10月10日に東京建物 Brillia HALLにて開幕した
ミュージカル『マドモアゼル・モーツァルト』。
おけぴ開幕レポートに続いて、観劇レポートをお届けします。レポラストには、おけぴ編集の公演ダイジェスト映像も!
舞台中央はモーツァルトの妻コンスタンツェ、舞台上部から見守るのはモーツァルトが生み出した音楽の精霊たち
精霊たちは歌とダンスでモーツァルトの人生を語る。グレイを基調としたセット、舞台上空には印象的なリング状の輝くモチーフや精霊たちの衣裳が作り出す世界で、色とりどりの衣装をまとった登場人物たちがより色鮮やかに映ります。
少女エリーザ(明日海りおさん)
モーツァルトの父レオポルト(戸井勝海さん)、エリーザ
類まれなる音楽の才能をもつモーツァルト(少女エリーザ)を音楽家にするために、父レオポルトは彼女を男として育てる。その音楽の才能は人々を魅了し“天才モーツァルト”の名は瞬く間に広がる。
ここからガラリと曲調が変わり、ディスコ・ミュージック♪NaNaNa!が始まります。そこは青年となったモーツァルトの演奏会。彼と彼の音楽は人々にもてはやされるも、ライバルの宮廷音楽家サリエリはモーツァルトの音楽を否定しながらも複雑な思いを抱く。
モーツァルトの才能が当時の音楽界に与えたインパクトの大きさを表現するような、エネルギッシュなシーン
次々に作品を生み出すモーツァルト
青年期に差し掛かったモーツァルトは、周囲を巻き込みながら本来の自分と音楽家としての自分に葛藤するようになる。
モーツァルト、コンスタンツェ(華優希さん)
タイトルロールのマドモアゼル・モーツァルト、モーツァルト/エリーザを演じるのは明日海りおさん。役と俳優の相性の良さは予想以上。男性パート(モーツァルト)と女性パート(エリーザ)を演じるというより、その両方が一人の人間の中にあるということを自然に表現できるのは、明日海さんのキャリアのなせる業。軽やかな身のこなし、ヤンチャだけど憎めない、周囲を顧みず音楽に没頭する──。一人の人間には重すぎるほどの大きな才能をその身体に宿し、生き急ぐ様は美しくもあり、苦しくもある。ただ、その才能、モーツァルトの放つ輝きは出会う人たちに確実に変化を与える。カリスマ性と等身大の人間性を自在に行き来する、軽やかな明日海モーツァルトなのです。
歌手カテリーナ(石田ニコルさん)、モーツァルト、コンスタンツェの母(徳垣友子さん)、コンスタンツェ
コンスタンツェ役の華優希さんは、モーツァルトに自らプロポーズする大胆さとキュートさを併せ持ったちょっとコミカルな芝居が印象的。また、そこから終盤は、奔放なモーツァルトに複雑な思いを抱きつつ、“夫が女性”であることを受け入れ支える決断をしたコンスタンツェの人間的な成長、共に大切に思う同志のような愛で結ばれた信頼関係をしっかりと見せます。宝塚時代に培った明日海さんとの信頼関係がその根底にありながら、新しい世界へ羽ばたく、堂々の芝居を見せます。
お二人が歌う♪朝焼け は、モーツァルトとコンスタンツェが幾多の困難を乗り越えたどり着いた、そこから見える景色。二人だからたどり着くことができた 、歌声と共に心のハーモニーも感じる名曲です。
サリエリ(平方元基さん)、カテリーナ
サリエリは圧倒的な地位にありながら、型破りなモーツァルトの音楽を否定しつつも気になる。才能に惹かれているのか、その人物に惹かれているのか──こちらも複雑な思いを抱える。ビッグナンバー♪心乱れて では、観客の心をぎゅっと掴む柔らかく深い歌声で劇場を支配します。そして、モーツァルトが父の面影を感じる、懐の深い平方さんの演技。ラストシーンは…。
サリエリの恋人カテリーナを演じるのは石田ニコルさん。華やかで強めの女性が見せる悲しみの表情。グッときます。♪心乱れて でサリエリに呼応するように歌い継ぐ場面は、もう、切ない。
写真左)シカネーダー(古屋敬多さん)
また、終盤の起爆剤! みんな大好きシカネーダーを演じるのは古屋敬多さん。♪NEW WAVE はシカネーダーのキャラクターを大いに反映する盛り上がりソング! 舞台上を、時代を大きく前進させるエネルギーに満ちた時間、空間にします。こちらもラストシーンにモーツァルトとの関係性が色濃く表れます。
フランツ(鈴木勝吾さん)
ほかにもモーツァルトの弟子でコンスタンツェと恋に落ちるフランツを誠実に演じるのは鈴木勝吾さん。自らが成しえなかったことを託そうと、モーツァルトの才能を諦めきれなかった父レオポルトを戸井勝海さんの大きな存在感。それぞれが、モーツァルトにとってかけがえのない人々に命を吹きこみます。
音楽の精霊たちと戯れるように自由に音楽を奏でる
そして精霊たち。モーツァルトが残した作品の登場人物たちが空気のように存在する。それはモーツァルトの人生における音楽がそうだったのだと、モーツァルトの人生を可視化するような効果を生み出します。呼吸をするように音楽を奏でる。やがてその才能はモーツァルトの身体をむしばみ、「魔笛」はまさに命を削って生み出す、壮絶なシーンです。
音楽と愛で大切な人々と絆を築いてきたモーツァルトの人生。悦びと葛藤の末にたどり着いたのは、男/女という枠組みを超えた一人の人間、一人の芸術家として生きる世界。フィクションであることを忘れ「生まれてくる時代が早すぎたのか。いや、それだけではない」、そんなことをまで考えてします。そんな風に、気づくとモーツァルトに思いを馳せています。自分は何のものなのか。 “モーツァルトが女だった”、この奇想天外な発想の物語から受け取るのは、とても現代的で現実的な問いなのです。
見えないけれど、今も、世界中で精霊たちが軽やかにダンスをしているのかな。そんな帰り道でした。
【おけぴ編集の舞台ダイジェスト映像】
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人