ミュージカル『生きる』、世界初演から2年の時を経て待望の再演! 本作は黒澤明 生誕110周年記念作品として2018年に世界初演を迎えた、日本発のオリジナルミュージカルです。高橋知伽江さん脚本・歌詞、ジェイソン・ハウランドさん作曲・編曲、宮本亞門さん演出、そして長年にわたり日本のミュージカル界をけん引してきた二人の名優、市村正親さん、鹿賀丈史さん(Wキャスト)によりミュージカル作品として蘇った黒澤映画の傑作(昭和27年公開)は、初演にして名作の呼び声高い作品となりました。
役所の市民課長として日々淡々と仕事をこなす主人公・渡辺勘治。自分の残りの人生が長くないことを知った彼が、ある出会いをきっかけにもう一度「生きる」意味を見出す人生の物語。自暴自棄になった渡辺が飲み屋で出会う、売れない小説家を初演に引き続きWキャストで演じる新納慎也さん、小西遼生さんにお話を伺いました。
新納慎也さん、小西遼生さん
──ずばりこの作品はどんな作品でしょうか。新納さん)
“生きる”ことについての問い。どう生きるか、生きるとは何か、命とは、人生とは──。「あなたは何のために生まれてきたのか」という、まさしく今の世情にぴったりな作品です。小西さん) 僕が初めて映画の『生きる』を見た時は、それまでに見たほかの黒澤作品とくらべると静かな作品だという印象を受けました。当時の僕の好みとしては、より面白く感じたのは活劇のほう。でも、作品に関わることになり台本を読んでみると、なんて奥深い作品なんだろうと感じるようになりました。『生きる』という、これ以上ないほどどっしりとしたタイトル。それがどういう意味なのかを重苦しくなく伝えることのできるエンターテイメント作品だと思います。
──お二人がおっしゃった「今の世情」に『生きる』というタイトルを重ね合わせると、作品の主題がより深い響きを持つことになりそうです。新納さん)
それはありますね。やはり新型コロナウィルスという困難に直面し、みんなが「命」や「生きる」ことに対して考えることが多くなっている。裏を返せば死と隣り合わせ、大切な方をなくされた方もいるだろうし。前回とはタイトルから受け取る、その実感が違ってきている。僕らもそうですが、見てくださる方もそうだろうと思います。
こうしてコニタン(小西さん)と一緒に取材を受けていること、この場所もついこの間まで閉鎖していたけれど営業を再開しているということ。そのひとつひとつに感動している自分がいます。今日ですらそうなのですから、稽古が始まった、初日の幕が開いた、舞台に立つことができた。それだけで泣くんじゃないかな。小西さん) お客様も劇場に足を運ぶことが日常だった方は、幕が開いた瞬間は、ただそのことだけで涙で前が見えなくなるんじゃないかな。
新納さん)
生で見られること!生でお芝居ができること!そのすべてに感動するよね。そして、その瞬間をこの作品で迎えられることにも感謝しています。小西さん) 不要だと判断されるようなものでは絶対にない。そう信じることのできる作品だから。
──力強い言葉にこちらも勇気づけられます。その根底には、この作品がもつ普遍的な力はもちろん、初演の確かな手応えもあるのでしょう。新納さん)
初演の稽古で、初めて鹿賀さんが参加されたリーディングの時のことが忘れられません。リーディングが終わった時、僕は号泣。思わず隣に座っていた鹿賀さんに「これ、とんでもなく素晴らしい作品になります。何よりもあなたの渡辺が!」と言っていました。そして、「はい、ホリプロのスタッフさん集合!みなさんのやるべきことは“この鹿賀丈史さんの渡辺を届けること”、それが使命です」と力説していました(笑)。小西さん) あなた、いったい何者(笑)?
