【残念なお知らせ】(バレエ団HPより)
2016/2017シーズンバレエ「ロメオとジュリエット」10月30日(日)公演にロメオ役で出演を予定していた井澤駿は、怪我のため出演できなくなりました。代わりまして、ワディム・ムンタギロフが出演いたします。
また、井澤はパリス役での出演も予定しておりましたが、こちらも出演いたしません。 新国立劇場バレエ団2016/2017シーズンの幕開けを飾る、
ケネス・マクミラン振付の傑作『ロメオ&ジュリエット』にてタイトルロールを踊る
米沢唯さん、井澤駿さんにお話をうかがいました。
この日は公開リハーサルも行われ、第3幕 - 第1場「ジュリエットの寝室」のシーンを披露された直後。(
おけぴ公開リハーサルレポ)
──本番の1か月前に公開リハーサルというのはちょっと珍しいですよね。こちらとしては出来上がっていく過程を目の当たりにできて非常に興味深かったですが。米沢さん)
実は、昨日でガラリと変わったんですよ。それまでは、まずは振りを教えていただき、それをしっかりと美しく、きれいに踊るという段階でしたが、大原先生がリハーサルに参加されるようになり「そうじゃない!離れたくないけど離れなければいけない…だからこうなるでしょう」と。なぜそうするかをひとつひとつ言ってくださって。すごく楽しかった!それを公開したら面白かったのに!──そういう時は、結構シリアスな稽古場の空気になると思いきや、楽しかったのですね!米沢さん)
リハーサルでは私はいつも打ちのめされているので慣れています(笑)。こちらは公開リハのとあるシーンのご指導風景
先生に「ここはまたゆっくり考えましょうね」と言われ、_| ̄|○ 状態な米沢さん
ある意味、容赦ない(笑?!)リクエストが飛び交うのも信頼の証!
井澤さん)
僕は、ある程度は振りが身体に入っていてよかったなというのが正直なところです。その前段階で言われていたら、出来ない×出来ないで大変なことになっていたと。まだまだ、消化するのでいっぱいいっぱいでしたが、先生の指導はわかりやすく、自分の中で腑に落ちることばかりでした。──まさに作品、役と日々向き合っているお二人ですが、今回、役をもらったときの率直な気持ちはどのようなものでしたか。井澤さん)
誰よりも僕自身が驚いていたと思います。ロミジュリは踊りも音楽も、すべてにおいて好きな作品です。自分のバレエ人生の中で、いつか、一度でも踊ることができたらと思っていたのですが、まさか、今、来るとは。自分でも客観的に作品が踊れる実力かどうかはわかっているので、それなのに…、すごくうれしくありがたくて、でも出来ない…というような。
ただ、選んでいただいたからには、責任を持ってしっかりとやるだけですが、不安もあります…。米沢さん)
弱気な発言ですね(笑)。井澤さん)
それくらい僕のなかでは大きな役なので。米沢さん)
でも、大丈夫です。駿くんは『こうもり』のときも、『ホフマン物語』のときも泣きそうな顔で「僕、できないと思います!絶対無理です!」って言っていて、ちゃんとやり遂げましたから。「また言ってるわ」くらいに思ってください(笑)。井澤さん)
僕、そんな風に言っていましたか?米沢さん)
はい。どれも大変な役なので、最初はもちろん不安だと思います。よしキター!って、最初から自信満々だったら、それはそれで駿くんらしくないですし(笑)。──米沢さんはいかがでしたか。米沢さん)
私は正直、本当にうれしかったです。幼い頃から大好きな作品でしたし、愛に生きてそのまま命を絶つというヒロインはほかになかなかいませんから。その生きようというか、エネルギーが好きなんです。実際に踊るという現実が間の前に迫ってきたときは、やはり不安も感じますが、ずっとやりたかった役に全力で挑むのみです。 ──パートナーとしてお互いをどう思いますか。米沢さん)
駿くんは、ひとつひとつを吸収して出来るようになるまで時間がかかるタイプです。でも、それは裏を返せば努力して確実に身につけていくとも言えます。私もそうなので、そこは理解できますし、それに対して不安もありません。今回もすごくいいリハーサルを重ねられていると感じています。井澤さん)
唯さんがジュリエットでよかったなというのが最初に思ったことです。入団以来、毎回のように組ませていただきパートナーとして信頼できるからです。自分がこんなことを言ったら偉そうですが、今回はお互いに初役なので、一緒にリハーサルする中で二人なりの『ロメオ&ジュリエット』を作れればと思っています。米沢さん)
