ミュージカル『マタ・ハリ』柚希礼音さん& 愛希れいかさん取材会レポート



「ちゃぴちゃんと同じ役を演じるなんて、信じられない──、みなさんも思っていらっしゃるかと思いますが、私もめっちゃ思っています(笑)」(柚希礼音さん)

「愛されにいかない、そこも挑戦になると思っています」(愛希れいかさん)



 2018年の日本版初演から3年の時を経て、ミュージカル『マタ・ハリ』が待望の再演。
 本作でダブルキャストとしてタイトルロール“マタ・ハリ”を演じるのは、初演において、その歌声と芝居で観客を魅了した柚希礼音さんと、近年、数々の大作でヒロインを務める 愛希れいかさん 。宝塚歌劇団で男役、娘役とそれぞれの道を極めたおふたりがどんなマタ・ハリを作り上げるのか。タイプの違うふたりのマタ・ハリの誕生がますます楽しみになる取材会の様子をレポートいたします。



愛希れいかさん、柚希礼音さん

撮影:吉原朱美 
ヘア&メイク(柚希)/黒田啓蔵(Iris)
スタイリスト(柚希)/間山雄紀(M0)
ヘア&メイク(愛希)/杉野智行(NICOLASHKA)
スタイリスト(愛希)/山本隆司 


<作品紹介>
 『ジキル&ハイド』『スカーレット・ピンパネル』など数々のヒット作を生み出した作曲家フランク・ワイルドホーン。彼の美しく雄弁な音楽が描き出す、歴史に名を残したひとりの女性の愛と悲劇の物語──ミュージカル『マタ・ハリ』。

 第一次世界大戦の暗雲たれこめるヨーロッパを舞台に、戦時下であっても国境を超えて活動する自由を与えられるほどの人気を得たダンサー“マタ・ハリ”。時代のうねりの中で、彼女の特権を利用しようとするラドゥー大佐、偶然出会った運命の恋人アルマンら、彼女にかかわる人々を巻き込みながらマタ・ハリの人生は輝き、そして大きく歪んでいく。

 ダンサー、スパイ、そして一人の女性としての顔を見せる主人公マタ・ハリはもちろん、登場人物それぞれの心情を丁寧に舞台上に立ち上げる司令塔は石丸さち子さん。初演に続き、訳詞・翻訳・演出を手掛けます。

 注目の共演キャストは、初演から続投となる加藤和樹さん(ラドゥー)、東啓介さん(アルマン)に加えて、新ラドゥーに田代万里生さん、新アルマンに三浦涼介さんという魅惑のダブルキャスト! ほかにもマタ・ハリを献身的に支える衣裳係アンナには春風ひとみさん、ドイツの高等将校ヴォン・ビッシングには宮尾俊太郎さんという個性あふれるキャストが集いました。

 ますますグレードアップした2021年版『マタ・ハリ』に期待が高まります♪



【インタビュー】

──まずは柚希さんに。再演が決まった現在の心境からお聞かせください。

柚希さん)
 マタ・ハリは大好きな役ですので、3年ぶりに再びこの役を演じられることを嬉しく思います。再演ということでハードルも上がりますが、より一層、魂をこめて演じたいと思います。

 マタ・ハリは実在の人物。壮絶な彼女の人生は、決して綺麗ごとだけでは描けません。戦争のさなかを女性が一人で生き延びるために、彼女は女であることを利用します。それに対して否定的な感情をもつ方もいらっしゃるでしょう。でも、彼女の心の奥底にはピュアがあるんです。私は、そこに人間的な魅力を感じ、彼女の生き方に共感します。みんながみんな共感できる人物ではないということもわかった上で、マタ・ハリを、“みんなに共感してもらおうともしない女性”として、思い切り演じたいと思います。

──愛希さんはご出演が決まり、いかがですか。

愛希さん)
 私はまだまだ未知な部分が多いのですが、その中で確信しているのは自分にとって大きな挑戦になるということです。宝塚時代にも、いわゆるファム・ファタールと呼ばれるような役を演じたことはありますが、娘役という枠を出て一人の俳優としてこのような役を演じるのははじめてです。

