『リチャード三世』『リア王』『マクベス』『オセロー』『ハムレット』『ロミオ&ジュリエット』……シェイクスピア全作と江戸末期の人気講談『天保水滸伝』を織り交ぜた大作が蘇る!
(※記事中に舞台写真を掲載しております)江戸末期、天保年間。下総の国の旅籠街・清滝村。
旅籠を仕切る老侠客と三人の娘たち。身代譲りを発端とした骨肉の争いを描きながら──というところで“あの作品”が思い浮かぶ方もいらっしゃるでしょう。ほかにもシェイクスピア作品に登場する人気のキャラクターたちや名場面の数々が盛り込まれた名作戯曲が生まれたのは1974年のこと。幾度かの再演を経て、2020年2月、シェイクスピアが描いた人間たちが、井上ひさしの筆で物語の世界を縦横無尽に駆け巡る。演出を手掛けるのは藤田俊太郎さん、音楽は宮川彬良さん。
舞台写真提供:東宝演劇部
2020年に蘇る『天保~』で、旅籠街の争いを陰から操る異形の流れ者
佐渡の三世次(みよじ)を演じる高橋一生さん、二つの家の争いに身を投じる若き跡取り息子
きじるしの王次(おうじ)役の浦井健治さん、
演出を手掛けた藤田俊太郎さんによる囲み取材をレポートいたします。
──作品について、藤田さんからご紹介いただけますか。藤田さん) タイトル通り、シェイクスピアの全作品と講談の『天保水滸伝』をもとにしてできた作品です。江戸時代の任侠の世界を舞台に、生きる活力と死の闇が入り乱れた活劇です。喜劇であり、悲劇。その中を佐渡の三世次(さどのみよじ)役の高橋一生さん、きじるしの王次(おうじ)役の浦井健司さんが縦横無尽に駆け抜けます。
──高橋さんの役どころ、見どころは。そして久しぶりの舞台はいかがですか。舞台写真提供:東宝演劇部
高橋さん) 佐渡の三世次は人から見たら極悪人ですが、やっていて思うのは一番筋が通っている人なのではないかと思っていて。あの時代、自分が生まれながらに背負ってしまったものへのコンプレックスもありながら、それを逆手にとって「こう生きていくしかない」という思い切りの良さ、突き抜け方はある意味正しいことのように見えてきてしまっていて。三世次をやらせていただいていてすごく楽しいです。
そしておっしゃる通り舞台が久しぶりなので、稽古中は浦井さんをはじめとする共演者のみなさんにずっと頭を下げっぱなしの状態で(笑)。
浦井さん) 違います、違います!!
高橋さん) 慣れていなくてごめんなさいという状態が続いていました。
──やはり映像作品とは違うものなのですか?高橋さん) お芝居の質感を変えているつもりはありませんが、あまりにも久しぶりすぎて例えば稽古の段取りなどをわかっておらずぼーっとした状態で進んでいくことが多く、みなさんの背中を見ながら舞台の感覚を取り戻していきました。当然映像とは違うことはわかっていたのですが(笑)。
──そして極悪人を楽しんでいらっしゃる。高橋さん) 極悪人、楽しいですね。ここからどのくらい極悪度が増していけるかどうか。舞台は同じことを毎日やりますので、どれだけ面白い発見ができるか、またお客さんの反応にリアルで応えていけるので、改めてその辺(舞台の楽しさ)を噛みしめていきたいと思います。
──浦井さんの役どころは。舞台写真提供:東宝演劇部
浦井さん) きじるしの王次を演じますが、実は三世次と同じシーンはほぼないという!
高橋さん) そうなんです!(浦井さんとの)共演をとても楽しみにしていたのですが、ふたを開けてみたらほとんど──。
藤田さん) 台本上は…お二人が同時に登場するシーンが──。
浦井さん) ですので、稽古場では一生さんのたたずまい、役に対するアプローチを見学することが多かったのですが、とにかく三世次が哀れで。「この人にも、この人なりの生き方があった」、それが人間としてすごく哀しく見えたんです。そして「この人は死にたいんだ」ということ一生さんとも話をしていて。井上ひさしさんが描いた極悪人の三世次の人間味をしっかりと醸し出す(高橋さんの)芝居がすごいです。その姿が刺激になり、僕のきじるしの王次は「生を担ごう」、生き急いだ人というように作りました。大立ち回りもありますのでお楽しみください。
──共演、一切ないのでしょうか?高橋さん) そこはぜひご覧いただければ、微妙に──。
藤田さん) そう思われがちですが、演出的には見事に共演しています!
