人と人とが互いに影響しあい、成長していく過程を丁寧に描いた、愛おしく優しい物語。
ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』観劇レポートをお届けします。
開幕速報レポート、井上芳雄さん、上白石萌音さんのコメントはこちら孤児院で育った18歳の少女ジルーシャに大学進学の資金を援助するという手紙が届く。条件は月に一度、受領通知(手紙)を書くこと(ほか約束事はいろいろ!)。彼女は、明らかな偽名を名乗るその手紙の主を、一瞬だけ見かけた、車のヘッドライトに照らされる足長蜘蛛のようなその人の影になぞらえて“ダディ・ロング・レッグズ”と呼ぶようになる。
“ダディ”の正体は知的で紳士、けれど一風変わった若き(←ジルーシャの予想に反し!)慈善家ジャーヴィス・ペンドルトン。ジルーシャの独創的な作文に興味を持ち、その才能を伸ばして欲しいと援助を申し出た彼は、毎月届く機知にとんだ手紙に心惹かれ、次第に彼女への興味も増していく。
ついにジャーヴィスははやる気持ちを抑えきれず、正体を隠してジルーシャに会いに行き──。
ジーン・ウェブスターが1912年に発表した小説をもとに、手紙を受け取る側・ジャーヴィスの心の変遷も鮮やかに描きこんだミュージカル版の日本初演は2012年。初演よりジャーヴィス・ペンドルトンを演じるのは井上芳雄さん、今回新たにジルーシャ・アボットに上白石萌音さんを迎え、10周年となる2022年に上演される『ダディ・ロング・レッグズ』。東京・シアター1010にて開幕いたしました。
「自分が誰なのかわからない」
孤児のジルーシャが教育を受ける機会を得て、いろいろな経験をして、それを手紙に綴ることで自らを知っていく過程を真っ直ぐな歌声と眼差し、芝居で表現する上白石さん。同級生たちが当たり前のように身につけている知識や経験が自らにはないことに落胆しながらも、乗り越えようとする聡明さや意志の強さ、ジルーシャにピッタリ。
一方で「愛」に戸惑い、その意味をジルーシャを通して考えざるをえなくなるジャーヴィス。はやる気持ち、抑えられない!その様子は可愛らしくてまさにジャーヴィー坊ちゃま。井上さんの人間味あふれるジャーヴィスはチャーミングパワーアップです。
孤児院育ちとニューヨークの上流階級育ち。真逆の環境ながら、ともに居心地の悪さを感じていた二人。手紙を書くジルーシャ、それを読むジャーヴィス、主に手紙の文面の音読(歌)で進む物語。ジルーシャが紡ぐ瑞々しい言葉が音楽に乗って届く、二人の豊かな心の交流と成長が観客の胸を打ちます。
ジルーシャがソロで歌う♪幸せの秘密、二人で歌う♪幸せの秘密 リプライズの変化に代表される、状況や立場を変えたリプライズやミュージカル版のテーマを集約したようなビッグナンバー、ジャーヴィスが歌う♪チャリティーなどミュージカルならではの魅力もいっぱい詰まっています。
ジルーシャに心を寄せる一幕からジャーヴィスにエール(叱咤激励寄り⁉)を送る二幕──。
一足飛びで成長していくジルーシャ、いつの間にか、もしかしたら最初から、二人の関係をリードしていたのは彼女だったのかもしれないとすら思わせます。ジルーシャが大学を卒業し、自らの足で歩き始めた時、ジャーヴィスもまたひとつの卒業の時を迎える。そんな二人になにが起きるのか。優しく清々しい気持ちに満たされるミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』はシアター1010を皮切りに、大阪公演(梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ)の後、8月24日より日比谷・シアタークリエで上演です。
【ダイジェスト映像】
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人