいさを考えて。そこもあらかじめ確固たる意図があったというよりは、いろいろある中で中学生になっていったと言えます。
──実際に新キャストが入ったことによる変化は。糸井さん) オリジナルの二人は多分飽きもきているだろうし(笑)、神葉くんと組んでいるときの深井さんはかなり楽しそうです。深井さんも神葉くんもいい意味でノリの人。安直なノリではなく、俳優の鏡といえるような強烈なノリを持っている。だから文字通り“ノリノリ”の二人ですよ(笑)。
──ということですが、土屋さんはいかがですか。土屋さん) まだ稽古も序盤、全部やってみないとわからないところもありますが、今のところ本当に楽しく突っ走っています。ひと通りやって、そこから整理して積み上げていきたいと思っています。ここからどうなっていくのか僕自身も期待しています。
──糸井さんと土屋さんがご一緒するのは2作品目となります。糸井さん) 前回ご一緒したのはシェイクスピア作品を僕が音楽劇にした作品でした。神葉くんの役は神経質ですごく頭がいいんだけどちょっととぼけているというか。音楽の尺もある中ですごい台詞量をしゃべっていくのですが、その様(さま)がセクシーかつひょうきんだったんです。そんな神葉くんが魅力的ですっかり虜になりました。
土屋さん) キャラクターが強烈でしたよね。必死に生きている様子がかわいい役でしたので、僕もとにかく必死にやるしかない!あのときはシェイクスピア作品をこんなに楽しんでいいんだ!と思いながら芝居していました。自分のなかで、演じることに対してのターニングポイントになった作品になりました。その作品で演出してくださった糸井さんにこうしてまた呼んでいただけることはありがたいです。「もっとお芝居を楽しんでいいんだよ」と言われたような気がしてうれしかったです。
──今感じている作品の持つ魅力は。 土屋さん) 今……、それを考えて伝えるのが難しい時期なんです。作品を走り抜けている真っ最中、とにかくひと通りやってみることを楽しんでいる状態なので。ひと通りやって落ち着いたらきっといい答えが生まれそうなので、今、安易に言いたくないというような(笑)。でも、強いて言うなら。うーん、ちょっと保留で先に糸井さんどうぞ!
──では糸井さん、今回、熱烈ラブコールにより実現した再演です。糸井さん) 本作は「母」がモチーフ、母と子の関係は人それぞれに持っているものですから、そこでひとつ伝わりやすさのある作品なのだと思います。そして母親の愛や優しさ、もっと言えば人間の優しさみたいなものが詰まっていて、それが詰まりすぎて寂しくなる。そんな作品であり、今回もそうなっていくといいなと思っています。神葉くん、どう?
土屋さん) はい!1つのセットのなかで繰り広げられる二人芝居。最初は公園での出来事、そこからどんどん世界が広がっていくのが魅力だと思います。いろんなところに行って、果ては宇宙まで行っちゃう!それが許される世界観なんです。それを実現させるのが僕も大好きな舞台美術!この作品の美術は見ていてワクワクするおもちゃ箱のようなんです。
──おっしゃる通りファンタジックで美しい舞台ですよね。その舞台装置ですが、聞くところによると初演後に壊してしまったとか。糸井さん) こうして再演の機会をいただけると思っていなかったのと、ジャングルジムも巨大でしたし俳優が登ったりするので強度もしっかりあるものだったので、現実的に保管場所の問題もあって。立派なものをお金をかけて作ったんですけどね。あ、お金の話はアレかな(笑)。今回も基本的な方針、エッセンスは変えずに、前回素晴らしいセットを作ってくださった金井勇一郎さんにお願いしています。子供のような自由な発想で作ってくださる大御所です。
──ここから稽古を経て迎える本番に向けての意気込みを!土屋さん) まだ右も左もわからずに楽しんでいる状態ですが、ここから整理をつけて俯瞰して見たときにいろんなアイデアが出てくると思うんです。そのアイデアを提示し、共有し進化させる。二人芝居ならではの、その二人にしか出せない空気感を大切に作っていきたいと思います。本番はジェットコースターに乗るような気分かもしれません。物語が始まったら止まれない、(舞台袖に)はけることもできない、おそらく水も舞台上で飲むことになるのかな。それってすごく面白いじゃないですか!!走り抜けて、終わった瞬間「もう一回っ!」となれたらいいな。
糸井さん) 今回は4人の俳優さんで二人芝居をシャッフルもする4バージョンでの公演となります。その4つをはっきりと色分けするつもりはありません。たとえばジャズマンがお互いの呼吸でアドリブしあうような、曲は同じだけど自然に違いが出るような感じ。頭で構築していくバージョンの違いより、相性や感性、ノリのなかで変わっていくことが自然と出せたらそれがいいなと思っています。もちろん舞台上でアドリブが多いという意味ではなく、お稽古のなかで組み合わせ毎に生まれるものを大事にしていくということです。
──さらに進化・深化した『春母夏母秋母冬母』になりそうですね!【ちょっと脱線?!】
──「母親」のことをお二人はなんて呼びますか?土屋さん) それ、マジハズイです(笑)!最近は「ねぇねぇ」とかあまり呼ばないようにしています。あとはあえて「マミー」とか、そのほうがいいかと思って。もちろん質問への答えはあるんですけど、いつか変えようと思いながらこの年になってしまって……。染みついているのでもう変えられない。だから言わない(笑)。と言うのも、学生時代に部活の顧問のベテランの先生が、マイクロバスに僕らを乗せて移動する途中で先生の実家に立ち寄ったとき「ママ~」って呼んだときの普段の先生とのギャップが衝撃的で。その出来事が強烈だったので自分はそれは避けたいなと。
糸井さん) 面白いね(笑)。僕は中学生のときに「ママ」から「お母さん」に変わり、そこからはそのままですね。ふと思ったのは、僕は息子がいるんですけど、彼は「ママ、パパ」と呼んでいます。10歳くらいですが、もしかしたらずっとそのままかもしれません。最近の子ともたちは昔ほどそこに恥ずかしいという感覚はなくなってきているのかもしれません。ただ、自分のことは家では「僕」と言っているけれど外では「俺」と言っているようで、そこの使い分けはしているみたいです。
──内と外の使い分けや、それが垣間見えたときのギャップはありますね。そこにさらに時代性、ジェネレーションによる変化もあるとなると興味深い!「母親」という極めてパーソナルな物語が2020年の観客にどう響くのか楽しみです。◆ キラキラの笑顔の土屋さん、穏やかに微笑む糸井さん。糸井さんが作り出す世界で軽やかに、自由にお芝居をする土屋さんが目に浮かびました。劇中の歌にある「心は狭い/心は広い」という相反するフレーズ、心はそのどちらでもあり、同様に舞台上は公園でもあり宇宙でもある。お二人の話を通して、そんな戯曲の懐の深さ、演劇作品としての魅力を改めて感じました。母という非常にパーソナルかつユニバーサルなテーマは心の中の柔らかい、優しいところにキュンと響く。再演の舞台でどんな世界が立ち上がるのか期待が高まります!公演は2月13日からCBGKシブゲキにて。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人