世界中で愛されるサン=テグジュペリの「星の王子さま」を原作とした音楽座ミュージカル『リトルプリンス』が誕生したのは1993年のこと。以後、何度も上演されてきた名作が初演から30年近い時を経て、東宝版としてシアタークリエにて開幕!
王子役:加藤梨里香さん
王子役:土居裕子さん
劇場空間が無限の宇宙と化し、目の前で物語が繰り広げられる、宝物のような言葉の数々を受け取った、その旅の果てに見えるのは──。初日前に行われたゲネプロと会見の模様をレポートいたします。記事後半にはおけぴ編集のダイジェスト映像も!
プロローグでは飛行士が無謀とも思われる飛行を遂行しようとする様子が描かれます。飛行機乗りだった作者のサン=テグジュペリの実人生も投影されたような、本作のひとつの側面。
飛行機は砂漠に不時着し、そこで飛行士は、とある小惑星から来た王子に出会う。
ヒツジの絵を描いてとせがむ王子(加藤梨里香さん)と飛行士(井上芳雄さん)
かわいいヒツジたちも登場しショーアップされたナンバーに♪
元気いっぱいの小さな男の子。王子は加藤梨里香さんと土居裕子さんのダブルキャストです。
体当たりでこの“カワイイ大役・難役”に挑むのは加藤梨里香さん。はじめは土居さんとのダブルキャストに震えるほどプレッシャーも感じたとのことですが、
「王子という役は稽古をすればするほどとんでもなく大変な役だと感じます。稽古場では、王子のことをずっとたくさん考えてこられた裕子さんからたくさんのものをいただきました。素敵な環境でこの役に挑めることに感謝し、王子として全身全霊で駆け回りたいです」(加藤さん) まっさらで真正面からぶつかっていく勇気と元気が、今の加藤さんだからこそ表現できる無垢で無邪気な王子像を作り上げます。毬のように跳ねたかと思ったら、遠くを見つめ切ない表情を見せる。全身を使ったクルクルと変わる表現も印象的ながら、その歌声にも心を打たれました。王子が儚さを知る過程を丁寧に演じます。
こちらは王子役オリジナルキャストである土居裕子さん。存在が王子。
「王子は、ただの男の子ではありません。何十年か前にやったときは元気いっぱいでしたが(笑)、今はそこではないところでやっているような気がします。誰の心の中にもいる存在、今回は飛行士の心の中からぴょんと出てきたような王子と思って取り組んでいます」(土居さん) 表情やたたずまい、芝居の緩急、歌唱法、そこには土居さんがキャリアの中で培ってきたテクニックがあるのでしょう。でも、それを超えたところにある“本質”を掴み、それを表現することで、ただただ王子として存在することができる。こちらもまた唯一無二の王子がそこにいます。
飛行士とキツネの2役には井上芳雄さん。それぞれがとても魅力的で素敵な役なのですが、王子と出会い、心を通わせていく飛行士、王子に大切なことを説くキツネを井上さんが演じることで作品がより豊かになっています。与えるとか、教えるとか、人と人との関りは決して一方向だけでなく、互いに築きあげるもの。そんなことを感じさせる2役です。だからこそ飛行士と王子が同じようなことを言い、それを王子が喜ぶというシーンが心に深く刻まれます。
そして王子との出会いを通してひとつの悲しみを乗り越えようとする飛行士の姿に、サン=テグジュペリと幼き日に亡くなった弟フランソワの関係もにじませる。井上さん、もはや3役の勢い!!
土居さんからは
「飛行士はいろいろと悩みを抱え鬱屈しているので、キツネになったときの弾け方がすごいよね」 との言葉が!お芝居のトーンはまさにその通りで、闇を抱えた飛行士が浄化される変化を表現する確かな芝居とキツネのかわいらしさ、井上さんの魅力全開です。
王子にとって大切な存在のバラの花には花總まりさん。説得力しかない!