新納さん)
立場なんて忘れてしまうくらい素晴らしかった。僕を含めたほかのキャストのことは、まだちょっとどうなるかわからなかったけれど(笑)、とにかく“鹿賀丈史さんが絶対にいい”という手応えはその時からあったので、この作品は成功する!と確信していました。小西さん) この作品は鹿賀さん、そして僕が組んだもう一人の渡辺、市村さんがいてはじめて成り立つ作品。黒澤作品をやるという作り手としてのプレッシャー、ましてやあの主人公はあの名作映画の世界に存在する傑出したキャラクター。それを舞台で、ミュージカルという形で演じることは並大抵の覚悟ではできない、あのお二人にしか背負えない重責だったと思います。誰にでもできることじゃない。
そんな俳優としてのキャリアはもちろん人生経験を積まれてきた、今のお二人が作り上げた渡辺を目の当たりにし、僕もかなり早い段階で素晴らしい作品になるであろうことは感じていました。
僕の中でそれが確信に変わったのは、舞台稽古でラストシーンのブランコのセット、あの景色を見たときです。目の前に広がる、まるで一枚の名画のように心をとらえる景色を見て、この作品は間違いない!という確信をもって本番を迎えることができました。あとはお客様がどう受け止めてくださるか。
──客席は静かな熱狂と言いますか、独特な高揚感がありました。小西さん) この作品では、なかなか巡り合えないカーテンコールの景色を見ることができました。それは僕に限らず、鹿賀さんの長いキャリアの中でも本当に数えるほどのご経験だったと。それほど貴重な瞬間を体感できたことは大きな財産です。
新納さん)
千穐楽とか特別な日でなく、公演期間の半ばで、今でも忘れられない出来事がありました。あまりの衝撃にブログかツイッターに載せたくらい(そのポストがこちら)。カーテンコールでお客様の拍手の仕方や立ち方が決まりきった感じではなく、ぱらぱらと思わず立ち上がってしまうようなスタンディングオベーション。それがやがてワーッと客席全体に。一度幕が下りた時にキャスト全員が泣いたんですよ。みんなで「見た?見た?すごいね」って泣きながら二度目のカーテンコールの幕が上がり、そこからは、もう、放心状態。作品が成功したことをお客様が教えてくれた、忘れられない瞬間として心に刻まれています。──初演ではWキャスト固定のチーム制でしたが、再演ではシャッフル(渡辺役、小説家役)となります。小西さん) 作品、そして渡辺と小説家の関係を一から作り上げる初演では、リスペクトしている気持ちを市村さんお一人に向けて取り組めたことはよかったことです。でも、やっぱり鹿賀さんともやりたいと思っていました。
新納さん)
それは僕も一緒。前回の時、市村さんと「一緒にやりたかったねー」って。市村さんとは付き合いも長いですし、やっとガッツリ共演できると思ったのにねと話していたので、今回は嬉しいです。──個性の違う渡辺ですよね。お二人声をそろえて) 全然違います!
小西さん) でも、面白いのが役者のタイプもそれぞれ違うんだけど、大きさがね、同じくらい大きいんですよ。レジャンドが二人。当然のことながら稽古も本番も、見るのは自分じゃないほう、鹿賀さんと新納さんの渡辺と小説家。それがすごくいいんですよ。作品も、その中にいる二人も。二人を見ているうちに自分の中の小説家が鹿賀さんの渡辺とも会ってみたいと自然に思うようになりました。今回はそれが叶って嬉しいです。
──そして新納さんは市村さんと。新納さん)
僕と市村さんって、ちょっと危ない気がするんです(笑)。小西さん) 陽と陽だからね(笑)。
新納さん)
市村さんの回を見たとき、「え、こんなところで(客席に)笑いが起こるの?」ということがあったんです。僕も自然に笑っていました。そんな風にどちらがいいとか悪いとかではなく、まるで違う渡辺像なんです。今回はご一緒できるので、お互いに面白いことをしたくなる性分をうまくコントロールしながら(笑)、僕らなりの渡辺と小説家の関係を築いていければと思います。──この作品の中でのお二人が演じる「小説家」の位置づけは。小西さん) 狂言回し。そして渡辺の思いをお客様に届ける役回りでもあり、物語の中では映画の印象に近い渡辺に新しい世界を見せるメフィストフェレス的なところもあります。あとは小説家がいないと、この作品はぐっと地味になってしまう。エンターテイメントを作る役割も担っていると思います。
新納さん)
なにせ開幕して15~20分くらい、主役が何もしゃべらない作品なので(笑)。小説家がしゃべったり歌ったりしないと物語が進まない。それと同時に、小説家は渡辺やその家族を俯瞰で見ているつもりでいるけれど、誰よりも渡辺から影響を受けて変わっていく存在でもある。そしてそれと同じことが客席に座っているお客様にも起こることが、この作品の面白いところ。舞台上のお芝居、物語を見ているうちに一番感化される。その意味ではお客様の分身とも言えるんじゃないかな。──『生きる』の魅力を再認識し、再演への期待がますます高まりました!素敵なお話をありがとうございました。【公演情報】の下にはプレミアムコーナーも↓【プレミアムコーナー】
おけぴプレミアム会員の皆様のために、and more!
2つのプチ質問に答えていただきました。
(スマホ版は次頁へ)──もし時空を超えてどこかへ旅できるとしたら「いつ・どこへ」行きたいですか。
──この自粛期間に発見した自分の一面。
これ以降のコンテンツは
プレミアム会員限定です
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文)おけぴ管理人(撮影)