2015/03/29 新国立劇場『ウィンズロウ・ボーイ』稽古場レポート

【感想を追記しました】

♪観劇前、あらすじからみて3時間は「長い...」と思いましたが、いざ始まると「えっ、もう休憩?!」というくらい舞台にくぎ付けになりました。
家族の一人一人の感情が伝わってきて、「もし自分なら?」とか「ほんとにそれでいいの?」「そうだよね」「後悔しない?」「なぜ?」などと、どんどん物語に入り込んでいました。
普通の家族が、国家まで巻き込むような騒動に巻き込まれ、普通なら崩壊していく様子が描かれると思うのですが、この作品はちょっと違いますね。
暗くなりがちなのに笑いがあり重くない。3時間あっという間に過ぎますよ!!

♪戯曲の力が素晴らしく、引き込まれました。そして、それをしっかり伝えた小川さんの翻訳、鈴木さんの演出。裁判ものという重いテーマでありながら、わかりやすく笑いもあって、3時間があっという間でした。
良い作品に出会えて嬉しいです。

♪中村まことさんが、カッコイイ。小林さん、竹下さんの夫婦も家族への愛情があふれていて素敵。そして、ベテランに支えられて、新国立劇場演劇研修所出身の若手俳優さんたちがキラキラしていました。

♪第一次大戦前のイギリスが舞台なのに、ものすごく身近に感じられ、じっくりその世界を味わうことができました。
最初は、(私も親なので)親の立場で見ていたけれど、だんだん、子供たちに感情移入していって、特に長女キャサリンには、何度も頑張れ!と言いたくなりました。
小林さんの「静」、中村さんの「動」、それぞれの底にある強さを感じたりもして。
「個人の尊厳」こそ大事、ということを、いま改めて考えさせられた気がします。
そして見終わってちょっと気持ちが明るく元気になりました。

♪今の日本とオーバーラップする部分も多いような社会派の題材を扱いつつ、それを家族とその周辺の人々を通して描くことで、堅苦しくない、演劇としての楽しさにあふれた作品で、多くの方に見て欲しいです。
メインのキャラクターたち、それぞれに良いところがあるのですが、なんといっても、中村まことさんの弁護士が素晴らしかった。

♪家族の苦悩を描いた重たい社会派作品と勘違いして観に行ったら、エンターテイメント性のある本当に面白い作品でした。クリスティ劇を思わせるようなフランス窓のある応接間が唯一の舞台。
そこに頭脳明晰で著名な弁護士が名探偵ポワロ張りに颯爽と登場し、いきなりある人物を追い詰めます。そして裁判劇のなりゆきが法廷場面なしの会話のみで描かれ…。
と、ミステリーファンをもわくわくさせる巧みな展開で楽しませてくれます。

♪家族の思いがこぼれだすシーンの俳優さんの演技がどれも良かった。
次男をそれぞれの愛情で抱きとめる母(竹下景子さん)、父(小林隆さん)。自然な会話と一緒に繰り広げられる姉(森川由樹さん)と長男(山本悠生さん)の楽しいダンスシーン。
似た者どうしだから互いの痛みも分ってしまう、父と姉の会話、など。

♪役者さん方の演技が、静かながらとても深みがあり、言葉のひとつひとつが胸の奥まで沁みるようでした。
素晴らしかったです。これからさらにお芝居が円熟していくのかと思うと楽しみです。

♪長丁場が気にならないくらい話に引き込まれました。小林さんの厳格な父の中に、たまに現れる子供への深い愛情が素晴らしかったです。
竹下さんは可愛い母、中村さんは偏屈なんだかカッコいいんだか出来る弁護士なんだか謎な怪演でした。
メイドの破壊力はすごかったです。
正義を問う話でしたが、反発もあったけど似た者同士な父と娘の話でもあるかもと、最後の場面で思い始めました。衣装やセットがお洒落で楽しめました。

♪戯曲がしっかりしていて面白い。裁判の行方という熱い部分と、その裏で家族の人生や経済が悪化していく生々しい苦悩がきれいにマッチしているので、細かい会話のすみずみまでが全体の話に生きているのがすばらしいです。




【稽古場レポート】

20世紀英国を代表する劇作家テレンス・ラティガンが、実際の事件にヒントを得て書いた『ウィンズロウ・ボーイ』の稽古場へお邪魔してまいりました。


【演出&翻訳は夢のタッグ】

ホームドラマの温かさと裁判劇のスリルをあわせ持つ、演劇を見る悦びにあふれた作品の稽古場は演劇を創る悦びにあふれた素敵な空間でした。


舞台はウィンズロウ家のリビング!

