【忘れられないラストシーン】こまつ座 第145回公演『吾輩は漱石である』開幕レポート



【感想ご紹介】

公演をご覧になったおけぴ会員のみなさんからの感想をご紹介いたします。

◆幕が開いて、鈴木壮麻さんの横顔を目にしたとたんに「漱石がいる!」と感激しました。そして学生役のお二人(壮麻さん、平埜生成さん)も、またいい!有名なエピソードやマニアックなエピソードを教えてもらえるのが、井上ひさしさんのお芝居の楽しみの一つ。お馴染みの作品の登場人物の「その後」や、その先にあるものも受けとることができました。

◆漱石も漱石が生んだ物語の登場人物たちも私たちと同じく、他者と共にいる煩わしさと一人でいる寂しさを抱えた存在だった。100年以上前の人たちも同じ思いを抱えて生きていたのなら、私もその煩わしさと寂しさを抱えて生きていくのだと、それでいいのだとしっくりきた2時間強でした。

◆夏目漱石作品のエッセンスが散りばめられた素敵な作品でした。私はあまり夏目漱石の作品に詳しいわけではありませんが、それでもピンとくる要素もあり、またそれを抜きにして物語としても面白かったです。特に2幕の後半、人が等身大で生きるということがどういうことか、ほろりとくるような描き方をしていて、涙腺が緩みました。台詞のやり取りもユーモアに溢れていて、心地よい気持ちで劇場をあとにしました。

◆大患に見舞われた漱石が見ていたかもしれない夢を描いた物語。漱石作品の登場人物たちが見え隠れしながら、奇想天外な物語が紡がれています。予定調和を求めない少し風変わりな作品でしたが、人を見つめる優しい眼差しが感じられました。漱石を演じる鈴木さんの佇まい、鏡子を演じる賀来さんの凛とした雰囲気、女中を演じる栗田さんの表現力などを楽しむことができました。頭で考えるのではなく心で感じる、お勧めの舞台です。

◆井上ひさしさんの描く世界の面白さと(やや)複雑さ、もしかしたら普段の舞台より集中力を要するかもしれませんが、心地よい疲れがありました。ストレートプレイで初めて観る鈴木壮麻さん、クリアな発声から紡がれる言葉がとても素晴らしかったです。

◆この舞台を観てからずっと夏目漱石の寂しさについて朝から幾度となく考えるようになり、先ずは「こころ」を再読してみました。すると「一層淋しい未来の私を我慢する代りに 淋しい今の私を我慢したい」「自由と独立と己れとに充ちた現代に生れた我々は その犠牲として みんなこの淋しみを味わわなくてはならないでしょう」とあり、私はこの舞台の意味が完結した感覚に陥り、同時に幸せになりました。井上ひさしさんの表現力やアイディアに改めて感服します。

◆難しいことも面白く・わかりやすく書く、のがモットーの井上氏の作品としては、例外的に「わかりにくい」!でももちろん、すっごく面白いことには変わりありません。むしろ、散りばめられている漱石モチーフにいちいち反応するのが忙しくて、深い暗示について気が付いてもそれを考えてる暇がない。待ってくれ~って感じです。さ、戯曲を読まなくっちゃ。

◆漱石の心の夢か幻に触れたような不思議な展開。お話が進むにつれ、自分の心の底を見るような気分になりました。開化中学新入生役の平埜さんが、生き生きとした演技で、この作品の魅力を引き出していました。山本龍二さんが出てこられた以後、どんどん魅力的な展開になっっていった事。やっぱり井上ひさしさんの作品には欠かせない役者さんです。雨の日、蓑を着込んだ出立ちがとてもお似合いでした。

◆鈴木壮麻さん、ミュージカル以外で初めて拝見いたしました。新しい挑戦魅力的でした。一幕、布団に寝ている時、二幕の無言の姿、漱石そのものでした。二幕、タバコを吹かしながら座っている無言の漱石は、漱石の苦悩を雄弁に語っていました。学生姿の壮麻さんのミュージカルでは絶対見られないドタバタした足音がユーモラスでした。

◆漱石作品の主人公がいろいろ出てきたりして、楽しめました。夏目漱石が、死を前にしてみたもの、人生観というのか、なんか胸に来るセリフだったりが、響いてきました。観てよかったです。

