2013/04/05 劇団青年座『横濱短篇ホテル』稽古場レポ&椿真由美さんインタビュー




数々の演劇賞を受賞してきた劇作家・マキノノゾミさん×演出家・宮田慶子さんコンビによる、
青年座書きおろし第4弾!

横浜のとある老舗ホテルを舞台に、
7つの年代、7つのシーンが描かれる短篇オムニバス作品『横濱短篇ホテル』。

同じ高校の演劇部員だったハルコとフミヨ。
ある出来事をきっかけに、華やかな世界と裏方の道へ進路が分かれていく2人の女性、
そして彼女たちを取り巻く男たちとの出会い、別れ、憧れ、嫉妬、友情…。
ホテルという“非日常”の空間を舞台に、
それぞれのドラマが、マキノ作品ならではの温かさと笑いに包まれて展開します。

1970年から5年ごとに展開する物語、
その全てを観終えると、ひとつの大きな物語が浮かびあがる…。
そんな仕掛けも楽しみな、
青年座への12年ぶりの書き下ろし新作。
これはもう取材に伺うしかありません!

物語のキーポイントとなる女性・ハルコ役を演じる椿真由美さんに、
おけぴレポ隊がお話を聞いてまいりました♪





―椿さんが演じる役について教えて下さい。

奥山ハルコという女優の役を演じます。
演劇部員だった高校生のときに“女優になりたい!”という夢を持って、
映画監督とプロデューサーが打ち合わせをしているホテルの一室へ飛び込んでいくという、
とても大胆な面を持っている役です。
その後33歳、43歳、そして還暦過ぎ・・と、物語を通して役も成長をしていきます。
登場人物たちの成長の物語、その断片を切り取っていくような作品ですね。
私が演じるハルコも、テレビの台頭であるとか、
映画界の斜陽といった時代の流れにのまれていきます。
それでも銀幕出身の女優だというプライドがあったり、
仕事もして子どもも産んだり・・と、彼女持つ色々な面が描かれていく。
とにかく舞台に登場するたびに役の顔が違うんですね。
最初のシーンでは若い18歳、これは違う役者が演じるんですけれど、
とにかく「女優になりたい!」という夢を持ってキラキラしている。
次は30代で初恋の人と再会するシーン。
ここでは仕事でも恋愛でも少しストレスを抱えていて…。
その後も喪服だったりウェディングドレスだったりと、
同じ人物なんですけれど、そのつど全く違う顔が次々に出て来ます。

―実際の椿さんと同じ“女優”の役ですね。

はい。
“女優”役を演じるのは初めてです(笑)。
もちろん普段の生活でも誰もがいろいろな顔を持っているとは思いますが、
“女優”ならではの色々な顔を持っている、瞬間的な気持ちの切り替えがある役ですね。
そんなに大切に思っていたわけでもない初恋の人にいきなりプロポーズとか(笑)。
チャンネルの切り替え方が普通の人間とは違うな、と。

―そのあたりは役柄に共感出来ましたか?

うーん、それはこれから作っていくところです。
とっぴな行動に結びつくような、気持ちの積み重ねがあるわけですから。
そのあたりを探っていきたいです。



―オムニバス作品ということで、役の心情の繋がりが断片的ですね。

15~20分のシーンごとにきちんと物語を完結させて行かなければならない。
そこは普通の芝居と比べて難しいところです。
普通なら物語の中で紆余曲折があって、着地点にたどり着くのですが、
今回は、ひとつのシーンがぱっと始まってぱっと終わる。
その短い物語がつながって、また大きなひとつの物語になる。
台本を読んでも全体がどうなるのか予想がつかなかったですね。
本読みを終えて、何度か立ち稽古をしてみて、
少しずつ「こんな雰囲気になるのかな?」と見えてきたところです。
いまは学校の時間割のように時間を区切って、
シーンごとに稽古している状態なのですが、
他の人の場面を見ていると物語のつながりが見えてきますね。

―他のシーンを見てインスパイアされることはありますか?

あります、あります。
こんなふうに噂される人にならなければならない、とか。
登場していないシーンでもずっと噂されていますからね(笑)。

―台本を読んで感じたことは?

