【あの日からの思い】明治座 2023年1・2月公演 ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』主演:中川晃教さんインタビュー


原作は惣領冬実さんによる同名の大ヒット歴史漫画。15世紀、ルネッサンス期のイタリアを舞台に、イタリア半島の統一、次いで欧州の統一の野望を抱いた名門ボルジア家の後継者チェーザレ・ボルジアの知と力の戦いの物語をミュージカル化!

2020年に予定されていた公演が開幕目前で惜しくも中止となった無念を乗り越え、2023年についに私たちの前に姿を現すミュージカル『チェーザレ破壊の創造者』。2020年に続きチェーザレを演じる中川晃教さんの「あの日からの思い」を伺いました。



【時間は止まった、それでも意識は動き続ける】


──いよいよ再始動。こうしてまた『チェーザレ』の取材ができることを嬉しく思います。

2020年4月の公演が中止になってから約2年半。時が経つのは早いですね。今日、こうして取材を受けることで、再び動き出すことを実感しています。ちょっと背筋が伸びるような緊張感も(笑)。

──前回、中止になってしまった時の心境からお聞かせいただけますか。

2020年4月7日の緊急事態宣言を受け、13日から予定されていた公演の中止が発表されました。僕らは、1か月半ほどの稽古を重ねた最初の稽古場での衣裳付き通し稽古を終え、いよいよ本番のセットを組み、オーケストラも入った稽古のために大きな稽古場に場所を移して……という段階でした。それまでは、初日に向かって秒刻みで物事が進んでいくような毎日。僕たち俳優だけでなく、演出家、舞台監督を含めた演出部、音楽チーム、衣裳チーム、そして劇場として初めてオーケストラピットを稼働させる本格ミュージカル製作に挑む明治座さんといった作品に携わるすべての人々の『チェーザレ』にかける情熱が一つになり、ここから一段ギアを上げるようとする、そのタイミングでの突然の中止。心がポキっと折られるような感じでした。

──あの頃はなにもかもが初めてのことでした。

はい。それまで秒刻みで動いていたところから、突然、『チェーザレ』の時が止まった。それでも「あのシーンは」「あの歌は」……自分自身の中でチェーザレを演じるために、作品を立ち上げるために、なにかできることはないのだろうかとずっと思考を巡らせていました。公演中止という現実を受け入れてはいる、というか受け入れざるを得ないという表現のほうが正しいかな、それでも公演に対する意識は動き続けているという状態。それが2、3か月、本来であればとっくに千穐楽を迎えているはずの時期まで続きました。

その後、7月に開催した「中川晃教 コンサート2020 feat. ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』」という緊急事態宣言解除後の明治座さんの新たな幕開けとなるコンサートで『チェーザレ』の楽曲を歌わせていただいたのですが、それによって僕自身の中でひとつ昇華されたように感じました。

──初日、千穐楽という節目や劇場で観客に受け渡すことで昇華される、その当たり前が突然なくなった。「時は止まった、それでも意識は動き続けている」という言葉がずしりと響きます。カンパニーは再会を誓って解散されたのでしょうか。



あの頃は、まだこれがどんなウィルスなのか、この先、世の中がどうなっていくのか、まったくわからない状態でした。みんなで集まることもなく、「みなさん、稽古場にある荷物を取りに来てください。それぞれバラバラに」という状況でしたので、「またね」と言う機会もなく終わりました。

初めてご一緒する方も多いカンパニーだったので、劇場でお客様と一緒に生み出す感動を分かち合い、お客様からもパワーをいただいて、いっぱい汗をかいて、泣いて、笑って……本来ならば共に成長し、縁を深めていくはずだったものが一瞬にして消えてしまったような。なんとも言えない「実感のなさ」が残っています。誰が悪いわけでもないのだけれど。


【2023年に上演する意味を実感できる作品に】



──そこから2023年の上演に向けて、再び時が動き出すのですね。

脚本、音楽、セットや衣裳という作品の礎となるものはありますが、おそらく20年に上演しようとしたそのままの形で上演することはないと思います。先日、脚本の荻田浩一さん、演出の小山ゆうなさんとお会いする機会がありましたが、再スタートにあたり、演出、脚本を今一度整理し、パワーアップするための作業をされているそうです。コロナ禍を経験した私たちがこの作品を通して何を届けていくのか。2023年に上演する意味を実感できる作品になると思っています。できることならば20年に作品を立ち上げようとしたすべての人たちと一緒にという思いもありますが、現実はスケジュールの関係などでそれが叶わない方もいます。でも、「今、ここで幕を開ける!」その目的意識をみんなで共有できれば、続投メンバー、新メンバー問わず、みんなで同じ方向を向いていけると信じています。もちろん今回参加できないメンバーの思いも一緒に。

