★11/8 感想追記★こまつ座 第144回公演『イヌの仇討』2022年公演 彩吹真央さんインタビュー



 2017年、20年に続く再々演が開幕した こまつ座『イヌの仇討』(作:井上ひさし、演出:東憲司)にて17年より吉良上野介の側室お吟さまを演じる彩吹真央さんにお話を伺いました。



左より)大手忍、俵木藤汰、田鍋謙一郎、尾身美詞、薄平広樹、大谷亮介、原口健太郎、三田和代、彩吹真央


【作品について】
大石内蔵助も浅野内匠頭も登場しない、
吉良の目線から描く、井上ひさし版「忠臣蔵」異聞。

討ち入り当日、密室でお犬様と炭焼き小屋に隠れていた吉良上野介はどんな思いで首をはねられるまでの約二時間を過ごしたのか。家来、側室、御女中、飛び入りのお客⁉らとともに語り合う中でたどりつく真実。

討ち入りから320年、歴史の死角の中で眠っていた物語‐歴史のからくりと人間のドラマ-が立ち上がります!


【稽古場での発見】



──2022年の『イヌの仇討』がいよいよ開幕です。舞台稽古でのみなさんの様子からも充実されたお稽古を重ねられたのだろうと感じます。

演出の東さんを筆頭に、飽くなき探求心をもっているカンパニーのみなさんからたくさんの刺激をいただく稽古場でした。今回は再々演となりますが、「初演、再演を疑う」という考えのもと、作っては壊してという作業を繰り返し再構築しました。もちろん初演も再演もその時の解釈を積み上げて上演しましたが、それを一度疑うことから始める。役もやり取りも別の角度から見てみると違う捉え方になるなど、発見もたくさんありました。また、稽古場を暗くした状態での稽古も印象的でした。この物語の舞台となる「冬の物置小屋」、ろうそくの灯と月明かりしかない状況がどれほど暗く、怖く、寒いのかを体感することでわかることもありました。

──死と隣り合わせの極限状態。それを疑似体験すること見つけたのは具体的にはどのようなことでしょうか。

お芝居をするときの「互いの顔、表情を見て反応する」ということが暗闇ではできません。そこで頼りになるのは相手が発する言葉、台詞だけ。それによって伝わるように発語することを意識し、受け取る側もしっかりと聴こうとします。それは頭ではわかっていたことですが、実際にその状況に似た環境を体験することで、こういうことなのかと改めて実感しました。さらにあの暗さ、声を上げられない状況だと会話するためにこのくらい近づくよねと、距離感についても共通認識をもてたことも収穫でした。そして極限状態にもかかわらずやり取りが徐々にヒートアップして、喧嘩して、ハッスルして声も大きくなり「しーっ!」となっていくところがこのお芝居の面白いところ。そうなっても、壁一枚隔てたあちら側には死があるという緊張感を体験しているから、瞬時にそこに戻れるのです。

──緊張と緩和がますます観客を物語に引き込みます。そして井上先生の魂のこもった台詞に唸るとともに、ふとした表情や立ち位置、背を向けるか向き合うか……一人ひとりの心の動きからも目が離せない。そこにも芝居の醍醐味を感じます。

私たちは暗闇の中を体験しましたが、舞台が終始暗闇で展開するわけではありません。そこは演劇の素敵なウソ。会話劇なので、言葉を大切にするのはもちろんですが、暗闇からうっすらと表情が見えてくるようになると相手の表情を介したキャッチボールも大切になります。この3年、ゲネプロまでマスクを着けて稽古をすることが当たり前になっていますが、お顔の半分が見えない状態だと感情が伝わりにくく、そこから汲み取ることも難しいという経験を何度もしてきました。今回は、稽古場での稽古後半から毎日検査をすることでマスク無しでお稽古することができました。その環境を整えてくださったことは本当にありがたかったです。互いの顔を見ながらお稽古できることに感謝しながら、大切にお稽古を重ねました。

劇場に入ってからも、照明さんや音響さんをはじめとするスタッフのみなさんが一切妥協せずに微調整を繰り返す様子を見て、それぞれが作品を良くしようという高い志をもった人々の集まりだと感じました。キャストもスタッフも、みんながこの作品を愛しているんです。