 ちえさん(柚希さん)のお話を伺っていて感じたことは、私自身、宝塚時代は舞台人として、役を生きることはもちろんですが、それに加えて常にお客様、男役さんのファンの方にどう映るかを考えながら演じてきました。でも、そうではないところを目指さなくてはならない。愛されにいかない、そこも挑戦になると思っています。自分の殻を破る、そのためには壁にぶつかることもあると思いますが、演出の石丸さち子さんを信じてついて行きたいと思います。


柚希さん)
 私も、初演の時は石丸さんから「嫌われなさい」と何度も言われました。3年前は「全客席から愛されようとしている」「お客様に好かれる演技をしがち」という指摘をされて。自分ではそう思っていなくても、身体に染みついたものがあったのだと思います。その後、経験を積むことで“あの時に言われたこと”が理解できるようになった自分がいるので、再演ではそこを突き詰めていこうと思っています。


──続いて、フランク・ワイルドホーン氏の音楽、『マタ・ハリ』の楽曲の印象についてお聞かせください。

柚希さん)
 ワイルドホーンさんの音楽は美しく心が揺さぶられる楽曲ぞろいです。このような音楽を生み出すご本人もきっとドラマティックな感性の持ち主なのだと思います。そんな楽曲を歌えることは大きな喜びでもありますが、一曲一曲、しっかりとした長さがあり、しっかりと盛り上がり、しっかりと歌い上げて終わる。歌うのは本当に大変です(笑)。

 私は、自分が演じる前に韓国で『マタ・ハリ』を見たのですが、その時にマタ・ハリを演じていたのがオク・ジュヒョンさん、彼女のマタ・ハリというのが自分の中にあるんです。ジュヒョンさんという目標が高すぎてくじけそうにもなりますが、自分なりに、より高みを目指していこうと思います。

愛希さん)
 私はワイルドホーンさんの作品への出演経験と言っても、『スカーレット・ピンパーネル』では子役としての場面での歌唱でしたので、歌ってみてというところではあまり多くを語れませんが、ドラマティックで、思わず口ずさみたくなるようなキャッチーな楽曲だという印象をもっています。今作の譜面を見ても、一曲一曲のスケールが大きく、それをお客様に投げかけるような歌唱が求められ、そのためには非常に大きなエネルギーを要するだろう──。歌唱についても、しっかり頑張らないと!と気合を入れ直しました。


──お客様に投げかけるような歌唱、柚希さんは実際に歌われていかがでしたか。

柚希さん)
 まず、幕開きの曲がすごいんです(笑)。先ほどもお話した通り、石丸さんからは「あそこですべてのお客様から嫌われなさい」と言われました。「この女、強め! 本当に嫌!」と思わせるくらいに。また、そこに説得力を持たせるためにも、マタ・ハリの内面、芝居をしっかりと作り上げた上で、その溢れ出る思いをお客様にぶつけるような歌唱でなければならないと考えています。


──ダブルキャストの相手が、それぞれ愛希さん、柚希さんということについてはいかがでしょうか。

柚希さん)
 ちゃぴちゃん(愛希さん)と同じ役を演じるなんて、信じられない──、みなさんも思っていらっしゃるかと思いますが、私もめっちゃ思っています(笑)。

 私、ダブルキャストの時は、『ビリー・エリオット』の島田歌穂さんや『ボディ・ガード』の新妻聖子さんのように「本当にあなたとこの方がダブル?」と聞かれるような全然違うタイプのダブルが多く、毎回、違うからこそ生まれる面白さを感じています。宝塚OGとのダブルは、これまでにもとうこさん(安蘭けいさん)とはありますが、下級生とははじめてなのでとても新鮮! ちゃぴちゃんともやはりまったく違うタイプなので勉強させてもらいながら、刺激をもらいながら、稽古場で一緒にマタ・ハリを作っていきたいと思います。

愛希さん)
 私も最初はびっくりしました。宝塚時代も今も、ちえさんは常に前に前に進み続けるイメージ。新しいものを追求して、自分の個性をどんどん開拓されているちえさんの舞台を拝見することは、私自身にとっていつも大きな楽しみであり、とても尊敬しています。こうしてダブルキャストとしてご一緒できること、ちえさんの前向きなエネルギーを近くで感じながらお稽古できることを幸せに思います。