出てきた瞬間の美しさ、気高さ、ちょっと高慢なところもその裏にある気持ちが見え隠れしてキュッと心を掴みます。花の場面は短いシーンですが、花を献身的に世話し、ずっと思い続ける王子との関係はしっかりと物語全体を貫く。“one of them”ではなく“only one”であること、それを深く印象づけられるのも花總さんだからこそ。
花が孤独を歌ったとき、そこにいるのは飛行士の恋人というもうひとつの顔を見せます。原作でも、花はサンテグジュペリの妻コンスエロをモデルにしたという説があるこの役もまた幾重にも折り重なった意味を持つ存在なのです。
「花は王子さまが本当に大切に思う、ある意味でこの作品のキーキャラクター。この大切な役をしっかり務めたいと思います。私事ですが、今回、初心に帰り“影コーラス”をさせていただいております」(花總さん) 花總さんの影コ、貴重!!決して大所帯ではないこのカンパニー、総力戦で物語の世界を届ける。その一端がここにも表れています。だからこそ生まれる、音楽の、世界観の壮大なスケール!!
王子が地球で出会うヘビには大野幸人さん。その完成度の高さに唸ります!
動きも視線もヘビ!それもそのはず⁉、徹底した役作りの成果なのです。いわゆる毒ヘビなのですが、砂漠に生息するヘビを調べたという大野さん。
「ヘビの毒には血液毒と神経毒というのがあって、血液毒は苦しんで死に至り、神経毒は苦しまずに死ぬ。神経毒をもつパフアダーというヘビの動きを研究しました」(大野さん) この選択にも深い意味があるのです。
王子の星を巡る旅の話にはさまざまなキャラクターが登場します。
星を巡り、王様、実業家、呑み助、うぬぼれ屋、点灯夫、地理学者と出会い、地球にたどり着く。そこで王子はキツネに、そして飛行士に出会う。
「温かいカンパニーのみなさんと作ったから、作品にも温かいものが流れています。観劇後に大切なものを再認識したり、空を見上げていただけたら嬉しいです」(加藤さん) 「この作品をご覧になると、きっと星を見るのが大好きになるのではないでしょうか。そして地球は改めて素晴らしい星、大切にしたいなと思っていただけるといいな。劇場で楽しんでいただけたなら幸せです」(土居さん) 王子役ダブルキャスト:土居裕子さん、加藤梨里香さん(会見より)
王子役の二人の衣裳は少しその濃さが違います。
公式HPにある
「加藤梨里香と学ぶ『星の王子さまミュージアム』ツアー」動画 にて解説されている、アメリカ版とフランス版の王子のイラストの青の濃淡。これは勝手な考察ですが、オリジナルが少々薄く、(その後のある種の)リメイク版が濃いめというエピソードに由来するのかな。 作品全体を包み込む演出の小林香さんをはじめとするカンパニーの原作への、二人の王子への、『リトルプリンス』への深い愛情と敬意に触れ、ふとそんなことを考えるのでした。
また小林香さんは『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』『マドモアゼル・モーツァルト』に続いて音楽座作品の東宝版演出を手掛けますが、そこにはいつもオリジナルへの敬意が溢れています。そして、同じく音楽座作品への愛を公言するのは。
「音楽座の作品は大好きです。『シャボン玉~』に続いて、東宝版として宝物のような作品をやらせていただけるというのは本当に幸せなこと。仕事というものを越えて人生に必要なものを得ているというありがたい時間。そんな喜びとともにやらせていただいています」(井上さん) ミュージカルっていいな!
頭で理解しようとしすぎると哲学的で、難解な原作。それを演劇の力、音楽の力をもって届けることで、心にダイレクトに届けることができる。そのためにミュージカルという表現があるかもしれない。改めてそう思う観劇体験でした。
宝石のような言葉がちりばめられている中で、特に響いたのが、「水」。『リトルプリンス』を観ながら、乾いていた心に水が染み渡り、それが涙として零れ落ちる。自分自身、心がこんなにも乾いていたことにも驚きました。私たちは、その「水」を求めて、劇場へ足を運ぶのかもしれません。
【会見こぼれ話】
「二人の王子、かわいさの種類が違うというか」という井上さんの言葉に
リアクションもカワイイ土居さん
井上さんの言葉の真意「理想のダブルキャスト」だということにはみんな納得なのです♪
大野さんのヘビ解説に
出演者のみなさんも興味津々!
美しい! 影コーラスだけでなく、セットの穴から顔を出すシーンもあるとか!
【おけぴ編集ダイジェスト映像】
VIDEO
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文・動画編集)監修:おけぴ管理人