コロナによってつまずいたという思いもありますが、新しい何かに気づくため、そこから新たに創造していくために与えられた時間なのだと思って、『チェーザレ』という作品をより成長させていきたいと思っています。


──ルネッサンス期、人間の力の再生を謳った本作を今の混迷の世の中に放つ、とても興味深いです。

いろんな置き換えができると思うんです。この数年間、コロナ禍によって、人知を超えた目に見えない不安を抱えて生きていくストレスを私たちは経験しました。今もまだその混乱の中にいるのかもしれません。だからこそ、自分はどう生きていくのか、見失ってはいけないものは何かを自分の中に見出していかなくてはならない。個人、家族、仲間、社会、国家……大小いろんな単位で何が大切なのかを考える。本作に描かれるチェーザレという青年もまさにそれを考えています。自身の出自、血筋という運命を認識し、自らの道を切り拓いていく。ミュージカル版では主に学校を舞台に、彼が民族、国家を超えた多様な人々とともに生きていく社会を作るためにどんなリーダー像を目指すのか、その第一歩をどう踏み出すのか。若きチェーザレが何に出会い、何を感じ、それをどう他者と分かち合ったのかを青春群像という形で描きます。さらにそこに歴史というもうひとつの面白さが加わって物語はより奥深いものとなるんです。歴史と今をリンクさせる、とても高いポテンシャルを秘めた物語です。


【スペシャリストたちの仕事が作品を支える】


──その物語とともに興味深いのは音楽です。内面に秘めた思いや策略を歌に乗せて語るというスタイル、本作はミュージカルと相性がいいと感じます。

今日も島健さんによる『チェーザレ』の楽曲を控室で流していました。とてもおしゃれで躍動感あふれる音楽たち。実在の人物を描いた歴史ドラマゆえの、それぞれのキャラクターがもつ「層」を豊かに表現する音楽だと感じます。たとえば、庶民たちが歌う楽曲は、もちろん庶民的なわかりやすさもありながら、その奥には彼らの歴史も感じさせる。決して表層的でない音楽なのです。ほかの楽曲も、単純に素敵、きれい、カッコイイというだけではない、その奥、さらにその奥……とキャラクターの階層の扉を開けていけるような楽曲です。そうやって脚本に書かれていることに加え、この音楽が提示していることはなんだろうと、その意図をくみ取ることで演じるヒントを得られる。島さんの楽曲を劇中で歌うこと、それによってチェーザレという人物像や彼の物語を体現することはとても楽しいことです。

また、この作品は物語を反芻するというよりは、物語の始まりから終わりまで時間が流れ続ける。音楽的に言うとリプライズを効果的に用いるタイプの構造ではないんです。それより、登場人物それぞれの物語が重なり合い、ひとつの束になった時に、そこにどんな川が流れるのか、どんな風が吹くのか、どんな空が、海が……どんな景色が広がるのか。その大きなうねりが魅力。そしてそれを生み出すのが、島健さんの音楽が持つキャラクターそれぞれの「層」なのです。いろんな層が折り重なるので、お客様がどの視点に立つのか、どの人物にフォーカスを当てるのかによって印象も変わってくるのではないか、そんな想像力を掻き立てられる音楽です。そして最終的にそこにしっかりとチェーザレという人物の陰影、彼の物語を浮かび上がらせることが僕の役割だと考えています。



──想像力を掻き立てられ、また見る者に委ねられるところもある音楽というのは観客としてワクワクします。そして歴史モノならでは、衣裳を楽しみにされている方も多いと思います。

衣裳もディティールまでこだわっています。衣裳プランナーの西原梨恵さんや実際にそれを仕立てる衣裳チームのみなさんのプロフェッショナルな仕事ぶりは、この作品がいかに「時代」を大切にしているかを象徴するものです。採寸や仮縫いの時にも、みなさんのボキャブラリーが専門的過ぎて! 耳にしたことのないようなワードが飛び交っていました(笑)。また、それを身に纏う僕らについて言えば、例えばケープの掛け方ひとつをとっても、TPOに合わせて両肩にすとんと掛けたり斜めに掛けたり、その扱い、様式を大事にしています。

