【これぞ会話劇】新国立劇場 演劇 シリーズ「声」第二弾『ロビー・ヒーロー』稽古場レポート



 シリーズ「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話...の物語」第二弾として5月6日より上演される新国立劇場 演劇『ロビー・ヒーロー』(プレビュー公演あり)。

 映画脚本でも高い評価を得るケネス・ロナーガン(『マンチェスター・バイ・ザ・シー』で2017年アカデミー賞脚本賞受賞)の戯曲を2001年にオフ・ブロードウェイで初演。その後、翌年にはウエストエンドで上演、18年にはブロードウェイでリバイバル上演された『ロビー・ヒーロー』が新国立劇場初登場となる桑原裕子さんの演出で上演されます。初演より20年が経った今でも響く、いやむしろ「今こそ響く」物語。稽古場の様子をレポートいたします。

ものがたり(HPより抜粋)
マンハッタンにある高層マンションの広いロビー。警備担当のジェフ(中村 蒼)は、人生の目的もなくこの仕事についている。クソ真面目で向上心のある上司ウィリアム(板橋駿谷)は、不良の弟が殺人罪に問われて心配していた。見回りに来た有能な警察官ビル(瑞木健太郎)と相棒の新人見習いのドーン(岡本 玲)、どうも二人はいい仲のようだ。ロビーで待っているドーンに、ビルの訪問先は女性だと口を滑らしてしまうジェフ。
翌日。弟のアリバイを偽証したウィリアムに対して、自分が何をすべきか悩むジェフ。ドーンは本当のことを話すのがあなたの責任だと説得するが...。





 舞台はニューヨーク、マンハッタンにある高層マンションのロビー。
 稽古場にはロビーの内と外のセットが組まれています(といってもその二つは地続き)。


 この日は、はじめての通し稽古とのことで緊張感も漂いますが、演出の桑原さんの「試したり、しくじったりしながらやりましょう」の言葉でリラックス&稽古場にさらなる活気が!

 登場人物は4人。ロビーにいる警備員の青年ジェフ(中村蒼さん)を軸に展開する物語。彼が口にした言葉が引き起こすアレコレの顛末やいかに。

 人がいなければ仕事中にも音楽を聴き、軽口をたたき、キャスター付きの椅子でツーっと移動する、昔風の言い方ですが “ごきげん”なジェフ。ひと言多いんじゃない?とハラハラするところもあるジェフを自然体でどこか憎めない人物に見せる中村さん。





 ただ、飄々としているようで警備員とドアマンの違いにはこだわる。そんなプライドの裏には自分がいるべき場所はここではないのではないか、何者かになりたいという欲が見え隠れする。ジェフの言葉のどこまでが本気なのかという線引きは観ている者に委ねられるのですが、そのあいまいさも含めて、中村さんが演じるジェフという人物にリアルを感じるのです。観客が物語を自分ごとに引き寄せることができるジェフです。

 そんなジェフが上司ウィリアムから相談を持ち掛けられ、自分なりの正義を考えてどう行動するか。





 見習い女性警察官のドーンを演じるのは岡本玲さん。警察官になりたいというドーンの志と周囲からどう見られているかの乖離、手を差し伸べてくれる相棒への信頼の揺らぎ……。岡本さんが表情豊かに演じます。男社会の警察の中で、若く華奢なドーンが置かれる立場を思うと、胸がギュッと苦しくなるようなところもありますが、そこでドーンがどんな決断をするのか。自分だったらどうするだろうと考えさせられます。





 ジェフの上司のウィリアム(板橋駿谷さん)は殺人罪に問われた弟からアリバイの偽証を頼まれる。真面目に警備員の職務に励み、一番の若さでキャプテンになったウィリアム。弟が罪を犯したか否かはわからないけれど、自分が証言しないと弟がひどい目にあわされるかもしれないと恐れを抱く。そこには彼らが黒人であるということも大きく影響しています。そう思うと、これまでにウィリアムがしてきた社内で信頼を得るまでの努力やさらに上を目指し、それに値する人間だと自らを語る姿に切なさも感じます。屈強なウィリアムが自分の中の正しさと家族の情のはざまで葛藤し、さらには差別という現実も加わって……板橋さんが繊細に演じます。