【お三さまとお吟さまの如く】



──今回、お三さま役の三田和代さんが復帰されました。

またご一緒させていただけることが本当に嬉しくて! これはほかの方もおっしゃっていますが、声の張りもお姿もますますお元気になって戻っていらっしゃいました。そして、三田さんはご自身にもとても厳しいお方、そこもお三さまと重なります。一幕では対立するお三さまとお吟さまですが、そのお芝居でも立ち居振る舞い、ちょっとした身体の向きによって関係性がよりはっきりと見えてくる──こんな見せ方もあるのだと、日々、三田さんから学んでいます。そして井上先生の紡いだ台詞の言葉を立てるのか、そこでなにを伝えようとしているのかの捉え方が的確で、その通りの台詞回しでお芝居をされる。そこにあるのは戯曲の読み込みの深さ。私が言うのもおこがましいですが、それは本当に見事というしかありません。そんな三田さんのお芝居に対する姿勢からもたくさんの刺激をいただき、私自身、再々演にして改めて気持ちが引き締まりました。まるでお吟さまとお三さまの関係性の延長のように、稽古場では私自身が三田さんを見ていました。

──彩吹さんが演じるお吟さま、再々演での発見やアプローチについてお聞かせください。

井上先生の戯曲には役の設定に年齢も書いてあります。そこに役者の実年齢は厳密に従わなくてよいという一文を書き添えてくださっています(笑)。私が演じるお吟さまは20代後半ということで、初演、再演は「若さゆえ」というところを軸に作っていたように思います。もちろんお三さまとの対比という点では、今回もそうなるのですが、初演、再演をご覧になった方には今回のほうが少し落ち着いて見えるかもしれません。あの時代の20代を考えると、今の私以上にしっかり、どっしりとしていたのではないか。それを東さんとも相談し、発語の仕方も一言一句が伝わるように地声でしっかりとしたものに変えました。その上で、お吟さまの「生きて欲しい」という思いに向き合うことで、「ただただ生きて」という若さだけでなく、「辛さも苦しみも噛みしめて生きていく」という強い信念を持つ女性像が見えてきました。


【ご隠居様を愛おしく思う】



左より)薄平広樹、田鍋謙一郎、原口健太郎、石原由宇、俵木藤汰、大谷亮介、大手忍、尾身美詞、三田和代、彩吹真央

──大谷亮介さん演じるご隠居様(吉良上野介)との再会についてはいかがですか。

大谷さんもとてもお元気! 3年前より若返っていると思えるくらいです(笑)。私や若いキャストとも気さくに交流してくださり、劇場入りしてからも隣の男性楽屋からは楽しそうな声が聞こえてきます。聞こえてきたのは大谷さんの「俺はついこの間までペーペーだったのに、今は一番偉くなって大変だよ」という言葉、それによって場が和んでいました。大谷さんがペーペーというのがどういうことなのか、真偽のほどはわかりませんが(笑)。いつもそんな雰囲気を作り出してくださり、芝居では頼れる大谷さんが素敵で愛おしいから、ご隠居様が愛おしい、大谷さんの人間性が自然にお芝居の空気を作り出してくださいます。

──ご隠居様を中心にした関係性は舞台上だけでないのですね。

新たに加わった清水一学役の薄平広樹さんも含め、すごく仲の良いカンパニーです。
再演はコロナ禍の始まりの時期、一部の公演が中止になるというつらい経験をし、その後、北海道で公演ができたときは、舞台に立てることやお客様がいらっしゃることのありがたさが身に染みました。だからこそこの作品を心から愛する仲間たちと一緒にまた『イヌの仇討』をお届けできることの喜びは一入です。ぜひたくさんの方にご覧いただきたいと思います。

──本作は時代劇でありながら今の社会にもしっかりと響きます。

いつの世の誰が見ても自分たちの話に置き換えることができる。これは井上先生の作品全般に言えることです。今からちょうど320年前の出来事を描いた『イヌの仇討』からも今の日本、世界が見えます。本当にあった赤穂事件を題材に井上先生が創作したフィクションですが、これが本当なのではと思えるくらい世の中の真実を描いていると感じます。

──市井の人々にはチクリと、為政者にはグサリと刺さりますね。それぞれに届けたい作品です。

大石内蔵助がヒーローで吉良上野介がヒールとして描かれる『忠臣蔵』を単に逆転させるのではないところが井上先生流。大石があの事件を起こした本当の理由、真意にたどり着いたときに見せるご隠居様の心意気。二人をヒーローとして描く『イヌの仇討』、井上先生の優しさと厳しさを感じる作品です。

──登場しない大石とご隠居様の関係というのもグッときます。そしてあのラスト。

大向こうから声をかけたくなるほど、文句なくカッコイイですよね。一人でも多くの方にご隠居様の生き様を見届けていただきたいです!