マキノノゾミさんの作品に出演させていただくのは3作目なのですが、
これまでの作品では与謝野晶子の物語や(『MOTHER』)、
夏目漱石の『坊っちゃん』をもとにしたもの(『赤シャツ』)、
あとは物理学者の寺田寅彦をモデルにした『フユヒコ』など、
それぞれ時代背景やモデルとなる人物がはっきりとあったんですね。
けれども今回は全く違って、時代背景という“大きな船”もない。
物語の舞台になる時代はどんどん変わっていきますし、
その“心もとなさ”みたいなものは感じています。
だからこそ、一場ごとがきちっと面白くなっていなければならない。
ひとつのシーンだけをみても独立して楽しめるような。
これは難しい本だなと思いましたね。
私自身このようなタイプの作品に出演するのは初めてですし、
劇団としても新たな挑戦になると思います。


―シーンごとのタイトルとイラストが並んだチラシもひとつの物語のようで素敵です。

時代が7つ並んでいてね。
だからスタッフさんも大変なんですよ。
衣裳や小道具なども、それぞれ時代が変わっていくので。
電話とか、男性のスーツとか、どんどん形が変わっていきますから。
観ていただく方にはその辺りも楽しんでいただけたらなと思いますね。

―演出は宮田慶子さんですね。

今回は特に“女優”役ということもあり、
その“居住まい”と言いますか“見せ方”を教えていただいています。
私はどちらかと言うとあんまり女っぽくないというか、
サバサバしているとよく言われるし、自分でもそう思うんですけれど(笑)、
この役はそれだけでは駄目なんですね。
“女”としての媚びや強かさ、
“女”のいいところも悪いところもみせる、
そういう部分の要素がないといけない。
宮田さんは“綺麗にみせる形”というのを知っていらっしゃるので、
「椿、ここはサングラスを取ってからこちらを向いたほうがいいよ」とか、
「椅子はこう座ったほうがいい」とか(笑)、
舞台の上での動きを細かく具体的に教えて下さいます。


“女優”らしい小道具の取り扱いを、丁寧に確認していく演出の宮田慶子さん(写真右)と椿さん


―映像と舞台では演技の方法、動き方なども違うのでしょうか?

やはり舞台ですと大きく動かないと伝わらないとか、
映像ならカメラが寄ってくれるといった
細かい“足し引き”はありますけれど、
基本的にはどちらも台本読んで最初に感じた印象を大切にしていきます。
あとは、映像の場合は編集が入るので物語を順番に撮らない。
そこが一番の違いですよね。
今回の作品もオムニバスですが、
時代が行ったり来たりしないのでその点ではやりやすいですね。

―作品の中で様々な年代を演じられますがそのあたりは?

シーンごとに33歳、43歳、60歳過ぎを演じますが、
見た目に関してはあまリ意識していないです。
役柄的に“女優”ですし、今は60歳過ぎの方でも皆さん若いですしね。
今回の芝居では見た目が老けていくことよりも、
中身を作っていくことを大切にしています。
初恋の人との再会にしても、どこまで覚えていたのか怪しいというか(笑)、
稽古をしながら「あ、そこまでじゃないな」とか、いろいろとわかってくるんです。
本読みで作ったペースが、どんどん裏切られていく。
そこを飛び越えていかなければ、と思っていますね。
シーンごとに“全然違う人物が出てくる”と感じてもらえるといいのかなあ…。


“すっかり変わってしまった”初恋相手・大野木健太を演じるのは大家仁志さん(写真左)

―稽古をしながら見えてくるものがあるわけですね?

そうなんです。
あとは先輩方からアドバイスをいただいたりして、
少しずつ役のイメージが変化して作られていきますね。
先輩のお芝居を間近でみることもできますし、勉強になります。
演出とはまた違う、役者としてのアドバイスですから。
これはやはり劇団ならでは、ですね。

―椿さん演じるハルコはホテルの一室に飛び込んだことから大きく運命が変わります。
椿さんご自身は思い切って運命に飛び込むタイプですか?

うーん(笑)、どうかなあ…?
でもやはり、役者になりたいと思った時には“飛び込んだ!”という感じでしたね。

―プロフィールを拝見すると看護学校を卒業されているとか?