ロンドンの中流家庭を舞台に、窃盗の罪で海軍士官学校を退学になった息子の無実を信じる家族の思いや愛情を丁寧に描きながら、"正義"とはなにかを問いかける戯曲。

…と聞くと非常にシリアスで重々しい作品かなと思われますが、そこはラティガン作、そして鈴木裕美さんの演出、さらに翻訳は演出家としても活躍する小川絵梨子さんという夢のタッグですからね!心配ご無用です!
生きた言葉の応酬に現代を生きる観客も随所で「あるある!」と共感し登場人物を愛し、そして気が付くと深いテーマを手渡されるような、とても知的なエンタメ作品です。




【ウィンズロウ家の穏やかな生活が、ある日突然】

ロンドンにあるウィンズロウ家を舞台にした約2年間、第一次世界大戦の始まる、2年前からその直前までという時代の物語は海軍士官候補生、つまりはエリート候補生、のロニー(ウィンズロウ家の末っ子、彼こそウィンズロウ・ボーイ)の予定より2日早い帰省から始まります。


写真左より)ロニー役:近藤礼貴さん(ダブルキャスト)、長女キャサリン役:森川由樹さん

お父さんの自慢の息子から一転、海軍士官学校をクビになってしまったロニー、のっけから大ピンチ!
「無実の罪」、「エリートコースからのドロップアウト」、ネガティブ要素はいろいろとありますが、目下のところ彼を世界の終わりのような心境に陥れているのは厳格な「お父さん」の存在。のちのち社会をまきこんでの大論争に発展するこの“事件”ですが、そこはまだまだ少年です。

親の怒る顔が目に浮びつつの帰り道、思い当たるふし…ありますよね。


写真左より)ロニー役:渋谷龍生さん(ダブルキャスト)、アーサー:小林 隆さん

物語の導入から、素直に心を寄り添わせることのできる流れで、いつの間にか家族の一員になったかのように作品の世界へ引き込まれます。

では、ここからはウィンズロウ家のみなさんをご紹介いたします。

ウィンズロウ家の家長アーサーに小林隆さん、その妻グレイスに竹下景子さん


写真左より)小林 隆さん、竹下景子さん

家長たらんとする厳しさを見せるアーサーですが、小林 隆さんの佇まいからにじみ出る優しく愛情深い雰囲気が人物の奥行きを作ります。竹下景子さん演じるグレイスはちょっとおちゃめな賢母!難しい理屈や法律を越えた母の愛の強さを感じます。とにかく家族の穏やかな幸せを願うお母さんなのです。


写真中央)ディッキー役:山本悠生さん
「サザエさん」で言うとカツオくん的な!?お兄ちゃん

女性参政権論者の長女キャサリンの森川由樹さんの落ち着いたトーンのセリフ回しは知的な印象を際立たせます。お母さんよりお父さん寄りの立ち位置のキャサリン、新しい時代の女性と母グレイスの対比も鮮やか!
オックスフォード大学に通うちょっとヤンチャな長男ディッキーには山本悠生さん。さながらキャサリンが長男でディッキーはお気楽次男な印象すら受ける明るく元気なディッキーですが、彼の行く末、ドラマもなかなか興味深いです。

もう一人、忘れちゃいけないこの方もご紹介いたします。

メイドのヴァイオレット役:渡辺樹里さん
ひと言で言うとガサツなんですが(失礼!)ヴァイオレットの豪快さはとーっても魅力的!
渡辺樹里さんのグイグイくる勢い、好きです。

