物語
ホルストメールは、天性の俊足を持つ駿馬だったが、人間の嫌う「まだら模様」に生まれついたがために、価値のない馬と見なされて育てられた。ある日、厩舎に凛々しい公爵が現れた。主人は見た目の美しい馬をすすめたが、公爵は一目でホルストメールの天性の素晴らしさを見抜き、彼を安価な値段で買い取った。侯爵との生活はホルストメールの生涯で、唯一の最も輝かしく幸福な日々となった。だがある日、公爵の気まぐれから、ホルストメールは競馬に出走することになる。その競馬場で侯爵の愛人マチエは、若く美しい将校と出会い姿を消してしまう。公爵は気が動転し、ホルストメールを橇(そり)に繋ぎ激しく鞭打ち走らせた。 ようやくマチエに追いついたとき、ホルストメールは力尽き、病に倒れてしまう。その日からホルストメールと侯爵の流転の人(馬)生がはじまった・・・。演出/白井晃コメント
「ホルストメール」は馬の話です。しかし人間の話です。原作者レフ・トルストイが活躍したのはロシア革命前の帝政ロシア後期。彼の非暴力、博愛といった思想や哲学が、今再び必要とされている気がします。民衆を圧迫する貴族社会への疑問は、格差の広がった現代社会への懐疑と相似形をなすようです。所有することの虚しさを私たちはそろそろ気づいて良いはずです。この物語は、老いた駿馬の生涯を通してそんなことを教えてくれます。ロシアの劇団が40年近く前に音楽劇として立ち上げたのは、ベルリンの壁が崩壊する前のソ連時代です。日本の経済や社会の構造も大きく変化した中、今回の創作は、この作品に新たな意味合いを持たせてくれる、そんな予感がしています。成河コメント
馬を演じます。演劇という表現の可能性がふんだんに盛り込まれた、非常に挑戦しがいのある戯曲です。トルストイが見つめた社会と人間の業、人生哲学はこの時代にどのように響くのか。去勢されたまだら馬、ホルストメールの眼差しが今の私たち自身を見つめる「目」になれるよう、丁寧に理 解を深めて行きたいと思います。別所哲也コメント
トルストイ原作の「ある馬の物語」。人間と人間の演じる馬達が解き放つ、差別、愛憎、命の意味。現代社会にも通じる様々な要素を、造形する人物像、モノガタリを通じて表現するダイナミズム。そして、初の白井晃さん演出、初の成河さんとの共演、初の世田谷パブリックシアター。初めてづくしのダイナミズム。楽しみです!