看護学校を出て、国家試験を受けて看護師の免許を取って…。
そして就職せずに劇団の養成所に入りました(笑)。
今やらなければもう出来ない!と思って。
20歳くらいの時でしたね。
親からは「とにかく資格は取れ」と言われまして。
あとは好きにしていい、という感じでした。

―ということは、演劇を志したのはもっと前のこと?

小さい頃から人前で何かをするのが好きだったんですよね。
でも部活動もずっとバスケットとか弓道とか運動部で、演劇部ではなかったんです。
それが看護学校を卒業するころに、ふと違うことがやりたくなっちゃった。
その時に“これだ!”と演劇の世界に飛び込みました。
だから、ここ一番!というところでは前に行くタイプなんだと思います。
養成所の試験で、舞台のライトを浴びた時に「ああ、これだ」とトキメキましたね(笑)。
非日常の、特別な空間。
こういう普通の部屋の蛍光灯ではなくて、舞台の照明、ね。
その明かりを当てられて「なにかやってください」と言われた時。
それが忘れられない瞬間であり
これまでの人生で一番の岐路ですね。
あ、そういえば、その看護学校の卒業謝恩会が
この作品と同じ、横浜の山下公園沿いのホテルであったんですよ。


―最後に“劇団青年座”の魅力を教えていただけますか?

「人」ですね。
いろんな年代の方がいて、いろんな経験値を持っている。
たとえば時代物をやるときでも、その時代をよく知っている人が必ずいるんですよ(笑)。
若い俳優が老け役をやることもありませんし。
それぞれの「人」が重ねてきた経験が少しずつ作品に生かされている。
その層の厚さがあるからこそ、色々なテイストの作品が上演できる。
そこが一番の魅力かなと思っています。





椿さん、ありがとうございました!
この後、ハルコと初恋の人・大野木が再会するシーンの稽古を
少しだけ見学させていただきました♪


電話をかける姿も“ザ・女優”な椿さん。



かっこよかった初恋の人が冴えない中年教師に…。
衣裳の下にもたくさん着込んで“増量感”を出す大家仁志さん♪



20年ぶりに出会った2人。
それぞれに問題を抱え、違う人生を生きる2人の心が触れ合い、そして…!?
小さな物語が少しずつ繋がって、やがて大きな何かが見えてくる。
それは弱かったり、ずるかったり、けれどもやっぱり愛おしかったりする人間の姿…。
マキノノゾミさんと青年座からの素敵な贈り物のような舞台『横濱短篇ホテル』。
お見逃しなく!!


<公演情報>
劇団青年座 第207回公演
『横濱短篇ホテル』
作=マキノノゾミ
演出=宮田慶子
2013年4月19日(金)~28日(日) 紀伊國屋ホール

~ものがたり~
出会い、別れ、憧れ、嫉妬、友情
男と女、男と男、そして女と女
時代の流れの中でそれぞれの運命がもつれ合う
横浜のとある老舗ホテルを舞台に
マキノノゾミ氏が12年ぶりに新作を書き下ろした

ヤクザに追われて
1970年の初冬 客室
「かくまってください 怖い男に追われているんです」

人間観察 
1975年の夏 喫茶室
「じっくり観察して、その人のことを推理してごらん」

脅迫
1980年の初秋 客室
「コーチ、自分は知っているんです」

初恋の人
1985年の初夏 ロビーラウンジ
「そりゃ初恋の人だもん」

離婚記念日
1990年の冬 客室
「ボクらの結婚記念日でもあるし」
「同時に離婚記念日よね?」

プロポーズ
1995年の夏 ロビーラウンジ
「ちょっと本当にプロポーズしてみてよ」

ネックレス
初夏 客室
「言っとくけど、仲良くなんかないわよ、あたしたち」

~出演~
加門良 横堀悦夫  大家仁志 小豆畑雅一  田島俊弥
桜木信介 逢笠恵祐  須田祐介
津田真澄 椿真由美  加茂美穂子 小暮智美
香椎凜 田上唯

青年座HP
公演紹介




取材:おけぴレポ隊&mamiko   監修:おけぴ管理人

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