そして、こちらは魅力的なキャサリンに思いを寄せる男性二人。


キャサリンの結婚相手 軍人ジョン役:川口高志さん
「お嬢さんをください!」的な両者ドキドキの瞬間


キャサリンに一方的に、でも真っ直ぐに思いを寄せるデズモンド役:チョウ ヨンホさん
不器用ながら、良い人なんだろうなぁ…デズモンド

登場人物はちょっとダメなところ(一部、だいぶダメなところ・笑)もありつつ、みんなチャーミング!そしてみんな、ロニーを、家族を愛しているんです。
(ちなみにこの日、断髪式が行われロニーカットになった二人。利発そうで、とっても似合っていますが、本人たちはなにやら慣れない髪型に落ち着かない様子が可愛らしかったです)


みんなが愛するロニーは訴えます「僕はやっていない!」


【サー・ロバート登場!】

息子の名誉の回復のため、父アーサーは大きな決断をし、ある人物に弁護を依頼します。


英国一の凄腕弁護士サー・ロバート・モートン役:中村まことさん

サー・ロバートの登場から一気に法廷劇的なスリルが生まれます。
ロニー少年への尋問が厳しい厳しい!
中村まことさんから発せられる“圧”が半端ありません!


「やめて!ロニーはまだ子供なのよ」と舞台上&客席全体を敵に回しそうな勢い!

非常に冷徹で、変わり者のサー・ロバートですが、そこはスター弁護士!
悔しいほどカッコイイんですよね。
彼を主人公にした裁判劇をシリーズ化してもいいのではないかと思えるほどです(笑)。
実は、このサー・ロバートにもモデルになった人物がいるのです!詳しくは新国立劇場 演劇Facebookをご覧ください!(リンク予定)

こうして“事件”は世間をも巻き込む大きな論争に…
ウィンズロウ家の行く末はいかに!
取材中は登場シーンのお稽古がありませんでしたが、ほかに報道関係者役でデシルバ安奈さん、原 一登さんもご出演です。


【キャストは三世代構造】

物語全体の大きな流れの中に、登場人物それぞれの山場があるとても面白い作品の演出はラティガン愛に溢れる鈴木裕美さん。戯曲の魅力を知り尽くしているからこその熱く粘り強い創作活動が繰り広げられています。

キャストは小林さん、竹下さん、中村さんのベテラン勢、そこに体当たりでぶつかる新国立劇場研修所出身の若手俳優、そして台本の行間を感じて役を生きようと一生懸命の子役の二人といういわば三世代構造
ときに演出家のリクエスト、芝居の壁に弾き飛ばされながら次第に磨かれ輝きを増す若い俳優さんの成長を、鈴木裕美さん、そしてベテラン勢が粘り強く見守り、受け止める。
とても丁寧な芝居作りが行われている稽古場でした。
初日が、そして公演を重ねて作品がどう変化、成長していくのか。
『ウィンズロウ・ボーイ』、この春注目の作品です!


娘の恋人が結婚の許しを乞いにやってくる!お父さんバタバタです!

【公演情報】
新国立劇場『ウィンズロウ・ボーイ』
2015年4月9日(木)~26日(日)@新国立劇場 小劇場

<スタッフ>
作:テレンス・ラティガン
翻訳:小川絵梨子
演出:鈴木裕美

<キャスト>
小林 隆 中村まこと 竹下景子 
森川由樹 山本悠生 渡辺樹里 チョウ ヨンホ 原 一登 川口高志 デシルバ安奈
近藤礼貴/渋谷龍生(Wキャスト)

<ものがたり>
第一次大戦前夜のロンドン。
ウィンズロウ家は、銀行を退職した父アーサー、母グレイス、婦人参政権論者の長女キャサリン、オックスフォード大学生の長男ディッキー、海軍兵学校で寄宿生活を送る次男ロニーの5人家族。
今日はキャサリンの結婚が決まる日。そこへロニーが一通の手紙を持って突然帰ってくる。
校内で5シリングの窃盗を働いたため退学に処す、という内容だった。
「僕はやってない!やってないんだ!!」
無実を訴えるロニーの言葉に、父アーサーは息子の名誉を守るため、ある決心をする。
それはウィンズロウ家の人々だけでなく、世論をも巻き込む大きな論争へと発展していく。

公演HPはこちらから

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人

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