ミュージカル『アリージャンス~忠誠~』濱田めぐみさん&海宝直人さん取材会レポート




 第二次世界大戦下のアメリカを舞台に、「日系人である」というだけで強制収容所に入れられた家族の実話を元にしたミュージカル『アリージャンス~忠誠~』。2015年にブロードウェイで上演された際のオリジナルキャストには、レア・サロンガ、テリー・リアン、マイケル・リーら実力派俳優が名を連ねたことでも話題となりました。2021年3月の日本初演にて、カリフォルニアの自宅から強制的に収容所に移送されたキムラ家の姉弟、物語の軸となるケイとサミーを演じる濱田めぐみさん海宝直人さんの取材会が行われました。



濱田めぐみさん、海宝直人さん

ものがたり(HPより)
 日系キムラ一家のカイト“おじいちゃん”(上條恒彦さん)、タツオ(渡辺徹さん)、ケイ(濱田めぐみさん)、サミー(海宝直人さん)はカリフォルニア州サリナスで暮らしていた。
 真珠湾攻撃が勃発後、日本人を祖先に持つというだけで、キムラ家や日系人たちは自宅から強制的に追い出され、収容所へ移送されてしまう。収容所での厳しい環境の中でも希望を失わず暮らしていた彼らにある日、アメリカへの忠誠を問う忠誠登録質問票(Loyalty Questionnaire)が配布された。
 父タツオは不当な強制収容に抵抗し、アメリカへの忠誠を問う質問にNoを貫く。姉のケイは収容所で出会ったフランキー・スズキ(中河内雅貴さん)とともに、強制収容と徴兵の不当性を訴え、日系人の人権を求める運動に参加する。
 一方、弟のサミーは、他のアメリカ人と同じであること=国家への忠誠を示すことで父をはじめとする日系人を自由にしようと、家族の反対を跳ね除けて戦場へ赴く―。


【日本版上演の意義を自らに問う】

──本作の印象、ご出演までの経緯からお聞かせください。

海宝さん)
 この作品の存在は知っていましたが、見たことはありませんでした。オファーをいただいてから資料を見て、自分なりに調べてみる中でいくつかの驚きがありました。ひとつは、この第二次世界大戦下の日系人収容という差別の歴史を扱った、アメリカ人にとって決して喜ばしいテーマとは言えない作品がアメリカで制作され、上演されたということ。そしてもうひとつは、その歴史的事実について自分が何も知らなかったことです。

 決して遠い昔ではない時代、劇中でのおじいちゃんにあたる世代、日系一世は日本に生まれ、日本で育ち、大人になってアメリカへ渡った人々。そう捉えると我々日本人の話でもあるにもかかわらず、これまであまり触れられてこなかった出来事が描かれている。そこに日本での上演の意義を見出しました。

 一方で、日本版の上演は非常に難しいだろうと感じる自分もいました。この作品には、日米の文化が混在し、それを日本語と英語(の台詞)が織り交ぜられることで表しているようなところがあります。たとえば同じようにアメリカで生まれたケイとサミーですが、母親と共に過ごした時間の違いなどで、そのキャラクターが日本語、もっと言えば日本文化や精神性にどのくらい親しんでいるのかの度合いも変わってきます。おじいちゃんにいたっては英語がほとんどわかりません。その繊細な違いを日本人だけでどう作っていくのだろうかと感じたのです。ただ、演出のスタフォード・アリマさんは、日本版を作るにあたっては、日本でやるからこそのオリジナルの演出でという思いをお持ちだということを知り、大変だけど挑戦しがいのある、価値のある作品になると思い、出演を決めました。


濱田さん)
 実は、この作品のオファーをいただいてからお引き受けすることを決めるまで、とても時間かかりました。まず、私もこの事実を本作のプロットや企画書を見て初めて知りました。ブロードウェイでの上演は知っていましたが、その内容まで詳しくは知らなかったんです。こうして蓋をされてきた歴史に光が当たり、アメリカで舞台上演されたことは大変意義のあることだと思いましたし、作品の良さも感じました。ただ、それを日本で日本版として上演することに対して、初めてお話をいただいた時は「ちょっと待ってください、少し考える時間をいただけませんか」とお答えしました。

 その理由は、テーマがあまりにもデリケートだったからです。これまでにも差別を扱った作品に出演したこともありましたが、本作は、それとは似て非なるもの。直人くんが言ったように、日系人差別とひと言で言っても、日本人に見えるけれど中身はアメリカナイズされた弟のサミー、アメリカで生まれ育ったけれど母から日本人の心を受け継ぎ、両国の文化を内面に持つ姉のケイなど、人物描写ひとつをとっても、非常に細かい。その違いを日本版としてどう演じ、伝えるのか。そこにハードルの高さを感じました。