 ドーンの相棒、上昇志向が強く仲間の信頼も厚いビルには瑞木健太郎さん。巡回中にジェフが警備をするマンションの一室を訪れるビル、その部屋での“用事”をジェフの発言でドーンが知るところとなり……。憧れの先輩からの転落に加えて、ウィリアムの弟の一件でもいろいろとあり。ビルの必死のあがきがどこか滑稽に見え、思わず笑いが起こるというのも皮肉な話です。肯定できないところもあるのですが、でも、「いるよね、こういう人」という説得力はすごくあります。






 こうして登場人物を紹介していくと、つまりはみんな自分なりの正義を探し葛藤する人々。そんな4人が会話を通して関係性を変化させて、それぞれが選択をしていく。主に一対一の会話で展開するのですが、途切れそうで途切れない会話の“間”や、踏み込むか否かの距離感が絶妙。そしてそれぞれのバックグラウンドをもつ4人のやり取りの中に、ジェンダー、人種、上司と部下、親子関係、自己実現など現代社会が抱える問題のあれこれが浮かび上がってくるのです。出演者4人の芝居、シーンはロビーの内と外だけ、それでもこんなに深く多面性のあるドラマが描かれることに言葉の力、戯曲の妙を感じる。シリーズ「声」にふさわしい会話劇。



演出:桑原裕子さん



 通し稽古の後のノートでも「ジェフの自嘲的なところは道化になって自らの人生をエンタメ化しているように。そのために台詞の音域を広げてみよう。その高低差によって無力感がただようのではないか」「台詞のどこを立てて、どこを落とすか、試していきましょう」(桑原さん)という台詞のニュアンスや音域の幅といった「声」についての話が印象的でした。もちろんそれを発する際の目線や態度についてもお話がありましたが、それらも含めてまだまだいろんなバリエーションを試していこうという段階。全体的に少しタイトにすることに対しての桑原さんの「やみくもに巻きたくない」「“間”をとっておきたい」「遠回りしていこう!」という言葉には信頼しかない!!ここからどう深まるのか楽しみです。


 また、この日は所作、アクション指導の渥美博先生も登場!警官ドーンが警棒を構え、振り下ろす場面の動きやウィリアムがジェフにつかみかかる場面の動きについて、無駄がなく適切、キレキレな指導が行われました。



「腰を落として構える」
「相手から警棒が点に見える角度に構えることで、反撃しにくくさせる」
なるほど~と、理にかなった指導の数々。


感情的に胸ぐらをつかみつつ、しっかりと表情も見えるように動きをつける


緊張感のあるシーンに!

 指導によって鮮やかに変わる芝居! こういった所作のリアリティの大切さを実感。また躍動感がありながら安全性にも十分に配慮された動きにプロの仕事を見ました!



 ケネス・ロナーガンが紡いだ言葉、浦辺千鶴さんの翻訳、桑原裕子さんの演出、そして4人の俳優たちの芝居で届けられる、“自らの正義と向き合い、夢と現実の狭間でもがきながら生きていく人々”を描いた『ロビー・ヒーロー』。初日はまもなく!!



ロビーの外をのぞくジェフ
ロビーの内と外。シンプルなセットですが、外はマンハッタンの街、喧騒から伝わるエキサイティングな空気とロビー内の閉塞感、日々同じことの繰り返しという停滞感のコントラストも感じられます。

【公演情報】
シリーズ「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話...の物語」第2弾
新国立劇場『ロビー・ヒーロー』

2022年5月6日(金)~22日(日)@新国立劇場 小劇場
(5月1日(日)、2日(月)プレビュー公演)
<全国公演>
◆穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
2022年5月28日(土)13:00、29日(日)13:00
◆兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
2022年6月5日(日)13:00
◆岡山市立市民文化ホール [主催:(公財)岡山文化芸術創造]
2022年6月11日(土)13:00

作 ケネス・ロナーガン
翻訳 浦辺千鶴
演出 桑原裕子

出演
中村 蒼 岡本 玲 板橋駿谷 瑞木健太郎

公演HPはこちらから



おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人

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