──完全同意でございます。あのラストへ向かって、小屋の中で10人の人間が関わり、変化していく2時間を共に過ごすような観劇体験。声を大にしておすすめします!


【感想ご紹介】

『イヌの仇討』をご観劇されたおけぴ会員のみなさんの感想をご紹介!

◆大石内蔵助の討ち入り、忠臣蔵は浅野内匠頭のことも含め知ってはいましたが、討ち入りされた吉良上野介側からの視点はとても面白かったです。こまつ座らしく、笑いあり、涙あり、セリフにドキッとさせられたりとあっという間の時間でした。物事の見方は一つではない、と頭では分かっていても、流れてくる情報が真実かの如くついつい受け取ってしまいがちですが、視点はひとつではないことを肝に銘じておきたいと強く思いました。

◆なぜ吉良上野介が赤穂の仇として討たれなければならなかったのかを吉良側から解いていく謎解きのおもしろさがある作品。世間の眼を意識した行動が現代のSNSを連想させ、この事件の元々芝居がかったところが印象づけられた。大谷亮介さんが忠義の武士であり人格者である吉良を愛すべき人物として演じられていて魅力的。三田和代さんがさすがの貫禄で、お元気そうにしていらしてホッとした。

◆井上ひさし作品ですから観劇前から期待度は高いかと思われます。それを凌駕する内容でした。良く知る忠臣蔵は浅野内匠頭とお家断絶の悲哀に寄り添った物語。名を知る赤穂浪士も少なくない。対する吉良家の名もない家臣たちの揺るぎない忠誠心が胸を打ちます。台詞、演技、演出、どれも秀逸で美しい。観たばかりですが、再演して欲しいと強く思います(親に見せてあげたいので)キャスト皆さん素晴らしいですが、特に男性陣が花丸です。

◆ものごとや出来事を見るとき、一つの見方だけではなく、他の視点からの出来事があるのだというテーマはいつの世も忘れてはいけないことであると思う。歴史として伝わっていることも必ずも正しいことではないわけで、現在もニュースで報道される視点以外にも真実があるのだということを頭に置いておきたいと感じた。

◆後半から推理劇のようになり私たちが“忠臣蔵”として知っている事件が解き明かされます。緻密な調査による解釈に唸ります。そしてラスト5分で涙腺崩壊。このお芝居に出会えたことに感謝です。

◆誰もが知る忠臣蔵の裏っ側、味噌蔵の中を覗き込めます。少しずつ明かされる模様から、吉良が大石の真意を推し量り、腹を据えるところが、知恵者同士の組み合いのようで楽しいです。

◆忠臣蔵大好きです。今回、誰もが知る悪役 吉良上野介側からの視点ということで、一体どんな話が出てくるかと思いきや、相手側・別の視点から物事をみるとこうなるのか…と、ちょっと納得してしまう自分にビックリ。テンポよく明るく楽しい話も盛り込まれ、どうやってラストにつなげるのかドキドキしましたが…期待以上に素晴らしく見応えありました。

◆とにかく面白いの一言です!大体の日本人が良く知っている赤穂浪士の討ち入りが、全く違う切り口で悪人とされていた吉良上野介が立派なお殿様で、周りの家臣達も皆忠誠心があって思わずほろっとさせられます。

◆大河ドラマや年末にテレビでよく特集される『忠臣蔵』が表だとすると、その裏の存在、吉良上野介にスポットライトが当たるとここまで真新しい作品に見えるのかと驚きました。
コミカルなシーンも多く、終演まであっという間でした!

◆忠臣蔵といえば、吉良上野介が絶対の悪と学んでいたので、こんな多面的な見方があったのかと衝撃を受けました。それに上野介役の大谷亮介が、感情を押しころし、幕府の分析をしながら、自分の置かれている現実も知的に表現していてものすごくカッコよかったです、



【公演情報】
こまつ座 第144回公演・紀伊國屋書店提携『イヌの仇討』
2022年11月3日(木・祝)~12日(土) 新宿東口・紀伊國屋ホール
※2022年11月15日(火)~12月23日(金) 九州公演

作:井上ひさし
演出:東憲司

出演:大谷亮介 彩吹真央
俵木藤汰 田鍋謙一郎
石原由宇 大手忍 尾身美詞 薄平広樹
原口健太郎 三田和代

こまつ座HP:http://www.komatsuza.co.jp/

舞台写真提供:こまつ座(撮影 宮川舞子)
感想寄稿:おけぴ会員のみなさん
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文)監修:おけぴ管理人

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