◆漱石の名作のダイジェストではない。修善寺での臨死の折の夢の中の話。小説に登場する人物はもちろん実在の人もでる。夢の世界には検閲も風紀の取締りもないから、明治の社会への疑問あり、大胆な風俗描写ありです。井上ひさしが漱石の小説の裏読み・先読みをしたようでもあり、知的でオシャレなお芝居でした。賀来千香子さんの男装が可愛く、栗田桃子さんが元気でいい女。演劇と人生の先達、鵜山仁さんでなければできない演出であった、と思う。井上戯曲が好きな方は見逃さないように。

◆総勢8人、それぞれのキャストが適材適所というのは観ていて気持ちが良いものですね。冒頭の修善寺の場面、栗田桃子さんと木津誠之さんとの掛け合いは何度も笑いが起きていました。他の皆さんも良かったです。山本龍二さんも面長で古風な衣装の方がぴたりとはまっていたのが素敵でした。


【開幕レポート】

紀伊國屋ホールにて上演中(~11/12)の『イヌの仇討』でも、社会を見つめる鋭さと人間を見つめる優しさ溢れる筆致で観客を唸らせる劇作家・井上ひさしさんが描く夏目漱石。1982年に「しゃぼん玉座」にて初演された本作が誕生から40年の時を経てこまつ座にて初上演される『吾輩は漱石である』が紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて開幕!



井上ひさしさんが幻想的かつユーモアがあふれる物語として描く、夏目漱石の作品や人生。
修善寺の大患前後の生と死の狭間の揺れ動いた漱石が見た世界はどのようなものだったのか…。育英館開化中学の職員室を舞台に、三四郎、マドンナ、先生など、漱石作品への愛とオマージュが散りばめられた個性豊かな登場人物たちが、時に愉快に、時に哀愁をもって語り合います。演出を手掛けるのは井上ひさしさんが絶大な信頼を置いていた鵜山仁さん。

ものがたり
明治43年8月24日水曜日、漱石44歳の「修善寺の大患」の大吐血。生死を彷徨った三十分間、後の創作活動にも影響を及ぼした仮死状態とその蘇生の合間に彼の脳裏に浮かんだ「特別誂えの時間」の切れ端。
育英館開化中学に入学した金成賢吉が出会ったのは、落第し続けて在籍し続けている山形勘次郎だった。勘次郎が学校を取り巻く状況を説明しているところに、教師たちによってもたらされた校長の手紙が読み上げられる。これまで姿を見せなかった校長は自らの不明を恥じ、命を精算したのちに学校を処分すると言う。


幕開きは、修善寺の旅館。転地療養のためにその地を訪れていた夏目漱石(鈴木壮麻さん)は大量吐血により床に伏している。妻の鏡子(賀来千香子さん)が看病する一室へ、仲居の中仙さんが食事を持ってきて……。中仙さんを漱石先生は“世話焼きお仙”というあだ名で呼んでいたというのも“らしい”お話。二人が交わすテンポの良い会話。漱石先生が生死をさまようというシリアス状況ながら、明るさも感じさせます。そこにやってくる漱石の弟子の雪鳥さんや医師らも交えて語られる「漱石」。

漱石を演じるのはこまつ座初登場となる鈴木壮麻さん、ただそこに寝ているだけなのにオーラが漱石! ときどき発する言葉も癖がある(笑)。鏡子を演じる賀来さんも初こまつ座。キリっとした佇まいの鏡子さんと栗田桃子さん演じるお仙さんのコントラストもイイ。

そこからドロドロと音が鳴り、黒衣さんによるセット転換で、漱石先生の意識の世界「特別誂えの時間」へ。

ガラリと世界が変わり、そこは育英館開化中学の職員室。



そこに登場するのは、育英館開化中学一年生の山形勘次郎。勘次郎を演じるのも壮麻さん!! 落第を繰り返しているという勘次郎……ベテラン一年生をハツラツと演じる姿も魅力的。そこにやってくる新入り一年生・金成賢吉には平埜生成さん。利発ながら気が弱くひょっとこのお面で自らを守る賢吉に、薄給の教師たちのために、いつも職員室に立たされていると自信満々に語る勘次郎。勘次郎に「好敵手、現る」と言われる賢吉をさわやかに演じる平埜さん、とてもイイ!




