【感想と舞台写真で綴る】こまつ座 第139回公演『雨』観劇レポート




井上ひさし中期の大傑作『雨』、こまつ座で19年ぶりに上演!

 先が気になるスリリングな展開、あっと驚くどんでん返し、言葉とアイデンティティ、地方と中央、笑いと音楽……井上戯曲の魅力がググっと詰まった『雨』。観劇の醍醐味がそこにありました。演出は2011年に新国立劇場でも本作を演出した栗山民也さん。



写真左より 山西惇、倉科カナ(撮影:宮川舞子)


写真左より 久保酎吉、尾身美詞、南里双六、チョウ・ヨンホ、元田牧子、花王おさむ、武者真由、倉科カナ、山西惇、木村靖司、榎本ゆう、助川嘉隆(撮影:宮川舞子)

まずは早速届いた感想をご紹介!

◆暗転した瞬間、生演奏のパーカッションの音と、浮世絵のような雨が降る舞台装置に、一瞬で芝居の世界に引き込まれ、最後まで、身じろぎも出来ず観入ってしまいました。新しい言葉を得て失ったものは何だったのか。沢山の方に観ていただきたい素晴らしい舞台です。

◆すごく面白かったです。自分が自分であることを自分で証明することはできない。他人から認知されることで、自分としていられるんだなぁ、などとほかにも色々と考えさせられる井上先生らしい作品ですね、素晴らしかった。

◆深刻な展開とは裏腹に、あまり泣いたり叫んだりしないことで、余計に怖さが伝わって来ました。

◆謎解きの要素もあり、驚きと納得の結末でした。観終わってすぐに、また最初から観たくなりました。お祭りのような歌と音楽に興奮させられ、生のパーカッション演奏があることで、舞台の迫力や楽しさを倍増させてくれます。



写真左より 倉科カナ、山西惇(撮影:宮川舞子)

◆雨を表現した舞台美術が、浮世絵を思い出させるような素敵なものでした。後半に出てきた赤い傘も印象に残りました。

◆素晴らしかったです。最初は聞き取れないくらいの方言に面食らったり、面白おかしく観ていたのですが、騙し続けている山西さんの裏表の演技は引き込まれますし、最後の伏線回収というか、どんでん返しは見事です。その最後の倉科カナちゃんの表情も必見です。山西さんすごいです。最高です。おもしろかったぁ

◆大名作。栗山民也の、井上ひさし戯曲の読解力に感動します。垢染みた汗も、紅花畑の美しさも、一筋縄ではいかない人の心の機微も強く印象に残ります。



写真左より 山西惇、薄平広樹、武者真由、木村靖司、榎本ゆう、倉科カナ(撮影:宮川舞子)

◆己のアイデンティティとは何かを考えさせる作品です。個人的には前田亜季さんの艶やかさに見とれてしまいました。

◆休憩込みの3時間という長尺のお芝居でしたが、この先どうなっていくのかと物語に引き込まれていく豊かな時間を過ごすことができました。生演奏が劇中に入るのが個人的にとても好きなので、それもあわせて楽しい時間をすごしました。また演出の美しさや、表現、流石です。役者さんたちは標準語ではない大量の台詞をしっかりと身体に馴染ませていらして、本当に素晴らしかったです。千秋楽まで皆様の健康と公演の成功を祈り、応援しております。

◆陽気な場面に忍び込む不穏。主役から脇役に至るまで、演劇を見る楽しさを盛り立ててくれます。紅花が鍵になる物語なので、色彩も豊かで眼福です。

◆人間の恐ろしさ、愚かさ、やるせなさ、いろいろな感情がわきあがって来る作品でした。最終盤の、紅花畑に微動だにせず立っている影のような農民たちの姿が不気味で、でもとても印象的でした。



【観劇レポ】



写真左より 桜井章喜、川飛舞花、薄平広樹、石田圭祐、野坂弘、久保酎吉、
山西惇、土屋佑壱(撮影:宮川舞子)