このように一流のスペシャリストたちによる音楽や衣裳は間違いなく作品を支える大切な要素です。ほかにも話し出したらキリがないほどこだわりがいっぱいの作品です。

──いろいろと伺いたいことが溢れますが、この先は舞台を観てのお楽しみということにしましょう。最後に2023年の公演にかける思いを。



チェーザレという人物を演じるということはとても大きなハードル。一人の俳優としてそれを乗り越えるというのが、まずあります。そのためにチェーザレが父や友と対峙したように、僕自身が作品を共に作り上げる仲間たちとしっかりと向き合っていきたいと思っています。尊敬する先輩方や、初めてご一緒する方もいますが、気負うことなく、誠実に。そのために脚本や譜面を読み込んで、そこで何が行われているのか、何が表現されているのかをより深く理解する。そういう当たり前のことをやっていく。そうやって稽古場では仲間と、本番ではそこにお客様も加わって、互いに向き合うという行為、その時間こそが、ミュージカル『チェーザレ』を作ってくれるのだと信じています。





「公演中止を乗り越えて」、その言葉に含まれるたくさんの思いを誠実にお話してくださった中川さん。その経験をも糧にして再び『チェーザレ』という作品に臨もうとする姿に、すでに英雄の片鱗を見たような気がしました。


1月21日(日)昼公演にておけぴ観劇会開催決定!

STORY
1475年、ローマ。ボルジア家の領袖ロドリーゴは、結婚を許されないヴァチカンの枢機卿という身分でありながら、一人の男児を授かる。その子の名はチェーザレ・ボルジア。「罪の子」と呼ばれながら煌めく才智と美貌を備え、政争渦巻くヨーロッパの統一を夢見て歴史にその名を残した男の誕生であった。
1491年、16歳になったチェーザレは、ピサのサピエンツァ大学に在籍していた。学内ではメディチ家のジョヴァンニが率いるフィオレンティーナ団、好戦的なフランス団、そして、チェーザレ率いるスペイン団など、学生達が出身地毎に牽制し合っている。それは、実際にイタリア半島で覇権を争う諸国の王侯貴族達を見るようでもあった。
その頃、ヴァチカンでは教皇インノケンティウス8世崩御の時が迫り、次期教皇選を睨んだ派閥争いが繰り広げられていた。キリスト教の最高位である教皇の座を巡り、激しく争うロドリーゴと宿敵ジュリアーノ・デッラ・ローヴェレ。チェーザレは、父を教皇の座に着かせるため、そして、その先にある自らの理想を実現するために頭脳戦に身を投じていく。
まずは選挙の鍵を握るピサの大司教ラファエーレ・リアーリオを籠絡すること。さらには、選挙権を持つ枢機卿の座を約束されているジョヴァンニの票を得るため、メディチ家との絆を深めることを画策するのだった。
それぞれの思惑が交錯する中、果たしてチェーザレは知と力の戦いに打ち勝つことはできるのか。

【公演情報】
2023年1月7日(土)~2月5日(日)@明治座

原作:惣領冬実「チェーザレ 破壊の創造者」(講談社「モーニング」連載)
原作監修:原基晶
脚本:荻田浩一
演出:小山ゆうな
音楽:島健

出演:中川晃教
橘ケンチ(EXILE)

[スクアドラ ロッサ] 赤澤遼太郎 鍵本 輝 本田礼生 健人
[スクアドラ ヴェルデ] 山崎大輝 風間由次郎 近藤頌利 木戸邑弥

藤岡正明 今 拓哉 丘山晴己 横山だいすけ 岡 幸二郎 
別所哲也

山沖勇輝 [スクアドラ ヴェルデ] 稲垣成弥 [スクアドラ ロッサ] 武岡淳一

石井雅登 植木達也 大久保祝臣 小原悠輝 後藤光葵 高山裕生
中島大介 溝口雄大 矢木俊也 山川大智 渡部又吁
安里 唯 小野田真子 平川はる香 横関咲栄 (五十音順)

公演HP:https://www.cesare-stage.com/

おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・撮影・文)監修:おけぴ管理人

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