勘次郎と賢吉の丁々発止のやり取りが小気味よく、二人の画策による校長登場の場面↑もコミカルで哲学的。謎の校長先生の正体とは⁉
この場面の「20世紀のための歩き方、西洋に追い付き追い越すという」という意味合いの台詞には、井上さんのほかの作品とも共通する皮肉がこめられ、その滑稽さにニヤリ。

小川三四郎(若松泰弘さん)、おつちゃん(木津誠之さん)、ランスロット(石母田史朗さん)、縫田針作(山本龍二さん)という、漱石作品へのオマージュあふれる育英館開化中学の教師たちも個性豊か。それぞれのバックグラウンドが語られるところではクスッと笑ったり、チクリと心を痛めたり。もちろん漱石作品を読んでから観ることでその楽しみはより一層膨らみますが、ご観劇を機会に読んでみようというのもアリ! 山本さんの縫田針作は、もはや再演ですか?というハマりっぷりです。

新校長に名乗りを上げる遠山華子を演じる賀来さんのマドンナもハッと目を引く真紅のドレスを含めて存在感抜群。そして華子の下女お玉を演じる栗田さんのエネルギーもさすがのひと言。生命力を感じます。


やがて夢の世界から現実へ。
ここからがまた圧巻。漱石宅で繰り広げられる会話の中、ひと言も発することなくそこに居る漱石。壮麻さんが演じる深い深い思いを携えた漱石の後ろ姿、佇まい、一挙手一投足が美しい。メチャメチャ漱石なのです。そこに登場する……ああ、ここはぜひぜひ劇場でご覧ください。忘れられない最後の景色が待っています。



夏目漱石の内面世界を投影するとともに、他の作品ではあまり見せていない井上ひさしさん自身が抱える人間の根源的な「淋しさ」を提示した井上評伝劇のなかでも異彩を放つ『吾輩は漱石である』。心の傷口、この言葉がずっとこだまします。

『人間合格』で太宰治を、『太鼓たたいて笛ふいて』で林芙美子を、『頭痛肩こり樋口一葉』で樋口一葉を、『組曲虐殺』で小林多喜二を、『イーハトーボの劇列車』で宮沢賢治を……幾多の傑作評伝劇を遺した井上ひさしが描く夏目漱石とは。27 日(日)まで 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて上演中。

<演出:鵜山仁さんコメントご紹介>
「修善寺の大患。文学史上に名高い、夏目漱石の臨死体験を入り口に、作者井上ひさしが手繰り寄せた不思議な時空。
生きることにつきまとうさまざまな煩いと、誰もまだ見たことのない「死」への不安。
この両極に脅かされる、滑稽なまでに危うい生のバランス。
奇妙な夢のように散りばめられた漱石作品の断片を足がかりに、この世界の矛盾と混乱を生き抜くための、息づかいや表情を望み見る、
それが恐らく、この風変わりな戯曲を上演する意味だろうと考えています。」




★スペシャルトークショー開催★

11 月 16 日(水)1:00 公演終了後…鵜山仁
11 月 18 日(金)1:00 公演終了後…鈴木壮麻、賀来千香子、石母田史朗、栗田桃子
11 月 22 日(火)1:00 公演終了後…鈴木壮麻、賀来千香子、平埜生成、山本龍二
※各スペシャルトークショーは、開催日以外の『吾輩は漱石である』のチケットをお持ちの方もご入場いただけます。
ただし、満席になり次第ご入場を締め切らせていただくことがございます。
※出演者は都合により変更の可能性がございます。


【公演情報】
こまつ座第145回公演『吾輩は漱石である』
2022年11月12日(土)~27日(日)@紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

<スタッフ>
作:井上ひさし
演出:鵜山 仁

<出演>
鈴木壮麻、賀来千香子、栗田桃子、若松泰弘
木津誠之、石母田史朗、平埜生成、山本龍二

公演HP:http://www.komatsuza.co.jp/program/index.html#more428

舞台写真提供:こまつ座 撮影:宮川舞子
おけぴ取材班:chiaki 監修:おけぴ管理人

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