──柚希さんの前に進むエネルギーの原動力はどこにあるのでしょうか。

柚希さん)
 前向きに──、そう見てくれていることを嬉しく思いながらお話を聞いていました。私は、どれだけ経験を積んでも、新しい作品に取り組むたびに前の経験を器用に活かすことができずに悔しい思いばかりしています。そして、どの作品もゼロから始めて、なんとか初日までにという思いで稽古を重ね、初日が開いてからももっともっとという思いで、ひと公演ずつ務めています。常に「まだできてない」という感覚があるので、それが前に進む原動力になっているのかな。さっき、ちゃぴちゃんも同じようなことを話しているのを耳にして、ちゃぴちゃんもなんだ!と思ったんですよ。


──現在は、プレ稽古が始まった段階とお聞きしていますが、ここからの課題はどこにあるか、また、楽しみにされていることはどんなことですか。

柚希さん)
 久しぶりに歌ってみたところ、やはりこの作品は大変だと痛感しました。それと同時に、3年前とは喉が違うということも感じました。

──喉が違うとは。

柚希さん)
 キーも含めて、男役の歌い方をしなくなると自然に喉も変わってきます。それは先輩方も仰っていましたが、本当にそうなんだと実感しています。もちろん宝塚の男役の歌い方というのも伝統に裏打ちされた素晴らしい表現です。でも、『マタ・ハリ』で求められるのはそうではない。前回の『マタ・ハリ』の音源をボイスメモに残しているのですが、今聴くと、語尾のビブラートの使い方など男役の歌い方だなと感じるところがあります。あの時も、自分ではマタ・ハリという女性としての歌唱表現をしていたつもりでしたが、まだまだ残っていた。今回は、前回できていなかったことに気づいた分、また新しい声が出せるようになるといいなと思います。

──さらなる進化に期待が高まります!

柚希さん)
 私にとっては再演となるので、お客様は当然前回以上のものを期待してくださっている。それに応えるのは絶対だと思っています。そのプレッシャーを力にして、精一杯取り組んでいこうと思います。本格的な稽古が始まったら、今回もきっと石丸さんが力強く導いてくださるので、そこに身を任せ、新しい自分に出会えることを楽しみにしています。

──愛希さんはいかがでしょうか。

愛希さん)
 私はまだ譜面をいただいたところで、すべてはこれからという段階ですが、譜面を見ただけでもすごく大変なんだろうと。でも、この作品を通じて私も新しい自分に出会えそうだと感じています。そして、それを楽しみにしています。

 私の場合は、ちえさんとは真逆で、娘役としてやってきて、宝塚卒業後は“娘役の声”を指摘されることが多くあります。お互いに同じような悩みがあるのだと改めて共感しています。私も娘役から、一人の俳優になったと思っていただけるように、自分をしっかりと持って『マタ・ハリ』という作品、役に向き合っていこうと思っています。





 舞台人として、表現者としてさらなる高みを目指すおふたりのお話。『マタ・ハリ』という作品のさらなる進化への期待を高めると同時に、自らにより高いハードルを課す勇気とそれに対するたゆまぬ努力を惜しまないおふたりの人柄がとても印象的でした。このダブルキャスト、素晴らしい化学反応を生むだろう!きっと面白いことになる!それを強く感じました。



【公演情報】
ミュージカル『マタ・ハリ』
東京公演:2021年6月15日(火)~6月27日(日)/東京建物 Brillia HALL
愛知公演:2021年7月10日(土)~7月11日(日)/刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
大阪公演:2021年7月16日(金)~7月20日(火)/梅田芸術劇場メインホール

<スタッフ>
脚本:アイヴァン・メンチェル
作曲:フランク・ワイルドホーン
歌詞:ジャック・マーフィー
オリジナル編曲・オーケストレーション:ジェイソン・ホーランド
訳詞・翻訳・演出:石丸さち子

<キャスト>
柚希礼音 愛希れいか(Wキャスト)
加藤和樹 田代万里生(Wキャスト)
三浦涼介 東啓介(Wキャスト)
春風ひとみ 宮尾俊太郎
鍛治直人 工藤広夢 飯野めぐみ
石井雅登 伊藤広祥 竪山隼太 上條駿 中川賢 中本雅俊 森山大輔
彩橋みゆ 石井千賀 石毛美帆 桜雪陽子 Sarry 鷹野梨恵子 原田真絢

◇企画・制作:梅田芸術劇場
◇主催:東京公演主催:梅田芸術劇場・東宝・アミューズ
愛知・大阪公演主催:梅田芸術劇場

公演HPはこちら

写真提供:梅田芸術劇場
おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人

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