 江戸。豪雨に追われて橋の下で雨宿りをしている金物拾いの徳。彼を見て驚く“親孝行屋”は、徳に声をかける「旦那様おひさしぶりでございます」と。親孝行屋は、徳をかつて世話になり、今は行方不明の羽前の国(現在の山形県)平畠藩の紅花問屋「紅屋」の当主・喜左衛門だと言って譲らない。それほどまでに瓜ふたつならば、いっそ成りすましてしまえと言う仲間たちの言葉に首を横に振る徳だったが──。

 東北に旅する徳、『紅花口説(べにはなくどき)』の調べに乗せられて喜左衛門になりすまし富と美しい妻を手にする。だが姿かたちは瓜ふたつながら、徳の前に立ちはだかるのは平畠ことばと喜左衛門の記憶。なんとかごまかしながら紅屋の人々、平畠藩の役人たちを騙すことに成功した徳を待ち受けていたものは。



山西惇(撮影:宮川舞子)

 徳を演じるのは山西惇さん。記憶があいまいなところをごまかす術の滑稽さ、器用に平畠ことばを習得していく様、窮地での大胆な行動……人間の業をその一身に背負うかのような大役を独特の軽みと凄みの緩急で魅せます。二幕ですらすらと平畠ことばで話す徳を見ると、まるでそこにいるのは喜左衛門そのもののように思えてくる。すべてを知っているはずなのに。“その人”を認識する上で、顔かたちと同様にいかに「言葉」が大きな割合を占めるのかを痛感。そう思うと、“役を演じる”ことと“他人になりすます”こと、どこか相通じるものがあるようで興味深い。



倉科カナ(撮影:宮川舞子)


写真左より 山西惇 前田亜季(撮影:宮川舞子)

 美しい妻おたかには倉科カナさん。平畠小町と呼ばれる美しさと紅屋の娘としての(喜左衛門は婿)強さ、すべてを飲み込む大きさを感じさせる落ち着きのあるおたかです。もうひとり、物語のカギを握る芸者花虫の前田亜季さんもしなやかな魅力で印象的。

 ほかにものべ100人近い登場人物たちを24人の出演者で演じるのですが、久保酎吉さん、石田圭祐さん、木村靖司さん、土屋佑壱さん、櫻井章喜さん、こまつ座常連のみなさんや意外にも初出演という花王おさむさん(新国立劇場での栗山さん演出『雨』にはご出演)の存在感たるや。そこにいるだけでにじみ出る圧が、作品世界を奥深いものにしています。そこに若手のみなさんも加わって、時ににぎやかに、時に冷たく、あの時代の江戸の、平畠の空気を作ります。また、熊谷太輔さんのパーカッション生演奏が臨場感を高めます。

 雨に始まる物語の結末はいかに──。徳が得たもの、失ったものはなんだったのか。ラストシーン、美しい紅花が咲く景色にたたずむ人々の無言の圧からなにを受け取るか。ぜひ劇場で味わってください。



【公演情報】
こまつ座 第139回公演『雨』
2021年9月18日(土)~26日(日)@世田谷パブリックシアター
2021年10月2日(土)@関内ホール
2021年10月8日(金)@所沢市民文化センター
2021年10月13日(水)@静岡市民文化会館

<スタッフ>
作:井上ひさし
演出:栗山民也

<キャスト>
山西惇、倉科カナ
久保酎吉、石田圭祐、木村靖司、土屋佑壱、櫻井章喜 / 前田亜季 / チョウヨンホ、野坂弘、薄平広樹 / 花王おさむ
俵和也、助川嘉隆、南里双六、頼田昂治、村岡哲至、岡部雄馬、川飛舞花、元田牧子、武者真由、尾身美詞、榎本ゆう、宮松ぼたん / 熊谷大輔

こまつ座HP:http://www.komatsuza.co.jp/index.html

感想寄稿:おけぴ会員の皆さま
おけぴ取材班:chiaki(編集・文)監修:おけぴ管理人

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