 でも、もし舞台の神様がいるのなら、私のもとにこの作品が届けられたことには何か意味があるのではないかと考えると、まだ日本でもあまり知られていない日系人の歴史を、日本で、アジアでやること、伝えることは意味のあることなのではないか。そうひらめいたんです。そこへ導いてくれたのは、劇団四季時代に携わった昭和の歴史三部作(『ミュージカル 李香蘭』『ミュージカル 異国の丘』『ミュージカル 南十字星』)です。すべてに出演したわけではないのですが、作品を通じて日本や中国、シベリアにおける第二次世界大戦の歴史を学び、お客様に伝えてきた私にとって、『アリージャンス』は4つ目の作品になるのではないかと思えたのです。そして、その思いに後押しされて、改めて作品と向き合った時に、得体のしれない使命感を覚えました。そして、ようやく「お引き受けします」とお返事しました。最初にオファーをいただいてから半年ほど経っていたでしょうか。その間、何度も話し合いの機会を設けてくれたプロデューサーにも感謝しています。

 出演を決めてからはいつものことながら「やるからには本気で」の覚悟で臨むつもりでいたところ、今年、このように世界が大変な事態に直面し多くの舞台が中止や延期を余儀なくされました。その中で、『アリージャンス』は予定通りに上演する、その決定が下された時、「あ、こういうことだったのか」という思いが頭をよぎりました。この作品の根底にあるテーマは「自分とは、生きるとは、何か」なのだと。その瞬間に、初めてオファーされた時からのさまざまな思いが繋がりました。そして今に至ります。


──演劇の神様はやはりいたということですね。お二人とも覚悟をもって臨まれる本作では、何を大切に取り組もうとお考えですか。

濱田さん)
 私の経験上、「作品が役者を選ぶ」、「やるべきタイミングで出会う、逃れられない作品」ということがあるんです。この作品もその種のものだと感じています。だからこそ、作品が役者を集め、スタッフを集め、このような取材会にみなさんを集め、そして劇場にお客様を集める。そうやって伝わるテーマがそれぞれの中に浸透してく──その流れを大切にしたいと思います。私自身は、その作品の一部として、ケイという人物の生き様を通して、人生において何を貫き通すのか、何に忠誠を誓って生きるのかを表現することでお客様に何かを届けられればと思っています。

海宝さん)
 僕は、先ほどもお話したように、キャラクターが持つ精神性などの繊細な違いを丁寧に表現したいと思います。ムーブメントや所作も含め、細かく積み重ねていかないと物語を構築していくのが難しい。それをスタフォードさんとともに、稽古の中で模索していこうと思っています。

 また、作品のテーマについては、普段、日本で暮らしていると自分が日本人であるという意識は希薄ですが、海外でお仕事をさせていただく時に感じる「世界の中での日本人、自分」ということを見つめ直すいい機会になるのではないかと感じています。新型コロナのこともあり、そういった世界の中の一員だという視点、意識を大事にしながら作品に臨みたいと思っています。



【最強の組み合わせ!】

──舞台ファンとしては、こうしてミュージカル界でトップを走り続けるお二人のご共演を嬉しく思います。近年、『レ・ミゼラブル』でもご共演はされていますが……。

海宝さん)
 レミゼでは、芝居ではまったく絡んでいません(笑)。


濱田さん)
 舞台袖で会うくらい(笑)。稽古もレミゼはちょっと特殊で、なにせ大所帯なもので、なかなかおしゃべりするという雰囲気ではないんです。

海宝さん)
 劇場入りしても、楽屋も階が違ったり。


濱田さん)
 時々会っても、お互いトリプルキャストなので、すれ違いざまに「明日は出る?出ない?」なんて会話くらいで。『アリージャンス』では、芝居でガッツリ組めるので楽しみです。

──演じるのは物語の軸を担うケイとサミー、姉弟という関係です。

濱田さん)
 私、共演歴は福井晶一くんが長いですとよく話しているのですが、それを上回る人がいましたね! 彼がおチビの頃から知っている、早25年という付き合いです。サミー役が直人くんだと聞いた時は思わず「ふっ」と笑ってしまったくらいに、“家族的な”という意味においては最強です! ちなみに、この作品のナンバーに「膝小僧を擦りむいて いつも走り回っていた弟~」という歌詞があるのですが、(『ライオンキング』の)ヤングシンバの頃の裸足で走り回って、時々コケて擦りむいていた直人くんの姿、そのままで(笑)。 その前の(『美女と野獣』の)チップの頃からすべて見ているので、変なストレスが一切ないんです。やりやすいを超えて、笑っちゃうくらいドンピシャ。

海宝さん)
 本当に“ガキんちょ”の頃の僕を知ってくださっているので、めぐさんの前ではカッコつけようがないんです。今更カッコつけてもしょうがない(笑)!! でも、ちょっと変な言い方かもしれませんが、僕にとってそれはとても嬉しいことなんです。 そこには、芝居で遠慮なくぶつかっていける、そしてすべて受け止めてくれるという安心感があるので。