二人とも初めてですから。私も、二人で考えて、二人で作り上げていくことを楽しんでいます。前はこうしたから、こうだったから…というのがお互いに一切なく、試行錯誤のなかで、譲り合うところは譲り合い、言うべきことはしっかりと言う、とてもいいコミュニケーションがとれています。── 一緒に組むことが多いお二人ですが、回を重ねることでの変化はありますか。米沢さん)
最初のころは、駿くんも入団したばかりで緊張していたのでしょう。踊るたびに「すみません!」って言われていた印象です。一度、「すみません!」って言わないで!と言ったこともあります(笑)。それが今は、一緒に踊っていて気づいたことなどを率直に言ってくれるようになり、ちょっと心を開いてもらえたのかなとうれしく思っています。意外と甘えん坊でオチャメな性格もわかってきました(笑)。井澤さん)
入団当初、今ももちろんそうですが“米沢唯さま”という存在で、一緒に踊れるなんて…ただただ緊張していました。──米沢さんといえば、バレエ団を代表するバレリーナさんですからね!その方のパートナーとなると…それはお察しします(笑)。米沢さん)
入団まもなくから抜擢続きで、駿くん自身大変だったと思いますし、その中で全部きちんとやり遂げているのはすごいと思います。井澤さん)
バレエ団でのキャリアの半分以上、唯さんと踊らせていただいていますが、こうして信頼関係が築けると自分が踊っていても安心できるんです。その意味でも唯さんにはとても支えられています。米沢さん)
パートナーとの信頼関係はどの作品でも重要ですが、この作品では特にそれを感じます。女性だけの力では太刀打ちできず、男性のサポートありきの振りが数多くあるためです。実際、私もパートナーを信頼するのに時間がかかり、どうしても、身を委ねるのが怖いから自分で立つ、自分で回ってしまうようなタイプのダンサーです。でも、今回はそれが通用しないので、相手を信頼し身を任せることが大事になってきます。それが、今、駿くんとの間で少しずつ出来てきている。私自身の堅い殻がゆるんでくるのを感じることが面白くもあります。──お二人ならではの『ロメオ&ジュリエット』の誕生が楽しみです!では、これからのリハーサルでどのように役を深めていこうとお考えですか。大原先生のお話にあった、日本と海外でのジュリエット像の違いなどもとても興味深いものでした。米沢さん)
日本では心中もの、悲恋ものという印象が強いですが、突き進んでいった最後に待っていたのは破滅。そんな幕切れにしたいというイメージは持っています。そのために必要なのはエネルギーだと思います。笑う、泣く、愛する、悲しむ…いずれの表現も自分が思う何十倍、何百倍ものエネルギーを出さなくてはならないと思っています。──それによって最後の“自死”の意味合いも変わってきそうですね。米沢さん)
かわいそうに…というだけの話ではない。ロメオが死んでいるのを見たジュリエットは死ぬしかなかった。それを“彼女がつかみ取った死”と伝わるように踊りたいと思います。井澤さん)
僕はまだ自分の中でも答えが出ていないのですが、ひとつひとつの感情の“なぜ”を追求し、感情の変化を明確に表現したいと思っています。今日のリハーサルでもベッドから起きて、窓を見て、別れの時がやって来て…その過程、芝居をもっと練らなくてはと実感しました。そうすれば、自分なりのロメオになると思います。これまで見てきたロメオ、その誰かの真似では通用しないと思うので。米沢さん)
今、話を聞いていて思い出しましたが、これから来日するフランスのコーチは「あなたはなぜそういう動きをしたの?この手は何のため?」ということを追求する方らしいです。私も自分の踊りのひとつひとつを今一度考えてみようと思います。──そうやって作りあげた役、今回は米沢さんは3回、井澤さんはロメオ役としては1回限りですよね。演劇公演の上演回数に慣れ親しんだ者としては、なんとも儚いというか…。井澤さん)
その1回にかけます!米沢さん)
たった1回の舞台が忘れられない舞台になることもあります。そういう舞台になるようにしっかりとリハーサルを重ねたいと思います。 米沢さん、井澤さんの『ロメオ&ジュリエット』は10月30日昼公演!お二人による、いうなれば“初演”をぜひ劇場でご覧ください!のちのち語り継がれる舞台になるかもしれませんよ。
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文・撮影) 監修:おけぴ管理人