高橋さん、浦井さん) どういうこと?笑
藤田さん) 台本上は共演していませんが、わたくしの演出で二人は見事に共演しています。
高橋さん) ちょっとわからないですね
浦井さん) (爆笑)三世次が操っている感じかな。
──そこは藤田マジックで?舞台写真提供:東宝演劇部
藤田さん) 僕の演出とか申し上げましたが、すみません、(マジックは)俳優がかけてくれました(笑)。この作品は一生さん演じる佐渡の三世次が見ている世界。それが作品としての大きな要素。だから佐渡の三世次はきじるしの王次のシーンを見ている。その意味で台本上での深い共演はないのですが、舞台上ではすごく深く共演している。そこは乞うご期待です。こんな感じで伝わりましたか?
高橋さん) 状況をお話すると、浦井くんは稽古場で自分の席から僕を見ていてくださっていたのですが、僕は本番中も舞台上で浦井くんのことを見ています。台詞の掛け合いはないのですが、ずっと芝居を見ている感じです。
──明日が初日ですが仕上がりはいかがですか。藤田さん) ここから最終通し稽古をして明日の初日を迎えます。12月からカンパニーみんなで階段を一歩ずつ上るように稽古してまいりました。演出家冥利に尽きると言っては言い過ぎかもしれませんが、自信作です!
──藤田さんから見たお二人は。舞台写真提供:東宝演劇部
藤田さん) 高橋一生さんについては、一生さんをよく知っている方は“極悪人の高橋一生さん”に大いに裏切られてください。はじめて劇場でお芝居を見る方は、“演劇の高橋一生さん”を大いに楽しんでください。
舞台写真提供:東宝演劇部
藤田さん) 浦井健治さんの きじるしの王次、そしてそのお芝居は極悪人の三世次とは相反し、とてもピュアで透き通っています。きじるしの王次はこの芝居でほかの誰よりも命を、生を全うします。その演劇の潔さをぜひ体感してください。
藤田さん) そしてずっと演劇をやって来た人間として言いますが、2020年の新しい芝居の形を作れました。世界演劇の最前線をいくぞ、やったー!という感じです。(その言葉に恐縮するお二人に)プレッシャーじゃないです。そう思えることが演出家冥利に尽きるのです。穏やかな気持ちで、この荒くれた作品の通し稽古を見てそう感じました。この芝居を多くのお客様に楽しんでいただきたいと思います。
高橋さん)(それを受けて)とにかくプレッシャーです(笑)。世界演劇とか言われちゃった!!
浦井さん) 諸先輩方をはじめとするカンパニーのみんなに引っ張っていただいてここまで来ました。僕らも緊張するんです、先輩方のあまりにも大きな背中に。そういう時は一生さんの楽屋へ入り浸って、二人でタピオカを飲みながら(笑)。
高橋さん) 仲良くやらせていただいています(笑)。
──最後に高橋さんからひと言。高橋さん) 俳優は舞台の上で別の人生を生きているようなもの。それを目撃しに来てください。
◆ 出演はお二人のほかにも唯月ふうかさんや樹里咲穂さん、土井ケイトさん、阿部裕さん、玉置孝匡さん、章平さん、木内健人さん、熊谷彩春さんら多彩な俳優が名を連ねています。そして井上ひさしファンとしてはやっぱりうれしい梅沢昌代さん、辻萬長さん、木場勝己さんのお名前にワクワクです。(
※「辻」は一点しんにょう)
公演は~29日(土)まで日生劇場、3月5日(木)~10日(火)梅田芸術劇場にて。
こちらは高橋一生さんインタビュー
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人
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