濱田さん)
 そうそう、お互いに絶対的な安心感があるよね。


【家族愛とそれぞれの価値観】

──ケイとサミー、それぞれのキャラクター、家族愛についてはどのように捉えていますか。

濱田さん)
 ケイは、弟のサミーと恋人のフランキーという真逆の立場にいる二人、加えておじいちゃん、お父さんという存在の影響も受けて、揺れます。家族の中で、亡き母の代わりに「母親という役割」を担い、人のために愛、敬意、やさしさを惜しみなく与え、自分には何も残っていない、自分の立ち位置がわからない中で収容所にいた。そんなケイが、フランキーという、初めて「自分」を認識させてくれる相手に出会い、自立していく過程がしっかりと見えるような役作りをしていこうと思います。

海宝さん)
 サミーは自分が生まれた時に母親を亡くしています。それもあって、日本人のメンタリティをあまり色濃く持っていない日系二世。そして彼の価値観では、常に「男としてどうあるべきか」がある。それを象徴する♪What Makes a Man というソロ曲では、国のために戦うこと、忠誠を尽くすことが男だと主張します。この「国のために戦うことが愛する人を守ること」というのは、『ミス・サイゴン』について勉強した時に、多くの帰還兵が口にしていたことを知っていたので、アメリカ人の中にあった、もしくは今もある考えなのだろうと思います。そういった愛国心は、今を生きる僕ら日本人にはあまりない感覚なので、そこをしっかりと理解し、腑に落としていく作業をしていかなくてはと思います。

 その上で、彼を突き動かしているのは「愛するものを守りたい」という思い。ここで言う「愛するもの」は家族であり、日系人(全体)でもある、広義のファミリーだと捉えています。そう考える根拠は原語の主語、ヒーローになるんだという歌詞の中での主語が「We=僕たち、私たち」なんです。僕たち日系人がヒーローになる、訳詞にはそこまで入れられないかもしれませんが、自分の中ではそういった本来のニュアンスも大事に表現していきたいと思います。



──本作が上演されるのは2021年3月。ちょうど劇場が時を止めた今春から1年が経つ時期にあたります。そんなめぐり合わせについて。

濱田さん)
 世界中でこれまでの生活や価値観が覆されたこの一年を経て、この舞台が、もう一度、自分の立ち位置や、これまでの人生、自らのルーツを振り返るきっかけになるのではないでしょうか。それと同時に、この作品を通して世界の中での日本、日本人を客観的に理解しようとする私もいます。そうやって世界に目を向けるきっかけにもなる。そんな風に、この作品に触れるみなさんに何か新しい視点を感じてもらえれば成功なのかなと思います。

海宝さん)
 その通りだと思います。世界中で今もなお加速する「分断」という、とても大きなテーマを内包する作品です。ニュースなどで情報、知識としてわかっていても、日本で暮らしているとなかなかその実感はわきません。でも、この作品を通して、その痛みのたとえほんの一部でも、肌で感じてもらえるのではないかと思います。そのためにもまずは僕らが、この事実をより深く知り、物語を深めていく。それをご覧いただいて、みなさんにいろんなことを感じていただきたいと思います。



 

 お話の中にでも登場した「膝すりむいてる~」という歌詞が登場するケイのナンバー ♪もっと高く Higher(訳詞:高橋知伽江 ※上演時の歌詞とは異なる可能性があります)の歌唱動画が公開されました。一曲の中でケイのドラマが繰り広げられるこの決意を歌い上げる、「この曲を劇場で聞きたい!」 そう強く思う素敵な動画です↓




 家族愛というテーマと共に、歴史であるとともに現代にもつながる非常に社会的なメッセージも持つ本作。お二人の作品に向き合う真摯な姿勢に、「大きな仕事を託される俳優の器量」というものを改めて感じました。お二人を筆頭に、この頼もしいカンパニーが創り上げる作品なら信頼できる! 幕が開く日がますます待ち遠しくなりました。そして!!!


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仲良しショット!


【公演情報】
ミュージカル『アリージャンス~忠誠~』
2021年3月12日(金)~3月28日(日)@東京国際フォーラム ホールC
2021年4月17日(土)~18日(日)@愛知県芸術劇場大ホール
2021年4月23日(金)~25日(日)@梅田芸術劇場メインホール

<スタッフ>
脚本:マーク・アサイト、ジェイ・クオ、ロレンゾ・シオン
作詞・作曲:ジェイ・クオ

演出:スタフォード・アリマ
共同演出:豊田めぐみ
上演台本・訳詞:高橋知伽江
翻訳:渋谷真紀子
音楽監督:江草啓太 振付:前田清実 藤山すみれ
美術:松井るみ 衣裳:前田文子 照明:中川隆一

<キャスト>
濱田めぐみ 海宝直人
中河内雅貴 小南満佑子
上條恒彦 今井朋彦
渡辺 徹

照井裕隆 西野 誠 松原剛志 俵 和也 村井成仁 大音智海 常川藍里
河合篤子 彩橋みゆ 小島亜莉沙 石井亜早実 髙橋莉瑚

公演HPはこちらから

おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文)おけぴ管理人(撮影・監修)

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